YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー 作:豚煮真珠
(リンゴは、風邪の定番ね)
制服姿の巽島美月が、手に取ったリンゴを買い物かごに入れた。
美月は今、スーパーで風邪を治すための食材を選んでいる。
(陽ったら、終業式の日に風邪をひくなんて)
今日は美月が通っている中学校・
学校は午前中に終わり、美月はこれから陽の家へ出向いて看病しようとしている。部活動で料理部の部長を務め、板前の親から料理の腕を鍛え続けられている美月は、食事に対する
(食材はそろったわね。薬はあるって言ってたし、陽の家へ向かいましょう)
買い物を終えた美月が陽の家へ足を向けた。
ところが、光の戦士に予定調和はあり得ず、急な襲来が美月に降りかかる。
妖精が美月の前に現れ、美月が即座にその訳を察する。
「べーちゃん。何か出た、のね?」
「そうだベエ。ムーンライト、今すぐ時を止めて、異変を探し出して欲しいベエ」
「分かったわ」
美月が懐から銀色の懐中時計に似たオブジェを取り出した。
そして、銀色のオブジェ・ユニヴァーデンスクロックを美月が作動する。すると、エコバッグを提げたおばさんが、スーパーの前で焼き鳥を売るおじさんが、餌をくわえて空を飛ぶカラスが停止する。
周りが止まったことを確認した美月が、続いて丸い手鏡を取り出し、ふたを外して鏡に己の顔を映しながら、
「シンダーエラ、ターンイントミスティカル!」
口上を述べると、手から鏡がひとりでに離れ、レーザーに似た幾条もの光線を美月に向かって放ち始めた。
光線が美月の体に戦士としての衣装を描く。それはコンピューターが3Dモデリングを施すかのように。
間もなくして、描き終えた鏡が最後に鮮烈な光を放つ。そうして光の中から、
「希望に満ちた日々を未来に! 光の戦士ムーンライト!」
銀色の着物を羽織り、両手に大きな籠手をはめ、黒いゴーグルを付けた戦士が現れる。変身するための鏡・ハロウィンズミラーをつかんだ美月が戦士ムーンライトに変身した。
「ハァッ!」
ムーンライトが
程なくして、駅から少し離れた商店街の一区画。そこから異様で不穏な気配を察知したムーンライトが、
「あそこね!」
両腕を翼のように広げて現場へ滑空する。
空を切るように疾駆するムーンライト。そして着地するが、
(これは……)
そこで目の当たりにした惨状に思わず眉をひそめてしまう。
四人の女が、おびただしい量の血を流して倒れている。一人は顔が
今は時を止めているが、早く手当てをしないと命に関わるだろう。そして、倒れている女四人の中心では、黒い衣装の少女が背を向けて立っており、この少女こそが女四人を暴行した者で間違いないだろう。
「そこのあなた、お覚悟はよろしくて?」
ムーンライトが手のひらを上に人差し指を立て、少女に問いただした。
振り返る敵の少女。この姿にムーンライトが目を見開く。
「現れましたね、コスモス」
「あなたは、この前の」
敵の少女は、黒いゴスロリ調の衣装をまとい、舞踏会でかぶるようなアイマスクで目を覆っていた。
忘れもしない。今月初めの日曜、千殻原に突如として現れた女である。環と因縁ある少女の登場にムーンライトが息を
少女が血にまみれた両手でスカートの裾をつまみ、口角を上げて挨拶する。
「改めて自己紹介しますね。私は〝ヘイズ〟の〝イオン〟」
「…………」
「この街で暴れていれば来ると思ったんですよぉ。メテオさんの
「メテオ? あなた、メテオを知ってるの?」
少女の言にムーンライトが
メテオとは、コスモスの美月、陽、紬実佳が死闘を繰り広げた、三人にとって因縁浅からぬブラックホール団の男である。今は故人であり、この男の死は美月と陽の心に深い傷を負わせている。
「知ってるも何も、敵のあなたに、あの人の何が分かってるんですか?」
少女が訊き返し、この怒気をはらんだ詰問にムーンライトが身構える。
「いいですか? 私たちヘイズは、みんなから蔑まれ、
「……あなた」
「あなたですって? 何を気にしてるんですか? この私に同情でもしてるんですか? いいですねえ幸せな女は。人を見下せる余裕があって」
「そんなつもりは」
「そんなつもりがないなら私にかまうなぁ! あの人だけが信頼できる大人だった。私を利用し、弄ぶクズなんかとは違って……。ムカつくんだよお前らコスモスは! 幸せそうな顔して、あの人を語るなぁ!」
会話が成り立たない。情緒不安定な少女に対し、ムーンライトは何を言うのも諦めた。
メテオという男、先月、コスモスとの戦いにおいて、人の寿命を食らう力「精霊」を行使し過ぎたために命を落としている。つまり、ムーンライトが殺したわけではないのだが、彼女は自分が殺したと同義と捉えているので反論しなかった。
少女の
「なんでメテオさんは、こんな女なんかを気に入って……」
少女がムーンライトを
「分からせてやる、私のこと上から見下ろしやがって……
呪文のような言葉を唱えて掲げると、機器の液晶にあたる個所が黄金色に光り出した。
無線呼び出し。俗にいう「ポケベル」。我が日本では個人向けサービスが終了して久しい受信端末機器だが、それに似た機器が少女の手元で輝いている。
機器が少女の前に二重の丸、つまり円環を描く。円と円の間には、図形、記号、解読不能な文字がきめ細かく映写されており、それはさながら怪しげな何かを召喚する魔法円のよう。
間もなくして、円の中心から誰もが知っている甲殻生物が姿を現す。殻に覆われた二対の大きな
――ヤクサァァイッ!
「これはザリガニ、いや、ロブスターね。べーちゃん」
そばにいる妖精を呼ぶ。
「紬実佳と環を呼んで」
「分かったベエ。サンシャインは呼ばないのかベエ?」
「陽は風邪ひいてるの。頼んだわ」