YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー 作:豚煮真珠
僕の名前は
無味無臭。友人にそう言われる程パッとしない。趣味なんて言えるものは特になく、強いて挙げるならゲーム、だろうか。
自分を上中下の更に上中下で表すと、勉強は中の下くらいだった。最近は勉強をしているおかげか、中の中くらいには成り上がったかな、と思っている。しかし運動は下の中、おまけに背はクラスの男で前から並べば二番目に低い。そんなだから今まで目立てたことがなければ、女の子にモテたこともなかった。
きっとこの先も平々凡々な人生を送り、他人に迷惑をかけないよう慎ましく生きるのだ、と思っていたけれど、
「お待たせ、鈴鬼くん」
「
そんな僕に女の子の友達ができた。人生って何があるか分からない。
「寒くなったね」
「うん」
十一月になり、乾いた寒風がこの身を引き締める季節になったが、今日の僕の心は温かさに満ちていた。
僕の隣を歩く背の小さな彼女は
彼女とはクラスメートであり、二学期が始まったくらいの時期に友達になった。彼女のどこを好きになったのかと言うと、なんと彼女は変身するのだ。彼女はお姫様みたいな黄色いドレスを着た姿に変身して悪と戦う、漫画みたいだけどリアルな戦士で、僕は先述の二学期が始まったくらいの時期に、悪いヤツに操られている怪獣と戦う彼女をたまたま目撃し、その勇姿に一目
彼女の変身した姿は光の戦士・トゥインクルスターと言われ、僕はたちまちにして恋に落ちた。怪獣に変身なんて「なに子供みたいなことを」と思われるから誰にもこの事は打ち明けられないけれど、僕だけが彼女の秘密を知っている。あと普段の彼女は度の強い丸眼鏡をかけていて、今もかけているのだが、この眼鏡を外すと雰囲気がガラッと変わり、とても可愛いのだ。
「あっ、コンビニ。ねえ鈴鬼くん、〝中野こんぶ〟買いに行こ?」
「えっ、また」
「またってなに? 今日は初めてですー。切らしちゃって今バッグの中にないんだもん、中野こんぶ」
中野こんぶとは、百円くらいで買える赤い箱に入った甘酸っぱい味の昆布菓子である。
決してまずい物ではないが、買ってまで食べようと思う物でもない。僕にとって中野こんぶはそんな評価の駄菓子だが、彼女は「これをおかずにごはんが食べられる」と豪語するくらい大好物だった。
しかし、中野こんぶを食べているときの彼女はすごく幸せそうな顔をする。その笑顔を見るのはやぶさかではない。
「いつも一個はストックしておかないと落ち着かなくて。でへへ」
「もう中毒じゃないか。しょうがない、行こう。買ってあげるよ」
「え、やった、ありがとう。それじゃお返しに、私も年下の鈴鬼くんになにかおごってあげよっか? ふふ」
彼女が小悪魔のような笑みを浮かべ、僕を年下とからかった。
僕はちょっと前に誕生日を彼女に教え、それから彼女は事あるごとに僕を年下とからかってくる。僕が一番気にしているコンプレックスを。
僕は同学年で最も年下にあたる。そう、僕の誕生日はウソの日、四月一日なのである。
「庚渡さんだって、僕とそんなに変わらないじゃないか」
彼女の誕生日も僕は聞いている。
「いいえ、十七日の差は大きく変わりますから。このお姉さんになーんでもおねだりしなさい、鈴鬼くん」
「ちぇっ。ちょっと早く生まれたからって」
「ふふっ」
口をとがらせてぼやいた僕を、満足した彼女がくすくす笑った。
彼女の誕生日は三月十五日。サイコーの日、とか本人は言っている。まあ、彼女の気持ちも分からなくはない。三月で中旬生まれだと同学年で下は中々いないだろう。
誕生日というのは早く生まれた方が偉いのであり、車の免許を取得する時も早い方が断然有利、なんて話を聞いたことがある。世の社会は早生まれには厳しい、と思うことが
