YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー 作:豚煮真珠
「愛にあふれる日々を未来に! 光の戦士トゥインクルスター!」
カラオケ屋を出た僕と彼女。さっそく彼女が変身し、黄色を主とした光のドレスを身にまとった。
僕は前に彼女の変身を見ている。衣装が一瞬で様変わりする彼女の変身だが、その変身の際、着ている服からドレスへと変わるとき、ほんの一瞬だけ裸のシルエットを見せる時が存在した。
好きな女の子の裸。いくらシルエットでも目にしてはダメだ。そう僕は理性で思いつつも本能にあらがえず、一秒にも満たない一瞬を目に焼き付けるべく凝視してしまった。だが、今日の彼女の変身は、着ていた服からドレスへと変わる間に、ワンピースのような白いノースリーブの服をまとっていた。
服を着ていたので正直ほっとした。しかし、心の隅にわだかまる僕の
「トゥインクル! 敵はあっちに現れたベエ!」
共にカラオケ屋から出た妖精が、その短い腕で西の方角を指して彼女に言った。
あっちと言われても。振り向く僕だが、いま出たばかりのカラオケ屋が立っている。しかし彼女は首を縦に振り、僕に歩み寄ると、
「鈴鬼くん、ちょっとごめんね」
謝りながらも僕の背と両膝の裏に手を回したため、僕は戸惑った。
そして、持ち上げる彼女が、僕をお姫様のように抱える。
「飛ぶね。私にしっかりつかまって」
「う、うん」
僕の返事を確認した彼女が、一息に大きくジャンプした。
「うわぁ……」
ふわりと浮かぶように彼女が飛び、抱えられる僕の視界には、まさに鳥の視点から望む町の光景が広がった。
普段目にすることのない高さからの光景に、僕が感嘆の声をもらす。それから彼女に目を向けると、真剣な顔付きで前を向いている。僕が恋に落ちた勇ましくも可愛らしい顔で、つい見とれてしまう。
僕の視線に気が付いたのか否か、彼女が抱える僕の方に向く。
「鈴鬼くん、さっきはごめんね。おんちとか言って笑っちゃって」
カラオケボックスで僕がひそかに傷付いていたことについて彼女が謝った。
「気にしてないからいいよ。もう笑われ慣れてるし」
「あのね、言い訳になるけど、私もちっちゃい頃はお姉ちゃんやお兄ちゃんに散々ヘタって言われてたんだ。だから歌になるとヘタって言っちゃうの、あんまり抵抗なくて」
「庚渡さんも歌ヘタだったの? あんなに
「うん。寝た子も起きちゃう、ってよく言われてた。だからお兄ちゃんとお姉ちゃんにスパルタモードで鍛えられたの」
「そうなんだ。意外だ、歌の良し悪しって生まれつきの才能なのかと思ってた。僕みたいな音痴でも上手くなれるかな?」
「もちろん。鈴鬼くん声質わるくないし、カラオケレベルなら音感さえ身に付ければ上手くなれるよ」
「音感?」
「聴いた音をちゃんと音が外れることなく出せるってこと、かな? 鈴鬼くん、歌うまくなってみる? 私が教えるよ?」
「ええっ、自信ないなぁ」
「ふふっ、このお姉さんに任せてください。私も鈴鬼くんが一生懸命がんばってるとこ見たいし」
「僕なんかの頑張ってるとこなんて」
「ううん。さっきの鈴鬼くん、歌はヘタだったけど素敵だった……あっ、あれは」
「え?」
「見つけちゃった。下りるよ鈴鬼くん、落ちないようにしっかりつかまって」
車がまばらに停まる駐車場に彼女が下り立った。
立った僕がだだっ広い駐車場を見回す。確かここは隣町・
彼女は先に何かを見つけた旨を口にしていた。僕が彼女の視線の先に振り向くと、
「あれは、ラ、ライオン!?」
「鈴鬼くん、私が守るから下がって」
遠くから迫る、動物園から逃げ出さない限りあり得ない猛獣の姿に、僕が驚く一方で彼女が構えた。
