YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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羨ましくてコッソリ来ちゃった なんて恥ずかしくて言えないよ

 彼女いわく、コスモスの戦士は星をモデルにしているらしい。陽さんは太陽、美月さんは月、そして彼女は金星、と言った具合に。

 僕が初めて戦う彼女を見たとき、一番星のような輝きを彼女から感じた。一番星とは夕方あるいは明け方に輝く明星、つまり金星だ。その彼女を金星と呼んだ転校生。彼女が推測するように転校生はコスモスなのだろうか。

 

(また、やってしまった……)

 

 放課後。居ても立っても居られなかった僕は彼女と転校生の後を()けていた。

 尾行を開始してから十分と少し。一緒に歩いている彼女と転校生だが会話を交わしていない。転校生が脇目も振らずにずんずんと進み、それを彼女が追いかけている形だ。

 微妙な雰囲気だ。彼女はともかく転校生に仲を深めようという気が感じられない。もしも転校生が戦士ならば、彼女は共に戦う仲間になるのだから仲良くなるべく努めるべきだろう。そうでなくとも教室で彼女と転校生は席が隣である。

 彼女を誘ったくせに(ないがし)ろにする転校生。本当にコスモスなのだろうか、などと僕が疑うと、

 

(……うわっ)

 

 その転校生が後ろに振り向き、慌てて()の陰に隠れた。

 見つからなかっただろうか。僕がおそるおそる(のぞ)くと、転校生は既に彼女と前を向いて歩いており、これに一息ついてから尾行を再開する。

 

 彼女が僕との約束を蹴ってまで転校生を優先する訳。それを僕は知っているからこそ今日ドタキャンを受け入れている。

 前に彼女は「陽さんと美月さん、コスモスやめちゃうかも」と僕に告げた。僕は陽さんと美月さんの先輩二人が、先月の()(とう)という人の死を目の当たりにし、迷っていることを彼女から聞いていた。

 もし先輩二人が戦いを辞したら彼女は一人になってしまう。だから今日ぼくは僅かな(やま)しさを覚えながらも尾けている。もし転校生が彼女の推測どおりにコスモスであるなら、彼女を助ける戦士の姿を是非この目で確かめたい。

 また、僕は人知れず皆を守るコスモスの戦いを知る者だ。転校生がコスモスなら知る必要あるだろう、と意気込むが、

 

(あ、あの転校生、どこまで彼女を連れて行くんだ)

 

 転校生がひたすら歩き続けるため、僕は少し疲れてしまった。

 そして、後を尾けてかれこれ一時間は経っただろうか。ある建物の中に転校生と彼女の二人が入って行った。

 僕が建物を前にして(ちゅう)(ちょ)する。二人が入った建物は建設中のコミュニティセンターで、確かこの町の議員が変わったことで工事が凍結されたと聞いている。だが、ここまで来て退()く訳にはいかない。僕が覚悟を決めて建物に侵入する。

 

「ほこりっぽいなぁ、ここ」

 

 忍び足で建物に入ると、転校生のぼやきが聞こえた。

 建物内は(ひと)()がない所為(せい)か声が良く響き、僕が先のぼやきを頼りに息を潜めて二人を探す。そして、二人の姿を認めた僕が身を隠す。

 物陰から二人を覗く僕。先の何気ないぼやきが聞こえるなら無理に近付く必要もないだろう。

 

「あの、坎原さん。ここって入っていいの?」

 

 彼女が転校生に尋ねる。この建物は本来なら入ってはいけない場所だ。

 

「問題ないよ。妖精に誰も入れないよう頼んでるから」

「えっ。べーちゃんってそんなこともできるの?」

「べえ、ちゃん? なにそれ?」

「あ、坎原さんの言う妖精のこと。語尾にいつもベエって付けるでしょ?」

「ああ、そういうこと」

 

 妖精の愛称で彼女が認識を合わせた。

 転校生は妖精に頼み、この建物内に誰も入れないようにしている模様。まあ、あの妖精なら可能だろう。なにせあの妖精はいつも瞬時に現れる、謎にして不可解極まりない生き物だ。

 しかし、一つ不可解な点がある。それはコスモスではない僕の存在。侵入が禁じられているはずのこの建物に僕が入れてしまっている。これは妖精が僕の覗きを黙認している、と思った方がいいだろう。

