YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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こんな時期に転校生? こんな時期ってどんな時期?

 十二月を迎え、季節はすっかり冬となった。霜の張る土を踏み、朝に吐く息は白く霧散し、街中がクリスマスに備えて電飾に彩られる寒い時期に、

 

(かん)(ばら)(たまき)です。よろしくお願いします」

 

 一人の女の子が、クラスの皆に向かって御辞儀をした。

 時刻は朝の八時半、朝礼の時間だ。僕が所属する明倫(めいりん)中学校一年四組に転校生が現れた。

 クラスの皆が転校生にざわついている。「え? 知ってた?」「いや」という声が聞こえるあたり、誰一人として転入を知らなかった模様。そんなクラスメートを先生が手を(たた)いて制し、教室の窓側最奥、昨日までは在りもしなかった誰も座っていない席を指す。

 

「席だがあそこだ。庚渡」

「はい」

「隣だ。坎原が困っていたら助けてやってくれ」

 

 空席の隣に座る彼女が先生の指示に首肯する。

 

 僕の名前は(すず)()()()(ろう)。中学一年の男である。

 無味無臭。友人にそう言われる程パッとしない。趣味なんて言えるものは特になく、強いて挙げるならゲーム、だろうか。

 自分を上中下の更に上中下で表すと、勉強は中の下くらいだった。最近は勉強をしているおかげか、中の中くらいには成り上がったかな、と思っている。でも、運動は下の中、おまけに背はクラスの男で前から並べば二番目に低い。

 転校生の紹介を済ませた朝礼が終わり、一時間目の授業が始まる。そして授業が終わり、その終了を知らせるチャイムが鳴ると、

 

「ねえねえねえねえ、坎原さんどこから来たの?」

「あんた聞いてなかったの? 信宿だって」

「えー、大都会じゃん! 羨ましいー」

「髪キレイだねー。シャンプーなに使ってるの?」

 

 大人気だ。クラスの女子たちが転校生に群がり、輪を作って盛り上がっていた。

 転校生は東京の信宿区から引っ越してきた模様。皆が知る副都心である。いや、盗み聞きしたわけじゃなく、朝礼の挨拶で先生が紹介していた。

 自席に座る僕が転校生の盛況ぶりを眺めていると、

 

「転校生すげーな、ちょー人気じゃん」

「めっちゃ可愛いよな」

 

 友人の()(とう)師泰(もろやす)(たか)()()(すすむ)が、転校生に視線を向けながら僕に話しかけた。

 丞が述べるとおり転校生は可愛かった。ネコのようなパッチリとした目に、形の良い桃色の唇を備え、スラっとした輪郭の顔は白く、サイドテールに結わえた髪型が似合っている。そして、この学校で誰も履いていないであろう濃紫色のストッキングが、都会から現れたユニークさを醸し出している。

 まるで漫画に現れる美少女のように華がある子だ。「こんな子本当にいるんだな」なんて僕は、現実離れした容姿の転校生に少しだけ驚いている。

 

「おい見ろよ」

 

 丞の呼びかけに廊下へ振り向くと、他組の男子が押しかけるようにして転校生を(のぞ)いている。

 

「他の組のヤツらも見に来てるぜ。一体どれだけの男があの転校生にロックオンしてることやら」

 

 楽しそうな丞。まあ、飽いた日常を打ち破るように現れた美少女だ。はしゃぐのも無理はない。僕は彼女一筋だから別にトキメキはしないが、もしそうでなかったら僕もときめいたのだろうか。

 さて、転校生の隣に座る彼女だが、輪に入ることなく一人本を読んでいる。彼女は庚渡紬実佳さんと言って僕が好きな子である。彼女とは二学期が始まったくらいの時期に友達になった。まだ、付き合ってはいない。

 僕が彼女のどこを好きになったのかと言うと、なんと彼女は変身するのだ。彼女はお姫様みたいな黄色いドレスを着た姿に変身して悪と戦う、漫画みたいだけどリアルな戦士で、僕は先述の二学期が始まったくらいの時期に戦う彼女をたまたま目撃し、その勇姿に一目()れした。

 彼女の変身した姿は光の戦士・トゥインクルスターと言われ、僕はたちまちにして恋に落ちた。変身なんて「なに子供みたいなことを」と思われるから誰にもこの事は打ち明けられないけれど、僕だけが彼女の秘密を知っている。あと普段の彼女は度の強い丸眼鏡をかけていて、今もかけているのだが、この眼鏡を外すと雰囲気がガラッと変わり、とても可愛いのだ。

