YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー 作:豚煮真珠
「いざ、参る! イヤアッ!」
刀を片手に握る半人半馬の黒武者が、構える戦士三人めがけて駆け始めた。
武者が地面を
「フンッ!」
刀を振り払ったが、これは陽さんが軽く避けた。
陽さんとすれ違った武者がブレーキをかけるように止まり、その馬身を反転させる。
「なにメテオ? それがあんたの本気? 見掛け倒しもいいとこじゃない」
刀を避けた陽さんがあきれた口調で武者をなじった。
だが、僕も陽さんに同感だった。今の攻撃は何というか、あまりにも普通で芸がない。脅威がまったく感じられず、これなら僕が以前遭った白馬や白鳥の方が断然恐ろしい。巨大な怪獣を目にしている僕の感覚がおかしいことはさておき。
武者は後がないことを述べた上で直接対決を挑んだ。その本気は今の攻撃程度の脅威なのだろうか。それだとしたら僕にとっては
「ハハハ、これは失礼。まだ試運転の段階なんだ、許してくれ」
侮られた武者が笑いながら謝り、
「では、スピードアップと行こうか。〝
面目一新を告げると、
「……えっ?」
「えっ?」
突如として起こった変事に、陽さんが、美月さんが、彼女が戸惑った。
「消えた!?」
「えっ、どこっ!?」
戦士三人が辺りを探す。僕も懸命に探しているのだが見つからない。
武者が消えたのだ。形はおろか影もなく、まるで手品のように
しかし、一瞬で消えるなんて無理がある。武者は下半身が馬であり、その
「ああっ、あそこっ!」
彼女が僕の後ろを驚いた表情で指した。
急いで振り返ると、
「フッ。惑う君たちの姿、中々に滑稽であったぞ」
武者が車上から戦士三人を見下ろして告げた。
そして車の上から軽やかに降りる武者。つい先程まで武者は陽さんからそう離れていない場所に立っていた。それが次の瞬間、陽さんから離れた場所にいる僕の遥か後方に立っていた。
僕が
「さあ、慣らし運転は終わりだ。行くぞコスモス! アクセレイション!」
「また、消えた!」
「くっ!」
陽さんが驚き、美月さんが苦い声を発する。武者が再び姿を消した。
「ど、どこ……」
彼女が消えた武者に不安な声でつぶやく。僕を含めた皆が、あちこちに振り向いて武者を探している。
亡霊のごとく姿を消した武者。これに誰もが慌て、そして恐れている。武者がいつどこから現れるか分からない恐怖。その究極の闇討ちとも言える業が皆を周章
三人を、特に彼女を傷付けさせる訳にはいかない。また僕が襲われないとも限らない。僕も目を皿にして武者を探すが、やはり僕なんかでは見つからず、そして武者を探す陽さんの後ろ、そこに、――武者が突如として姿を現す。
「後ろよサンシャイン!」
「えっ。うわあっ!」
気付いた美月さんの呼びかけに、陽さんが驚きながら振り返るが、
「捉えたぞ! 終わりだサンシャイン!」
「うう、うああっ!」
あまりにも突然のために振り返ることが精いっぱいで、武者の刀による突きを、陽さんが腹に食らった。
「えうっ! げふっ、がっ、うう……」
「ふむ、貫けぬか。
刺されたと思った陽さんだが、無事だったために僕がほっとする。
だが、無事と言ったが、それは命に係わることであってただでは済んでいない。突きを食らって吹っ飛ばされた陽さんは、体をガクガクと震わせながら地面に
陽さんに駆け寄る彼女と美月さん。その一方で刀の刃を見つめる武者が、
「しかし何度も斬ればいつかは斬れよう。
三人に視線を戻して構えると、
「こ、こんのぉ……」
今しがた突かれた陽さんが腹に手をあてながら立ち上がった。
回復の早さに僕が驚くが、それよりも陽さんが怒っている。その左拳を固く握り締めている。
