YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー 作:豚煮真珠
十一月も終わりに差し掛かった金曜日。
「むう。おいしい……」
「でしょ? ここのオムライス絶品だって、お母さんに教えてもらってさ」
勧める活発な印象の女の子と、その味を認める静かな印象の女の子。コスモスの太陽と月、
前話でも触れたコスモスとは、地球を我が物にせんと
コスモスは組織だった活動をしている訳ではないため、組織や団体と表すのは適当ではない。かと言ってチームと言うには規模が大きい。そんなコスモスに所属する女の子たちは例外なく変身する。変身することで現代の科学では説明のつかない超常的な力を得て、その力を
「この神の舌をうならすなんて、やるわね、〝うしのしっぽ〟亭……」
「ねえ美月、悔しいからってしかめっ面して食べないでよ。ごはんは笑顔だぞ」
美月が眉間にしわを寄せながらオムライスをパクパクと口に運び、それを陽がとがめた。
二人がオムライスを食している場所は、洋食屋「うしのしっぽ」亭と言う。陽が母親からこの店のオムライスがとても
美味いと評判のオムライス。しかし美月はへそが大いに曲がっていた。家が料亭を営み、自身も料理の腕に相当の自信を持っている美月は、その思い上がりから親友が勧める店のオムライスをこき下ろしてやろうと企んでいた。ところが、そんな
うしのしっぽ亭のオムライスは親友が勧めたとおりに美味かった。そして美月は、己が井の中の
「くうっ、もうすっごくおいしい。絶対に負けないわ……」
「いつまで引きずってんのよこの漬物女。ところでさー」
「なに? 筋肉女」
「コスモス。どうしようあたしら。このまま続けるの?」
再度述べるが、二人はコスモスの戦士である。その戦士を続けることに二人は悩んでいた。
敵は宇宙海賊、つまり地球の侵略を企てる悪い宇宙人と思って二人は戦っていた。だが、ふたを開けてみると敵は地球の人だった。宇宙海賊は卑劣にも地球人を操っており、
二人には縁浅からぬ宇宙海賊の敵がいた。この敵には何度も苦しめられ、一度病院通いとなる
敵は過激ではあったが悪人ではなかった。この宿敵とも言えた敵を亡くしたことが、二人の心に深い傷跡を残している。ちなみに前話で述べた黒ずくめの男がその敵にあたり、男は死に場所を求めて戦っていた節があったため、二人は男に恨まれるどころか
「もうあんな思い二度としたくない。ねえ美月、あれから〝べーちゃん〟現れた?」
「ううん。呼んでるけど、私の前に一度も姿を現さないわ」
「美月もかー。あたしも呼んでるけど、全然現れないんだよね」
先に妖精と述べたが、これは何かの例えではない。コスモスには戦士の戦いをサポートする妖精がいる。
妖精の外見は、背に透明な
二人は妖精によってコスモスに選ばれた。だが、この妖精に二人は最近不信感を抱いている。理由は敵が地球の人だったことを二人に教えなかったからだ。二人は黒ずくめの男を倒したそこで初めて知り、そして二人の目の前で男に死なれてしまった。
また、妖精は普段なら呼ぶとテレポートしたように現れる。しかし、最近は呼んでも現れない。その事も含めて二人は、怪しい陰謀に利用されているのではないか、と妖精を疑っている。
「でも陽」
「なに?」
「この際べーちゃんはどうでもいいわ。問題は
「そうだよね。紬実佳ちゃんを一人にするわけにはいかないし」
「あの子ったら危なっかしいじゃない。あの子が戦うのなら放っておくわけにはいかないわ」
美月の言に、陽が木の
二人には共に戦う後輩がいる。名前を
二人はもちろん人との殺し合いなどしたくない悩み、妖精への不信感を紬実佳に相談している。しかし紬実佳は、自信はないけれどそれらを全て背負う旨を二人に告げた。殺し合いは嫌だし妖精は信用できない。でも、可愛い後輩を一人にする訳にはいかない。そう二人は葛藤している。
「紬実佳ちゃん、トゥインクルスターを気に入ってるんだろうね。人生変わった、ってよく言ってたし」
「あの子は生まれ変わるきっかけを作ったべーちゃんに恩を感じているのかもしれないわね」
二人が戦いを続けるという後輩の心境を推し量る。陽が変身した姿をサンシャイン、美月はムーンライト、そして紬実佳はトゥインクルスターと言う。
「恩かぁ。べーちゃんって、あたしらにとっても
「鎹?」
「思い出してよ。べーちゃんいなかったら、あたしらって仲悪いままだったじゃん」
「そうね。私と陽、二人してくだらない派閥を持ってて。私たちって、お互い周りから気を遣われていただけのお山の大将だったものね」
「思い出したくないなぁ。一年の頃は〝
「陽、それはやめて。言わないで」
「へいへい」
「いまだにお母さんになじられるもの、その陰口」
「あたしもトラウマだよ、この陰口」
二人が妖精に誘われる前の昔話を懐かしんでは恥じる。
白山学院とは、二人が通っている中学校の名である。お嬢様学校として知られている。
「脳まで筋肉の陽が急に鎹なんて難しい言葉つかうからびっくりしちゃったじゃない」
「はっぷっぷー」
「ともかく、紬実佳を残して私たちだけ引退なんて虫のいい話だわ。ブラックホール団が来ないことを祈りつつも、戦える態勢は整えておきましょう」
「そうだね。一年生に後を任せる部活なんて聞いたことないし。それはともかく美月さ」
「なに?」
「ほっぺにケチャップ付いてんだけど。ほら、拭いてやるよ」
「奇遇ね。あなたは口の周りに付いてるわ」
オムライスを食べ終わった二人が、互いに付いたケチャップをぬぐってから席を立ちあがった。
二人がレジの前に赴き、店主の奥さんと思しきショートカットの女性に、
「二人とも学生さんね。割引して一人六百円です」
陽が代金を支払う。すると美月が、
「あの、オムライスごちそうさまでした! すごくおいしかったです!」
同じく代金を支払いながら目を輝かせて感想を伝えた。
「ありがとう。主人も喜ぶわ。また来てね」
「はい! また来ます!」
こうして、二人が洋食屋から退店した。
いつもはジメッとするくらい静かで、先程は美味さを悔しがっていたくせに、突然はしゃぎ始めて殊勝な感想を述べた美月に陽が
「美月。あんたそんなに素直な性格してたっけ?」
「しょうがないじゃない、おいしかったんだもん。負けよ負け。ケチャップの香り漂うジューシーなチキンライスを、ふわっふわでトロトロとした卵が包み込んで、ブラボーだわ~」
「べた褒めだね。幸せそうな顔しちゃって」
「当然じゃない。おいしい物は辛いことも嫌なこともすべて忘れさせてくれる。ああ、思い出しただけでもよだれが……」
「ふふっ、勧めてよかった。また行こうね」