YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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押忍! 糵のライオンハート

「話ってなんだよコシロー?」

 

 放課後の帰り道。隣を歩く師泰が僕に()いた。

 今からする話は、彼女には聞かれたくない。だから朝、師泰に教室で尋ねたのだが、彼女が来てしまったので放課後まで後回しにした。

 最近彼女は坎原さんと帰っている。もちろん一緒に帰りたい気持ちはあるが、今はコスモス同士ということもあって坎原さんに譲るべきであろう。

 

「なんだよ鈴鬼、俺は仲間外れかよー」

 

 丞が口を(とが)らせて僕に不満をもらした。

 丞を仲間外れとか、そんなつもりはないので僕が弁解する。

 

「そうじゃないよ。丞は野球部に入ってるから頼めないよ」

「は? 部活がらみか?」

「うん。師泰、冬休み終わったらさ、一緒に柔道部に入らない?」

 

 僕の突拍子もない提案を聞いた師泰が、

 

「は? じゅうどうぶぅ?」

 

 当然、語尾を上げて訊き返した。

 

「なんでまた柔道部なんて。モヤシのコシローらしくねえ」

「……二人とも、僕が入院した訳、話したよね?」

「ああ」

 

 僕は彼女をかばって(おお)怪我(けが)を負った。実際はかばうことなんて敵わなかったのだが、そういうことになっていた。

 真実はコスモスに関わるので話す訳にはいかない。だから僕は師泰と丞に、彼女をかばって怪我をした、という情けなくて自己嫌悪に陥る(うそ)の事情を説明していた。

 なお、僕に暴行を加えた男が、あの千殻原で死んだ男とは言っていない。知らない変な男だった、と二人には伝えている。

 

「あのとき、結構あぶなかったんだ。ちょうど助けが来てくれたからよかったけど、それが遅かったら、僕は庚渡さんを危険な目に遭わせるところだったんだ」

「……そんなに、ヤバかったのか」

「うん。それで、入院中ずっと考えてたんだ、女の子を守れるくらいには強くならなくちゃ、って」

 

 僕の話を師泰と丞は真面目に聴き、茶化しはしなかった。

 僕の耳には、今でもあの男の言葉が残っている。「この世は力こそが全て」「力こそが正義」。少し前の僕なら認めていない。でも、今なら言える、その通りだ――、と。

 現に僕は力がなくて何もできなかった。ただ悔しくて泣くことしかできなかった。そして、力が無い僕は彼女にふさわしくない、と考えるように至ってしまった。一般人の僕とコスモスの彼女との隔絶とした差、坎原さんは「気にしないで」って慰めてくれたけれど、僕は男なのだ。強くなって彼女にほんの僅かでも近付きたい。

 

「でも鈴鬼、柔道部って本気か? マジできついぞ?」

 

 丞がいつになく難色を示して僕に忠告した。

 お調子者の丞が言ったので、僕がつい苦笑いを浮かべてしまう。しかし丞は、そんな半端な態度をとる僕が許せなかったようで、

 

「なに笑ってんだ。顧問はあの〝(おに)八馬(やま)(もと)〟だから厳しいし、何よりも柔道は格闘技だ。クッソいてえぞ?」

「そ、そうなんだ。ごめん」

 

 丞が叱るように告げたため、僕が申し訳ない気持ちに駆られて謝った。

 (おに)八馬(やま)(もと)八馬(やま)(もと)という名字の男の教師で、二年と三年の体育の授業を受け持ち、柔道部の顧問を務めている。

 鬼の名が示すとおり、怖い先生として知られている。身長は190cmを超え、着るジャージの下は筋肉隆々、やんちゃな人たちもこの先生の前では借りてきたネコのように委縮する。それどころか、ヤの付く人が(きびす)を返して逃げた伝説まで持っている。

 しかし、指導は確かである。一年の僕は直接指導を受けていないのであくまで印象だが、八馬本先生が指導するおかげで明倫中の柔道部は強豪として知られ、全国大会への出場も度々果たしている。

