YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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仲よきことは美しき哉 娑婆の世界の人間懐炉

 人生初の入院生活だったが、基本的に暇だった。

 事故防止の観点から、ということで病院からの外出には制約が課せられた。受付に申し出て許可を得なければ外に出られず、その自由の無さは窮屈であった。

 外に出られないので勉強に取り組んでみたが、環境が変わった所為(せい)かいまいち集中が続かない。テレビを観ていてもあまり楽しめず、雑誌も暇のおかげで()ぐに読み切ってしまった。学校自体は好きでなかったが、行かなくなったらなったで物足りなさを覚え、人は競争する場に置かれてこそ真価を発揮するのだろう、なんて僕は暇を持て余すあまり考えてしまった。

 暇で退屈だった僕の入院生活は、彼女だけが楽しみだった。彼女は僕の見舞いに毎日来てくれた。ただし、坎原さんを伴って。坎原さんは良い人だけど、二人きりの時間とはならなかった。

 

 その彼女と坎原さんだが、和解後は急速に仲を深めていた。

 転入当初はとげとげしく、クラスの女子に陰口を言われるほど取り付く島もなかった坎原さんだが、そのような態度はすっかりと鳴りを潜め、代わりによく笑うようになった。

 笑う坎原さんに僕は、あれが自然体なのだろう、と思った。彼女を拒絶していたとき、僕は坎原さんが無理をしているように感じたことがある。特に彼女の前では、間の抜けた顔を度々坎原さんは(さら)しており、僕はその整った容姿がだらしなく緩む様に驚かされている。

 彼女は坎原さんとパジャマパーティーまでしたようで、もう親友と言ってもいいのかもしれない。なお、彼女がコスモスを続けることには(いま)だ賛同できない。「コスモスをやめてくれ」と、入院中に言おうと考えたことが何度かある。

 しかし、彼女に必ず付いてくる坎原さんのおかげで言えなかった。僕が余計なことを言わないよう戒めるために来ているのでは。そう僕は、付いてくる坎原さんに感じてしまった。

 

 そして、十二月も下旬を迎え、退院した僕が約二週間ぶりに登校する。

 

「おおっ、鈴鬼じゃーん」

「おはよう」

「あっ、鈴鬼くん久しぶり~。退院したんだ?」

「うん、やっと退院できたよ」

 

 教室に入ると、クラスのみんなが僕を呼んでくれたため、僕が晴れやかな気持ちで返事した。

 僕は入院していた。怪我(けが)をしていた(ため)か皆やさしく気を遣ってくれ、その心遣いが胸に染みる。

 久々の一年四組だが、特に変わった所は見当たらない。だが、しばらく離れてみると、いつも通りの教室にも懐かしいものを感じ、僕が席に着きながらクラスの皆に目を向ける。

 

「あたし今年の正月は、お母さんの実家の三重に行くんだー」

「へー。お伊勢(いせ)さんの近くだっけ? お土産よろしくね~」

「おい、そろそろクリスマスだろ? おまえ予定ある?」

「あるわけねーだろ。中学生にもなって家族でケーキでも食うのか? バカらし」

「じゃ手伝えお前。オレさ、実はサンター星人じゃん?」

「さんたあ、せいじん?」

「町内会で近所の子供にクリスマスプレゼント配ることになってよ。でも悪くねえじゃーん? 夜に家まわって子供の親に渡すんだけどさ、朝起きてみんなが喜ぶカオ想像するだけで、サプライ~ズ」

「めんどくせえこと頼まれたなお前。仕方ねえ、暇だし付き合ってやるよ」

「よろしく頼むぜ~、相棒~」

 

 今週で二学期が終わる。クラスメートは冬休み二大イベントの話に各々(おのおの)花を咲かせていた。

 僕のクリスマスだが、彼女と過ごす、――だろう。入院中毎日来てくれた彼女だが、クリスマスの話をまったくしていなかった。

 プレゼントはどうするべきだろうか。と言うか、妹以外の女の子に物を贈った経験なんてあるわけがない。クリスマスという大イベントを失念していた僕が、クラスメートの話を耳にして焦りを覚えると、

 

「鈴鬼」

(すすむ)

 

 友人の(たか)()()(すすむ)が僕を呼んだため、僕が焦りを隠して返事する。

 

「鈴鬼のアニキぃ!」

「……は?」

「お勤めご苦労様でした! シャバの空気はどうですか? やっぱうまいですか?」

 

 僕の目の前で丞が、足を大きく開いて両膝に手をつき、(こうべ)を勢いよく垂れたために僕はぽかんとした。

 僕は丞の兄貴分などではない。漫画とかに影響されやすいお調子者な丞のこと、今度は(にん)(きょう)漫画にでも影響されたのか、なんて僕があきれる。

 お調子者の丞が話を続ける。まあ、僕は丞がお調子者だからこそ面白い。

 

