YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー 作:豚煮真珠
「なんですかあれ!?」
「
「いや、あれは
彼女とヨウさんとミヅキさんの戦士三人が驚く。揺れた方へと振り向くと、超巨大な水瓶が街に立っていた。
あまりの大きさに僕も息を
しかし、水瓶は物だ。今まで目にしたヤギや白馬や白鳥とは違う。水瓶が何をするのか、と僕が
「見て! 水が!」
「水があふれてる!」
指すヨウさんに驚くミヅキさん。瓶の口から水があふれ、滝のようにこぼれ始める。
「サンシャインも復帰したか。キグナスを倒した事、まずは褒めてやろう」
「メテオ!」
見上げると以前も現れた黒ずくめの男が、水瓶のそばに浮いていた。
黒の仮面に黒のマント、男の装いは相変わらずカラスより真っ黒だ。しかし、ここは笑う場面じゃない。あの男は僕が知っている限りでも、僕が好きな彼女を幾度となく苦しめている。
水を垂れ流す水瓶の傍ら、男が戦士三人に告げる。
「だが、
「なによ。あんな水瓶に何ができるのよ。ただ水をあふれさせているだけじゃない」
「いや、待ってサンシャイン。これは、由々しい事態よ」
「えっ」
ヨウさんと彼女が驚くが、僕はミヅキさんの懸念が分かってしまった。
何かの歴史ゲームで起きた攻城戦法を思い出す。あの
戦う力を持たない僕にとって重大な危機だ。僕は三人と違って空を飛べないのだから。そして、早くも足が、水に浸かり始めている。
「あの水が止まらずにあふれ続けたら? 街が洪水になって、みんなが、水に呑まれるわ」
「ご名答だムーンライト。アクエリアスの強さは途方もない水量を延々と生み出すことにある。さあ、どうするコスモスの諸君? この日本にノアの
「ならば壊すまでさ! ムーンライト!」
「ええ!」
ヨウさんとミヅキさんが手をつなぎ、一緒に水瓶へ飛んだ。
手を取り合う二人はとても息が合っていた。あの二人の関係は長いのだろう。そんな二人が、目にも留まらぬスピードで水瓶に突っ込む。
「砕けろ! キャノンストレート!」
「ぶっ壊す! ギルティーメインディッシュ!」
「ぐ、砕けない」
「全力なのに、ヒビ一つ入らないなんて」
だが、反動の痛みからかヨウさんが左手を振り、ミヅキさんが気の落とした声をもらす。水瓶は僅かに揺れただけであり、破壊とは程遠い結果に終わった。
「ハハハッ、黄道の精霊だぞ!? 君たち二人が敵わなかった
悔しがる二人に、男が高笑いした。
そして、二人の攻撃が不発に終わって僕が落胆している間にも水位は上がっており、もう膝あたりまで水が浸かっている。
このままでは溺れてしまう。焦る僕に彼女が、
「鈴鬼くん、心配しないで。私がおんぶするから」
その小さな背を向けて
「落ちないようにしっかりつかまっててね」
「うん」
彼女がしがみついた僕に負担をかけまいと優しく跳ぶ。これに対して僕が、子泣きじじいの
浮かんだ彼女と僕の一方、水瓶の手前ではヨウさんとミヅキさんが諦めずに水瓶を殴り続けている。
「くじけるもんか! だあああっ!」
「ヤギは倒せたんだから、勝機は必ずあるはず! はあああっ!」
重い衝撃音が
激しい打撃音が途切れることなく響いた。だが、水瓶はびくともしておらず、今も水を滝のように垂れ流している。
不動の水瓶に僕が不安を覚える。
「サンシャインにムーンライトよ、大人を見くびってもらっては困る。僕が同じ
男が命ずると、水瓶の口から丸い大きな何かが、――ぬうっ、と浮かび上がるように姿をのぞかせた。
そして瓶の口から、細長い何かがしなるように飛び出る。
「うわっ!」
「くっ!」
飛び出したムチのような何かがヨウさんとミヅキさんを一遍になぎ払った。
攻撃をくらった二人が手を止める。そして、現れた水瓶の守護者。瓶の口から触手を使って
「ぐっ、〝タコ〟だ」
「水瓶を、早く壊さなければならないと言うのに」
苦い口調で言った二人。それはやはり、恐ろしいほどに大きな化物だった。
「フフフッ、どうだコスモスの戦士よ? いかなる攻撃にもビクともしないアクエリアスに、そのアクエリアスを守る魔獣。これは手詰まりではないかな?」
「うるさい! 余裕かましてくれちゃって。どうすんのよメテオ、街をこんなに水浸しにして」
「サンシャインよ、アクエリアスを壊せば水は引くことは約束しよう。しかしそれはありえん! なぜなら君たちはここで敗れ、その若い命を散らすのだから。どうせ亡くなるのだ、街が水に呑まれようが関係ないだろう? ハッハッハ」
勝ち誇る黒ずくめの男に、僕が叫びたい衝動を抑えた。
ヨウさんとミヅキさんの攻撃が効かずとも彼女がいる。僕が恋をし、僕の中では一番な彼女が。
僕が煮えたぎる思いを我慢して彼女を呼ぶと、彼女が振り向いて首を縦に振る。いま僕の
「サンシャイン! ムーンライト! 離れてください、私が全力で撃ちます!」
彼女が水瓶に向かって両手を突き出し、光を集め始めた。
直視できない光が彼女の両手に集まっている。しかし、男が僕と彼女に目を向け、その視線が僕に寄せられているように感じて僕が息を呑んだ。
ほんの僅かの
「トゥインクルスターか。君は可愛い顔に反して油断ならない子だ。……不本意ではあるが、その弱点、突かせてもらうとしよう」
既に人ひとりが浸かるほど水かさが増した水の中へ、巨大タコが躍り出た。
「速い! 庚渡さん!」
「鈴鬼くん! 上昇するからしっかりつかまって!」
慌てる僕と彼女。水の中を泳ぐ巨大タコが、あっという間に僕と彼女の下まで距離を縮めたのだ。
そして、タコが触手を伸ばす。長い触手が浮かぶ彼女を
彼女が触手の殴打を何とか耐えしのぐ。しかし、僕はその衝撃を持ち
「あっ、うわああああっ!」
「鈴鬼くん!」
しがみつく手を放してしまった。