しかし、決着はすぐについた。僕が焦る必要などなかったくらいに。
「とおっ」
駆けるライオンと彼女の間に、黒いビキニ姿の女の人が
「〝サンシャイン〟!」
その戦士の名を彼女が呼んだ。
燃えるような色の長い髪をツーサイドアップにまとめ、炎に似た紋様が体中に描かれている。その戦士は彼女の先輩にして一緒に戦う仲間、サンシャインこと乾出陽さんだ。
陽さんは振り向かなかった。戦いに集中しているのだろう。
「だああっ!」
両腕を広げる陽さんが、突進するライオンを真っ向から食い止める。
「今だよ、〝ムーンライト〟!」
陽さんが呼ぶと、銀の着物を羽織る戦士が新たに下り立った。
美月さんが右の籠手を剣のごとく
「切る! 〝マッソルカッティング〟!」
「ヤッ、ヤクサァァイッ!」
右の籠手がライオンの胴を斜めに斬ると、ライオンが叫びを上げて消滅した。
「サンシャイン! ムーンライト!」
戦いが終わり、彼女が先輩二人に駆け寄る。
「終わったよトゥインクル。……あのさ、ムーンライト」
「なに?」
「今日、なんか楽勝じゃなかった?」
「そうね。この前の
「そうだね。さあ、今日はメテオもいないようだし帰ろう」
「そうだったわ。漬物つけている途中だった、早く帰らないと」
「やーい、漬物女ー」
「ぶっ殺されたいのかしら筋肉女」
付き合いが長いのであろう陽さんと美月さんのやり取りに、彼女と僕がくすりと笑ったときだった。
上からパチパチ――と、軽い拍手の音が聞こえる。この音にコスモスの皆と僕が空を見上げると、
「おめでとう、コスモスの諸君」
「メテオ!」
黒い仮面をかぶり、黒いマントを羽織る黒ずくめの男が宙に浮いていた。
男が地上に下り立つ。僕がこの男に遭うのは三度目になるが、彼女や陽さんや美月さんはもう宿敵と呼べるくらい戦っているのだろう。
不敵に立つ男。そんな余裕を見せる男に陽さんが告げる。
「メテオ。あんたが使役する精霊はもう解放したよ」
「フッ。元々〝
「……どういうこと? あたしらに勝てないのが分かっていたってこと?」
「そうだ。レオマイナーは君たちをおびき寄せるための布石。今日は僕が直々に相手になろう」
男がマントを翻すように脱ぎ捨てた。
戦意を初めて
「どういう風の吹き回し? 精霊に戦わせて逃げるだけだったあなたが」
その心変わりを尋ねる。
真剣に問う美月さんに対して男が肩をすくめる。仮面のために表情は読めないが、その仕草は余裕を通り越して自嘲すら感じられる。
「君たちを始末できないお叱りを受け、もう後がなくなっただけさ。笑うがいい」
自らをあざ笑うよう告げた男だが、戦えない僕はもちろんコスモスの皆も口を閉ざしていた。
戦士三人が構え、美月さんが布告する。
「笑えないけど、いいわ、決着をつけましょう。今日ここであなたを捕まえる」
「フフ、そう簡単に捕まると思うな。なにせ僕は今日、これを使うのだからな」
「あっ、あれは!」
「全身全霊で御相手を
「うっ!」
男の胸から強烈な光が放たれた。
フラッシュのようなまぶしさに僕が目を背ける。程なくして光が収まり、背けた視線を男に戻すと、
「……えっ?」
著しく変わった男の姿に、僕が我が目を疑った。
「僕は日本史、とりわけ戦国時代が好きでね」
目の前の男は、本当にさっきまでの男なのだろうか。男は武士を
まるでコスモスの子のごとく異なる姿に変身した男。しかし、信じられないのは下半身。男は
僕の目の前に、仮面をかぶった半人半馬の黒い武者がいる。そんな息を
「さあ、コスモスの諸君よ。長きに
切っ先が白く光る。コスモスの戦士三人に、半人半馬の黒い武者が鋭い刃を突き付けた。