 

「おっと、もう授業の時間か」

 

 二時間目開始のチャイムが鳴り、師泰と丞が自分の席に戻った。

 廊下に振り向くと、他組の男たちも解散していた。が、転校生を名残惜しそうに見つめる男子がチラホラと見受けられる。丞ではないが、あの中には転校生をロックオンした者が確かにいるだろう。

 そして、二・三・四時間目と授業が終わり、昼休みの時間を迎える。

 

「坎原さんホットケーキが好きなんだー。私もー」

「ちょ違う違う! 坎原さんが好きって言ったのはパンケーキ。ホットケーキなんて言ったら笑われちゃうよ?」

「パンケーキとホットケーキって何が違うんだっけ?」

「一緒じゃない? おいしければいいのよもうー」

「違うって! パンってフライパンのことだし。外国の人にホットケーキなんて言っても通じないんだから!」

 

 変わらず女子たちが転校生に群がっていた。

 盛り上がる女子たちだが、眺めていて気になった点がある。輪の中心の転校生が笑うところを見ていない。表情を崩さず、皆の質問に淡々と受け答えているように見え、僕の目には楽しくなさそうに映っている。

 しかし、男の僕が女子の感情など分かるはずもない。気のせいだろうか、と考えている僕を、

 

「鈴鬼ー。転校生が気になるのか? あ、お前は隣のロボ女か」

 

 丞がからかって呼び、師泰も丞に続いて現れる。

 ロボ女とは、主に男子が陰で呼んでいる彼女の蔑称である。彼女の顔を隠すようなミディアムボブの髪型と丸眼鏡な外見に起因している。

 師泰が、椅子に座る僕の膝の上に、どっかりと腰を下ろす。

 

「師泰、重いって」

「コシロー、あのお前の彼女だよー」

「友達だよ」

「あんだけ隣が盛り上がってるのに、一人でケータイぽちぽちいじってるぞ。あそこまでマイペースだと、不思議ちゃん通り越して末恐ろしいものを感じるわー」

 

 目で示す師泰。彼女は隣の女子たちに目もくれず一人ケータイを操作していた。

 彼女には学校に友達がいなかった。いつも一人で本を読んで過ごし、そして一人で帰って。そんな彼女を僕は憂いている。

 彼女は隣町の他校に、陽さんと美月さんという一つ上の親しい先輩がいるため、寂しくないと言っているが。と、そのとき、

 

「ぅおう」

「メールだ。師泰、どいて」

 

 僕のケータイが震え、師泰が変な声を上げた。

 師泰が尻を上げ、僕がポケットからケータイを取り出すと、メールの差出人は彼女だった。そして題名が「一人のときに読んで。絶対だよ!」だった。ケータイを操作していた彼女だが、僕に送るメールを作っていたのか。

 彼女に振り向きたい僕だったが、振り向いたら師泰と丞に怪しまれる。読みに立ち上がっても同様に怪しまれる。昼休みが終わってからにしよう。そう僕が平静を装ってケータイをポケットにしまう。

 

「読まないのか?」

「うん。大した用じゃないから後でいいよ」

「じゃ遠慮なく」

「だから師泰、重いって」

 

 師泰が、僕の膝の上にまた腰を下ろした。

 そして、五時間目の授業が終わった休み時間。僕が誰にも気取られないように教室を出る。

 トイレへと駆け込む。それから大の方へ入り、扉をロックした後にケータイを取り出す。

 

(一人のときに読んで、っていったいなんだろう? えーと、〝ごめん! 転入生の坎原さんに呼ばれちゃって、今日一緒に帰れなくなっちゃった。ほんとごめん、許して~〟)

 

 僕は今日、彼女と一緒に帰る約束をしていたのだが、ドタキャンされた。

 だが、怒るわけではない。むしろ(うれ)しくてほほえんでしまったりする。友達のいない彼女が同性の子を理由にして断ったのだ。

 再度述べるが、彼女には学校に友達がいない。彼女に校内で友達ができることを僕は心の底から望んでいる。しかし、いつの間に転校生と。僕が驚くのだが、

 

(〝気のせいだったら恥ずかしいんだけど、聞き間違いじゃなかったら、坎原さん私のことを金星って呼んだの。私のこと金星なんて呼ぶってことは、坎原さんってもしかしたらコスモスかもしれない!〟 ……うええっ!?)

 

 更に驚くべき文章がメールの文末には潜んでいた。

 

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