YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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きらめく一番星! 黄色いあの子の正体は

 目を瞬かせても間違いじゃない。黄色いドレスをまとった女の子が宙に浮いている。

 僕は、目を奪われていた。まだ空は明るいけれど、薄暗い夕方の空に輝く一番星のような光を、あの宙に浮く女の子から感じたから。

 私はここにいる――。決して強くはないけど、どこか(りん)とした存在感を表しており、世界が終わったかもしれないという僕が抱いた絶望を、女の子は少しのあいだ忘れさせてくれた。

 

「サンシャインとムーンライトは片付けた。残るはキミ一人だ。どうする、〝トゥインクルスター〟?」

 

 視界に広がる光景を現実と呼べるのか怪しいが、聞こえた男の声が僕を現実に引き戻した。

 ヤギの方から聞こえたため、僕がそちらを振り向く。すると、妙な格好をした男がヤギの頭上に立っている。

 明らかにヤバい(やつ)だった。カラスよりも真っ黒なコートを、この暑さが残る季節に着用し、更に黒い仮面をかぶって顔を隠している。普段なら「なんのコスプレだ」と笑ってしまうのだけど、今は状況が状況なだけに笑えなくて、そんな黒ずくめの男がヤギの頭上から黄色いドレス姿の女の子を見下している。

 

 状況を整理する。巨大ヤギの飼い主が黒ずくめの男で、女の子はヤギ及び男と戦っているのだろうか。

 にらみ合っている女の子とヤギを、僕がぼうとして眺めていると、

 

「……えっ」

 

 思わず口に出した僕。事態が動き始めた。

 

「はあああっ!」

 

 いま叫んだのは、黄色いドレス姿の女の子だった。

 女の子が拳を突き出し、ヤギへと飛び込む。とても速い。まるで宙を滑空するツバメのようだ。

 そして拳が、ヤギの眉間を鋭く捉える。しかしヤギは意に介してなく、自身を殴った女の子をねめつけた後、頭をしゃくり上げて女の子を吹き飛ばす。飛ばされた女の子は宙を体ごと回転し、彼方(かなた)へと飛ばされるかと思われたが、回る体を自力で止めて宙に踏みとどまる。

 

「フッ、君たちもしつこい。いくら攻めても、この〝カプリコーン〟には効かないよ」

 

 再びにらみ合う女の子とヤギ。その女の子を、宙に浮いていた黒ずくめの男が笑った。

 

「ましてやキミの拳など。肉弾戦を得意とするサンシャインならともかく」

 

 嘲る黒ずくめの男に対し、女の子は肩で息をしている。

 女の子は今どんな思いでいるだろうか。怪獣と言っても差し支えない巨大ヤギを小さな体で相手取り、そのうえ黒ずくめの男にバカにされ、とても辛いだろう。

 判官(ほうがん)びいき。弱者を応援したくなる気持ち。それもあるけど女の子だ。苦境に立たされていながらも心折れずに立ち向かう女の子を、僕は心の中で応援する。

 

「はあああぁっ!」

 

 女の子による裂帛(れっぱく)の気合いが再び響いた。

 右足を突き出した女の子が巨大ヤギに特攻する。これもヤギの眉間を鋭く捉え、打ち抜くような今のキックに、僕が心の中で快哉(かいさい)を叫ぶのだが、

 

「ヤァクサアァイッ!」

「きゃあっ!」

 

 ヤギには効かず、ヤギが発した大声に女の子が身を(こわ)()らせてひるんだ。

 そして僕は腰を抜かしていた。無様に尻もちをつき、立ち上がろうにも足が震えて立ち上がれずにいる。耳をつんざいたヤギの大音声は、ひそかに女の子を応援していた僕の心をへし折り、消沈させるには十分だった。

 今の蹴りも先の拳も、ヤギの眉間を突き刺すように捉えていた。しかし、ヤギはびくともしていない。このまま効かずに女の子が敗れ、世界は終わってしまうのか。そんな(しょう)(そう)感に駆られる僕をよそに、涼しい様子で浮かぶ黒ずくめの男がうんざりとした口調で女の子に告げる。

 

「しつこいな。何度やっても無駄だと言っているだろう?」

「…………」

「もう目障りだ、そろそろ終わりにしよう。やれ、カプリコーン! あのしつこい金バエを撃ち落とせ!」

 

 ヤギが口を大きく開いた。

 僕が思わず(きょう)(がく)した声を上げる。ヤギが大きく開いた口から、なんと光線を放ったのだ。

 女の子が腕をクロスして光線を防ぐ。光線には炎が(ほとばし)っており、ただの光ではないことは明白だ。そんな熱い光線に耐える女の子だったが、

 

「ううっ、きゃあああぁっ!」

 