 

「慣れるまでは泣きたくなるほど苦労するぞ? 軽い気持ちでできるほどウチの柔道部は甘くねえと思うぞ?」

 

 たしなめる丞。心配してくれているのだろう。

 しかし、諦めるわけにはいかない。彼女は皆を守るために戦っているんだ。形は違えど僕も戦い、痛みを知らなければ彼女に近付けない。

 モヤシのままじゃ彼女の隣にいられない。甘えてばかりじゃいられない。スッポンが月になるのは無理でも、手だけは伸ばし続けていたい。だから、

 

「ありがとう丞。でも、決めたんだ。本当なら今日にでも柔道部に尋ねたいんだけど、医者に怒られるだろうから。……体が治ったら、死んだつもりで頑張ってみるよ」

 

 僕が生半可な気持ちではない決意を込めて丞に宣言した。

 諦めた丞が頭を押さえて再度忠告する。

 

「まあ、決めるのは鈴鬼だからこれ以上は止めないけど、泣き言いうなよ? おい茶籐、おまえどうすんだ?」

「師泰、一緒に入ってくれないかな? 一人じゃ心細くて」

 

 口を閉ざしている師泰に僕が頼むと、

 

「俺も入るかなー。暇だしよ」

 

 師泰は意外にもあっさりと承諾した。

 宙を見つめて答えた師泰に、僕と丞が訊き返す。

 

「ほんと師泰?」

「えっ、茶籐マジかよ。今の俺の話、聞いてなかったのかよ?」

 

 すると師泰が、僕の方を向き、

 

「勘違いすんなよ。別にコシローに頼まれたからじゃねえ、俺もちょっと考えるところがあってよ」

 

 部活への入部は自分の意志と告げるが、

 

「あっ、そうかー。茶籐、おまえ田名河(たなか)(うわさ)が気になるんだろー?」

 

 そんな師泰を、丞が歯を見せて楽しそうにからかった。

 僕が丞に訊く。噂とは何のことだろうか。

 

「田名河さん? 丞、どういうこと?」

「田名河の好みがさ、聞いた話によると強い男みたいでさ」

 

 田名河とは、田名河(たなか)()(いち)と言う名前の子で、主に男から人気がある他組の女子である。

 僕と師泰は田名河さんと小学校が同じだったため、別に仲良くはないが知っている。そして師泰は、田名河さんのことが好きだった頃がある、と僕に告白したことがあり、その(おも)いを今もひきずっている模様。

 師泰の顔が、心なしか赤くなっている気がし、そんな師泰をよそに丞が続ける。

 

「鈴鬼。お前が入院してる最中さ、田名河が告白されたって話を茶籐にしたんだよ。そしたら急にこいつ、田名河の話すんじゃねえ! ってキレ散らかしてよー」

「へえ」

「うっせーススム! ハナシすんじゃねえって言ってんだろ。ったく、コシローにいいふらしやがって」

 

 ムキになって否定した師泰。やはり今もひきずっているのだろう。

 何にせよ、一緒に入ってくれそうだ。僕も師泰の恋がうまくいくことを望む。

 

「師泰、一緒に頑張ろうよ」

「お、おう。ヒマだから、どうせ暇だからなー。よしコシロー、ついでにススム、今から柔道着を見にスポーツショップ行くぞ」

「スポーツショップに柔道着は売ってねえだろ」

「そういえばそうだな。どういうところで売ってんだあれ?」

「さあ? 入部すれば柔道着くらい部が用意するだろ。ってか今日は弁当屋の〝大盛(おおもり)ごはん〟が月に一度のハッピーもりもりデイだからそっち行こうぜ?」

「はあ? いま食ったら夕飯が食えなくなるだろうが」

「今日は親が出かけてて夕飯ないんだよー。なっ、茶籐、鈴鬼? 今日は俺に付き合ってくれよー」

 

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