YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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六分の侠気と四分の危険因子

「あたしのことですか? えーと、何から話せばいいのやら……」

「そうだよね、ごめんごめん。じゃあまず、どんな感じで〝べーちゃん〟に出会ったの?」

 

 陽が環に、コスモスに誘われたきっかけを尋ねると、

 

「環」

「はい」

「私も興味あるわ。聞かせて」

 

 環の隣に座る美月も正した姿勢はそのままに尋ねた。

 

「そうですね……」

 

 ――コスモスとは、宇宙海賊と戦う戦士の総称と前話で述べたが、妖精に選ばれた戦士の事も指す。

 妖精とは何か例えではない。背に透明な(はね)を生やしたウサギのような外見の生物がおり、この奇妙な謎の生物に選ばれた女の子がコスモス、つまり宇宙海賊に立ち向かう光の戦士となるのだ。

 選ばれた女の子は、妖精から変身するための鏡・ハロウィンズミラーと、時を止めるための装置・ユニヴァーデンスクロックを託される。そして女の子は止めた時の中で変身し、宇宙海賊と人知れず戦っている。

 妖精はなぜか日本語をしゃべれ、語尾になぜか「ベエ」と付けることから、陽と美月には「べーちゃん」と呼ばれている。

 

「――と、いったところです。あたしがリングレットアークになったときのことは」

 

 環が妖精と出会い、光の戦士となった経緯を話した。

 話を聴いた陽と美月が目を合わせ、「やっぱり」と首を縦に振る。二人は自分以外の戦士が戦士となった経緯を初めて聴き、その経緯が自分と大まかには似ていたことに納得していた。

 何度も言うがコスモスの子は変身する。環が述べた「リングレットアーク」とは光の戦士に変身した姿の名であり、陽の変身した姿は「サンシャイン」、美月は「ムーンライト」と言う。

 いまだ相撲の座り方、蹲踞(そんきょ)をする陽が、話した環に礼を述べる。

 

「ありがとう環ちゃん。他の子がコスモスになった話って初めて聞いたから、とてもためになったよ」

「そうですか。お役に立てたようで」

「それでさ、環ちゃん」

「はい」

 

 陽が環の瞳を見つめて尋ねた。

 余談になるが、股を開いて座る陽の姿はヤンキーにしか見えない。陽の両親は警察官なのだが。

 

「このまえ力を貸して、って言ったよね?」

 

 陽の顔を引き締めた確認に、環が姿勢を正して首を縦に振る。

 環は東京にいた頃、同じ光の戦士にして無二の友人がいた。その子はおっちょこちょいで天然ボケなところがあり、頭に花を生やしたような能天気さに環は頭を悩まされていたけれど、環が苦しいときにはいつもそばにいて励ます、環にとって掛け替えのない友達がいた。

 親友を超える(きずな)で環とその子は結ばれていた。だが、その子は宇宙海賊の一味に殺された。「いつか私の(かたき)をとって」と環に言い残して。環はその言葉を胸に刻み、友達を殺した宇宙海賊への(ふく)(しゅう)を心に誓った。

 しかし、宇宙海賊は強く、自分一人では敵わないと分かっている環は、どうすれば仇を討てるか妖精に相談した。これを聞いた妖精は環に引っ越しを勧め、引っ越した先で出会う戦士と共に戦うよう助言した。そうして東京から住所を移した環は、四日前の千殻原で陽と美月に出会って今に至る。

 ちなみに、環は親の仕事の都合により引っ越しているが、この都合を作ったのは引っ越しを勧めた妖精である。妖精はコスモスの戦いをあらゆる意味でサポートし、それは環の家庭に事情を作り、転居を強いることすら可能であったりする。変身する鏡や時を止める装置など、現代の科学では説明不可能な魔法の道具を提供する妖精は、その気になれば人の因果関係を弄ぶことすら可能な、ある意味で恐ろしい謎の生物なのである。

 

「…………」

 

 話を戻し、陽は首を縦に振った環に対し、何も言わずに黙っていた。

 股を開いて座る陽が、引き締めた顔のまま環を見つめている。これに環が、

 

「な、なんですか?」

 

 不安に駆られ、なぜ何も言わないのか尋ねると、

 

「いやぁ。力を貸すのはいいけどさ、その前に紬実佳(つみか)ちゃんと仲良くしてやってよ」

 

 陽が顔を緩め、言い(にく)かった助力の条件を伝えた。

 妖精の勧めに従って引っ越しし、陽と美月という二人の戦士と出会った環だが、実はもう一人戦士と出会っており、名前を(かのえ)()紬実佳(つみか)、変身した姿を「トゥインクルスター」という。

 環と紬実佳は同じ(とし)で、同じ明倫中に通うクラスメートであり、しかも席が隣同士である。したがって知った仲ではあるが友達ではない。それどころか互いに譲れない思いがあって激突している。

 

「庚渡紬実佳と、ですか」

「そう。紬実佳ちゃんと仲良くするのが条件。でなきゃあたしらも困っちゃうし」

 

