YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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ギルティできゅあきゅあ♪ ぶっちゃけありえない!

 六畳一間の部屋の(かも)()には、僕が通う明倫中学の女子学制服が()るされていた。

 

 木製の学習机。小学校の進学祝いとして買ってもらったのだろうか。

 クローゼット。傷があり、中古品あるいは誰かから譲り受けたのだろう。

 たくさんの少女漫画が巻順に従って並べられた本棚。いかにも彼女らしくてほっこりしてしまう。

 そして、シングルベッド。可愛らしいぬいぐるみが飾られてあるこのベッドで、どんな夢を見ているのだろうか。

 

「鈴鬼くん。私の部屋、じろじろ見ないで……」

 

 本日はお日柄よく、記念すべき日にふさわしい。僕は今日、初めて彼女の部屋にお邪魔した。

 

「ごめん。でも女の子の部屋なんて初めてで」

「私だって、男の子を招待するの初めてだよ」

 

 彼女の返事に、僕が内心で快哉(かいさい)を叫んだ。――やった、僕が彼女の部屋に一番乗りの男だ。

 しかし、彼女の私物に彼女の匂い、彼女の癖に彼女の生活感。言うなれば彼女そのものが充満するこの天国(ヘブン)、いるだけでドキドキしてしまう。

 僕は今日初めて天国(ヘブン)にお邪魔した。どかっと座るわけにもいかず、手持ち無沙汰気味に突っ立っていると、

 

「とりあえず、あそこに座って」

「う、うん」

「お茶、いれてくるね。それまでゆっくりしてて」

 

 彼女が部屋を後にし、僕は座布団の上へと促されたままに腰を下ろした。

 

「…………」

 

 尻が落ち着かなかった。僕がひたすら下を見る。

 彼女に恋をしてから望んでいたことだけど、まさか今日、彼女の部屋に入ることになるとは思ってもいなかった。しかし、いつまでもそわそわしていては情けない。僕が宙を仰いで息を吸い、どうにか緊張を(ほぐ)そうと努める。

 仰ぐ僕が天井を見つめながら気付く。彼女は先輩にお呼ばれした話をする前、言うか言うまいかもじもじと迷っていたようだった。自分の部屋に男を呼ぶのは勇気が要るだろう。僕が一人納得し、そんな彼女と比べて浮き足立つ自分に反省する。

 

 さて、どうしよう。僕が今いる場所は、彼女がいない彼女の部屋である。

 部屋主が不在である異性の部屋。この状況に僕がむかし読んだギャグ漫画を思い出す。その漫画では、男の子がタンスをあさったりして女の子の下着を探していた。

 お下劣な記憶に僕が頭を振ると、ちょうど四段のタンスが目に入った。そして悪魔が僕に「開けてみないか?」とささやく。――いやいや、彼女は僕を信用して部屋を後にした。そんな真似をしたら彼女に幻滅されてしまう。

 紳士たるべき。そう悪魔を拒否した僕がタンスから目をそらし、机の方に視線を向けると、

 

「あれは」

 

 袖机の上に、赤い印が付けられたプリント用紙を見つけた。

 

 テストだろうか。立ち上がって机へ向かう僕だが、それを手にするのはためらわれた。

 袖机の上、つまり机の下ということは、あまり見られたくはないのだろう。僕が机上を見つめながら考えるが、今日ここに来た趣旨は今月末の期末テスト対策だ。まずは彼女の学力を知るべきだろう。

 僕が(かが)んで机の下に手を突っ込み、プリント用紙数枚を手に取る。用紙は裏だったので裏返すと、

 

「んなっ。さ、さんじゅっ、てん……」

 

 30という(きょう)(がく)の点数が僕の目に飛び込んだ。

 先月に催された中間の数学のテストだった。いやいや、彼女は数学が苦手なのかもしれない。数学は誰だって苦手なものである。

 僕が気を取り直して数学のテストをめくる。次のテストはきっと普通の点数だろう。しかし――。

 

「ええっ!? きゅう、きゅうって……」

 

 次の点数には恐怖すら覚えた。それは社会のテストで、9という一桁の点数を、僕は生まれて初めて目の当たりにした。

 彼女は想像のはるか上をゆく。9という数字に(あわ)れみすら覚えてしまった。眼鏡をしていて、僕よりかは頭よさそうに見えるのに。

 ぶっちゃけありえない。直視できない僕がテストから目を外し、机の上の棚に目を向ける。すると、

 

