YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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いざ出発! 満艦飾のメトロポリス・東京へ

 僕の名前は(すず)()()()(ろう)明倫(めいりん)中学校に通う中学一年の男である。

 無味無臭。友人にそう言われる程パッとしない。趣味なんて言えるものは特になく、強いて挙げるならゲーム、だろうか。

 自分を上中下の更に上中下で表すと、勉強は中の下くらいだった。最近は勉強をしているおかげか、中の中くらいには成り上がったかな、と思っている。でも、運動は下の中、おまけに背はクラスの男で前から並べば二番目に低い。

 僕は、取り柄らしい取り柄など皆無な人間だ。人は何かになれる、なんて何かのキャッチフレーズで聞いた覚えがあるけどなれる気がしない。きっとこの先も平々凡々な人生を送り、他人に迷惑をかけないよう慎ましく生きるのだ、と思っていたけれど――。

 

 本日は十二月二十四日。誰もが知るクリスマス・イブである。

 例年なら家族ないし友人と過ごしていた。僕には縁のない日と思っていた。だが今日、僕は東京へ行き、大好きな女の子と一緒に過ごす。人生って何があるか分からない、こんな夢が現実となって訪れるなんて思ってなく、昨夜は中々寝付けなかった。

 胸が否応なしに高鳴る午前十時前、僕が荷物を抱えて駅前に到着する。新幹線が発車する時刻の二十分前、彼女が指定した待ち合わせ場所の駅前に立つコンビニ。

 

「坎原さん」

「おはよ」

 

 コンビニの前では、クラスメートにして東京からの転校生、坎原環さんが待っていた。

 パッチリとした目、形の良い唇は冬というのに潤っており、右に結わえたサイドテールが似合っている。相変わらず漫画に現れる美少女みたいに華のある子だ。

 断っておくが、坎原さんは僕の好きな子とは違う。僕が好きな子の親友にして本日のスポンサーである。

 

「早いね、坎原さん」

「まあね。っていうか、鈴鬼くんまでは呼んでなかったんだけど」

「ハハ。ごめん、僕も昨夜(ゆうべ)きいて驚いたんだ」

 

 息をついた坎原さんの言に、僕は苦笑いを浮かべて謝るしかできなかった。

 新幹線は言うまでもなく高額だ。中学一年生の僕および彼女がその運賃を出せるわけがない。そんな金があるなら鈍行を使って節約し、違うことに使うべきであろう。

 決して裕福とは言えない家庭で養われている身。物価が上がるようになって久しいこの頃だが、かと言って小遣いは上がらない僕らの懐事情は厳しくなる一方だ。だが、そんな僕と彼女に出資者が現れた。先に坎原さんをスポンサーと述べたが、これは真の表現である。なんと坎原さんが僕と彼女の新幹線代を捻出してくれるのだ。

 頭が上がらない。親友の彼女はいざ知らず、僕はただのクラスメートだ。だから坎原さんにどれだけ嫌味を言われようとも、黙って聞き入れるしかないのである。

 

「席を予約するの大変だったんだから、まったく」

「ほんとごめん」

「はい、これ切符ね。失くさないように。鈴鬼くんなら心配いらないと思うけど」

「ありがとう」

 

 一昨日、僕は彼女に「クリスマスの日に東京行かない?」と誘われて了承した。だが、なぜ東京なのか。その訳を昨日彼女に尋ねると、彼女は「たまちゃんに誘われたから」と答えた。つまり、坎原さんは元々彼女だけを誘ったのだ。

 時系列的に整理すると、まず坎原さんが彼女を誘い、そのあと彼女は、坎原さんに無断で僕を誘った。つまり、僕のことなど坎原さんにとっては寝耳に水であり、僕もこの経緯を聞いたときは驚いて「大丈夫か」と心配した。

 彼女は坎原さんに後付けで了承を得たらしい。しかも、旅費を受け持つ条件まで付けて。いやはや、いくら親友とは言え厚かましいだろう。そしてそれを心得る坎原さんも坎原さんだ。

 

「坎原さんって、良い人だね」

「ふふっ。そんなこと、あるでござる」

「なんでそこだけ侍なのさ」

「ま、君にはめっちゃ迷惑かけてるから、これで許してね」

「あ、ああ。気にしてないからいいって」

 

