YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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手に入れたパートナー @ココロはオネスティ

 翌日。午後四時半を過ぎた。昨日彼女は「来る」と言っていた。今日も来るならそろそろ来る頃だろう。

 彼女は、なぜ戦うのだろう。危険な目に遭うかもしれないのに――、と思ったところで僕が気付く。なぜ感謝されるわけでもないのに戦うのか、彼女に()いたことがなかった。

 正義感からなのか。それとも、何か目的があるのか。どんな反応を彼女がするか分からないが、いずれにしろ言おう、「コスモスをやめてくれ」と。そう僕が決意を固めていると、意外な客がこの病室に訪れた。

 

「こんちは」

「え、坎原さん」

 

 転校生にしてクラスメート、そして、彼女と同じくコスモスの女の子。

 彼女を(かたく)なに拒み、日曜に彼女と激しい戦いを繰り広げた光の戦士、坎原環さんがこの病室に現れた。

 

「……そうヘンな顔しないでよ」

「あ、ごめん。でも、どうしてここに?」

「だって、鈴鬼くんが入院した原因を作った大元ってあたしじゃない。謝らなきゃ、って思ってたの。ごめん」

「……ああ。いいよ、気にしてないから。わざわざありがとう」

 

 思わぬ援軍が現れた。坎原さんが彼女と戦った理由は、彼女をコスモスから降ろすためだ。実力で負かせて彼女を降ろそうと企てていた。

 勝負は引き分けに終わったが、まだ諦めてはいないだろう。味方をしてくれるに違いない、と期待する僕だが、

 

「それとね」

 

 制服のポケットに手を突っ込む坎原さんが、その優れた容姿を引き締めて僕に宣告する。

 

「鈴鬼くんに一応伝えておくよ」

「えっ。何を?」

「君が好きな庚渡紬実佳のこと。悪いけどあたし、あの子を戦いに巻き込むから」

 

 梯子(はしご)を外される、とはこのことか。承服できるわけがなかった。

 なぜ心変わりを。坎原さんは同じコスモスの彼女を拒絶し、僕をさらってまで彼女に戦いを挑んだ。それら行動の全ては彼女を戦いから遠ざけるためだったではないか。「もう誰も死なせたくない」と、彼女に叫んだ思いは(うそ)だったのか。

 冗談であって欲しい。認められない僕が坎原さんに()く。

 

「どうして。坎原さん、庚渡さんをコスモスから降ろしたかったんじゃ」

「気が変わったの。……鈴鬼くんが心配するのは分かるよ、日曜にあんなことがあったばかりだし」

 

 視線を下げた坎原さんに、

 

「なら、どうしてっ」

 

 僕が語気を強めて問い詰める。

 

「安心して。もうあんなことは二度と起こさせないから。あたしが、あの子を守るよ。この命に代えてでも」

 

 すると坎原さんが僕に宣言した。

 坎原さんの瞳から(りん)とした強い意志を感じる。一点の曇りもない、真っ()ぐとした決意を。

 彼女は一緒に戦う仲間を欲しがっていた。坎原さんの心変わりは彼女からしても喜ぶべきなのだろう。しかし、それでも、

 

「庚渡さんを認めたのはうれしいけど、でも、それでも……」

 

 日曜の前なら僕も(もろ)()を上げて喜べた。今は、とても喜ぶ気になれなかった。

 思い出してしまう無力だった日曜。腹を蹴られて(みじ)めに吐いてしまい、彼女のために何もできない自分が悔しくて、涙が止まらなかった。

 僕が悲しい思いを隠すためにうつむいてしまう。――いやだ、もう彼女を、危険な所へ連れて行かないでくれ。

 

「……イヤみたいだね。まあ、そりゃそうだよね」

 

 落ち込む僕の気持ちを坎原さんが()み取るが、

 

「でも、反対しても聞かないから。あたし、あの子と一緒に戦う。あの子の力があたしに必要なの」

 

 彼女を危険へと連れて行く意思は貫く。

 

「待ってくれ。好きな子に戦わせて恥ずかしくないの、って訊いてきたのは坎原さんじゃないか。それに、陽さんと美月さんだっているじゃないか。どうして、庚渡さんなんだ」

「ああ、乾出さんと巽島さん。あの二人は、ちょっと、借りを作るのが怖いというか……はは」

 

 目を()らして苦笑いを浮かべた坎原さん。あの先輩二人は頼れる一方で中々に独特であるため、言いたいことは分かるものの流されるわけにはいかない。

 止めるんだ。このままでは、手の届かない遠くへ彼女が連れ去られ、彼女のそばにいられなくなってしまう。でも、どうすればいい。

 僕には何もない。彼女を守る力も、彼女のそばにいられる資格も有りはしない。ただあるのは、彼女が好きという気持ちだけ。

 

「やめて、くれよ……。庚渡さんを、取り上げないでくれ」

 

 気持ちしかない僕が、みっともなくて情けない(おも)いを、クラスメートの女の子に振り絞ってしまう。

 恥をさらけ出した僕だが、坎原さんは譲らない。あくまで冷静に言い返す。

 

「取り上げる? 別にあの子と付き合ってないんでしょ? 鈴鬼くん」

「なにを。僕の気持ちは、分かってるんだろ?」

「そうキツく言わないでよ。っていうか、前は仲良くできないのかって訊いたじゃない。なんであたしがあの子と仲良くするの、鈴鬼くんが邪魔するの?」

「それは違う、そうじゃない。友達ならなって欲しいさ、庚渡さん学校じゃ一人ぼっちだし」

「知ってる」

「僕の、問題なんだ。庚渡さんがコスモスでいる限り、僕は、庚渡さんにふさわしくない」

 

