YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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当たって砕けろ! なんて無責任なこと言わないで

(何をやっているんだ僕は)

 

 彼女を偶然にも見つけた僕は、公園を出て後を()けていた。

 言われないでも分かっている、自分が最低最悪のクソヤローであることは。他人のこのような犯罪に怒りと侮蔑を覚えていたくせに、まさか、同じ行為を犯してしまうなんて。

 前を歩く彼女はもちろんのこと、師泰などクラスメートにも見つかる訳にはいかない。もし見つかればその場で破滅であり、明日から登校拒否するしかないだろう。だから僕が薄氷を踏む思いで、彼女だけでなく周りにも注意する。

 

(……まずいっ!)

 

 彼女が後ろに振り向こうとしたため、慌てて近くの電柱に身を隠す。

 僕は泥棒だ、痴漢だ、その他ずるくてやらしい()(きょう)者だ。さっさと彼女に声をかけ、潔く謝ればいい事くらい分かっている。でも、僕は恐れていた。また無視されたらもう立ち直れない。

 そもそも彼女は僕をどう思っているのだろうか。ただのクラスメートで、よくある男の中の一人なのだろうか。都合が良いとは自分でも思っているが、僕が恋をしたあの日、彼女は別れ際に「またあした」と言った。これを僕は「明日ゆっくりとお話ししよう」と解釈し、だから僕はあの日、明日が待ち遠しくて仕方がなかった。

 彼女が「べーちゃん」と呼んでいた、あのポ●モンみたいな妖精のしゃべっていたことがどこまで本気なのか()きたいが、それは二の次でよかった。僕は彼女と二人きりで話せる機会に、この上なく胸を高鳴らせていたのだが、その明日で僕は彼女を傷付けてしまった。

 

(大丈夫だろうか……)

 

 僕がおそるおそる電柱から顔を(のぞ)かせると、彼女は既に前へ歩いていた。

 十分な距離を見計らって尾行を再開する。と同時に僕が、卑怯で臆病な自分に嫌悪し、そんな弱さを跳ね返せる強さを渇望する。

 そして、五分ほどが()ち、彼女が一軒の店に寄り道する。

 

(あそこは)

 

 コンビニなどではない、古い木造の小さなお店。このしなびたような店は僕も知っている。中学に進学してからは行かなくなったが、小学生のころ師泰たちとたまに寄っていた駄菓子屋だ。

 何を買ったのだろうか。僕が隠れながら彼女の退出を待つ。程なくして店から出た彼女が、店頭に設置されたベンチに腰掛け、中で買ったのであろう菓子を取り出していそいそと口に運ぶ。

 

(あれは、(なか)()こんぶ……)

 

 気になる僕が目を凝らすと、彼女は酢昆布を食べていた。

 もっちゃもっちゃ、と()(しゃく)し、頬を緩ませる彼女。菓子は「中野こんぶ」と言って、どこの会社が作っているとか全然知らないが、百円くらいで買える赤い箱に入った甘酸っぱい味の昆布菓子である。決してまずい物ではないが、買ってまで食べようと思う物でもない。僕にとってはそんな評価の駄菓子だが、彼女は笑みを浮かべて幸せそうに食べていた。

 本当に幸せそうだ。変な表現になるが、彼女からハートマークがぽわんと浮かび、彼女の口が「ω」の形になっている。彼女の意外な好物に僕が目を瞬かせ、併せて彼女の好物をこの頭にインプットする。

 

 そして、食べ終わった彼女が立ち上がり、再び帰路を歩き始めた。

 時刻は午後五時を回った。彼女がこれ以上寄り道することはないだろう。したがってこのまま尾けると、僕は彼女の家までストーキングしてしまう。

 彼女の家を知りたくないのか、と問われれば是非とも知りたいが、これ以上は踏み込んじゃいけない気がした。それに、よく考えると、学校ではなく帰宅中の彼女に謝ったところで事態が好転するとは思えない。いくら出会いがしらの鉢合わせを装っても彼女は「尾けてきたのか」と怪しむだろう。

 彼女の後を尾けた今までの行動は間違いだった。当たり前の過ちに気付けた僕が回れ右をする。

 

(僕も中野こんぶ買って帰るか)

 

 しかし、過ちと言えども収穫はあり、彼女の好みを知るべく財布を取り出して小銭を確かめる。

 かろうじてあった。なけなしの百円玉を握り締め、ふと思い出す。師泰に「ずっと見てね?」と訊かれ、声を張り上げて否定した僕だが、あの否定を彼女は聞いたのだろうか。

 彼女から答えは聞いていない。もしかしたら聞いてなかったのではないか。もしも聞いていなかったとしたら、いま僕が抱えている悩みはすべて()(ゆう)となる。しかし、それはそれで辛いことには代わりがない。この一週間一言も会話を果たせていない以上、それは彼女にとって僕などどうでもいい存在、ということになるのだから。

 なんにせよ尾行が見つからなくてよかった。ストーカーと呼ばれる人たちは、みな今の僕と同じように自信が持てないのだ。そう犯罪者の心情を理解した僕が、明日もう一度勇気を振り絞って彼女に話しかける決心をし、小学生以来の駄菓子屋へ足を運ぶ最中であった。

 

「……えっ」

 

 急に起きた怪異に僕は戸惑った。

 慌てて辺りを見回すと、今すれ違おうとしていたおじさんが、走行中の車が、電線から羽ばたこうとしていたスズメが止まっている。念のため僕が、止まっているおじさんに触ってみるが何の反応もなく、それで試しに押してみたが、まるで石像のように堅くてびくともしなかった。

 また時間が止まった。一週前を思い出す。確か彼女は、懐中時計のようなオブジェを取り出して時を動かした。ということは逆もできるはずだ。彼女が時を止めたのだろうか。

 後ろに振り返り、先まで尾行していた彼女を探して走り出すが、

 

――ヤクサアァイッ!

 

 天を裂くような叫び声が聞こえたために足を止めた。

 灰色の雲が広がる空を見上げる。

 

「う、うそだろ」

 

 西日が照らす曇り空から、馬の(ひづめ)、そして馬の脚が飛び出ている。

 有り得ぬ光景に目を剥く僕。間もなくして、背に翼を生やした巨大な白馬が、雲を突き抜けてその姿を現した。

 

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