YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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夜露死苦! タイマンはったらマブダチでしょ?

 彼女の放った光が転校生の盾と言うべき円を突き破り、転校生が白く輝く光を全身に浴びた。

 無事だろうか。光が過ぎ去り、その後を僕が臨むと、転校生は腰を落として脚を大きく開き、両腕を斜めに交差した体勢で(こら)えている。

 転校生に外傷はあまり(うかが)えない。一目見ただけでは無事のように見える。だが、

 

「はあっ、はあっ……」

 

 息を苦しげに乱し、開いた両脚をガクガクと震わせている。

 

「あ、熱い。体が沸騰している。あたしの(サークル)を、まさか、破るなんて……」

 

 そして我慢も限界を迎え、転校生が崩れるようにして片膝を突いた。

 すかさず立ち上がろうとする転校生だが、足がおぼつかず横に倒れる。僕をさらってまで彼女に挑んだ転校生、緒戦は彼女を圧倒するものの、全てを照らす彼女の光に屈した。

 

「リングレット!」

「坎原さん!」

 

 伏せた転校生に彼女と僕が駆け寄る。

 

「寄るなぁ!」

 

 しかし転校生は一喝し、その割れんばかりの怒声に彼女と僕が足を止めた。

 驚く彼女の一方、転校生が枯れススキをつかみ、四つん()いになって立とうとしている。まだ戦う気なのか。転校生の体は外傷こそあまり見受けられないが、その顔は苦しさと辛さに満ちている。更に呼吸は先に続いて荒く、紫を基調としたドレスとサイドテールの髪は汗でどしゃ降りの雨を受けたように濡れており、とても戦える状態とは思えない。

 勝敗は決している。彼女が勝ったのだ。彼女の勝利が望んでいた結末なのか、と複雑な思いに駆られる僕だが、――見誤っていた。僕と彼女はこれから転校生の底力を思い知る。

 

「……もう、いやなの」

 

 転校生が脚を震えさせながらも立ち上がった。

 決死の覚悟。そのような執念が今にも倒れそうな転校生の眼から感じられ、その鬼気迫った鋭さが彼女と僕に息を()まさせる。

 

「なんで、なんであんた、そんなに戦いたがるの……」

「リングレット」

「大人しく負けてよ! もう誰も死なせたくない、仲間が死ぬのはイヤなの!」

 

 たじろぐ彼女に転校生が飛び掛かった。

 転校生が猛攻を仕掛ける。拳の連打を彼女に浴びせ、刈るような回し蹴りを彼女に(たた)き付ける。果ては頭突きまで彼女にかます。

 息()く間もない転校生のラッシュ。どこにあんな力が残っていたのか。そしてこの気迫に押された彼女がカメのように身を縮めてしまう。

 

「死なせたくない! お願いだから負けてよ!」

「リ、リングレット」

「うう、うううぅっ!」

 

 転校生が歯を食いしばって()えると、その体を斜めに囲む環が平行に向きを変えた。

 フラフープのように転校生を囲んだ環。そして環が回り始め、キラキラと光る砂のような粒を生む。

 光の粒が転校生を中心に渦巻いている。巻き込まれている彼女を目にした僕が、

 

「下がって庚渡さん!」

 

 彼女に呼びかけるが、

 

「鈴鬼くん。そうしたいんだけど、逃げられないの……」

 

 彼女が己をかばいながら下がれない旨を告げる。

 

「吸い寄せ、られる……。いたっ、あ、ううっ」

「はあああぁっ!」

 

 転校生が胸を張って叫び、逃れられない彼女が転校生を中心として渦巻く嵐に呑み込まれた。

 光る嵐、なんてあるはずないのだが、それが僕の目に映っている。キラキラと光る粒を伴った竜巻のごとき嵐は神々しくも美しく、転校生が巻き起こす妙技に僕が目を見張る一方で戦慄(せんりつ)を覚えた。

 いま嵐から身を守るようにして耐える彼女は、千や万に匹敵する数の飛礫(つぶて)を浴びているのだろう。例えるなら脱水中の洗濯機だろうか。手の挿入を禁じられているあの高速回転にいくつもの石と人形を入れるとどうなるか。石は暴力へと変わって中の人形を打ちのめすだろう。