 自分で言っていて情けない。僕は(つい)に本音をもらしてしまった。

 弱い僕の腐った心。だが、想いは通じたようで、ふさぎ込む僕の苦悩を、

 

「ああ、そういうことか」

 

 坎原さんは理解する。

 

「まあたしかに、気おくれしちゃうよね。好きな女の子が、その身を犠牲にしてまで戦ってるなんて知ったら」

「坎原さんの一言で思い知ったんだけど」

「ごめんごめん。あのときはあの子をコスモスからやめさせるので頭がいっぱいだったから。でもね、女の子にしてみればそんなの関係ないよ」

「…………」

「もっと自分に自信もちなよ。好きなんでしょ?」

「でも、僕じゃ、庚渡さんを守れない」

「……男の子だもんね。でもさ、鈴鬼くんがどうあの子に引け目を感じてても、あの子は鈴鬼くんを想い続けるよ? それこそ地獄の果てまで」

「……え?」

「気にしないで素直になりなって。あの子を好きになった時点で鈴鬼くんの負けだから」

 

 好きになった時点で負け。この言葉に僕がはたと気付いた。

 僕は確かに日曜の前も、彼女に幾度となく守られていた。それに、彼女にふさわしくない思いは僕個人の気持ちであり、彼女から言われたわけではなかった。

 心が幾分か軽くなった。重い肩の荷が降りたような気がした。しかし、励ます坎原さんが不思議であり、

 

「どうして、そう言い切れるの?」

 

 彼女のことがなぜ分かるのか、僕がふと疑問に思って訊く。

 

「前にも言ったけど、ホント似てるんだよね。あたしの、友達だった子に」

 

 すると答えた坎原さんの後ろ、病室の扉が開かれ、

 

「こんにちはー。来たよー、鈴鬼くん」

 

 僕と坎原さんが言い争っていたことなど知らない彼女が、実に能天気な笑顔を浮かべて現れた。

 彼女が坎原さんの姿に当然おどろく。

 

「ええっ!? なんで、坎原さんがここに!?」

「いちゃダメ? クラスメートでしょ」

「確かにクラスメートだけど、でもダメだよ! ここに来るなら私に一言いってよ!」

 

 抗議する彼女に、坎原さんの整った顔が緩んだ。

 坎原さんが彼女に歩み寄る。

 

「紬実佳」

「え。つみかって、呼び捨てなの?」

「うん。この前、一緒に戦おうって言ってくれたよね? やっぱりあたし、戦うことにするよ」

「え、ええっ? それはうれしいけど、またどうして急に」

「言いづらい事情が色々あったの。今までのことは謝るよ、ごめんね」

「う、うん」

 

 急に素直になった坎原さんに彼女は戸惑っていた。

 繰り返すが、坎原さんは彼女と戦っている。また「仲良くする気ないから」とまで彼女に一度言い放っている。

 とげとげしかった坎原さんの心変わりに、彼女が助けを求めるかのごとく僕に振り向き、

 

「そ、そうそう鈴鬼くん、見てみてこれ。今日は果物たくさん買ってきたよ」

 

 抱えている紙袋を掲げる。

 

「見舞いと言ったらフルーツだよね。リンゴにミカン、洋ナシもあったから買ってきたの。フルーツパーラーGENTLE(ジェントル)でおいしそうなの選んできたよ」

 

 彼女からの見舞い品、涙があふれ出そうになるくらい(うれ)しかった。

 だが、惜しいけど諦めるしかない。僕は医者から安静を命じられている。

 

「庚渡さん。ごめん、すごく嬉しいんだけど、まだ医者が勧める物しか食べられないんだ」

「めちょっく!」

 

 僕が点滴を刺されている右腕を上げると、彼女が「しまった」と言わんばかりに顔を驚かせた。

 

「ええ、じゃあこれ、どうしよう」

「置いてくしかないんじゃない? 鈴鬼くん食べれないけど」

 

 眉尻を下げて悩む彼女に、坎原さんが勧める。

 

「そんなの困る~。鈴鬼くんのために買ってきたのにぃ」

「まあまあ。鈴鬼くんの家の人が食べるかもしれないじゃん。一応は無駄にならないって」

「えー、でもぉ」

「食べれるようになったらまた贈ろうよ。じゃあ鈴鬼くん、あたしら帰るよ。紬実佳、帰ろう」

「ええ? 私まだ鈴鬼くんと話してない」

「また明日来ようよ。あたしも付き合うし。ごはんおごるから、今日はコスモス同士あたしに付き合ってよ」

「おごってくれるの? っていうか、鈴鬼くんとなに話してたの?」

「それも後で言うから。それじゃ鈴鬼くん、もっと自分に自信もってね」

 

 坎原さんが彼女を連れて病室を後にした。

 全ては日曜の前に僕が願ったこと、その通りになりつつあった。結局「コスモスをやめてくれ」とは言えず、これでいいのだろうか、と僕が悩む。

 だが、坎原さんは信用に足る人だ。なにせ友達でなかった彼女の身を案じてコスモスから降ろそうとした。また、落ち込む僕を励ましてくれた。

 ひとまず保留にするべきか。それにしても、坎原さんの笑った顔を初めて見た。

 

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