YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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限界突「波」は魚の印? アゲたてフレッシュなんとかなるなる

 新幹線を降車した僕たちは、レストランで昼食を済ませてからエスカレーターに乗った。

 長いエスカレーターを経て、一・二番線ホームへと躍り出る。それからオレンジラインの電車を乗ること十数分、副都心・信宿に到着した。

 東京の駅はとてつもなく広かったが、坎原さんの先導で迷うことはなかった。

 

「わぁ、すごいひとー。鈴鬼くん、今日ってお祭りとかじゃないよね?」

「クリスマスイブだから、祭りと言えば祭りかもしれないけど」

「すごいねー、東京って。うちの方の祭りより人いるんじゃない?」

「うん。さすがは東京だね」

 

 予想はしていたがこれ程までとは。目の前にしたあふれんばかりの人に、僕と彼女は圧倒されつつも感嘆していた。

 今いる場所は信宿駅南口。度々ニュースで中継される、()染みがあるようで全くない場所だ。横断歩道の向こうに見える大きな建物の屋上はバスターミナルになっているらしい。

 それにしても、東京という所は不思議である。人の多さに反し、皆が左側通行を守っており、僕も彼女もそれを守ってしまっている。この規則は守らなければ多くの人が奇異の目を振り向けるだろう。都心が匂わせる暗黙の了解と言うべきルールに、田舎者の僕は驚いている。

 

「ふふーん。どう? いい経験になるでしょ?」

 

 東京育ちの坎原さんが、誇らしげに鼻を膨らませ、

 

「はっぷっぷー。どーせいなかっぺですよー」

 

 そんな坎原さんに彼女が口をとがらせたため、僕は苦笑した。

 彼女が何気なしに丸眼鏡を外す。すると、

 

「オー、ベリィキュート!」

「えっ?」

「あたし?」

「イエス! プリティアンドキュアキュアー。オーイエー」

 

 キャップをかぶった観光客らしき白人の女性に、彼女と坎原さんが褒められた。

 あたふたする彼女に、「サンキュー」とにこやかに返す坎原さん。地元で外国人と接するなんて(まれ)である。大都市東京のいきなりな挨拶に僕が目を瞬かせる。

 女性が陽気な笑顔を浮かべ、連れの白人男性と共に手を振って去る。余談になるが、白人男性のかぶるニット帽には「大丈夫」と()(しゅう)されていた。まあ、これはいい。問題は女性のかぶるキャップの方で、キャップの正面には達筆な文字で「限界突〝波〟」と、なぜか魚の絵文字と共にペイントされていた。

 間違えを狙っているのか分かっていないのか。どうでもいいことだが気になってしまう。

 

「はぁ、ドキドキした。外国の人に話しかけられるなんて」

「よかったね紬実佳、キュートって言ってたよ。まあ、あたしはカワイイから仕方ないことなんだけどー」

「どこからくるのその自信」

「あたしのこと、女王って呼んでぇ」

「…………」

「リアクション薄くない?」

「たまちゃんの話に付いていけないの」

「なによー、ちゃんと付いてきなさいよ。それじゃ、あたしちょっと実家に行ってくるから、それまで二人はぶらぶらと観光してて」

「うん、分かった」

「また後で電話するから。鈴鬼くん、紬実佳を変な所に連れて行かないでよ」

「分かってるよ。また後で」

 

 彼女と僕が手を振り、坎原さんと一旦別れた。

 実家に帰る坎原さん。「火倶羅(かぐら)(ざか)」という場所にあり、地下鉄で行けば()ぐらしい。

 坎原さんは大企業のお嬢様である。その実家は、家の周りに監視カメラが十重二十重に張り巡らされ、ドーベルマンを飼っているような怖い意味で近付いてはいけない邸宅なのだろうか。それとも、手入れが行き届いた優雅な中庭があり、そこで執事にかしずかれながらお茶を楽しむような家なのだろうか。――なんて、大富豪の生活を知らない僕が貧困極まりないステレオタイプな想像をしてしまう。

 彼女は新幹線の車内で、実家に「一緒に行こうか?」と坎原さんに尋ねているが、これを坎原さんは断った。僕と彼女を二人きりにしてくれたのだろう。旅費のことといい、感謝せねばなるまい。

