YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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雄蕊と雌蕊 幼き頃は理解できなくて笑うだけだったこの隠語が成長につれて恐ろしい

「えっ、なにこの子!?」

 

 物陰から現れた黒い衣装の女の子が、彼女を後ろから羽交い絞めにし、これに彼女が目を大きく開いて驚いた。

 すかさず前に振り返る彼女。僕も信じられなかった、同じ黒い衣装を着て同じ顔をした女の子が、前と後ろに二人いるのだから。

 動揺を隠せない彼女に、前に立つ女の子が口角を上げる。

 

「うふふっ。この私が実は二人いるなんて、お(しゃ)()様でも気付かないですよね?」

 

 羽交い絞めから逃れられない彼女が正面の子に()く。

 

「あなたって、双子だったの?」

「双子? 惜しいですねー。〝増殖(マルチプライス)〟」

「……えっ!?」

 

 女の子が指を鳴らし、その結果に僕と彼女は(きょう)(がく)した。

 彼女の左に一つ、右に二つ、ドス黒いヘドロが生まれ、計三つのヘドロがそれぞれ人の上半身を形作っている。このヘドロはやがてそれぞれが腰、続いて脚を形成し、人へと生まれ変わり、そして完成した姿はなんと黒衣装の女の子と全く同じだった。

 彼女を捕らえる一人と前に立つ一人、そして左の一人と右の二人。全く同じ姿形をした黒衣装の宇宙海賊五人が彼女を取り囲んでいる。その五人のうち前に立つ一人の胸が黄金色に輝いている。

 

「私は黄道の精霊・〝双子座(ジェミニ)〟をこの体に宿しているんですよ。私のジェミニは自分のコピーをいくらでも増やすことができるんです」

「なっ。だからさっき、突然目の前に現れたのね。元々二人いたから」

「ふふっ。ま、普段は自分を見ているようで気持ち悪いから顔をマネキンにしてたんですけどー。……ではあなた、まずはその腕から使えなくしてあげますよ」

「あっ、ううっ、あああっ!」

 

 右の一人に腕をつかまれた彼女が、その腕を後ろに回された。

 僕の耳を貫く彼女の悲鳴。――やめろ。僕の好きな子を傷付けるな。

 

「庚渡さん!」

「だめ! 鈴鬼くん、来ちゃ、だめ……」

「でもっ」

「来ないで。私は、だいじょうぶ、だから……」

 

 居ても立ってもいられない僕が駆け寄ろうとしたが、彼女が拒否したために足を止めた。

 そして、彼女は正しかった。彼女を呼んでしまった僕の浅はかな行動が、この後に最大のピンチを招き寄せてしまう。

 痛みをこらえる彼女の向こうから、僕が悪寒の走る視線を感じ、その気配に振り向くと女の子が目を光らせている。

 見渡すと、黒衣装の五人全員が僕を凝視している。悪魔に見つめられているようで僕がヘビに(にら)まれたカエルのごとく身を(こわ)()らせてしまう。

 

「おっかしいですねー? 時とまってるはずなのに、どうして男が動いているんですかー?」

 

 彼女の前に立つ女の子が、僕に歩み寄りながら指を鳴らした。

 後ずさりする僕。だが、僕の背後に二つのヘドロが現れ、それが僕の体に絡み付く。そしてヘドロが二人の女の子に変化する。

 二人に両腕をつかまれた僕が振りほどくべく力を込めるが、まるで縛り付けられたように腕を動かすこと敵わない。そんな(はりつけ)のごとく捕らわれた僕の前に、歩み寄る女の子が立ち、僕の顔や体をじろじろと値踏みするように眺める。

 

「ふーん。あなた、良い趣味してますねー。この男の子、よく見たらカワイイじゃないですかー」

 

 女の子が後ろの彼女に振り向いて言った。

 そして僕に向き、(あや)しい笑みを浮かべる女の子。可愛いなどとバカにされたこと、彼女を助けられないことに僕が悔しさを覚えるが、屈辱は終わらなかった。

 笑う女の子がその仮面をかぶった顔を、僕の顔にずいっと近付け、これに僕が驚いて顎を引く。――あと少しで唇が触れるところだった。突然でうろたえる僕に、女の子がにんまりと笑って僕の頬を()で始める。