 坎原さんに言われて思い出した。僕は今月初め、入院したのだった。

 確かに原因の発端を作ったのは坎原さんだった。でも、僕に大怪我(けが)を負わせた悪い(やつ)は別なので気にしていない。

 

「でも遊びに行くんじゃないから間違えないでね? あたしと紬実佳は戦いに行くんだから」

「うん、分かってるよ。僕も陰ながら応援させてもらうよ」

「分かってるならいいけど。紬実佳がいるから心配なんだよね」

「まるで保護者だね」

「あの子一人で東京歩けると思う? キラやば~☆って、目をシイタケにさせてあっちへふらふらこっちへふらふらするだろうし」

「ハハ。あのさ、坎原さんの家って、あの〝シークライアントコーポレイト〟なんだってね」

「ちょっと、鈴鬼くん。それ、紬実佳から聞いたのー?」

「う、うん。まずかった?」

「あまり知られたくないんだよね、家がみんな知ってる会社とか。ねえ鈴鬼くん、絶対にいいふらさないでよ」

「うん、分かった」

 

 クラスメートにして東京からの転校生、坎原さん。彼女からの話になるが、家が財閥レベルの会社を経営しているお嬢様である。

 会社の名前は「シークライアントコーポレイト」。全国に店舗を構える小売店「FOR(フォー) CLIENT(クライアント)」を統括し、家具、雑貨、衣料、食品などの幅広い商品を、決して高くない値で良品を売ることから人々に支持されている大企業だ。そんな会社だから(もう)かっているようで、最近プロ野球球団を買収し、お茶の間をあっと(にぎ)わせている。

 隣町の(こう)(りょう)市にも店があり、坎原さんはそのシークライアントコーポレイトに務める重役の子らしい。社長とは近縁で(めい)っ子なのだそうだ。そして、彼女いわく、毎月の小遣いがとんでもない額らしい。ゼロが二つ違うと彼女は言っていた。だから彼女と僕のスポンサーになれるのであり、いやはや、とんでもない子とクラスメートになったものである。

 

「先生にも口封じさせてるし。っていうか、家がお金あるって知られると変な人が寄ってくるんだよね」

「そうなるよね」

「お金があったらあったで大変なんだよ? 脅迫状が送られてきたりとか、電話で〝娘は預かった、返して欲しくば一千万ここに振り込め~〟なんて娘のあたしが電話に出てるのに言ってきたりとか」

「ええっ、そんなことが」

「あるんやでージッサイ」

「だからなんでそこだけ関西弁なのさ」

「ま、鈴鬼くんからしたら嫌味にしか聞こえないだろうけど。っていうか鈴鬼くん、紬実佳、遅くない?」

「えっ」

 

 僕が駅前に掲げられている時計を見る。すると、新幹線発車時刻五分前だった。

 これはまずい。のんびりと構えていた僕だったが、五分前であることを知り、新幹線の運賃もあって焦りを覚え始める。もし乗り遅れたらどうなるのだろう、切符が無駄になるのだろうか。

 

「紬実佳ったら、一体なにやってんの」

 

 坎原さんがそわそわし始めると、

 

「鈴鬼くーん、たまちゃーん」

 

 キャリーバッグをガラガラと()く彼女が走りながら現れた。

 庚渡紬実佳さん。コスモスという世界を守る光の戦士で、小さくて愛らしく、彼女が変身して宇宙海賊と戦っている秘密を僕だけが知っている。今の眼鏡をしている姿も可愛いが、眼鏡を外すと更に可愛い、僕が大好きな女の子だ。

 彼女と坎原さんは光の戦士である。今日、宇宙海賊を倒しに東京へ向かう。

 

「ひぃ、ひぃ……」

「なにやってるのよ紬実佳! 昨日あれだけ早く寝なさいって言ったのに」

「だってぇ。寝れるわけないよー」

「言い訳はいいわけ。もう一回言うよ、言い訳はいいワケ結果を出して! 疲れてる暇ないよ、新幹線あと五分しかない! 鈴鬼くんキャリーバッグ持ってあげて!」

「うん! 急ごう庚渡さん!」

「ああっ、二人とも待ってぇ~。中野こんぶ買いたいの~」

 

 僕と彼女と坎原さんが、詰めかけるようにして新幹線に乗り込んだ。

 

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