 

「さて、庚渡さん。行ってみたいところある?」

 

 彼女に()いた僕だが、今日という日のために信宿という町を予習した。

 マップは頭に(たた)き込んである。都庁を見て回るなら西口に移動すればいい。御苑(ぎょえん)に行くのならばイエローラインの電車に乗って二駅、どんな場所でもどんと来いだ。足を延ばしてオシャレの街・(はら)宿(じゅく)に行ってみるのもいいかもしれない。

 だが、彼女は僕の予想から大きく外れるとんでもない所を希望した。それは、坎原さんが言うところの最も変な場所。

 

「鈴鬼くん。私、傾奇町行ってみたい」

「は? かぶき町?」

 

 僕が思わず語尾を上げて訊き返してしまった。

 信宿区傾奇町。東口を出て真っ直ぐ進み、大通りを二つ横断した所にある日本最大の歓楽街である。信宿を語る上でとても重要なスポットであり、地元では見られない店や物が山ほどあるだろう。

 しかし、最大の歓楽街なだけあって多種多様な人が集まる街だ。普通の人ではない変わった人、オラオラした人たちや怪しい外国人が集う街でもある。そうでなくとも僕たち中学生には目に毒な店が存在する。僕や彼女のような子供が行く場所はない。

 

「なんで傾奇町に?」

 

 訳を僕が尋ねると、

 

「えっとね、鈴鬼くん、〝クニオが(ごと)く〟ってゲーム知ってる?」

「え、ゲーム? うん、師泰(もろやす)が遊んでるところ、隣で見てたことあるけど」

()(とう)くんも遊んでたんだ。私もお兄ちゃんがそのゲーム遊んでるの見てたことがあって、そのゲームの舞台が傾奇町なの」

「で、行ってみたいって思ったの?」

「うん。とっても楽しそうだったんだもん。もし信宿に行くことがあったら、行ってみたいってずっと思ってたんだ」

 

 彼女が目を輝かせ、とあるアクションゲームへの思い入れを語った。

 クニオが如く。刑務所帰りの仁義に厚い主人公「()(りゅう)クニオ」が、百億をめぐった事件に巻き込まれる、ロールプレイング要素を組み合わせたバイオレンスアクションゲームである。

 僕はプレイしたことはない。小学校以来の友人・()(とう)師泰(もろやす)が一時期はまっており、それに現れるキャラクターの影響で僕のことを「コシローちゃ~ん」なんて高い声で呼んでいた。そんな師泰のことはさておき、このゲームの舞台は傾奇町であり、ガラの悪いチンピラ達、これはRPGゲームで言うところの経験値や金を稼ぐためのザコキャラなのだが、このチンピラ達が直ぐ主人公にからんで戦いを挑むところが印象強かった。

 ザコキャラはどいつもこいつも人相悪くモデリングされていた。それが原因で僕の中では傾奇町は恐ろしい所という先入観が刷り込まれている。

 

「ワクワクもんだぁ。さあ鈴鬼くん、傾奇町にレッツゴー、ゴー、ごぅー」

「ダメだよ、変な(やつ)にからまれたらどうするんだよ」

「なんとかなるなる~。いざとなったらユニヴァーデンスクロックで時とめちゃえばいいし」

 

 確かに彼女には時を止める装置があれば、光の戦士に変身できる手鏡もある。宇宙海賊が現れない限り大丈夫だろう。しかし、繰り返すが子供が物見遊山で行く町ではない。坎原さんが知ったら間違いなく怒るだろう。

 だが、彼女が「目をシイタケ」にさせている。まあ、今は昼間である。取り越し苦労であり、良い経験になるのかもしれない

 また、僕には重大な使命がある。いまだ彼女へのクリスマスプレゼントを決めていないのだ。傾奇町なら珍しい物がたくさんあるだろう。彼女を喜ばせるプレゼントがあるかもしれない。

 虎穴に入らずんば虎子を得ず、とも言う。僕が変な所に足を踏み入れないことを念頭に置きつつ、彼女と共に傾奇町へ足を向けた。

 

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