YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

43 / 143
*****
六分の侠気と四分のう●こ座り


 枯れススキが広がる(はこ)()の名所・千殻原(せんごくばら)での出来事から四日が経過した。

 時刻は十六時を過ぎ、日が沈もうとしている十二月の空の下、明倫(めいりん)中学校の制服を着た坎原(かんばら)(たまき)がバスから降車する。

 環が発車したバスを見届け、それから辺りを見回すと、大きく「40」と描かれた片側一車線の道路に、家屋が道路に沿って立ち並ぶ変哲もない光景が望める。強いて挙げれば、遠くに中古自動車屋と(おぼ)しき看板があるだけで、コンビニどころか自動販売機もない殺風景が視界には広がっていた。

 ライトを()けた車が三台、環の前を通り過ぎる。環が以前住んでいた首都・東京は、道路が車で混み合う光景が日常だった。また、自動販売機ならどこでも見かけ、人も押しのけたくなるくらいにあふれていた。地方都市の寂れた公道にたたずむ環が、引っ越す前まで住んでいた東京と比べてしまう。

 

「さっむ……」

 

 冷たい風が吹き、これに環が身を縮めながら目的地へ向かって歩き始めた。

 今日環は、(とし)が一つ上の二人と会うべくバスに乗って隣町に訪れている。コスモスの戦士である環は、これからこの隣町に住む、同じコスモスの戦士二人と面会する。

 

 コスモスとは、地球を我が物にせんと(たくら)む宇宙海賊・ブラックホール団と戦う、光の戦士たちの総称である。

 コスモスは組織だった活動をしている訳ではないため、組織や団体と表すのは適当ではない。かと言ってチームと言うには規模が大きい。コスモスの戦士は日本の各地に存在し、なぜか十四・五歳前後の女の子によって構成されている。

 コスモスの戦士は、例外なく変身する。変身することで現代の科学では説明のつかない超常的な力を得て、その力を(もっ)て宇宙海賊と戦っている。

 

(あの公園だ)

 

 十五分ほど歩いた環が目的地の公園に到着した。

 待ち合わせの時刻は十六時半。今は十六時二十五分であり、五分前に着いた環だったが、

 

「あ、……こんちは」

「早かったわね」

 

 この隣町に住むコスモスのうちの一人、(たつみ)(じま)()(づき)が既に待っていた。

 ベンチに座る美月。その背は曲がることなく直立しており、寒さを物ともせず正しい姿勢を貫く美月に、環が気おくれしながら会釈する。

 環と美月の二人は四日前に一度会っていた。コスモスの戦士が変身することは前述しているが、その変身した姿で二人は顔を合わせていた。いつもの姿ではこれが初対面となる。

 

「こんな遠くまで呼び出して悪かったわね」

 

 美月がその整った容姿を崩さずに()び、これに環が年下らしく答える。

 

「いえ、気にしないでください。あたし引っ越して来たばかりだから、ちょうど良かったです」

「そう。ならよかった」

「…………」

「……立ってないで、座ったら?」

「……はい」

 

 美月に促された環がベンチに遠慮しつつも腰かけた。

 両者の幅は大きく空いている。美月は中学二年生、環は一年生。今日はじめて顔を合わせた上に学年も異なれば空くのは当然である。

 何か話さなければ。そう環が、依然として表情を崩さぬ美月に話題を持ち掛ける。

 

「今日、寒いですね」

「そうね」

「巽島さんって、コスモス長いんですか?」

「そうね。もう一年以上()ってるかしら」

「一年ですか。あたしは半年くらいです」

「そう」

「お互い大変ですね。はは……」

「…………」

 

 会話が途切れた。

 

(ええぇ……、この人くすりとも笑わない。どうしよう……)

 

 面をかぶったように表情を崩さない美月に、環が固まった。

 環が頭を超フル回転し、美月が喜びそうな話題を振り絞る。しかし、何も思い浮かばずに目を回す。愛想というものが感じられない美月と二人きりの間を、一体どう保つべきかと懊悩(おうのう)する。

 

(このヒトなんか怖いんだよなぁ。うかつなことしゃべったら(にら)まれそうだし。そうでなくてもこの前この人に〝ナマイキそう〟とか言われてるし。あー、あたしなんで、この人に助けてって頼んじゃったんだろう……)

 

 そして苦しみは後悔に変わった。四日前の千殻原で助けを求めたことを環は悔いていた。

 美月はあまり表情を崩さない。しかも背が中学二年生にしては高く、加えて静かで厳粛な雰囲気を漂わせていることから、威圧感を初対面の者に与える。

 ()(れい)なのだが触れる者をみな傷付ける、触ってはいけない毒の(とげ)だらけの花。そんな恐れに近い印象を環は美月に抱いていた。もっとも、美月は意識しておらず、「キレイですね」とか言っておけば喜ぶ割とチョロい女だったりするのだが。

 

(よう)って人、早く来ないかなぁ……)

 

 残るもう一人のコスモスに環が助けを求めると、

 

「やー、お待たせー。遅くなっちゃったよー」

 

 そのもう一人が、右腕を振りながら駆け込んで登場するのだが、

 

(んなっ!?)