 

「うふふっ。名前はなんて言うんですか?」

「…………」

「教えてくださいよ。……ねえ、私みたいな女どう思いますか? 私、十三歳なんですけど、(とし)の割には胸があるんですよ」

「何を言っているんだ。彼女を、放してくれ」

「へえー。あなた自分の立場わかってるんですかー? 私の機嫌を損ねたら終わりなんですよ?」

「分かってるよ。それでも」

「へえー。いいじゃないですか、すごくカッコいい。こんな時でも女のこと気に掛けるなんて中々できることではありません。私、ますます気に入っちゃいました。こんな形じゃなく、もっともっと前に知り合いたかったです」

「……?」

「うふふっ、決めました。あなたセックスしたことないですよね?」

「……は?」

「私が教えてあげますよ。今、この場で」

 

 女の子が信じられないことを吐いた。

 何を言っているんだこの子は。まったく意味が分からない。だが、そんな僕の動揺など構いなしに女の子がスカートをたくし上げる。

 目を()らした僕。けれど恥ずかしがっていられる状況ではないため、おそるおそる視線を戻すと、女の子は既に下着を下ろしており、脱いだ下着をこれ見よがしに見せてから放り捨てる。

 

「ふふっ。目を逸らすなんて、本当にカワイイ」

「ううっ」

「見たくないですか? このスカートの中。女のココがどうなってるか、これからじっくりと見せてあげますよ」

 

 男からすれば喜ぶべき状況なのかもしれない。だが、まったく喜べなかった。

 女の子はまさに悪魔だ、人を奈落の底へと引きずり込むような。そんな悪魔に誘惑されても恐怖しか感じない。千殻原(せんごくばら)の男とは別の意味で目の前の子が恐ろしい。

 何よりも僕が好きなのは彼女だ。悪魔の誘惑に屈することは彼女を裏切るに値する。

 

「やめて!」

 

 割り込むように彼女が声を上げた。

 目の前の悪魔から笑みが消え、代わりに表した()に僕がぞっとしてしまう。殺生をためらわない恐ろしく冷酷な瞳。そんな眼をした悪魔が彼女に振り返る。

 

「うるさい」

「あっ! うううっ!」

「痛みも何も知らない甘えたクソガキが。いいところなんだから邪魔しないでくださいよ」

 

 吐き捨てる悪魔。彼女を羽交い絞めする一人と腕をつかむ一人、その他二人の計四人が彼女を潰すように押し倒した。

 そして、僕に背を向ける悪魔が、()いつくばった彼女に唾を吐いて告げる。

 

「あなたは大人しく見ていてくださいよ。この男の子、私が可愛がりますから」

「やめて! やめてよお!」

「あははっ。いいですねぇ、その無様で笑える泣きっツラ! 能天気にチャラチャラ男を連れてるからこんなことになるんですよ! あなたには、これからサイッコーのバッドエンドを与えてあげます。この男の子の精液、あなたの目の前で、私のここから垂れるところ見せてあげますよ!」

 

 悪魔が言い捨ててから僕に振り返り、その狂気に満ちた瞳は僕の心胆を寒からしめるのに十分だった。

 引きつる僕の体に、悪魔がしなだれながら僕の腰に手を回す。

 

「ふふっ、始めましょう。私のこと、忘れられなくしてあげますから」

 

 顔を上げた悪魔が僕の首に舌を這わせた。

 生きた心地がしない。生温かい吐息とどろりとした感触に僕が身をよじらせてしまう。

 

「ふざけるな、放してくれ……」

「ふざけてなんかいません。こう見えて私、誰だっていいって訳じゃないんです。あなたが好みなのは本当なんですよ」

「そうじゃない。たとえ僕のことが好みだとしても、こんなの、バカげている」

「……は?」

「こういうのは、好きな人同士がやるもんだろう? こんなことをする君のこと、僕が好きになれると思うか?」

 

