YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー 作:豚煮真珠
「ふくくっ、ヒヒッ、ククク……」
突如として現れた黄金色の髪を持つ男が、彼女を見つめながら笑っていた。
彼女が一歩下がりながら構える。下がるのも理解できてしまう。とても
黄金色の髪の男は、黒の革ツナギを着用し、有名なハッカー集団がシンボルとして
「鈴鬼くんはリングレットを」
「うん」
転校生を助けるように告げてから視線を男に戻す。
「あなた、誰?」
「待ってよ。自己紹介の前に挨拶がしたいんだ」
「あいさつ?」
「ふくくっ。初めまして、庚渡紬実佳さん」
「え。私のこと、知ってるの?」
「もちろん。君がコスモスと知って、ずっと付け狙ってたよ。ふふっ、くふふ……」
僕が男の言葉を耳にして大きなショックを受けた。
初対面にも関わらず彼女の名前を知っていた。害意を隠さない男が、彼女の名前を。
何者なのだ
「ボクは〝ヘイズ〟の〝カスケード〟。趣味はユアチューブの観賞と、おいしそうなコスモス狩り。くふふっ」
「……ヘイズ?」
「むかし
「ブラックホール団。なんでこんなときに」
「それじゃ今度はボクと遊ぼうよ! くふっ、容赦しないからね!」
男が彼女に向かって右腕を振り上げた。
振り下ろす男の腕だが、その速さは転校生に比べると緩慢だった。彼女が腕を上げて難なくガードする。だが、
「あ、うぅ……」
先の戦いが響いており、防いだ衝撃にか細い声を漏らす。
「くふふっ、いい声で鳴くじゃないか! その声もっと聞かせろよ!」
弱った彼女の声に
彼女が膝を突く。蹴りをまともに食らって肺が衝撃を受けたのか、右脇を押さえて息を切らしている。
苦しむ彼女の髪を男が乱暴につかむ。
「ああっ、やあっ」
「ほら、もっともっと鳴きなよ。そしてボクに
されるが
「庚渡さん!」
髪をつかまれたまま
どうしてこんなときに。そう嘆く僕の後ろから、
「あたしの、せいだ……」
声が聞こえて振り向くと、転校生が息を乱しながらも立ち上がっていた。
「坎原さん」
「鈴鬼くん。あの子はあたしが、絶対に助ける……」
走り出す転校生。彼女の窮地を救いに。
だが、転校生の体はよたついており、今の声も弱々しかった。転校生も彼女と同じく先の戦いで疲弊が著しい。その体では――、と止めようとした僕だったが、情けないことに言えなかった。
僕は戦えない。頼るしかできないのだ。僕が祈る思いで走る転校生の背中を見つめる。そして転校生が助走の力を借りて男に殴りかかるが、
「ふくくっ、なんだい? このヘナヘナなパンチは」
彼女の髪を離した男が転校生の拳を軽く受け止める。
「君たちコスモス同士の壮絶なケンカ、陰から楽しく眺めさせてもらったよ」
「ぐっ、見てたの」
「もう笑い
笑う男が転校生の頭を上から殴り付けた。
ふらふらとよろめく転校生を男が押すように蹴る。そして倒れた転校生を、
「ふくくっ。でもそのおかげでラクに楽しめそうだよ。礼を言うよ、坎原環さん」
男が笑って嘲弄する。
「あ、あたしの、名前も。……うあぁっ!」
「コスモスだろー? ふくくっ、みんな調べは付いてるんだ」
転校生が止められなかった。唯一の頼みが絶たれ、僕が
悪意ある暴力がこの時の止まった草原を支配している。誰かあの男を止めてくれ。彼女を助けてくれ。そう願う僕の
「もうこの子は限界だね。ほら、隣に寝かせてやるよ」
男が彼女を引き倒し、転校生の横に寝かす。
突如として光に包まれた彼女。変身が解けてしまう。
「くひっ、食べごろのコスモスが二人も目の前に。こいつはたまんないねぇ。どちらを先にするか迷うけど、まあ初めの予定どおり庚渡さんからいただくとするか」
「……こいつ」
「焦るなよー坎原さん。君も後でゆっくりと召し上がってやるからさ。まあ、ちょっと聞いてくれよ。ボク昔さ、いじめられっ子だったんだ」