 奮闘むなしく、こらえ切れずに落下した。

 建物の陰へと女の子が落ち、僕は女の子を見失う。そして目に映るは巨大なヤギと、宙に浮かぶ黒ずくめの男。――星が消えた。希望が絶たれた。僕の視界は暗い幕に覆われた。

 

「ハッハッハ! 今まで煮え湯を飲まされてきたが、(つい)に、遂に勝ったぞ! さすがに黄道の精霊は違うな、僕も命を削った甲斐(かい)があったよ!」

 

 黒ずくめの男が高笑いを上げる。

 終わった。男の勝利宣言を受けて僕がガクッと(うな)()れる。しかし、

 

「まだ! まだ、終わってない!」

 

 すぐに女の子が宙に現れ、まだ諦めていないことを男に示す。

 遠目でも息を切らしているのが分かる辛そうな女の子だが、今の声に僕がふと疑問を感じた。

 ――えっ、今の声って、もしかして。

 

「フッ、たった一人でまだあがく気か?」

「あたり前じゃない! みんなを守れるのはもう私しかいないんだから! 私が、この街のみんなを守る! はああああっ!」

 

 誰の目から見ても勝負は決している。何が彼女を駆り立てているのだろうか。

 でも、今あのふざけた大きさのヤギを倒せそうなのは彼女しかいない。誰に命じられたわけでなく、その使命を自ら果たそうとする黄色いドレス姿の女の子に、僕は大きな感銘を受けた。

 僕が祈る気持ちで再び女の子を応援すると、女の子が拳を突き出し、ヤギへと飛び込む。

 流星の(ごと)き女の子の拳がヤギの眉間を撃ち抜く。

 

「無駄だと言っているじゃないか」

 

 愚直に同じ箇所を攻める必死な女の子を、黒ずくめの男が肩をすくめて嘲った、のだが――。

 

「やっと、手応えあった」

「なに? ……なっ、どうしたカプリコーン!?」

 

 男が初めて狼狽(ろうばい)する。三度目の打撃は今までと異なり、ヤギは明らかに苦しんでいた。

 ヤギがとどろくばかりの悲鳴を上げている。これに僕が耳をふさぎながらも動向を注視する。

 

「どうしたというのだカプリコーン!」

「私たちをなめないで。サンシャインとムーンライト、そして私とで、同じところを攻め続けたんだから」

「なにっ。だから、三人そろってしつこく眉間を」

「とどめ!」

 

 宙に浮かぶ女の子が広げた両手を突き出し、それに我が目を疑った僕は、つい口に出してしまった。

 

「な、なんだあの光」

 

 突き出す女の子の両手が、なんと輝いている。

 光が渦を巻き、吸い込まれるようにして両手に集まっている。そして光はぐんぐんと輝きを増し、やがて何も映さない白い塊へと変わる。

 僕が光を見つめる。そのまぶしさに、とても美しいものを感じて。

 

「いっけぇ! 〝トゥインクルブラスト〟!」

 

 女の子が輝く両手から光線を放った。

 今度は女の子から放たれた光線。その光の帯は焼くのではなく、浄化と言った方がふさわしい明るさだった。

 光の帯がヤギを照らし、その巨体を包み込む。

 

「ヤァクサァァイ!」

 

 聖なる光が邪悪を浄化する。ヤギがすさまじい悲鳴を上げて消滅した。

 

「クッ、追い詰めたというのに、詰めが甘かったか」

「あ、待ちなさい!」

 

 黒ずくめの男が空高くに飛び去った。

 なんなんだ、この漫画みたいな戦いは。そして、あの黄色いドレス姿の女の子は。

 辺りを見回したが(いま)だ周りは動いていない。僕と女の子だけがこの静止した場を動いている。それで僕が、宙に浮かぶ女の子を見つめていると、女の子がゆっくりと地上に下り始めた。

 いてもたってもいられなかった。僕はドキドキと高鳴る胸を抑え、女の子の下へと駆け出していた。

 

(……いた)

 

 そして、道の角を曲がった先で僕が見つけた。

 黄色い格好の女の子。その衣装はウェディングドレスが如く華やかで、更にフリルや飾りがたくさん付いており、まさにお姫様である。異なる点を挙げるならスカートが少し短めなくらいか。

 何者なんだ彼女は。確かめるべく僕が近付く。

 

「……なっ!?」

 

 しかし、女の子がまばゆい光に包まれたため、僕は足を止めた。

 間もなくして、光から普通の格好をした女の子が現れ、光が消える。

 一瞬の着替えにも驚いたが、それよりも女の子は僕が通う明倫中の制服を着ており、今日ぼくに日直の仕事を押し付けた子であったため、僕は仰天した。

 

「えっ、鈴鬼、くん」

 

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