「〝鉛筆転がしの極意〟……?」

 

 一冊、とてつもなく怪しい本を見つけた。

 

「きゃあっ!? 鈴鬼くん、ななななんで、私のテスト見てるの!?」

 

 振り向くと、茶と菓子を載せたトレイを持つ彼女が、慌てふためきながら僕を非難した。

 彼女が急いでテーブルにトレイを置き、僕からテストをひったくるように奪う。そして、二度と見られないよう胸に抱え込む。

 

「ダメだよテスト見ちゃ! ふつー男の子ならタンスとかあさるでしょ!?」

「え、タンス開けるべきだったの?」

「鈴鬼くんがお望みならいくらでも。ってちがーう! お願いだから私のテストは見ないで!」

 

 彼女が口角泡を飛ばす勢いで叫んだときだった。

 

「ただいまー」

 

 彼女の部屋は二階なのだが、一階の方から女の人の声が聞こえ、

 

「〝お姉ちゃん〟!? えっ、どうして!? 今日バンドの練習とか言ってたのに」

 

 また慌てる彼女。しかし、時すでに遅かった。

 部屋の外から階段を上る音が、どたどたとやかましく聞こえ、

 

「おい紬実佳ぁ! 男物の靴があるけどどういうことだ!」

「きゃあっ! お姉ちゃん!」

 

 僕は彼女のお姉さんと初対面することになった。

 

「紬実佳ー、男連れ込むなんて、あんたやるじゃない」

「と、友達よ友達! お姉ちゃんには関係ないでしょ」

「めっちゃ関係あるよ。あ、カレシ君こんちゃー。あたし紬実佳の四つ上の姉で庚渡(あん)()()って言いまーす。〝わいるど☆あーじゅる〟ってバンドでドラムたたいてまーす」

「あ、あんじー?」

「そっ、アンジー。キラキラネームってやつ? 笑っちゃうでしょ? あははっ」

 

 彼女とは随分と雰囲気が異なったお姉さんが白い歯を見せて笑った。

 彼女のお姉さんは、髪が長くてちょっと派手な感じで、なんというか、一言で表すとギャルっぽい。

 

「カレシくーん真面目そうだねぇ、名前なんつーの?」

「彼氏じゃなくて友達ですけど、鈴鬼小四郎って言います」

「スズキ君、どう? うちの紬実佳。かわいいでしょ?」

「あ、はい。そう、思います……」

「いーひっひ、照れてる照れてる。おい紬実佳よかったな、かわいいってよ」

「もうお姉ちゃん! これから勉強するんだから、部屋から出てって!」

「べんきょー? あんた勉強なんて今までしたことあったっけ?」

「なんですとぉ!? そりゃあるじゃない、お姉ちゃんも見たことあるでしょ、私が勉強してるとこ」

「いーや、ないね。マジメに取り組んだことは一度もない。この前だってさ、机と向き合ってほんの一分で〝なんか喉かわいたなー〟とか言って、ジュース持ってきて一息ついてたじゃない」

「うっ」

「その後も集中が続かずに勉強放りだして部屋の片づけ始めてるし。それで片付けてる雑誌読み始めて、〝ふぁー、マンゴー大福おいしそうー、おぉ、バナナ団子だってー。ねえねえ、お姉ちゃんはどれ食べたい?〟とかあたしに聞いてくる始末だし」

「ううっ」

「それにあんた苦手なことになると()ぐゼンゼンヤラネーダになっちゃうじゃん。前にあんたが勉強教えてって言うから、歴史教えようとしたらさ、〝歴史なんて覚えて何になるの?〟って文句垂れやがって。マジで一発気合い入れてやろうかって思ったよ、あの時は」

「めちょっく」

「苦手なことにも少しは向き合いなさい。それよりもさ、男の子と話すなんて久々だからあたしも混ぜてよ」

「ノン! ゼッタイダメ、のっとれーい!」

「えー。女子高かよってるとさぁ、男の子とむしょーに話したくなるときがあるんだよぅ。よーしスズキ君、ゲームしようぜゲーム。スプラト●ーンできる?」

「ちょっとお姉ちゃん! っていうかなんで帰ってきたの? バンドの練習じゃなかったの?」

「ベースの子が熱だしたんだよ。スタジオでギュイーンとソウルがシャウトしたかったんだけど、今日は練習中止ー」

 

 結局この日、勉強をせず、彼女と彼女のお姉さんとゲームに興じることとなった。

 

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