YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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人々を救え! インディアン・パニック

「あはっ、やっぱりこの前の女だ」

「え、え、なんで」

「あははっ、気付いてないと思ってたんですかー? 傾奇町は私のテリトリーですよ? にしてもまさかまさか、そっちからやって来るなんて」

 

 黒いゴスロリ調の衣装をまとう女の子に、彼女が戸惑っていた。

 あざ笑う女の子。その顔はあどけなさを残しており、背丈は僕とあまり変わらない。この子が坎原さんの友達を殺したという子なのか。外見からはそのように感じられないが、代わりにどこか近寄りたくない嫌らしさを漂わせており、そんな印象に僕が一歩下がる。

 

「なんで。さっきまで、あの人だかりの方にいたのに」

 

 困惑する彼女は、先程まで人だかりの方を見つめていた。

 人だかりは100メートルくらい離れている。つまり彼女は、いま目の前にいる子が先程まで100メートル離れた場所にいたにも関わらず、ほんの僅かの間で目の前に現れたことに驚いているのだ。

 直線距離を全力で走れば近付くことは可能だろう。だが、それなら彼女か僕が気付いている。女の子はどのようにして気付かれず接近したのか、その手段が分からないので彼女は戸惑っている。

 

「改めて初めまして。私はヘイズのイオン。この前の借り、倍にして返してあげますよ」

 

 黒いスカートの裾をつまんで挨拶した女の子。この不気味な余裕に彼女が後ずさった。

 続けて女の子が僕を指す。悪魔に目を付けられたようで僕まで後ずさってしまう。

 

「その男の子、もしかしてデートしてたんですかー?」

「あなたには、関係ないでしょ」

「いいですねえー、男の子とデートとか、羨まし過ぎて胸クソ悪くなりますよぉ。同じ年頃の男の子と遊ぶなんて夢のまた夢ですから。ま、それはともかくあなた、時を止めて変身しないんですかぁ?」

「…………」

「早く時とめた方がいいですよ。でないと、手遅れになっちゃいますよぉ」

「ううっ」

 

 バカにした口調の女の子に、彼女が苦虫を()み潰したような顔を浮かべる。

 引きずり込まれるわけにはいかない、相手が主導権を握ろうとしているのは火を見るより明らかだ。

 

「庚渡さん、待つんだ。こんな挑発にのっちゃだめだ」

 

 坎原さんを待って二対一で挑むべき。だから僕が引きとめたが、僕の制止では止められなかった。

 敵が強硬な手段を講じる。女の子が懐からある物を取り出し、それをおもむろに見せつける。

 取り出した物は黒のアイマスク。舞踏会でかぶるような目を覆う不気味な仮面。

 

「止めないんですか? じゃ、止めるようにしてあげますよー」

 

 アイマスクを女の子が笑いながら付ける。すると、霧と言うにはあまりにも濃い、まるで影のようなドス黒い気が、女の子から湧き上がるように染み始めるのを僕は目の当たりにした。

 信じられない。恐ろしく異様で禍々(まがまが)しい気が、女の子を取り巻くようにして次から次にあふれている。例えるなら人肉すらも貪り尽くす、痩せて飢えた餓鬼のような気が。

 僕が恐怖する。この子は本当に宇宙海賊で、坎原さんの友達を殺している――。そう(おのの)く僕を(しり)()に女の子が懐から小さな機器を取り出し、彼女が気色ばむ。

 

「まさか、こんな街中で精霊を」

「うふふっ。だから手遅れになるって言ったじゃないですか。もう知りませんよー。necroi(ネクロイ), runaway(ラナウェイ), wilderness(ワイダネス)... 現れなさい〝米蕃座(インドゥス)〟!」

 

 女の子がかざす機器が鮮烈な光を放った。

 光が円を描き、ファンタジーの世界さながらな魔法円が宙に現れる。だが、それに神秘的な雰囲気は一切感じない。むしろ悪魔を呼び出すようなおぞましさだけを感じる。

 不吉な魔法円の登場に僕が息を()む。間もなくして円の中心から、

 

――ヤクゥサァイ!