男が急にいじめを受けていたと明かし、僕は思わず
同情でもしてもらいたいのか。しかし、悔しさなどおくびにも出さない調子で男が続ける。
「みんなの前でバカにされて、冬の寒くて汚いプールに突き落とされて、女の子に嫌われるようないやがらせをするよう強いられて。いやあ、それはもう辛かったよー。ボクのプライドずたずたで登校拒否さ。こんな世界など終わってしまえばいい。そんなことばっか考えてたときさ。僕の前にあのお方が現れ、とても素晴らしい力を授けてくれたんだ」
まるで己が神に選ばれし者であるかのように男が両腕を広げた。
転校生が痛みに震えながらも体を起こす。
「おっ、聞いてくれるかい坎原さん? ボクの〝レベル99に生まれ変わったのでいじめてたヤツ全員に償わせます。今さら謝ってももう遅い〟のお話を」
「…………」
「仕返しするに決まってるよねー? 自殺を考えるくらいボク追い詰められてたんだから。ふくくっ、ボクをいじめた奴、ボクをバカにしてた奴、みんな報いとして仕返ししてやったよ。なあ坎原さん、ボクをいじめてた奴が泣きベソ
「…………」
「何か言えよ。ま、あらかた仕返ししたら飽きちゃってさー、今度はボクがそいつらを支配することにしたんだ。人を支配するって楽しいよね。ある奴なんてさ、ケツの穴に爆竹ぶっ刺して、それで火を付けたんだけど、ケツ穴が切れるケガ負ったくせに愛想笑い浮かべてるんだ。教師からの事情聴取にも〝友達とふざけてやった〟とか頼んでもないのにボクをかばってさ。あっ、そうそう、他にはボクをいじめてた奴って女も交じってたんだけど、その女と付き合ってる男に〝女を裸にしてボクの前に連れてきてよ〟って言ってみたんだ。すると男がさ、ボクが怖いからって本当に女を連れて来たんだよ。あれは支配する側だけが味わえる極上の瞬間だったね。もう興奮しすぎてボクどうにかなっちゃいそうだったよー」
過去を男が
邪悪だ。誰もが説明できない宇宙海賊の力、言うまでもなく自分ではない他から託された力だろう。いわば借り物の力を、男は自分の快楽を満たすためだけに使っている。
男が転校生に弁明する。そして僕と転校生は、男の理性無き行いを知って恐怖する。
「おおっと坎原さん、誤解しないでね。いじめに加わるような女なんかこっちから願い下げだから。その女は裸の写真を撮って、ネットにばら撒くくらいに
「…………」
「くふふっ、その女、次の日から学校に来なくなったよ。まあ因果応報だよね。そんな感じで支配者の特権を楽しんでたらさ、一人このボクに歯向かう粋がったザコがいて、これがやりすぎちゃったんだよねー」
「えっ。やり過ぎた、って。まさか」
「そうだよー、死んじゃったんだよ坎原さん。さすがのボクもこれには焦って、誰かに見つかる前に山の中に埋めたんだけど、埋め方がまずかったのかなぁ、発見されちゃってね」
「…………」
「えっ、なになに、ひいてるの坎原さん? 可愛いねーキミ。コスモスなら驚かないと思ったんだけど。まあボクあのお方に選ばれてるからボクの仕業とまではならなかったんだけどさ、ボクに疑いの目が向けられたから引っ越すことになってね。それからは自重してあのお方が命じるコスモス抹殺、それに専念することにしたんだよ」
殺人者であることを告白した男に、僕と転校生は
しかし、男は武勇伝のように語っている。そんな過去を明かして何が楽しいのか分からない。殺人すら犯す宇宙海賊の男、どうすれば彼女を助けられる。
「ふくくっ、ボクの可哀そうな境遇は分かったかい? しかしいじめられた心の傷は仕返ししたくらいで消えるものじゃないよね? ふとした拍子にいじめられてたときのこと、まだ思い出すんだよ。この心の傷をボクは人をいじめることで癒しているんだ。目には目を、歯には歯を、そしていじめにはいじめを。いじめられたボクには人をいじめる権利ってあるよね?」
