YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー 作:豚煮真珠
「……やだ。それじゃ変身しない」
彼女が変身を迫る転校生の強要を断った。
先に転校生から「なれなれしい」と言われ、
拒む彼女。小さな手をぎゅっと握り締め、そんな従わない彼女に転校生が言葉を荒げる。
「はあ? なんで変身しないの?」
「だって、なんでコスモス同士で戦わなければならないの?」
「…………」
「私ケガしたくないもん。いつブラックホール団が襲ってくるか分かんないし」
しかし彼女はひるむことなく逆に言い返した。
転校生は変身した。ここで彼女も変身すれば争う羽目になるのは目に見えている。だが、変身しない彼女はただの女の子だ。発言に乗せられる力の背景がなく、それなのに
それにしても、なぜ転校生は好戦的なのだろうか。同じコスモスで同級の彼女を下に見ているような言い方だ。あれでは彼女じゃなくても反感を抱く。彼女があらがうのもあの態度に一因あるだろう。
言い返した彼女に転校生が口を閉ざす。そんな転校生に彼女が、
「ねえ坎原さん、ううん、リングレット。私ね、リングレットと一緒に戦いたいの」
優しく、そして控えめに、柔らかく願いを伝えた。
そうだ、人にものを頼む態度は彼女の
「仲良くしてくれるかな? なんて、私なんかと仲良くなんて迷惑かもしれないけど」
「……くっ、めんどくさ。話が全然通じてない」
「えっ」
「あんたこっちのハナシ聞いてんの!? あたしは、あんたがあたしと一緒に戦えるだけの実力があるのかテストしてやるって言ってんの! この天然ボケの子ネコちゃん!」
「子ネコちゃん? えーと、天然ボケでごめんにゃあ」
「クッ! もういい、こうなったら力ずくでも変身させてやる!」
これはダメだ。転校生に彼女と合わせる気が毛頭ない。何がなんでも戦おうとしている。
限界だ、彼女に危害が及んでしまう。だから僕が、
「待ってくれ!」
飛び出して彼女と転校生の間に割り込む。
「鈴鬼くん!? どうしてここに」
彼女が驚くが、今はそれよりも、
「な、なんで、ここに男が」
転校生が僕の登場に激しく動揺していた。
驚くのも当然である。ここは例えとしては極端だが女子更衣室だ。男がいるなんてまずあり得ず、話が聞かれる心配もない。
女の子二人のプライベートな秘密空間。そこへ現れた僕は疑いようのない
「キミは、確か同じクラスにいた」
転校生は信じられないものを見るような顔をして僕をわなわなと指しており、そんな転校生に彼女が紹介する。
「鈴鬼小四郎くんだよ、リングレット」
「いや、待って待って、どうしてここに男がいるの? 妖精に誰もいれないでって言っといたはずなのに」
いまだ動転している転校生。そこへ僕がいるという背信をかました張本人が登場する。
「それはだベエ」
「うわっ」
「べーちゃん」
僕が驚き、彼女が愛称を呼んだ。妖精が一瞬にして姿を現した。
けろっとした顔で浮かぶ妖精に、転校生が目を鋭くしてまくしたてる。
「妖精! なにこのイレギュラーは! この男もコスモスなの!?」
「コスモスの男なんているわけないベエ」
「だったら、なんでここに」
「それはだベエ、話すと長くなるし直ぐには納得できないだろうから省略するベエが、このスズキはコスモスとブラックホール団の戦いに巻き込まれた珍しいニンゲンなんだベエ」
「戦いに、巻き込まれた……? そんなことってあるの?」
「本来なら無いのだけど、これがあってしまったんだベエ。スズキはリープゾーン内を動くことができるベエ。リングレットもこの地域に引っ越した以上、知っておいた方がいいと思って侵入を見逃したベエ」
答弁する妖精だが、これに僕は同情してしまった。
誰に同情? と言うと転校生だ。信じていた妖精に裏切られたショックは
僕の制服の袖を彼女が引っ張る。
「鈴鬼くん、どうしてここに?」
「いや、坎原さんに呼ばれたってメールで見たから、気になっちゃって」
「えっ。もしかして、私を心配してここまで付いてきてくれたの?」
「うん。坎原さんがコスモスかも、って読んだから、確かめたい気持ちもあったけど」
「ありがとう。幸せゲットだよー」
彼女が満面の笑みを浮かべた。
訂正する。転校生にとっては気の毒なサプライズだが、僕にはうれしかった。尾行は疲れたけど、彼女が喜ぶならこの程度の労力惜しむわけがない。
しかし転校生は明らかに納得していなかった。得をした僕が、一人ババを引いた転校生に申し訳なさを感じていると、
「くっ、こんな状況じゃ、戦えるわけないじゃない」
「わっ」
驚く僕。転校生が光に包まれ、元の制服姿に戻った。
転校生がバッグを拾って
「あの、坎原さん」
彼女が呼びかけたが、転校生は振り向かずにこの建物を後にした。
「僕、あの子を怒らせちゃったかな……」
「フォローはしとくベエ。スズキは気にするなベエ」
「ありがとう」
「鈴鬼くん、一緒に帰ろ?」
「うん。もう遅いし、家まで送ってくよ」