 今の彼女は人形だ。回転が生む遠心力の最中に彼女は身を置いている。回る光の粒が脱水中の洗濯槽に入れた石のように彼女を四方八方から叩いている。

 

「これで倒れて! 〝マグネティックストーム〟!」

「きゃああああっ!」

 

 転校生がとどめとばかりに嵐の回転を上げ、これに彼女が堪え切れず悲鳴を上げた。

 程なくして、嵐から解放された彼女が前のめりに倒れる。そして環を斜めに戻した転校生が、

 

「やった、勝った……」

 

 勝利を宣言したが、ばたりと仰向けに倒れた。

 両者ノックダウン。二人して精も根も尽き果てている。光の戦士同士の戦いは引き分けに終わった。

 

「す、鈴鬼くん」

「庚渡さん」

「起こしてぇ……」

「あ、そうだった、ごめん」

 

 二人が全力を振り絞った、()(れつ)ながらも美しい戦いだったため、つい見入ってしまった僕が呼ばれて彼女を起こす。

 

「いったた……」

「大丈夫?」

「うん。身体(からだ)中すごく痛むけど、心はすっごく清々しいの。お兄ちゃんが読んでたツッパリ漫画で見たことある、タイマンの後のトロピカった熱い友情、って感じ?」

「なんだよそれ。ふふっ」

「鈴鬼くんお願い、リングレットの所に連れてって」

「うん」

 

 彼女が僕の肩を借りて転校生のそばまで歩き、

 

「起きて、リングレット」

 

 地面に両膝を突け、仰向けに倒れている転校生の顔をのぞき込んだ。

 転校生が彼女の顔を見ている。

 

「ティターニア」

「えっ。てぃたーにあ?」

「あ、……ごめん。気にしないで」

「ねえリングレット。仲間が死ぬのはイヤ、って言ってたよね?」

「……聞いてたのね」

 

 僕も聞いた。(うそ)いつわりのない心からの叫びのようだった。

 きっと転校生は、共に戦う仲間の死を見たのだろう。それがトラウマとなり、だから彼女を戦いから降ろさせたかったのか、と僕が得心する。

 それにしても、友達でもない彼女を戦いから遠ざけようとするなんて。この転校生は一見冷たく見えるけど、心根はとても優しい子だ。コスモスを抜きにしても彼女と仲良くなって欲しい、なんて僕が願う。

 

「リングレットの考え、私だいたい分かったよ。ありがと、リングレット」

「……どういたしまして」

「でも、私コスモスやめないよ。ねえリングレット、やっぱ一緒に戦おう? 私、精一杯がんばるから」

 

 彼女が改めて転校生を誘ったが、

 

「いや、一緒に戦わない。あんたはコスモスやめな」

 

 断る転校生。頑として譲らなかった。

 しかし、転校生は即答ではなく、少し迷ってから言った。脈はあると見ていいだろう。

 彼女が体を起こした転校生に口をとがらせて食い下がる。

 

「えー。こんなに戦ったじゃない」

「なに言ってるの。ビーム食らったのはあたしの油断だから。油断しなければあたしの完全勝利だったしー」

「えー、なにそれー。なんでそんなに私のこと嫌うの?」

「……あのさぁ、あんた彼の気持ち、考えたこと」

 

 立ち上がった転校生が「考えたこと」と言ったときだった。

 僕が目を剥く。転校生のすぐ後ろに、――黄金色に輝く髪を持つ者がいる!? 僕と彼女と転校生しかいないはずのこの時が止まった空間に、突如として(ちん)(にゅう)(しゃ)が音もなく現れていた。

 気付いた転校生が振り返るが、腕を振り上げた黄金色の髪を持つ者に吹っ飛ばされ、枯れススキの上を()ねられたように転がる。

 

「リングレット!」

「坎原さん!」

 

 彼女と僕が転校生を吹っ飛ばした者に振り向くと、

 

「こんな山の中まで()けるの大変だったけど、くふふっ、尾けて大正解だ。そろそろボクも仲間に入れてよ」

 

 特徴的なマスクをかぶる男が、黄金色の髪をかき上げながら不気味に笑った。

 

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