YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー 作:豚煮真珠
光の戦士リングレットアークが、庚渡紬実佳を抱える銀色の着物を羽織った戦士と、黒いビキニ姿の戦士を見つめていた。
銀の着物を羽織った戦士は、
リングレットが貫禄のようなものを二人から感じる。この地域には紬実佳の他に、
「あなたが、リングレットアーク?」
ムーンライトが尋ね、
「そうだけど」
「話は紬実佳とべーちゃんから聞いてるわ。私はムーンライト。こっちの脳まで筋肉ゴリラ女がサンシャインよ」
「ウッホッホー。って、ゴリラは余計だよ。それよりもさ、そのわっか触れるの? ……あれ、触れない」
サンシャインがリングレットを囲む環に触れようとするが、触れずに小首をかしげた。
リングレットの環は、光を放つ微細な粒子によって形成されている。目には映るが実体は無いに等しい。
尻もちをついて座るリングレットの前にサンシャインがしゃがみ込む。後輩と妖精から聞いていた都会育ちの戦士、その一際優れた容姿をじろじろと眺め、
「この子すっごいかわいいね。紬実佳ちゃんとどっちが可愛いかな?」
率直な感想を親友のムーンライトに述べる。
「甲乙つけ難いわね。ま、このコ生意気そうだけど」
「ちょっとムーンライト。初対面の子に向かってナマイキとか言うんじゃない」
「これでも控えめのつもりよ。だって紬実佳と仲良くしてないんでしょ?」
ムーンライトに嫌味を言われたリングレットだが、二人が年上であるために大人しく聞いていた。
今までいくら二人が呼び出しても現れなかった妖精だが、今日久々に姿を現した。二人は妖精から、宇宙海賊の男がトゥインクルと東京から引っ越して来た戦士を付け狙っているから駆けつけてくれ、と頼まれていた。
付け狙っている男は、先にサンシャインが蹴り飛ばしている。この黄金色の髪を持つ男が体を起こし、
「雌がぁ。このボクを、蹴りやがって……」
立ち上がりながら二人を恨めしそうにねめつける。
ムーンライトが気を失っている紬実佳を、その彼・鈴鬼小四郎に託そうとするが、
「……男のスズキ君には毒ね。リングレット」
「あ、うん」
「紬実佳をお願い」
衣服が破れた紬実佳の姿に思い直し、リングレットに預けた。
そしてムーンライトが男に振り向き、既に男と向き合っている親友に呼びかける。
「サンシャイン」
「なに?」
「あいつ、あの髪を見るにおそらく黄道の精霊を宿しているわ。分かっているわね?」
「うん。にしても」
「なに?」
「アイツ、紬実佳ちゃんになんてことを。あたし、堪忍袋の
「同感ね。海より広い私の心も、ここらが我慢の限界よ」
静かな怒りを燃やす二人。これに対して男は、
「なにボクに内緒話をしている!? クッソ、予定変更だ! お前ら二人から泣かせてやる!」
逆に怒りを
二人を許せない男。徹底的に
男は二人が自分を蔑んでいると思い込んでいた。過去にいじめを受けていた男は被害意識が強く、同年代の子が自分に視線を向けてする話が全て自分をバカにしているように感じてしまう。そんなある意味で自意識過剰な男が振り上げる右腕を、サンシャインがかわし、更に男が振り上げる左腕もサンシャインがかわす。
かわし続けるサンシャイン。男の攻撃をひらひらと避けている。これに業を煮やした男が攻撃を一旦止め、サンシャインを捕まえようとするが、
「ハァッ!」
水を差すようにムーンライトが、男の背を籠手で
斬られて振り向いた男が、怒りをむき出しにムーンライトをにらみつける。この視線にムーンライトが下がるが動じてはおらず、男を冷めた口調で挑発する。
「こっちよ」
「このっ、雌がぁっ!」
男が青筋を立てて今度はムーンライトを追い、右腕を振り払って刈らんとするが、これをムーンライトがかわした。
二人は積極的に仕掛けなかった。男の前後にそれぞれ位置し、一定の距離をとって回避に専念している。どうして二人は仕掛けないのか。それは、力のある精霊を宿す弱点をムーンライトが身をもって知っているからであり、その効果は早くも発露する。
「ハアッ、ハアッ……。このっ、チョロチョロと逃げ回りやがって……」
男が二人への
肩で息をする男が息を
かわされて肩を落とす男。元々男の動きは速いものではない。傷付いていたトゥインクルでさえ防ぐことができた。メテオと名乗る黒ずくめの男と戦い続けた二人にとって男の攻撃を避けることは造作もなかった。
「ハア、ハアッ……。黄道の精霊〝