 

「えっ!?」

「バ、バイク!?」

 

 現れた物体に彼女と僕が仰天する。国産ではない、地平線まで続く道を駆けるような大型のヴィンテージバイクが姿を現した。

 バイクの座席に飛び乗った女の子が、直立して彼女を見下し、その周りでは、

 

「おい、なんだあれ?」

「何かの撮影? イベント?」

「迷惑系ユアチューバー?」

 

 にわかに現れた大型のバイクに見物人が驚いている。

 どよめく周囲。ある人は突然現れたバイクに戸惑い、またある人は今にも走り出しそうな気筒音に恐れている。中には大型バイクに目を輝かせて快哉(かいさい)を叫んでいる人も少数いるが、そんな人々を一緒くたにして見回した女の子が、口元を(たの)しそうにゆがめる。

 

「邪魔ですねこのゴミども。インドゥス、まずはここにいるゴミをすり潰してやりましょう」

「ヤクサァァイッ!」

 

 けたたましいアクセル音が咆哮(ほうこう)し、バイクが座席に立つ女の子を乗せたまま急発進した。

 

「お、おいっ! バイクが向かって来るぞ!?」

「来るなあっ、来るんじゃねえ! うっ、うわあああっ!」

「キャアアアッ!」

「いや、やめてえっ! イヤアアアッ!」

 

 走り出したバイクに周囲の人達が恐怖に駆られ、怒号と悲鳴が飛び交った。

 一斉に逃げ始めた無関係の人々を、暴走するバイクがためらうことなく()いている。逃げ遅れた男性が吹き飛ばされ、倒れた女性がタイヤに踏み潰される。そしてバイクの無軌道な暴走に、人々が押し退()けるようにして逃げ惑い、ドミノ倒しを引き起こしてしまう。

 ここは日本最大の繁華街、そんな街中に突如として阿鼻(あび)(きょう)(かん)の恐慌が発生した。だが、バイクの上に立つ女の子だけがまるでサーフィンを楽しむかのように笑っており、その邪悪さに彼女が「あの子すっごく悪い子」と言ったことを僕が思い返す。

 逃げる老人が後ろから追突を食らい、壁に頭をぶつけて血を流す。目を疑う悪夢の光景に僕が眩暈(めまい)を覚えるが、気をしっかりと強く保って彼女に振り返る。

 

「庚渡さん!」

「うん!」

 

 止めるしかない。彼女が懐から時計に似た銀色のオブジェを取り出し、それを作動させた。

 時間が止まる。続いて彼女が眼鏡を外して手鏡を取り出す。

 

「シンダーエラ、ターンイントラヴァーズ!」

 

 鏡の放つ光に彼女が包まれる。

 

「愛にあふれる日々を未来に! 光の戦士トゥインクルスター!」

 

 彼女が一瞬のうちに変身を済ませ、光の戦士と化した。

 時が止まったことに気付いたのか、バイクがタイヤの擦れる激しい音を響かせて急ターンし、そのヘッドランプを構える彼女に向ける。

 ゴムの焼ける臭いが漂い、気筒音が鳴っている。座席に立つ女の子が命じる。

 

「インドゥス、あの女を轢き殺せ!」

 

 大型バイクが発進した。この突撃する前輪に対して彼女が半身に構えてかわし、すかさずバイクのハンドルを両手で前から捕まえた。

 彼女が前から捕まえたことで止まるバイク。エンジンを(うな)らせて彼女を押そうとするが、これを彼女が負けじと押し返す。

 程なくして彼女が、ハンドルを握る右手を逆手に握り返す。

 

「うああああっ!」

 

 叫ぶ彼女が仰け反り、大型バイクを持ち上げた。

 ものすごい光景だ。500キロは悠にあろうかと思われる大型バイクが、小さな彼女によって宙に浮いている。この小さな体のどこにこんな力があるのか、と後ろで見守っている僕が改めて彼女に感心する。

 バイクがアクセル音を響かせるが、その後輪は空を回る。そして、

 

「だりゃああっ!」

 

 彼女がうっちゃるようにしてバイクをブン投げた。

 バイクが路面に(たた)きつけられ、この横に寝た姿に彼女が両手を突き出す。手に集まる光が何も映さない白き塊へと変わる。

 

「いっけぇ! 〝トゥインクルブラスト!〟」

「ヤッ、ヤクサァァイッ!」

 

 彼女の放つ光を浴びたバイクが断末魔を上げて消滅した。

 彼女が無事で僕が一息つく。だが、彼女は構え続けており、そんな彼女に拍手が贈られる。

 拍手の送り主は、一足早くバイクから降りていた女の子。人々にあれだけの危害を加えておきながら、何ら悪びれることなく笑っている。

 

「あははっ。インドゥスを事もなげに消すなんて、弱そうに見えてやるじゃないですかー」

「このっ。なにぬけぬけと」

「でも、あなたはもうおしまいです。この私が直々にコロしてあげますよ」

 

 構える彼女の()ぐ後ろ、急に物陰から現れた子に、

 

(えっ!?)

 

 後ろで見ていた僕が(きょう)(がく)した。

 見間違いか。いや、間違えではない。彼女の前に立つ黒衣装の女の子。それとまったく同じ姿をした子が、急に物陰から現れたのだ。

 

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