 環が紬実佳と不仲なままでは、それぞれの距離感に困る苦悩を陽が話した。

 口を閉ざした環。続いて美月が尋ねる。

 

「環」

「はい」

「紬実佳、あなたに避けられてるって言ってたわ。どうしてあの子を避けるの?」

 

 同じ光の戦士で同じ年齢、そして席が隣なのに紬実佳を拒む。それが分からない美月が環に()いた。

 環が紬実佳に対する率直な(おも)いを語る。美月と陽は一つ下の二人が激突したことは知っているが、その理由までは知らない。

 

「あの子、似てるんです」

「似てる?」

「はい。ブラックホール団に殺されたあたしの友達に。(たい)()って言うんですけど、あの子みてると、どうしても泰子を思い出しちゃって」

「……そうだったの」

「はい。会う前までは、あの子にも力を貸してって頼むつもりでした。でも、会ってみたらすごく似てて、だから、頼めなかったんです」

 

 視線を下に落として伝えた環の言い分に、美月が激突の理由を得心する。

 

「合点がいったわ。環、あなたが紬実佳とケンカした理由だけど、紬実佳を負かせてコスモスから降ろさせたかったのね?」

「はい。それに、似てるあの子と友達になったら、泰子に悪い気がして……」

 

 紬実佳を拒む理由を美月と陽は理解した。環にとって紬実佳は、亡くなった友達の再来であり、その再来まで失うところを見たくないのだろう、と。

 しかし、それはそれ、これはこれ。美月が表情を崩さずに伝える。言い換えれば環は環で、紬実佳は紬実佳であることを。

 

「環、あなたの気持ちは分かったわ。でも、それでも紬実佳と仲良くして」

「…………」

「あなたの友達に(じゅん)じる気持ちはとても立派よ。尊敬に値するわ。でも、それはあなた個人の気持ちで、紬実佳とは関係ないもの。それに、亡くなった友達も、あなたが気持ちを引きずって一人でいることを望んでいるかしら?」

「…………」

「断っておくけど、忘れなさいって言ってるわけじゃないわ。でも、紬実佳のことも考えてあげて。あの子はとてもいい子よ。一緒に戦ってる私と陽が保証するわ」

 

 美月の勧めに、環が視線を伏せた。

 そして、環の心が揺らぐ。紬実佳を戦わせたくないし、死んでしまった友達にも悪い。しかし本心では、紬実佳と手を取り合って一緒に戦いたかった。

 実は環は紬実佳を初めて見たとき、「やり直せるの?」と希望を見出した。しかし、十字架を背負って生きるつもりだった意地と信念が紬実佳を拒絶した。迷う環が心の中で訊く。――泰子、あたし、素直に生きていい? と。

 ちなみに、妖精が共に戦うよう環に勧めた戦士は、陽と美月ではなく紬実佳である。妖精は環の復讐に必要な力と本心を見抜いている。

 

「でも、あれからずっと元気ないんですよね……」

 

 環が願っても(かな)うとは限らず、当の紬実佳の近況を二人に話した。

 報告に二人が「やっぱり」と納得する。続けて環が、

 

「今日も授業終わったら()ぐに飛び出していなくなっちゃいましたし。彼の所に、毎日行ってるみたいです」

 

 今の紬実佳と仲良くなるには難しい事情を伝える。

 下を向いた三人。思い出した美月が話題を切り替え、

 

「環」

 

 顔を上げて環を呼ぶ。

 

「はい」

「ごめんなさい。私、こういう性格だから、陽が来る前の二人きりのとき、なに話せばいいのか分からなくて」

 

 視線を下に()らした美月の()(れき)に環が驚いた。

 そして、環が喜ぶ。美月に抱いていた恐れが誤解であり、その不器用な人柄が垣間(かいま)見えたことに。また、先の紬実佳と仲良くなるように告げた勧めは、環の心に強く響いていた。

 一転してしおらしく謝った美月に、環が尊敬と親しみを覚えるが、

 

「あっ」

 

 美月の隣に置いてあるバッグから、ある物が落ちた。

 バッグはもちろん美月の物である。その落ちたとてつもなく物騒な物に、環が尊敬と親しみを忘れて恐怖する。

 

「やだ、私の包丁が」

「お、おい美月! 早くしまえ!」

 

 陽がバッグから落ちた美月の愛用包丁を慌てて隠す。

 美月は板前の娘である。料理の腕はプロに負けず、包丁さばきなら誰にも負けない自信を持っている。だが、会って数日の環がそんなこと知る由もない。

 包丁は刃物だ。人を容易(たやす)く傷つける。そんな危ない物を持ち歩く美月に、環が冷や汗をだらだらと垂らす。

 

「なんでちゃんとしまっておかないんだよ!」

「いや、研いだばかりだから、早くこれでお肉と野菜を切り刻んであげたくて」

「だからって包丁を抜き身でしのばせておくバカいるかこの漬物女!」

「あなたはなんでまたアフロのカツラ(かぶ)ってるのよこの筋肉女!」

 

 やいのやいの、と言い争いをしている陽と美月に、

 

(あたし、頼む人、間違えたんじゃないかな……)

 

 環が大いにひいていた。

 

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