「んげっ。しし座? あたしの星座じゃん」
サンシャインが自分の星座を
そして、ヒイヒイと息を吐く男のへばった姿に二人が警戒を解く。
「ブラックホール団もピンキリね。
「メテオに比べると月とすっぽんだね」
「すっぽんは高級食材だから、こいつは靴の裏のガムよ。薄汚い欲望をむき出しにする男ではこんなものかしら」
「じゃあムーンライト。あたし、そろそろいくよ。たあっ!」
サンシャインが地面を蹴り、満を持して男に飛び掛かった。
「うりゃあああっ!」
威勢の良い気合いに合わせてサンシャインが振りかぶる。この拳を男が凝視し、回避を試みるが、疲労の
「ぐへっ!」
かわし切れずに食らった。
だが、直撃は避けた。右肩に食らって吹っ飛ばされた男がすかさず体を起こし、立ち上がるべく右手を地面につけようとするが、――右手が動かない。
「なんだ……うっ!」
男が右の肩から焼けるような熱さを感じ、うめき声を上げた。
革の焦げる臭いが漂い、右腕が垂れたままで男が動かそうと思っても動かない。これに動揺した男が右肩に目を向けると、なんと肩が変形していた
ツナギの肩の部分が焼け、はだけた肩はへこんでいた。変わり果てた体の一部に男が
「愛を失くした悲しいおばかさん。このサンシャインが、あなたのカラダ、ぼこぼこにしてあげる」
「う、うわあぁぁっ!」
男は恐怖した。なんだこの女の拳は、こんなの食らい続けたら本当に死んでしまう、と。
戦意を喪失した男が背を向けて逃げようとする。だが、
「〝シルバーストリング〟」
ムーンライトが着物の袖を
絡み付く銀色の紐に男が慌て、この隙にムーンライトが、
「ハァッ!」
右の籠手を鋭く払って男を斬りつける。
男の胸が横一文字に切られ、そのパックリと空いた傷から血があふれ出す。
「あ、血、血がぁぁっ!」
「うるさいわね。人を平気で傷付けるくせに、自分が傷付けられたらそんなに騒ぐなんて」
「いや、血がっ、血が出てるんだぞ! やめろ!」
「人の気持ちが分からぬ邪悪な者よ。最後の時です、清められなさい」
騒ぎ立てる男の脇腹をムーンライトが籠手で刺した。
籠手を引き抜くムーンライト。抜いた個所から赤い血がドクドクと流れ、この痛みとムーンライトの情け無き冷徹さを感じた男が青ざめる。
尻もちをついて
「よくも紬実佳を」
「絶対に許さない」
可愛い後輩を汚そうとした怒りを二人が男に吐く。
「待て、待ってくれよ! ボクを、殺す気、なのか……?」
「そうよ。あなたのような男、生きてるだけで汚らわしい」
「お願いだ、許してくれ! もうヘイズもやめる! このとおりだ!」
「謝って済むならコスモスは要らないわ。サンシャイン」
「うん。信じられないよ、やめるなんて言ってても。コイツはいま殺さなきゃダメだ。殺さなきゃ弱い子がかわいそうな目に遭って、絶対に、ぜったいに後悔する……。一緒に殺そう、ムーンライト」
「ええ」
「や、やめろおおぉ!」
決意を固めた二人が、それぞれ右腕と左腕を振り上げたときだった。
――〝
「えっ!?」
「なに!?」
突然のことに驚く二人。後ろから羽交い絞めにされた。
二人がすかさず背後に振り向くと、とても精巧な造りをしたマネキンが自身を捕らえている。
このマネキンは。そう戸惑う二人に構わず、
「うああっ!」
「ぐっ!」
二体のマネキンが二人の腕をそれぞれ後ろに締め上げる。
「〝イオン!〟」
宙を見上げた男が歓喜の声を上げた。
二人が男の視線を追う。すると、ゴスロリ調の黒いドレスをまとった少女が空に浮いている。
間もなくして少女が枯れススキの上にゆっくりと下り立つ。舞踏会で
「イオン、助かったよ! まさか君がボクを助けてくれるなんて!」
男が喜びを表すが、少女がそんな男の顔面を、なんとサッカーボールのごとく蹴り飛ばした。
吹っ飛んだ男。少女が走って追い詰め、男を狂ったように踏み付けまくる。
「なにするんだイオン! あっ、ぐうぅ! やめろ、やめてくれえ!」
「やめませーん。あなた、私のこと汚い女とか臭いとか、散々けなしてくれましたよねぇ?」
「も、もう言わないよ。言わないから、た、助けて……」
「あはははっ、ざまあみろこのカスがぁ! 私、こんな機会をずっとずっとずぅーと
「あ、う……」
「あはっ、あはははっ。……汚くて何が悪いんだ! 私は汚れなきゃ、生きていけなかったんだよ!」
少女が男の首を強く踏み抜くと、硬いものが折れる激しい音がした。
そして、ぐったりと伏せた男。首を折られて絶命した。