YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー 作:豚煮真珠
道路上に止まっていた車が走り始めた。
見上げるとハトが電線に留まっている。あのハトはさっきまで宙に静止していた。ハトが僅かな羽休めを経て、また空に羽ばたいて行った。
十二月の空から冷たい風が吹き、トレーナー姿の僕が身を縮める。――時が動き出した。
「おにい。そんな格好で外に出てたの? 風邪ひくよー?」
「ちょっと家の前に出てただけだよ」
家に入った僕が、玄関で鉢合わせした妹への返事をそこそこに済ませ、自分の部屋に戻った。
床の上に仰向けとなり、窓越しに空を望む。西の方から騒がしい音が聞こえた。たぶん隣町の香陵で戦いがあったのだろう、時が止まると静かだからか、
彼女もやはり戦ったのだろうか。
(うう、もやもやする……)
安心できない。早く無事な彼女を確かめたい。
今まで僕は、連れられる形で彼女の戦いを後ろから見守っていた。でも、入院する程の大ケガを負ったからだろうか、今回は連れられなかった。
自分でも分かっている、僕が足手まといであることは。だが、時が止まった空間に一人
実は今月一度もない、あのトラウマを思い出さなかった日は。彼女には言わないし表さないよう努めてはいるが、もしあのとき、陽さんと美月さんが来るのが遅かったら――、と
あの男は死んだ、もういない。だが、あの男以上の悪意を持つ者が今後あらわれないとも限らない。なにせ敵は僕の想像など
「…………」
寝転がる僕が、視線を窓から天井に向ける。そして、
「……力が、欲しい」
つぶやいてしまう。――なぜ女の子だけなんだ。どうして僕はコスモスになれないんだ。
僕はコスモス、あるいはそれに比類する力が欲しい。そうなれば僕は彼女と並び立て、彼女を守ることができる。
しかし、コスモスになりたいなど夢のまた夢だ。凡人が英雄になれるはずがない、凡人は凡人のできることをすべきだろう。
(悩んでいてもしょうがない。筋トレだ筋トレ)
立ち上がった僕が両手を頭の後ろに組んだ。
年が明けて三学期が始まったら、僕は師泰と共に柔道部に入部する予定だ。丞の話ではとてもキツいと聞いている。だから入部に備え、近頃は体を鍛えていた。
僕がスクワットを始めるべく屈伸するが、
(い、痛い……)
僕はモヤシだ。そんな僕が矢庭に体を鍛え始めた。その
(クリスマスも、いまだプレゼント用意してないし。僕はダメな男だ、情けない)
うなだれる僕。彼女が喜びそうな物と言えば中野こんぶなのだが、クリスマスに百円そこらの駄菓子はないだろう。
彼女の喜びそうな物が思い浮かばない。クリスマスはもうすぐなのに、喜ばせる自信がなくて未だ彼女の予定を
しかし、訊いておかなければ。年に一度の一大イベント、プレゼントは決まってなくとも彼女と過ごしたい。
(電話しよう、クリスマスのことも含めて)
僕がケータイを手に取る。すると先にケータイの方が震えだした。
ディスプレイに映った発信者は彼女。僕が急いで通話ボタンを押し、ケータイを耳にあてる。
「もしもし、鈴鬼くん?」
「うん。庚渡さん、時とまったけど、ぶ、無事かい?」
「イエス!」
元気な彼女の返事に僕が
「よかった……」
「ごめんね、心配かけちゃって。美月さんが大ピンチだってべーちゃんが言うから、呼んでる暇なくて」
「そうだったんだ。まあ、何もなくてよかったよ」
「…………」
「……庚渡さん?」
「えっと、鈴鬼くん。クリスマスの日、予定ある?」
「えっ、クリスマス?」
僕から誘おうと思っていた。彼女からの誘いに僕が面を食らう。
慌てながらも返事する。女の子から言わせるなんてやっぱり情けない。
「ないない。ある訳ないよ」
「よかったぁ。鈴鬼くん、クリスマスの日、東京行かない?」
「と、とうきょうって、あの東京?」
「イエス!」
どうして東京。驚いた僕だけど、もちろん了承した。