「ちょっとメテオ! 女の腹を突くなんてどういう料簡よ! 赤ちゃんが産めなくなったらどうすんの!」
左の拳を振りかぶって飛び込む陽さん。その拳がどうか武者に届いて欲しい。
「赤ちゃん? サンシャインよ、君は今日滅ぶ運命なのだ。アクセレイション!」
だが、そんな陽さんの怒りを流すように武者がまたも消えた。
即座に後ろへ振り返る陽さん。先の奇襲から学び。しかし、
「君が未来をつなぐ命を欲しいなら」
「後ろ!? うわあっ!」
「今日を生き、滅びの運命を覆して見るがいい!」
武者はそれすらも読み、振り返った陽さんの後ろに現れ、その背中に刀を打ち据えた。
「サンシャイン! よくも!」
「ムーンライトか」
美月さんが武者に飛び込み、先にライオンを一撃で仕留めた右の籠手を振り上げる。
竹を割るがごとき斬撃を美月さんが繰り出す。しかし、斬る寸前で武者が消え、空振った美月さんの背後に、すうっ――と武者が現れる。
武者が刀で美月さんを後ろから
「うう……」
「フフッ、トゥインクルスターよ。君の自慢の光線、撃ってみるがいい」
挑発する武者。彼女は既に光を集めており、撃つ態勢を整えていた。
だが、彼女は撃たなかった。撃たない理由は僕でも分かる、撃ったところで武者は必ず姿を消すだろう。
結果が分かっている彼女が撃てずに迷っている。しかし、先輩二人が傷付けられている。
「いっけぇ! トゥインクルブラスト!」
手をこまねいている訳にもいかなかった彼女が、万に一つの可能性に賭けて光を放つが、
「どこを狙っている」
「きゃあっ!」
やはり武者は姿を消してかわし、そして彼女の目の前に現れた武者が、彼女の首元に刀を打ち据えた。
彼女が膝を落とし、打たれた痛みに小さな体を丸める。
「庚渡さん!」
彼女まで傷付き、これに僕がたまらず駆けた。
だが、武者が僕の方に振り向き、その馬身を弾ます。そして僕の前で止まり、彼女の元へ向かう僕に立ちふさがった。
2メートルは悠に超す半人半馬の黒武者が僕の前に立っている。そして武者が僕に刀を突き付ける。反った刀の
「う、あ、あ……」
目前に迫った死に僕が立ちすくむ。だが、
「少年よ」
「……え?」
「君は以前も見たが、コスモスの戦士ではないだろう?」
僕が動転した。なんと敵であるはずの武者が、僕に話しかけたのだ。
武者が僕を見つめている。その瞳からは意外にも理性を感じる。
「鈴鬼くん!」
「動くな、トゥインクルスター。動くとこの少年を斬るぞ」
武者の後ろでは痛みをこらえる彼女が僕を心配してくれるが、そんな彼女を武者は振り向いて制した。
そして武者が、僕にマスク越しの顔を再び向ける。
「少年よ、去れ。私の目的はコスモスの抹殺だ。関係ない者を巻き込みたくない」
「う、う……」
「意地を張るんじゃない、
何も言えない僕に、武者が背を向け、
「さあ、コスモスの諸君よ。死闘を再開しよう」
戦士三人に戦いの続行を伝えた。
分かっていたが僕は無力だ。何も出来はしない。僕が
「スズキ君」
「美月さん」
立ち上がっていた美月さんがゴーグルを外して僕を呼んだ。
「離れていなさい、絶対に巻き込まれない場所まで。……メテオ」
「なんだムーンライト」
「あなたと同じ力、私も使う。〝
美月さんが宣言すると、その体が先の武者と同じように強く輝いた。
直視できない黄金の光。程なくして収まり、僕が美月さんに視線を戻すと、なんと美月さんの頭に一対の後ろに反った角が生え、下半身が尾びれに変わっている。
予想外の変身に僕が声を失う。今の美月さんは銀の人魚と言うしか他がない。
「スズキ君! 何をぼーっとしているの! 早く遠くまで離れなさい!」
「は、はい!」
「行くわメテオ! 同じ黄道の精霊、このカプリコーンの力であなたを倒す!」
「来るがいいムーンライト!」