YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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シンダーエラ! かぼちゃのお婆さんの贈り物

「あっ、庚渡さん!」

「鈴鬼くん!」

 

 戦いが始まる。僕が止まった師泰と丞に「悪い」と謝りながら白鳥の下へ駆けると、同じく白鳥の下へと走る彼女を途中で見つけたために呼び止めた。

 よかった。向かえば会えると思っていたけれど、もし会えなかったら成す(すべ)がなかった。けれども彼女のそばには、テスト前に会ったヨウという人とミヅキという人がいた。

 彼女いわく、二人も光の戦士らしい。これから三人で白鳥に挑むのだろうか。

 

「鈴鬼くん、今から変身するから見てて!」

「あ、うん」

 

 丸眼鏡を外した彼女が、張り切った面持ちで懐から手のひらサイズの丸い物を取り出した。

 丸い物のふたを外す彼女。それはどうやら手鏡のようで、彼女が自分の顔を鏡に映している。

 

「シンダーエラ、ターンイントラヴァーズ!」

 

 そして彼女が呪文のような口上を述べると、鏡がひとりでに彼女の手元から離れ、まぶしい光を彼女に向かって放ち始めた。

 

「えっ、ええっ?」

 

 光が照らす彼女のシルエットに、僕が大いに戸惑った。

 彼女が己を抱くように腕を組み、それから胸を反らして両腕を仰ぐ。そのシルエットだが、着ていたはずの服がない。裸のシルエットなのだ。

 僕の心拍が急上昇する。飛び出さん勢いで暴れ回っている。小さくて華奢(きゃしゃ)身体(からだ)が僕の瞳に映っている。クラスメートの、しかも好きな子の一糸まとわぬ身体の輪郭が、僕の瞳に焼き付いて焦がさんとしている。

 間もなくして鏡の放つ光が、彼女の身体に服を作り始めた。何かの倍速映像で見た(こけ)のように光り輝く服が増えるようにして生まれている。

 そして、光のドレスに身を包んだ彼女が鏡をつかみ、

 

「愛にあふれる日々を未来に! 光の戦士トゥインクルスター!」

 

 黄色を主とする可愛らしいドレスをまとった、戦う姿の彼女が現れた。

 

「……えへへー、見ててって言ったの私だけど、そうまじまじと見られると恥ずかしいね」

「う、うん」

「どうだった? カッコよかった?」

「あ、ああ。とても、よかったよ」

「でしょー? 変身するところ見てもらいたかったんだー」

 

 ドキドキが止まらない僕の心臓。浮かれている様子の彼女だが、僕は今の着飾った姿よりも、彼女が僅かに見せた一糸まとわぬ身体の輪郭が忘れられなかった。

 裸じゃないけれど、それに近い姿を見せていることを彼女は気付いていないのか。悶々(もんもん)として夜ねむれなくなりそうな(おも)いに駆られている僕を、――ミヅキという人が無言で見ている。

 怖い。貫くような冷たい眼差しが、僕の(よこしま)な心をグイグイと締め付ける。

 

「スズキ、おまえも来てたのかベエ」

「うわっ!?」

 

 声に振り向くと、妖精が僕のすぐそばで浮いていた。

 さっきまでいなかったはずなのに、いつの間に現れたのか。油断も隙もありはしない、と思う僕をよそに、ミヅキという人が妖精を呼ぶ。

 

「べーちゃん。今日はユニヴァーデンスクロック私が押したんだけど、なぜスズキ君が動いているの?」

「それはクロック唯一の欠陥なんだベエ。一度リープゾーン内の行動を許可した対象は、もう誰が作動させても範囲内ならば動けてしまうんだベエ」

「そうなの? じゃあ、もうスズキ君は遠くに行かない限り、リープゾーンから逃れられない訳ね」

「そうなるベエ」

「だって、トゥインクル。しっかりスズキ君を守るのよ」

「はい」

 

 ミヅキという人の呼びかけに彼女がうなずいた。

 分かっていたが僕はお荷物だ。彼女たちの足を引っ張らないように大人しく従おう。しかし、男の自分が守られるだけなんて情けなくは思う。

 

「庚渡さん、なんとかクロックって」

 

 聞き慣れない単語を聞いた僕が彼女に尋ねる。

 

「これ。これを作動させると、周りの時間が止まるの」

 

 すると彼女が、以前も見た銀色のオブジェを懐から取り出し、

 

「スズキ、ユニヴァーデンスクロックを使って変なコト考えても無駄だベエ。このクロックはコスモスの者にしか動かせないベエ」

 

 妖精が僕には扱えない旨の忠告を付け加えた。

 

「スズキ君」

「はい」

「私もこれから変身するけど、トゥインクルの変身とは違うから」

「は、はい」

 

 ミヅキという人が、彼女の持つ鏡と同じ物を懐から取り出した。

 僕が彼女の変身する姿を邪な目で見ていたこと、やはり分かっていたのか。嫌な汗をかく僕を(しり)()に、ミヅキという人が鏡のふたを外し、

 

「シンダーエラ、ターンイントミスティカル!」

 

 彼女とは少し異なる口上を述べると、鏡が同じくその手から離れた。

 

「うわっ!?」

 

 僕が仰天する。鏡から無数のレーザーと言うべき黄緑色の光線が、ミヅキという人に向かって放たれたのだ。

 しかし光線は、体を貫きはせず、カクカクとした線を体の周りに描く。そうして体を覆うように描かれる線は、すぐに本数を増やして細部に(わた)った衣装を形成し始めた。

 描き続ける黄緑色の光線は、まるでミヅキという人の変身後の姿を3Dモデリングしているようであり、

 

「なんか、カッコいい」

「カッコいいよね、美月さんの変身」

 

 僕が感嘆し、隣にいる彼女も同意する。彼女の変身が神秘的なものであったのに対し、その変身はSF映画のごとく洗練されたものだった。

 程なくして線の描写が終わり、鏡が強い光を放つ。鮮烈な光がミヅキという人の体を包み込む。

 

「希望に満ちた日々を未来に! 光の戦士〝ムーンライト〟!」

 

 銀色の着物を身にまとい、細い体型に不釣り合いな大きい籠手をした、黒いゴーグルを付ける光の戦士が登場した。

 光の消えた鏡をつかむ銀色の戦士。その着物姿だが帯をしておらず、レオタードみたいな黒の肌着をのぞかせている。そしてそこから見える胸が、細い体型に似合わず膨らんでいたために、僕の視線がついそちらに吸い寄せられてしまう。

 

「ねえ鈴鬼くん、どこを見てるの?」

「いてっ!」

 

 彼女が僕の腕をつねった。

 

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