YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー 作:豚煮真珠
「……ん」
気を失っていた箕宿慧が目を覚ました。
体を起こす慧の瞳には、背を向ける少年の姿と、自分に気を失わせた鳥男の倒れた姿が映っている。
離れた所に丙山潤奈の
「ぐっ、う……」
「お願いします、彼女を見逃してあげてください」
背を向ける少年の彼が仰向けの鳥男に箕宿慧の看過を要求した。
男が寝転がり、うつ伏せから手を突いて立ち上がろうとするが、腰を強く打ったため脚に力が入らず
「え、まさか……」
彼と男を
爆発事故に巻き込まれて亡くなった、と慧は聞いていた。でも、背を向ける少年が発する声は、確かに亡くなった彼の声だった。
聞き間違えるはずがなかった。慧にとっては恋をした異性の声なのだから。慧がおそるおそる口を開き、背を向ける少年に胸を高鳴らせながら問う。
「ねえ。鈴鬼くん、なの?」
尋ねた慧に彼は、返事をせず背を向けたままでいた。
立ち上がる慧。今の状況を察せないほど鈍くはない。この時が止まった空間で動いている以上そういう事なのだろう。
慧が好きになった彼は闇の者だったのだ。しかし、関係ない。慧は死んだと思っていた彼が生きていて感極まっている。
「鈴鬼くん! 鈴鬼小四郎くんなんでしょ!?」
強く尋ねた慧に彼が振り向いた。
慧が
包帯より
「スズキ? 誰の事を言ってるんだ?」
彼は自分が鈴鬼小四郎であることを否定した。
間違ってはいない、僕は名前を捨てた、もう鈴鬼小四郎という人間は存在しない――、と彼がかつてのクラスメートを突き離そうと努める。
「ハハッ、人違いじゃないかな?」
「うそ! その声、 鈴鬼くんでしょ!」
鼻で笑った彼だが、慧はごまかされずに突き止めた。
慧の中で
倒れている男と先の彼の
「
感激のあまりに丙山潤奈の死も忘れて
しかし、彼が慧の言葉を打ち切る。彼の中にはこのような感情がある。「闇に
「いい加減にしてくれ。知らないよ、そんな
彼が目を
「でも、その声」
「僕のこの顔が」
彼が、顔の包帯をおもむろに解く。
「そいつと一致すると言うのかい?」
「……っ!」
壮絶な
口を押さえて
「君はコスモスなんだろ? アトラクトさん」
「いつつ……なんだよ?」
ようやく下半身の痺れが抜けて立ち上がらんとする男に彼が話しかける。
「コスモスの子って、時間を止める妙な時計と、変身するための小さな鏡を持っているんですよね?」
「ああ」
「君、聞いたか? それを出すんだ」
彼が慧に、コスモスである
口を結んで無言で拒否する慧。彼女はコスモスであり、闇の者を闇から救う己の使命を諦める訳にはいかない。それに彼が闇の者なのだ。
私が彼を助けるんだ――。そう慧がゴクリと唾を呑んで好きな彼からの要求を拒む。しかし彼はそんなの望んではいない。彼が願うのは、かつてのクラスメートに戦いなど忘れ、自分はもう
「分からない子だな。だったら」
「ああっ!」
心を鬼にして慧に手を上げた。
慧が倒れるが、もちろん彼は手加減をしている。光の戦士と言えども変身が解ければただの女の子である。
彼がクラスメートだった女の子に手を上げる自分に自己嫌悪しながら慧の首をつかみ、
「殺してでも奪い取るぞ!」
程々の力で首を絞めて脅す。
しかし、慧は諦めない。光の戦士としての強さが彼女にはあり、そして何より彼を救うという意思が慧にはある。よって慧が口を大きく開け、絞める彼の手に
「クソっ!」
折れない慧に彼がまた手を上げる。
分からせるしかないのか。そう彼が苦渋に顔をゆがめながら慧の腕を手荒につかみ、引きずるようにして無理やり連れて行く。泣きじゃくる慧の顔に抵抗を覚えたのは言うまでもない。
彼が、丙山潤奈の死骸のそばまで慧を連れてから放る。
「君もこんな風になりたいって言うのか!」
後ろ髪のバレッタが割れ、滑るように転がった慧が、髪を振り乱しながら傍らに眠る亡骸を見た。
胸が血にまみれ、肉が食い荒らされたように飛び散っている。その死体は無残としか言いようがなく、先輩、先輩――と、己を愛らしく慕ってくれた面影は既になかった。
傍らにあるのは、ただ
そして、自らの力量不足で潤奈を死なせてしまった慧が自分を責める。数々の
「さあ出せ! 時計と鏡を出すんだ!」
改めてコスモスの証を要求した。
興奮する彼に慧が絶望する。瞳から光が消え、自分では救えない――、と諦めてしまう。
後は言われるがままだった。うつむく慧が懐から
全てを諦めた慧。もし悪い男が「着ている服を脱げ」と言っても、今の慧なら従っただろう。潤奈を失った上に恋も砕かれて自失している慧を、彼が無理やり立ち上がらせる。
「行けよ」
もう戦いなんかに二度と関わるな、と彼が慧の背を軽く押した。
よろめく慧が、ふらふらとした足取りで去ろうとする。残した潤奈が気がかりで振り返るが、諦めて前へ振り向き直す。
自分には何もできない、誰も助けることができない――。責める慧の瞳は
「行くんだ!」
彼が言葉で追い払った。
こうして、慧の姿が見えなくなるまで見届けた彼が、「ありがとう」の礼が言えなかった悔しさに唇を噛んだ。