「悪逆無道な組織を一人で壊滅したムショ帰りの兄貴のことはさておき」

「どんな設定だよ。病院だし」

「メシ食えるようになったか鈴鬼?」

「うん。医者には消化に悪い物を食べないように、とは言われてるけどね」

「そうか。よかったよかった、なはは」

 

 口を大きく開けて笑う丞。その笑みに僕も釣られた。

 内臓から出血した僕は、入院している間ろくな物を食べられなかった。ちなみに、僕が点滴を刺されている間に彼女が持ってきたフルーツは、怒らせてしまった妹のご機嫌取りに使わせてもらった。

 丞が顎に手をあてて僕に()く。

 

「そういえばさ、鈴鬼、知ってるか?」

「えっ。何を?」

「お前が入院する前さ」

 

 丞が廊下の方へおもむろに首を振り向ける。

 

「そこの廊下で突き倒されたじゃん? 覚えてるよな?」

「うん」

「あの突き倒したヤツ、あいつ死んだぜ」

「……ああ、知ってる」

 

 宇宙海賊の一味にして、彼女を汚そうとした男。あの男は死んだ、と坎原さんから入院中に聞いていた。

 男は同じ宇宙海賊に殺されたらしい。僕は気を失ったため、坎原さんから聞くまで死んだことは知らなかった。

 いずれにしろ、彼女を汚そうとした邪悪な男はもういない。人の死を喜ぶのもどうかとは思うが、男の死に関して僕は(あん)()していた。

 

「箱根の千殻原でボコボコになって死んでたんだってよ。半グレにからまれて山の中に連れて行かれたんじゃないかって話だぜ」

「そうなんだ」

「あいつがチョーシのって半グレにからんだんじゃないか、って気がするけどな。ま、みんな迷惑してたから、こんな言い方アレだけど死んでくれてよかったな」

 

 丞と僕が話していると、教室の扉がガラッと開かれた。

 そして、よく知った顔が教室に入って来たため、僕と丞がそちらに首を向ける。

 

「ようコシロー」

()(とう)

 

 丞が僕の小学校以来の友人・()(とう)師泰(もろやす)を呼んだ。

 こちらへ歩く師泰の肩を、丞がつかんで僕に顔を振り向ける。

 

「おい鈴鬼きけよ。茶籐ってばよ、お前がいないから、ここんところスゲー寂しそうにしてたんだぞ」

「えっ、そうなの師泰」

「バッカ! なに言ってんだよススム!」

 

 否定した師泰だが、バツが悪そうな顔を浮かべている。図星だったのだろうか。

 師泰と丞も、彼女ほどではないにしろ見舞いに来てくれた。だから二人は僕の退院日を知っており、教室の皆ほど僕の姿に驚かないのである。

 僕は入院中、ずっと考えていたことがある。でも、一人では心細い。

 

「あのさ、師泰に話があるんだけど」

 

 師泰に尋ねた僕だが、この尋ねは後の大きな声にかき消されてしまう。

 

「〝たま〟ちゃーん。早くはやく、チャイムなっちゃうよー」

 

 教室に入った彼女が、廊下に向かって大きな声で呼んだ。

 間もなくして、眠たそうに顔を緩める坎原さんが、ゆったりとダルそうな動作で教室に入る。

 

「急がなくてもだいじょうぶだよー紬実佳。まだ一分あるし。……ふあ」

 

 転入した日のツンツンとした雰囲気はどこへやら、坎原さんが間の抜けたあくびをした。

 

「うーさむいさむい。ねえ紬実佳、カイロ持ってない?」

「うちみたいな貧乏な家がカイロなんて渡すと思う? たまちゃん()と違って、うちは寒さを全部〝気合いだ気合いだー〟でしのぐ家だし」

「別に貧乏じゃないでしょ紬実佳ん()。じゃあ、人間カイロだ。へへっ」

「ひゃあっ! ちょっとたまちゃん冷たい! 背中に手を突っ込まないで!」

「いひひ、紬実佳のカラダあったかーい」

 

 彼女と坎原さんがじゃれ合いながら自分の席に向かい、これに丞と師泰が()(げん)な顔を浮かべる。

 

「仲良きことは美しきかな、っつーけど、あの二人めっちゃ仲良くなったよな」

「いつも一緒だよな。前に俺が言ったとおりになっちまったぜ。おいコシロー、いいのか? 庚渡、坎原に奪われちまうぞ?」

「はは。奪われるも何も、女の子同士だから心配してないし」

 

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