YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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鮮血をなめずる捕食の刻

 午前十一時三十二分。一番ホームに十五(りょう)編成の電車が停車した。

 ()まる電車の車体には、緑とオレンジのラインが引かれており、各(しゃ)(りょう)の方向幕には「(こう)(りょう)」と電光表示されている。

 

「こうりょう、香陵。終点です」

 

 一番ホームの屋根に付けられたスピーカーからの音声が、終点「香陵駅」に到着した旨を駅の利用客に知らせた。

 電車から降りる人々。その電車最前、一号車の三番ドアから、黒い装いをした少女が人々に併せて降車する。

 少女が辺りを見回し、まばらな人々の様子に少し面食らう。そして、

 

(あはっ、さすがイナカ)

 

 心弾まぬ古ぼけた街並みが見渡せる、降りた先の地方都市を嘲弄する。

 少女が縄張りとする東京、(しん)宿(じゅく)駅のホームは、いつも人であふれかえっていた。また、降りた香陵駅には駅ビルこそあれど、信宿のそれとは程遠く、高さも大きさも信宿には全然かなわない。大都会と地方都市との歴然とした差、目の当たりにした少女がほくそ笑む。

 

「さーて、どうしてやりましょうか」

 

 つぶやいた少女が、キャリーバッグをガラガラと()いて歩き始めた。

 もふもふなファーが付いた黒のコートを、ボタン掛けせずにまとう少女は、その下にこれまた黒を基調としたゴスロリ調の衣装を着ている。頭には赤色の派手なウィッグを付け、牽くキャリーバッグには、不気味な見た目のぬいぐるみがキーホルダーのようにぶら下がっている。

 少女の格好は、東京なら雑多に紛れるので少々目立つくらいだが、ここ地方都市の香陵ではとても珍しかった。母親に手を引かれる小さな女の子が人差し指をくわえながら少女を見つめ、ギャンブルに負けて帰る途中のくたびれたおじさんが呆然(ぼうぜん)とした顔で少女を見ている。まるで漫画の世界から飛び出したような少女の格好は、ここ香陵では否応がなく目立っている。

 

「とりま、何か食べますか」

 

 駅を出た少女が、赤と黄色の看板が目印のファーストフード店に入った。

 店に入った少女がセットを注文する。そして受け取った少女が席に座り、ドリンクに口を付けながらスマートフォンを取り出す。

 ディスプレイに映ったウサギのアイコンを、少女が軽く押下すると、「なかよし×ウサウサ村」というタイトル画面が起動する。これはプレイヤーがウサギのキャラクターとコミュニケーションを図って親密度を上げるゲームで、この少女がはまっている。

 

「…………」

 

 頼んだセットを貪りながらゲームに熱中する少女。

 少女は指に付いた塩やケチャップをねぶり、ハンバーガーの包装紙に付いたドレッシングをペロペロと()めとっている。人目も(はばか)らずにそれをする少女の様子は、ゴスロリな格好とは裏腹に意地汚い。

 そして、ゲームに熱心なあまり気が付かなかった。悪意ある魔の手が、少女に忍び寄っていることを。

 

「……あっ」

 

 スマートフォンを取り上げられた少女が顔を上げると、

 

「ねえあんた、目立ったカッコしてるねー」

 

 長い髪を明るく染めた女が、取り上げたスマートフォンをこれ見よがしに掲げながら少女を笑った。

 周りを見回す少女。四人の女がいやらしい笑みを浮かべながら少女を囲んでいる。この女四人は、いずれも荒れた肌の顔を化粧でごまかしており、夜遊びに余念がないことが(うかが)える。

 四人の女が、ここ香陵では変わった格好の少女をはやし始める。

 