 僕の言に悪魔がぴたりと動きを止めた。

 まずい、機嫌を損ねたか。宇宙海賊の怒りを僕が恐れるが、

 

「もし好きな人同士だったなら、どんなに良かったんでしょうね……」

 

 意外にも悪魔は僕の体に寄りかかりながらつぶやいた。

 だが、悪魔が顔を上げ、赤い舌を僕の前で出す。

 

「冗談です。それにしてもあなた、興奮してませんね。私がこんなにも胸を押し付けてるのに」

「興奮なんて、できるわけない」

「うふふっ、そう言われるとますます喜ばせたくなります。では、そんなあなたの知らない気持ちいいこと、これから教えてあげますよ」

「え? お、おい!」

 

 悪魔が僕の前でしゃがみ込み、腰のベルトに手をかけた。

 

「や、やめろ!」

「やめませーん。言ったでしょう? 私のこと忘れられなくしてあげるって」

「なにをする気なんだ!?」

「うふふっ、口でしてあげますよ。どこまで我慢できるか、楽しみですね」

 

 ベルトを乱暴に外す悪魔に、僕が助けを願ったときだった。

 悪魔が途端に手を止め、後ろに振り返る。そして立ち上がる。この視線を僕が追うと、

 

「鈴鬼くんを、はなせえぇっ!」

 

 彼女が四人の悪魔を押しのけ、立ち上がろうとしていた。

 四つん這いの彼女が鬼気迫る顔を浮かべており、こんなに怒った彼女を初めて見たために僕が息を()んでしまう。

 悪魔もたじろいでいた。信じられないものを見るような目で立ち上がろうとする彼女に驚いている。

 

「うそでしょう。私の力はヘイズで負け知らずなのですよ。その私が四人がかりで取り押さえているのに。あの女、どこにそんな力が」

 

 立ち上がった彼女が、

 

「うあああっ!」

 

 力ずくで四人の悪魔を振り払い、

 

「このインランめ! 絶対に許さない!」

 

 飛び掛かって僕の前に立つ悪魔の顔に拳を突き出し、これを悪魔が紙一重でかわした。

 攻撃は続く。怒れる彼女が止まることなく悪魔を攻め立て、この猛攻に悪魔が僅かに下がる。

 押す彼女。しかし、悪魔が思いがけない行動に出る。

 

「〝融解(メルト)〟」

「えっ!?」

 

 悪魔の顔めがけて彼女が拳を振りかぶるが、その悪魔がヘドロと化したのだ。

 彼女と僕が茫然(ぼうぜん)とする。ドス黒いヘドロが、ただ彼女と僕の間に存在している。そしてハッとした彼女が、僕を捕まえる二人、それから先に押しのけた四人に振り返るが、六人の悪魔はいずれも妖しい笑みを浮かべており、これに彼女が攻めあぐねてしまう。

 漫画などで忍者が仕掛ける分身の術。どれが本物でどれが幻か彼女が見極めている。しかし、四人に向く彼女のすぐ後ろ、先に溶けたヘドロが再び人の形を作り始め、

 

「庚渡さん!」

「えっ? ……あうぅっ!」

 

 僕が呼び、振り返った彼女だったが、再び現れた悪魔が彼女を殴りつけた。

 倒れた彼女を、四人の悪魔が再び取り押さえる。

 

「ちょっと焦りましたけど、頭に血が上ったバカで助かりましたよ」

「あっ、う……」

「お楽しみは後ですね。先に腕と足を折って、動けないようにしてあげますよ」

 

 やめろ。そう叫ぼうとしたときだった。

 空高くに、土星のような環を僕が見つける。そして環に囲まれた女の子が、降下しながら悪魔に回し蹴りを食らわせた。

 地面を滑る悪魔。それと同時に僕を拘束する悪魔の力がなぜか弱まり、僕が悪魔から逃れる。彼女に振り向くと彼女も解放されている。

 

「リングレット!」

「坎原さん」

 

 淡く光る環をたすき掛けする戦士の登場に彼女と僕が喜んだ。

 

「ヒーローの出番です。……ティターニア、いま(かたき)とるからね」

 

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