「鈴鬼くん。これ買って」
「こんなに? うん、まあいいけど」
「やったー。幸せゲットだよー」
彼女は中野こんぶを五個も僕に手渡した。
ずうずうしい、人のお金だと思って、と思わないこともない僕だったが、彼女の喜ぶ顔を見ると許せてしまう。最近彼女は僕にちょくちょく甘えるようになり、その甘えが僕にはうれしかった。
彼女は先の誕生日の件で僕をからかってもいる。二ヵ月の付き合いが僕と彼女を着実に近付けさせている。
「ありがとう鈴鬼くん。大切にするね」
僕が親密になりつつある手応えを感じながらコンビニを出ると、隣を歩く彼女がにっこりと礼を述べ、
「いやいや、大切するんじゃなくて食べなよ」
「えへへ。大事に大事に食べさせていただきます」
その屈託のない笑顔がやっぱり僕にはうれしかった。
「ねえ鈴鬼くん」
「なに、庚渡さん?」
「えっとね、今日ね、その」
「……うん?」
「うー、ああ、そうそう。昨日わたし、
コンビニから少し歩いた所で彼女が先輩から呼ばれたことを話し始めた。
戦士である彼女は、コスモスと呼ばれるチームに入って悪いヤツらと戦っているのだが、いま彼女が話題にした美月さんとは、本名を
コスモスとは、彼女と美月さん、そして
妖精は人の言葉をしゃべり、テレポートしたように瞬時に現れる。なぜか語尾に「ベエ」と付ける癖があるため、コスモスの三人からは「べーちゃん」と呼ばれている。
「へえー。美月さんの家って、有名な料亭なんだよね?」
「うん」
「おいしいもの食べた?」
「うん。……あ、そうだった、いやなこと思い出しちゃった」
「えっ。何かあったの?」
「ううん。美月さんごちそう振るまってくれて、すごくおいしかった。けど」
「けど?」
「やっぱりあれが出たの。……虫が」
「む、むしぃ?」
虫。この食べ物とは相容れない単語に、僕が語尾を上げて
有名な料亭なら衛生管理をしっかりしている。害虫が現れた、なんてことはないだろう。虫とは何なのか、と尋ねる僕に、彼女が明らかにトーンダウンした声で話し始める。
「鈴鬼くん、ハチノコって知ってる?」
「う、うん。見たことはないけど、聞いたことなら。蜂の幼虫だよね?」
「うん。美月さん
ごちそうの裏に隠された悩みを彼女が吐露した。
彼女が続ける。虫の料理を思い出したのか、険しくも
「〝世界の食糧事情は知ってるでしょう? これからは虫だって食べなきゃいけない時代が来るわよ〟とか言って食べさせてくるんだけど、ウジ虫なんて食べられるわけないよー。中には成虫になりかけの虫も混じってるし」
「……はは」
「笑いごとじゃないよー。陽さんなんて〝デリシャスマイル~〟とか言いながらハチノコおいしそうにパクパク食べてるし。もう好き嫌いとか以前の問題、これは虫ハラよ虫ハラ。陽さんと美月さんって、たまに食べれる虫の話で盛り上がるの。セミの翅の付け根が食べられるとか、コオロギせんべいとか言って。あの二人食べ物のことになるとちょっと、いや、ものすごくおかしいの」
不満を連ねる彼女に、僕は「災難だったね」としか声をかけれなかった。
美月さんと陽さんは、隣町のお嬢様学校に通う人で、とても美人である。もし言い寄られたら無下にできる人もそうそういないだろう。
だが、美月さんは雰囲気が怖く、陽さんは相手にすると疲れそう。彼女には言わないし言うつもりもないが、僕は正直なところ苦手としている。
「まあ、それは過ぎたことなのでどうでもいいんです。えーっとね、鈴鬼くん」
「うん」
「あのね、前の中間テストで、順位上がったって言ってたよね?」
「あ、うん」
「で、今月末に期末テストがあるよね? それに向けて今日、勉強しない?」
「え、どこで?」
訊いた答えに僕は、耳を疑いながらも心が飛び上がった。
「私の家。今日うちに、誰もいないの」