YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

54 / 143
じれったい! 本当は臆病わかってほしい

 道路上に止まっていた車が走り始めた。

 見上げるとハトが電線に留まっている。あのハトはさっきまで宙に静止していた。ハトが僅かな羽休めを経て、また空に羽ばたいて行った。

 十二月の空から冷たい風が吹き、トレーナー姿の僕が身を縮める。――時が動き出した。

 

「おにい。そんな格好で外に出てたの? 風邪ひくよー?」

「ちょっと家の前に出てただけだよ」

 

 家に入った僕が、玄関で鉢合わせした妹への返事をそこそこに済ませ、自分の部屋に戻った。

 床の上に仰向けとなり、窓越しに空を望む。西の方から騒がしい音が聞こえた。たぶん隣町の香陵で戦いがあったのだろう、時が止まると静かだからか、()(さい)な音も聞こえてしまう。

 彼女もやはり戦ったのだろうか。

 

(うう、もやもやする……)

 

 安心できない。早く無事な彼女を確かめたい。

 今まで僕は、連れられる形で彼女の戦いを後ろから見守っていた。でも、入院する程の大ケガを負ったからだろうか、今回は連れられなかった。

 自分でも分かっている、僕が足手まといであることは。だが、時が止まった空間に一人(たたず)んでいると、コスモスの彼女と凡人な僕との隔たりを否応なしに感じてしまう。そして、(みじ)めで悔しくて泣いてしまった、あの千殻原での出来事を思い出してしまう。

 実は今月一度もない、あのトラウマを思い出さなかった日は。彼女には言わないし表さないよう努めてはいるが、もしあのとき、陽さんと美月さんが来るのが遅かったら――、と(いま)だ想像してはぞっとし、悲しくなってしまう。

 あの男は死んだ、もういない。だが、あの男以上の悪意を持つ者が今後あらわれないとも限らない。なにせ敵は僕の想像など(はる)かに超える宇宙海賊だ。だから彼女にはコスモスを降りて欲しいが、今は坎原さんという友達がいる。

 

「…………」

 

 寝転がる僕が、視線を窓から天井に向ける。そして、

 

「……力が、欲しい」

 

 つぶやいてしまう。――なぜ女の子だけなんだ。どうして僕はコスモスになれないんだ。

 僕はコスモス、あるいはそれに比類する力が欲しい。そうなれば僕は彼女と並び立て、彼女を守ることができる。

 しかし、コスモスになりたいなど夢のまた夢だ。凡人が英雄になれるはずがない、凡人は凡人のできることをすべきだろう。

 

(悩んでいてもしょうがない。筋トレだ筋トレ)

 

 立ち上がった僕が両手を頭の後ろに組んだ。

 年が明けて三学期が始まったら、僕は師泰と共に柔道部に入部する予定だ。丞の話ではとてもキツいと聞いている。だから入部に備え、近頃は体を鍛えていた。

 僕がスクワットを始めるべく屈伸するが、

 

(い、痛い……)

 

 (もも)(しん)が悲鳴を上げ、立ち上がれず無様に尻をついた。

 僕はモヤシだ。そんな僕が矢庭に体を鍛え始めた。その所為(せい)で今日は全身筋肉痛であり、今日は二学期の終業式だったのだが、僕は痛む体をひきずってどうにか登校していた。

 

(クリスマスも、いまだプレゼント用意してないし。僕はダメな男だ、情けない)

 

 うなだれる僕。彼女が喜びそうな物と言えば中野こんぶなのだが、クリスマスに百円そこらの駄菓子はないだろう。

 彼女の喜びそうな物が思い浮かばない。クリスマスはもうすぐなのに、喜ばせる自信がなくて未だ彼女の予定を()いていなかった。

 しかし、訊いておかなければ。年に一度の一大イベント、プレゼントは決まってなくとも彼女と過ごしたい。

 

(電話しよう、クリスマスのことも含めて)

 

 僕がケータイを手に取る。すると先にケータイの方が震えだした。

 ディスプレイに映った発信者は彼女。僕が急いで通話ボタンを押し、ケータイを耳にあてる。

 

「もしもし、鈴鬼くん?」

「うん。庚渡さん、時とまったけど、ぶ、無事かい?」

「イエス!」

 

 元気な彼女の返事に僕が(あん)()の息をもらした。

 

「よかった……」

「ごめんね、心配かけちゃって。美月さんが大ピンチだってべーちゃんが言うから、呼んでる暇なくて」

「そうだったんだ。まあ、何もなくてよかったよ」

「…………」

「……庚渡さん?」

「えっと、鈴鬼くん。クリスマスの日、予定ある?」

「えっ、クリスマス?」

 

 僕から誘おうと思っていた。彼女からの誘いに僕が面を食らう。

 慌てながらも返事する。女の子から言わせるなんてやっぱり情けない。

 

「ないない。ある訳ないよ」

「よかったぁ。鈴鬼くん、クリスマスの日、東京行かない?」

「と、とうきょうって、あの東京?」

「イエス!」

 

 どうして東京。驚いた僕だけど、もちろん了承した。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。