YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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寿限無寿限無五劫のすりきれ大盛り特盛り激辛百倍かわいくて美人で知的な以下略

「くっ、しつこいですね!」

 

 空を()(しょう)して逃げる黒き衣装の少女だが、追いかける光の戦士トゥインクルとリングレットの二人を振り切れずにいた。

 少女とコスモス二人の飛行速度はほぼ同じ。振り切らんと飛ぶ少女に二人が離されまいと追随している。

 焦る少女。速度が同じでは延々と追い立てられる。ハンデを抱えている少女が振り切るための妙案を逃げながら思案するが、

 

「……ゴホッ! ううっ、ごほ、ごほっ」

 

 そのハンデが再発する。肺の痛みがぶり返し、反射的にせき込んでしまう。

 (せき)で押さえた少女の手のひらには、(たん)の混じった血が付着していた。胸も締め付けられるような痛みを訴えており、忍び寄る死の臭いに、逃げる少女が心の底から恐怖する。

 少女はとても若く、実のところトゥインクルやリングレットと(とし)が変わらない。したがってたった十三年で死におびえなければならない、己の弱さと運命を少女が悲観するが、その悲観は今においては雑念となる。

 

「追い付いた! たああっ!」

「があはっ!」

 

 落ち込むあまりに飛行速度が下がっていた少女の背に、追い付いたリングレットが回し蹴りを食らわせた。

 蹴りを食らって地に落ちる少女が、宙で体勢を立て直してどうにか着地するが、コスモスの二人が少女を追い詰めんと降下する。

 空から迫るコスモス二人に、少女が急いで先のポケベルに似た機器を懐から取り出し、

 

necroi(ネクロイ), echidna(エキドナ), grueling(グルウリング)... 〝水蛇座(ヒドラス)〟! あいつらを止めなさい!」

 

 機器を掲げて言葉を唱えると、解読不能な文字がきめ細かく映写された円環が描かれ、その中心から大きな口を持つ生物が現れた。

 間もなくして、円環から()い出た生物が全容を(あら)わにする。ぬめる長い胴体に、人を丸()みできるほどの大きな口、そこからチロチロと出し入れする長い舌の先は二つに割れている。

 

――ヤァクサァァイッ!

 

 巨大な水蛇が叫びを上げ、コスモス二人の前に立ちふさがり、

 

「うぐっ! ゲホッ、ゲホッ……」

 

 その隙に少女が激しくせき込みながらも逃げおおせた。

 少女は失敗していた。星座をモチーフとする精霊にはランクがあり、上位の星座ほど強い力を得られるのだが、その強さに伴ってリスクも増大する。前話で少女が呼び出した黄道の精霊・蟹座(キャンサー)は、精霊の中でも最上位にあたり、そんな上位の精霊を少女はそこまで相性が良くない身でありながら召喚した。よって命を著しく削ってしまったのであった。

 空高く飛んだ少女の後ろ姿に、リングレットが、

 

「くっ、逃げられた。……トゥインクル」

 

 (かたき)を討てずに悔しがるが、()ぐに気を取り直して傍らのトゥインクルを呼ぶ。

 

「リングレット」

「あたしたちのデビュー戦だ。一緒にこのヘビ倒そう」

 

 新たに得た大切な友達。絶対に守る、と心に誓ったリングレットが左手でトゥインクルの右手を取った。

 トゥインクルが握られた右手を握り返し、手をつないだ二人が水蛇に臨む。手を固く握り合って互いが互いを信じ合う。

 水蛇が首を伸ばして二人に襲い掛かる。

 

「〝リフレクティブサークル〟!」

 

 リングレットが右手で円を描き、淡く光る鏡のような円を形成した。

 円に頭をぶつける水蛇。リングレットが作った円に止められる。一方でリングレットが右手で円を描き続け、自らの作った円の面積を広げている。

 円が直径にして2メートルほどの大きさまで広がる。そこでリングレットが、

 

「見ててトゥインクル。あたしのサークルは、こんな使い方もできるの。はああっ!」

 

 体で円を押し、水蛇を円ごと押し込んだ。

 押される水蛇が後ろの建物と円に挟まれる。この衝撃によってか、はたまたリングレットが仕組んだか、円がガラスのように砕け散る。

 地べたへとずり落ちた水蛇にリングレットが振り返り、

 

「トゥインクル!」

 

 今こそが好機と、新たな相棒の名を呼んだ。

 

「うん! 〝トゥインクルぽんぽこパーンチ〟!」

 

 トゥインクルが右の拳に白き光をまとい、頭をもたげている水蛇を下から殴りつけた。

 技の名前に反して威力は上々だった。アッパーのような打撃に水蛇が長い胴を反らせ、水蛇特有の腹板無き腹をさらす。

 水蛇が伏せ、グロッキーな状態に陥る。これにトゥインクルが両手を突き出し、

 

「いっけぇ、〝トゥインクルブラスト〟!」

 

 必殺のまばゆい光線を放つ。

 白き光が水蛇を焼く。(けが)れし者を浄化するように。

 

――ヤクサァァイッ!

 

 水蛇が叫びを上げて消滅し、トゥインクルとリングレットの二人が、宇宙海賊の駆る精霊を難なく撃破した。

 トゥインクルは今まで苦戦することが専らだった。よって手にした快勝に目を瞬かせている。

 

「すっご。こんな簡単に勝てるなんて。ねえリングレット、私たちって、もしかしてすごく強くない?」

「当然じゃない。あたしとあんたが手を結んだのよ。1+1なのに十よ、いや百、じゃなくて無限大よ。もう無敵よムテキ、どんな相手にだって負けないんだから! がおー!」

「がおー! でも、無敵は言い過ぎじゃないかな? サンシャインとムーンライトの前でそれ言える?」

「……いえ、絶対に言えません。東京にもあんな人いなかったし」

「……ふふ」

「ふふっ」

 

 笑い合った二人。友情が育み得た勝利に互いが喜んだ。

 新たな友人、相棒を得てリングレットは幸せだった。しかし、トゥインクルが似ているために重ねてしまう。「仇をとって」。そう言われたはずなのにまんまと逃げられてしまった。

 リングレットは一生十字架を背負って生きるつもりだった。それを忘れて浮かれた軽率さを心から恥じる。そしてトゥインクルから視線を外し、死んだ友人と新たな友人に心の中で謝ると、

 

「あっ。あれ、リングレット」

 

 トゥインクルが、地面に付着した生々しい血を見つけ、新たな友人を呼んだ。

 

「この血って、今の子のかな?」

「いま時とまってるから、それしか考えられないね」

「だよね」

 

 今しがた付いたような生々しい血にリングレットが考える。

 もしかしたら。リングレットが確認のために問う。

 

「ねえトゥインクル。今の女、苦しそうにせき込んでいたよね?」

「うん。そうだったね」

「逃げるのにも、必死だったよね?」

「そうだね」

 

 トゥインクルの返事にリングレットが決心する。仇を討つのは今しかない、と。

 

「トゥインクル。お願い、力を貸して」

「えっ?」

「二十四日、一緒に東京に行こう。今の女を倒しに」

 

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