「あんた迷子? ここ竹下(たけした)(どお)りじゃないよ? ハハッ」

「サトミ、ゴスロリってヤツじゃない? やべー、モンスターボール持ってこなきゃ。珍獣ゲットだぜ」

「キャハハ。写真とっとこー。インスタでバズるかなこれ?」

「回転寿司にツバつけるよりはインパクトなくね?」

「ぶっ! ちょっ、思い出させないでよ~。あれツバ付けたこと知らない子供がおいしそうに食べてさぁ、おもしろかったよねー」

 

 タチの悪い女四人にからまれ、普通の女の子なら(おび)えるところだろう。しかし、

 

「わぁ。田舎のサルが、こんな早く釣れるなんて」

 

 少女はどうしてか手を合わせ、からむ四人に喜んでいた。

 耳を疑った女の一人が少女に()き返す。

 

「あ? 今なんつったオマエ?」

「聞こえなかったんですか? バカな男に股を開くしか能がない、ヤリ捨てられるだけの可哀そうなメスザルが釣れたって言ったんですよぉ」

 

 少女が口元を隠してくつくつと笑い、これに女四人が眉根を上げる。

 

「なにヨユーかましてんだお前」

「ムカつくなこのガキ。ちょっと小突いてやらない?」

「お、いーねいーね。……おい、立ちな、ゴスロリ女」

 

 女の一人が椅子を脅すように軽く蹴ると、少女が席を立った。

 そして、連行される少女。しかし、何ら臆しておらず、実にのほほんとした顔でキャリーバッグをガラガラと牽いている。この余裕綽々(しゃくしゃく)な態度を女四人が(いぶか)るが、一度吐いた(たん)()は戻せず、何よりもその余裕っぷりが腹立たしい。

 程なくして少女が、(ひと)()のない路地裏へと連れて行かれ、

 

「お前さ、これからどうなるか分かってる?」

 

 少女からスマートフォンを取り上げた女が、少女が背にする壁に手を突いて脅す。だが、

 

「ふふっ、それはこっちのセリフですよぉ」

 

 少女が懐から舞踏会でかぶるようなアイマスクを取り出した。

 少女がアイマスクで顔を覆う。その途端、黒いオーラのようなものが少女の全身から湧き上がる。恨みや憎しみ、悲しみや(ねた)み、人が抱える負のエネルギーをないまぜにした禍々(まがまが)しい魔の気を。

 気は瞬く間に(でん)()した。例えるなら、地の底から()い上がる醜くて飢えた(もう)(りょう)。――なんだコイツ、マジでヤバい。異様で恐ろしい気配を女四人が察知して(ひる)むが、

 

「うごふっ!」

 

 先に壁を突いた女が、少女に下腹部を殴られた。

 

「ああ、あああ……」

「サトミ!」

 

 サトミと呼ばれた女が腹を抱えて膝を突く。

 そして、横に寝転がる。女の股から尿(にょう)()れ、間もなくして股が赤く染まる。

 歯を食いしばって()(もん)の表情を浮かべる女。落としたスマートフォンを少女が拾い、続いて女の持ち物のバッグを拾い上げ、

 

「チッ。一万しか無いとか、しけてますねぇ」

 

 少女が財布から一万円札を抜き出し、懐にしまい込んだ。

 寝転がる女の頭を、少女がぐりぐりと踏み付ける。

 

「子宮を思いっきり殴ったから、もう赤ちゃん産めないかもしれませんね。ざーんねーん」

「サ、サトミ……あがっ!」

 

 二人目の女の顔面を、少女が正面から殴りつけた。

 女が両手で殴られた顔を覆う。口から血を垂れ流し、赤く染まった前歯が女の前に落ちている。

 またもや少女が、女が肩にかけているバッグを強奪し、

 

「コイツは五千しかない。田舎のサルって、(そろ)いも揃って金もってないですね」

 

 財布から札を抜き出してバッグと財布を放り捨てた。

 

「さて、残る二人のメスザルさん」

「ひ、ひぃっ!」

「恵まれない私のために金、おいてってくださいよ。ついでに女として価値がなくなるまでぐちゃぐちゃにしてあげますから」

 

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