YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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復讐など身の丈に合わぬ夢物語であり泣き寝入りこそ円満な現実である

「とっ」

 

 土星のような環をたすき掛けする、紫色のドレスをまとった女の子が地に下り立った。

 彼が「あたしが止めてる」と聞いた発言に、女の子が沙門ではなくコスモスであることを察する。併せて「()(れい)で華のある女の子だ」などと、髪をサイドに結わえた女の子の優れた容姿を評する。

 しかし、アトラクトと名乗る男は違った。

 

「おまえは」

「久しぶりだね、枯林浪速さん」

 

 男は敵意(あら)わに女の子を(にら)みつけており、そんな視線を女の子が平然とした調子で返事する。

 女の子は男の本名を知っていた。しかも敵同士であるはずの沙門とコスモスだ。知り合いである関係に彼が当惑する。

 胸の上で手を組む丙山潤奈の亡骸(なきがら)を、女の子が一瞥(いちべつ)し、それから男に告げる。

 

「枯林さん。コスモスとしてなら〝その子の(かたき)を討ちに来た〟って言うべきなんだろうけど、別にそういう訳じゃないんだ。その子とは面識ないし、枯林さんなら覚えていると思うけど、あたし同じコスモスと戦ったことあるしね」

「なんだと」

「うん。あんたに用はないんだ。あたしはね、そっちの男の子に用があるの」

「僕……?」

 

 射貫(いぬ)くような眼差しで指された彼がますます戸惑った。

 女の子が指した手を下ろし、右腰にあてて自己紹介する。顎を引き、その二重の目をより一層鋭くして。

 

「あたしは光の戦士、リングレットアーク。君からね、なんとなく邪悪キングな気配を感じるんだ」

「なっ。僕が、邪悪、だって……?」

「うん。だから君のアリマニド、今日ここで壊させてもらう。いや、それ以上に壊させてもらうよ」

 

 勝手な言いがかりに困惑した彼だが、そんな彼などお構いなしに光の戦士リングレット・アークが、拳を握り締めて飛び掛からんとする。

 彼への急襲は中断される。男のことなど眼中にないリングレットに、

 

「なに勝手なことを言ってやがる! お前に用がなくても俺にはあるんだよ!」

 

 男が激昂(げきこう)した。

 

「枯林さん」

「お前が芳子を……。お前が、芳子を殺しやがった! お前がいなければ!」

 

 振り向いたリングレットを男が激しく非難する。

 彼はリングレットを睨む男に「らしくない」と感じていた。だが、男の非難を聞いて納得する。仇だったのか、と。

 憎しみをむき出しにする男に、リングレットが目を()らして事実を伝える。

 

「枯林さん。気の毒だけど、あんたのお姉さんは力を使い果たして」

「黙れ! お前が殺したんだ!」

「ちょっと。落ち着いてよ」

「黙れ黙れ! ボイド、今度は絶対に止めるなよ! この女は俺が殺す! 〝乙女座(ヴィルゴ)〟!」

 

 男の胸が黄金に輝き、このまぶしさに彼が腕で目を覆った。

 輝きが収まり、彼が男を(かい)()見ると、そこには別人が立っていたために彼が目を疑う。その者は先が「?」の形に曲がった(つえ)を手にしており、肌は黄土色を濃くしたような褐色の肌だった。

 何よりも衣装と性別が変わっていたことに彼は驚いた。古代エジプトの王族が身に付けるような首飾りをし、チューブトップに似た薄手の服をまとう身体(からだ)のラインは女性そのものだ。おまけに胸は豊満で、一瞬のうちに性転換を果たした男に彼は仰天している。

 驚いて開いた口がふさがらない彼を(しり)()に、リングレットが構え、

 

「お姉さんと同じおとめ座を使うなんて」

「そうだ! あの方に頼んで宿した乙女座(ヴィルゴ)だ! これでお前を跡形もなく消してやる!」

「……仕方ない、かまってあげる」

 

 精霊・乙女座(ヴィルゴ)を宿した男とリングレットによる戦いの火ぶたが切って落とされた。

 男の外見は女性なのだが、ここでは便宜上男と記す。

 

「食らいやがれ! 〝ヘカトンケイル〟!」

 

 男が先の曲がった杖を振りかざす。すると、地面が湧き上がるように隆起し、そこから巨大な岩が現れて宙に浮かんだ。

 巨大な質量が、見上げる位置に浮遊している。黄道十二星座の精霊はランクとしては最上位にあたり、その力を単純に評価すれば男が先に宿した鷲座(アクゥイラ)など比べ物にならない。そんな力を男は行使している。

 かざした杖を男が一息に振り下ろす。すると、宙に浮かぶ巨岩がリングレットに襲い掛かる。

 

「はあっ!」

 

 気合一閃(いっせん)。リングレットが巨岩を蹴りで粉砕した。

 四散した岩が積み重なる。巨岩を苦もなく破壊したリングレットに彼が目を見張るが、男はこの程度織り込み済みと、攻めの手を緩めず杖を振り上げる。

 