尋ねた男に転校生が、
「なにを、言ってるの? そんな権利、あるわけないでしょう?」
痛みでたどたどしくも否定すると、男が転校生の胸を急に蹴り付ける。
「げっ、げほっ、げほ……」
「……坎原さん、なーにボクに口ごたえしているんだい? このボクの言うこと、大人しく聞きなよ」
「うう……」
「ふくくっ、ごめんねー、脅かしちゃったかな? じゃあ今までは前振り、そろそろ本題に移ろうか」
苦しむ転校生に男がまた聞きたくもない話を始める。
「なぜボクが君たちコスモスの名前を知っていると思う? それはね、僕は少し前にコスモスを殺してさあ、その対価にコスモスがどこにいるかの能力、いわばコスモスセンサーを願ったからなんだ。いやあ、それにしてもあのコスモスの子、すごく可愛かったなあ。しかも自分こそが正義って感じに振る舞っててさ、このボクに自信に満ちあふれたツラで説教垂れたんだよね。……なにが正義だ。この世は力こそが全てだ。力こそが正義だ、ハハッ。だからさ、殺す際にその子もう泣かせまくってやったよ」
「…………」
「殺した後も面白くってさ、葬式に何食わぬ顔して出てみると、その子けっこう好かれてたみたいでみんな悲しんでるんだ。もう笑い堪えるのに必死だったよ。ボクが殺した犯人ですよー、ついでにボク純潔を
「……くっ、このっ」
「もう最高だったよー。って、話がそれちゃったね。コスモスの名前、コスモスの居場所、僕が明倫中学に転校したのも、この子が」
男が気を失っている彼女を起こす。
「いるからなんだ。庚渡さんみたいないじめ
僕が立ち上がった。
もう転校生には頼れない。彼女を助けたくば、自分の力で助けるしかない。
何も考えられなかった。怒りで我を忘れていた。僕が男に向かって走り出し、
「その子を、放せえっ!」
被るマスクに拳を叩きつけたが、マスクが外れただけで男はびくともしなかった。
僕が男に捕まれ、腹に膝蹴りを食らう。――苦しい。胃の中の物が逆流するのが分かり、僕が倒れながらも吐いてしまう。
「あううっ、う……」
「そうそう、君もいたね。ゴミ過ぎて忘れてたよ」
「……?」
「くふふっ、ボクの顔、見覚えない?」
おどける男の素顔を見た僕が
マスクと髪のために気が付かなかったが、数日まえ僕にぶつかってきた男だ。僕のクラスの近くにいたのも、彼女を付け狙っていたのか。
「君ってさ、この子とどんな関係なの?」
「…………」
「くふふっ、いいよ答えなくて。そんな君に、今からとっておきのショーを見せてやるから」
「なんだ、って……」
「この子の着てる服、今から全部脱がしまーす。そして君の見ている前で、めちゃくちゃにしてやりまーす」
「なんだと、ふざけるな」
「おおーっと、なに反抗的な口たたいんてだよ」
「がはぁっ! あっ、あ……」
「殺すぞクソザコが。って、昔いじめてた奴みたいな口をしてしまった。自重じちょー。ま、何の力もないザコは指でもくわえて見てろよ。この子はボクがボロボロになるまでしゃぶり尽くしてやるからさ」
繊維の裂ける音が響く。彼女の着る服が破られている。
顔を上げれなかった。悔しくて涙が止まらない。立ち上がろうにも苦しくて力が入らず、こんな危機と言うのに
言葉とは「力こそが全てだ。力こそが正義」。その通りだ。力がなければ彼女を守れない。力がなければ泣き寝入りするしかない。
そんなの嫌だ。この身がどうなろうとも彼女を守りたい。せめて僕に、力があれば――。
「こんのヤロー!」
切り裂くような怒声に顔を上げると、黒いビキニ姿の光の戦士が、男に跳び蹴りを食らわせた。
吹っ飛んだ男。そして彼女を、銀色の着物を羽織った光の戦士が救う。
「美月さん。陽さん」
「スズキ君、待たせたわ」
「遠い所だったから遅くなっちゃったよ。ごめんねスズキ君」