 僕が首をあちこちに振り向けるが、妖精の姿はうかがえない。そして、転校生は妖精のことで彼女と話題を共有した。これは絶対に目が離せない。僕は少し疑ってしまったが、転校生は彼女が推測したとおりにいよいよ(もっ)て戦士のようである。

 

「ちなみにここを指定したのは妖精。そうでなきゃ、こんなほこりっぽいところ来たいって思わないし」

「へえ。べーちゃんそんなことできるなんて私おしえてもらってない。今度わたしも頼んでみようかな」

「いや、やってくれないと思うよ」

「そうなの? 坎原さん」

「うん。あの妖精は普段ならこんなことしないよ。いろいろ事情があってね、今回は特別」

「へー、そうなんだ」

「……ねえ、あんた」

 

 僕が固唾(かたず)()む。転校生が剣呑(けんのん)な声で彼女を呼んだのだ。

 不穏な空気が一気にして垂れ込み、転校生が同じ調子で彼女に続ける。

 

()れなれしいから。あんたとは今日会ったばかりでしょ」

「ご、ごめんなさい」

「あのさ、誤解しないでくれる? あたしアンタと仲良くする気ないから。それに、あんた見てるとイラつくの。あたしの知ってる子に、よく似ててさ」

「そんな」

「ほんとイラつく、あの妖精、似てる子をあてつけるなんて。……まあいいや。あんた、今すぐ変身してよ」

「ええっ、やだよ」

 

 転校生が彼女に変身を強要し、それを彼女が断った。

 僕が拳を握り締める。彼女に変なことを強いるようなら()ぐに飛び出そう、と。

 断られた転校生が諦めずに催促する。

 

「いいから変身してよ。あんたトゥインクルスターって言うんでしょ?」

「やだ。……ねえ、なんでイライラしてるの?」

「してないよ」

「私が知ってる子に似てるから?」

「……ああ、もういい。あたしが先に変身してやる」

 

 話をうんざりと打ち切った転校生が懐から鏡を取り出した。

 彼女や先輩二人と同じ鏡だ。僕が陰から目を見張る。

 

「シンダーエラ! ターンイントマジェスティック!」

 

 口上を転校生が述べ、鏡がまばゆい光を放つ。その光に向かって転校生が右手をかざした。

 右手に光が注ぎ込まれ、輝いた右腕を転校生が振り払うと、右腕がオペラグローブのような手袋に包まれる。続けて左手をかざし、振り払うと左腕も同じく手袋に包まれ、胸を張って鏡の光を受けると紫色を主としたドレスに体が包まれた。

 転校生が右脚をバレエの(ごと)く横に直角まで上げ、ターンすると右脚がタイツと靴に覆われる。左脚も上げてターンするとタイツと靴に覆われ、そして高く上げた右腕を振り下ろしながら身を翻すと、振り下ろした腕が光の軌跡を描いてその体を斜めに囲む。

 変身を粗方終えた転校生が鏡をつかむ。そして、

 

「とこしえの尊い日々を未来に! 光の戦士〝リングレットアーク〟!」

 

 光の戦士としての名を勇ましく言い放った。

 転校生は肩をさらけ出した、パーティードレスに似た衣装をまとっている。紫という色もあってエレガントさを感じるが、その衣装よりも目を引くパーツを今の転校生は備えていた。

 円盤に似た「環」が、転校生の右肩から左腰を囲っている。転校生が先に描いた光の軌跡、これが環へ変わり、ほのかな光を放つそれはまるで土星のようだ。

 環を見た僕が感じる。彼女は金星をモデルとした戦士と聞いているが、転校生のモデルは土星だろうか。

 

「ねえ、なんで時を止めないか分かる?」

 

 変身を(ほう)けた様子で見ていた彼女に転校生が尋ねた。

 

「え……」

「ユニヴァーデンスクロック使ったら、あんたの仲間が来ちゃうよね? サンシャインとムーンライトって言うんでしょ? まだその二人には会いたくないんだよね」

「そこまで調べがついてるの」

「妖精からみんな聞いてるよ。さあ、あたしが変身したんだから、あんたも変身してよ」

 

 転校生が再び変身を強要するが、彼女は鏡を取り出さなかった。

 二人の間に流れる沈黙。彼女が、

 

「変身して何するの? 敵もいないのに」

 

 両手をぎゅっと握り締めて転校生に問うと、

 

「決まってるじゃない、戦うの。金星モデルのあんたの実力、この土星モデルのリングレットアークが見定めてやるよ」

 

 転校生が不敵に顎をしゃくって彼女に言い渡した。

 

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