「潰れろ! 車に踏まれたカエルみたいに潰れやがれぇ!」

 

 男の乙女座は土や岩を操る能力を持ち、地面から巨岩を次々に生み出した。

 数え切れない量の巨岩がリングレットを潰さんとする。これをリングレットが、ある岩はかわし、ある岩は飛び越え、またある岩は破壊する。

 迫る岩に一つ一つ対処しているリングレット。だが、男の乙女座が生み出す岩の量はまさに無限、地面から続々と飛び出してはリングレットに襲い掛かり、この物量にリングレットが押し込まれる。

 いつしかリングレットの周りには岩が堆積(たいせき)していた。そうしてリングレットを覆い隠すように岩の山ができたところで、

 

「これで終わりだ! 死ねっ、脳ミソぶちまけろ! 〝ティタノマキアー〟!」

 

 男が杖を一際高く振りかざすと、岩による巨大な腕が地面から現れた。

 岩の腕が握りこぶしを形成する。灯台ほど高さのある岩の腕だが、この拳をリングレットの位置からは岩山が遮蔽物(しゃへいぶつ)になって視認できない。

 そして、男が殺意を露わに杖を振り下ろす。すると岩の拳が杖に併せて振り下ろされ、強烈無比なる鉄槌(てっつい)が岩山に打ち込まれる。

 

「やったか!?」

 

 轟音(ごうおん)を立てて瓦解した岩山。男が粉塵(ふんじん)ただよう拳の下に目を凝らす。

 大量の巨岩でコスモスを押し込み、岩の鉄槌でコスモスにとどめを刺す。これは同じ乙女座を過去に宿した男の姉の戦法で、姉はこの物量作戦と鉄槌で一時はコスモスを追い詰めた。

 男は仇を討つ意味も込めて姉と同じ戦法をなぞった。そうしてリングレットを岩山ごと潰し、男の(ふく)(しゅう)(しん)が満たされるはずだったが――。

 

「……なんだと!?」

 

 結果に(きょう)(がく)する男。岩の腕が瓦解し、崩れた拳からリングレットが、掲げる両腕を斜めにクロスした格好で現れた。

 リングレットがガード体勢を解く。その姿に別段変わった様子は見られない。ほぼ無傷である。

 

「な、なぜ効かない!? 乙女座(ヴィルゴ)だぞ、黄道の精霊だぞ!?」

「お姉さんと同じ戦法だからね、予想できてたよ。それに枯林さん、あんたさ、おとめ座合ってないんじゃない?」

 

 亡き姉の形見とも言える乙女座の精霊。それと男の相性が良くない旨を、リングレットがドレスを払いながら言い渡した。

 リングレットは乙女座を宿した男の姉と過去に戦い、そしていま同じく宿した男と戦っている。その両者を比較し、姉の方が断然強かった、と感じている。

 男の復讐心はリングレットも分かっている。しかしそれでも、劣っているために事実を伝える。

 

「お姉さんは強かったけどさ、枯林さん、あんたにおとめ座は使えないよ」

「だ、黙れ!」

「もうやめようよ。実は一杯いっぱいなんじゃないの?」

「黙れ黙れだまれえ! 俺はこの乙女座(ヴィルゴ)で、芳子の仇を討つんだ!」

 

 精霊の行使はただではない。各精霊には相性があり、行使にはその身が代償となる。

 具体的に表すと命を削られる。一般的に力の強い精霊ほど代償が大きい。そういう意味で彼の呼んだ子犬座は肉体への影響はほとんどないと言え、逆に男が行使する乙女座は負荷がとても高かった。

 もう一度述べるが、黄道十二星座をモチーフとした精霊はランクとしては最上位にあたる。しかし、それだけに重く、精霊と行使者の相性が悪ければ更にその命は削られる。

 

「……ゲブッ!」

 

 杖を今一度と振り上げた男だが、口から大量に吐血した。

 いま男の肺は激痛に悲鳴を上げている。否、今ではなく、男は実のところ巨岩を次々と生み出した辺りから痛みを感じていた。

 痛みとは命の危険信号だ。痛みを感じるからこそ生物は己の命を第一とし、痛みを避ける活動を採る。その無理を通して力を行使した男の今の痛みを例えるなら、体内に潜む何者かに肺を中心とした臓器全般が食い千切られようとしている。

 吐く血に呼吸が(あた)わず男が倒れる。乙女座の変身が解けるが、それでもなお血を吐き続けている。

 

「ヴ、オッ……」

 

 苦しみに(もだ)える男が声にならない(うめ)きを上げ、そんな男をリングレットが(あわ)れむ目で見つめる。

 そして、男の吐血が止まり、苦しみによる悶えも止まる。体から熱が急速に失われ、後はもう朽ちるだけの死体――。男も姉と同じく、闇の力を使い果たして息絶えた。

 

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