 

 環がもう一人のありえない姿に目を剥いた。

 残るコスモスのもう一人、(いぬい)()(よう)の頭が、どうしてかアフロだった。

 

「陽、遅いわ。待ったわよ」

 

 時刻は十六時四十分。驚く環の一方で美月が遅れをなじり、これに陽が遅れた訳を弁明する。

 

「これには谷より深いわけがあってさあ」

「わけ?」

「ここに来る途中で、綿(わた)南部(なべ)さんとばったり会っちゃって」

「ああ、バスケ部の先輩だった、陽以上のおしゃべりな人?」

「そうそう。〝陽ちゃん聞いてよ~、アタシ彼氏にふられたの~〟で捕まっちゃってさー。もうそこから止まることのないマシンガントークよ。彼氏とタマゴ焼きが砂糖か塩かで言い争ったらしくて、綿南部さんが〝あまーいタマゴ焼きなら朝晩オッケー♪〟って甘いの推したら、彼氏が〝んなワケあるか、そもそもタマゴ焼きは塩だ〟ってキレ始めたみたいで」

「ふーん。でも、その気持ちは分かるわ。タマゴ焼きって度々論争になるもの。砂糖を入れる人はタマゴ焼きが甘い物って思い込んでるし、塩の人は人で甘いタマゴ焼きに違和感を覚えるし。しかも見た目が変わらないから、口に入れたときに余計勘違いするのよねぇ」

「あたしがケチャップ派なんです、って口挟んだのがよくなかったなぁ。〝はぁ? 陽ちゃんなにケチャップって。砂糖以外ありえない、邪道よ邪道〟ってクドクドと怒られちゃったよ」

「なに入れてもおいしいのだから仲良くすればいいのに。……で、なにその頭?」

「これ? 楽しんでもらおうと思って。イエーイ」

「いえーい、じゃないわよ。とりあえず外しなさいそのカツラ。このコ固まってるじゃない」

 

 固まる環を(しり)()に美月がたしなめ、陽がアフロのカツラを外した。

 陽と美月は親友にして腐れ縁の間柄である。故に美月は陽がアフロのカツラをかぶっていても何ら動じない。

 

「環ちゃん。変身してない姿じゃ初めましてだよね?」

 

 カツラを外した陽が、栗色(くりいろ)のちょっと癖がある長い髪をなびかせてほほえんだ。

 陽の笑顔に、環が「この人も綺麗だ」としばし見惚(みと)れ、尋ねられたことを思い出してすかさず返事する。

 

「あっ、はい」

「あたし乾出陽。今さら自己紹介する必要もないと思うけど。で、こっちが巽島美月」

「はい。坎原環です。よろしくお願いします」

 

 陽も美月と同じく、変身した姿では環と顔を合わせており、その際に連絡先を交換した。だから三人は名前を互いに知っており、それで今日いつもの姿で改めて顔を合わせるに至っている。

 環がベンチから立ち上がる。年上の陽を立たせたままでは失礼と思い。

 

「どうぞ、乾出さん」

「あーいいよいいよ。環ちゃんはゲストなんだから座ってて」

「でも。のうのうとここに座っていられるほど鈍感じゃ」

「そんなの気にしないでいいっていいって。お姉さんはこの場に座るから」

 

 陽がどっかりと腰を下ろし、その格好にまた環が目を剥いた。

 

(なにこのヒト。股、開いてるよ……)

 

 絶句した環。陽はう●こ座りしていた。

 陽の恥を恥とも思わぬ格好に、親友の美月がすかさずフォローを入れる。

 

「環」

「は、はい」

「陽は最近相撲にハマってるの。ほら、あの座った格好、つま先立ちしてて、力士が座ってるみたいでしょう?」

「た、確かに」

 

 ため息をつきながら説明した美月だったが、環は()(ぜん)とするしかできなかった。

 陽が環に()き始める。東京から現れたコスモスの戦士、環には尋ねたいことが山のようにある。

 

「じゃあ、何から話そうか。……環ちゃん」

「は、はい」

「とりあえず、環ちゃんのこと、聞かせてくれないかな?」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。