YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー 作:豚煮真珠
「大丈夫? トゥインクル」
「リングレット、助かったよぉ」
坎原さんに手を差し伸べられた彼女が立ち上がった。
彼女を取り押さえていた四人の悪魔だが、
僕を押さえていた二人の悪魔も苦しんでいる。どうしてだろう、と
「鈴鬼くん、トゥインクルを変な所に連れて行かないでって言ったよね?」
「う、うん」
「ま、どうせこの子がこんな所に行きたいって言ったんだろうけど。ダメじゃない、ちゃんと止めてくれなきゃ」
「ごめん……」
「気を付けてよ。それじゃ、あたしとトゥインクルの後ろに隠れて。あいつ目の届く範囲なら自分の分身をどんな所でも生み出すから」
「ああ」
僕が二人の後ろに下がると、坎原さんに蹴られた悪魔が立ち上がった。
周りの悪魔たちが一斉に目を鋭くするが、立ち上がった正面の悪魔だけはくつくつと笑う。
「ふふっ。そちらから来てくれるなんて好都合です」
「好都合? なに強がってるの?」
「はい?」
「あんた精霊の力の使い過ぎで、このまえ血を吐いてたでしょ? もういっぱいいっぱいなんじゃないの?」
「……ふふっ、あははっ。そうですか、それで田舎からわざわざ来たんですかぁ。あははっ、あははははっ!」
正面の悪魔が
「残念でしたー。もう体は全快なんですよぉ」
「……そう」
「ふふっ、当てが外れて悔しいですかぁ? それとも尻尾を巻いて逃げ出したくなりましたか? このまえ蹴ってくれて、今も蹴ってくれた借り、倍、いや、百倍にして返してあげますよぉ」
「そっか。まあでも、関係ないか」
「……は?」
感情をむき出しにする悪魔とは対照的に、坎原さんは冷静だった。
坎原さんが正面の悪魔を見据えて伝える。
「どうやったら勝てるか、どうしたらティターニアの
「…………」
「仇のために準備を重ねてきた。そして、その準備が今日そろった。あたし今日、負ける気がしないんだよね」
「なんですかその自信! このっ、
黒いヘドロが大量に生み出され、悪魔が次々と現れる。
大勢の悪魔に取り囲まれた僕たち。だが、坎原さんは平然としており、彼女がそんな親友に尋ねる。
「リングレット、どれが本物なんだろう」
「本物? あ、あたしアイツの
「ええっ。ちょっとリングレット、そんなの困る~」
「ごめんごめん。トゥインクル、本物とかなんて見極める必要ないから」
「え?」
「目の前にいるのを一人ずつ倒せばいい。あいつの分身は、全部本物なの」
「ぜんぶホンモノ? どういうこと?」
「幻とかじゃないの、本当に全部がアイツ自身なの。全部がアイツ自身だから全て神経がつながってる、つまり痛みを一人一人がシェアしている。だから増えても焦らなくていい、一人ずつ倒せば勝手に他が痛がって自滅するよ」
痛みを
坎原さんに蹴られた悪魔。それは僕に迫った一人の悪魔だったが、なぜか他の悪魔たちも一斉に苦しんでいた。痛みを共有しているのならこの疑問は解決する。
悪魔の分身は、忍者が仕掛けるような分身の術ではない模様。それならば下手に自分を増やすとそれだけ弱点をさらす。
「クッ、
言い当てられた悪魔が苦々しく指を鳴らし、周りの悪魔たちが一斉にヘドロへと変わった。
指を鳴らした悪魔だけが残り、坎原さんが進み出る。
「トゥインクル、ここはあたしに任せて」
「うん」
「鈴鬼くんを、ちゃんと守るんだよ。たあっ!」
右の拳を握り締めた坎原さんが悪魔に飛び込んだ。
坎原さんの拳を、悪魔が腕を上げて防ぐ。それを皮切りに光の戦士と悪魔の
「はああっ!」
「このコスモスが! 調子にのるなぁ!」
「ぐっ! まだまだぁ!」
「腹立つんだよおまえ! 死ねよ! 死ねっ、死ねえ!」
前に彼女と坎原さんが激突したとき、格闘戦では彼女は坎原さんにまったく歯が立たなかった。
だが、悪魔は食らい付いていた。坎原さんの速い拳を受け止め、
両者一歩も引かぬ激しい戦いが繰り広げられている。坎原さんが顔に打撃を食らい、僕が目をすがめてしまうが、そんな心配をする僕に彼女が、
「鈴鬼くん、大丈夫。リングレットは負けないよ」
戦いをしかと見守りながら告げる。
「鬱陶しいんだよオマエ!
「うっ!」
悪魔が分身を坎原さんの背後に生み出した。
羽交い絞めされた坎原さんに、悪魔が拳を振り上げる。だが、坎原さんが自由の利く左腕で円を描き、
「〝リフレクティブサークル〟!」
鉄を叩いたような音が鳴る。坎原さんの描いた円が悪魔の拳を弾き返した。
弾かれた反動からか悪魔が右手を押さえている。これに羽交い絞めから抜け出た坎原さんが素早く接近し、
「はああっ!」
「ぐふっ!」
腹を殴られた悪魔がうめく。坎原さんが地面スレスレから振り上げたアッパーカットを悪魔の腹に食らわせた。
アッパーの威力は
猛追する坎原さん。放り上がる悪魔の前で右脚を伸ばして宙返りし、
「てえええっ!」
強烈な
悪魔が受け身も取れず地面に叩きつけられ、そんなうつ伏せの悪魔の前に坎原さんが着地する。
参ったか。そう言わんばかりに悪魔を見下ろす坎原さん。しかし、悪魔が顔を上げて指を鳴らす。
「
無数のヘドロが生み出され、数体の分身が坎原さんに絡み付いた。
非常にまずい。先の羽交い絞めとは違い、坎原さんの腕が、体が、両脚が、全身が拘束されている。あれでは円を描くこともできやしない。
悪魔が足を震わせながらも立ち上がり、動けない坎原さんに笑みを浮かべて告げる。
「あはっ、これなら動けまい」
一転して坎原さんが窮地に陥り、僕が彼女に振り向く。だが、彼女は動こうとはせず、
「トゥインクル!」
逆に窮地の坎原さんが彼女を呼ぶ。
「あれをやる! 鈴鬼くんを巻き込まないようにして!」
「オーライ! 鈴鬼くん、リングレットから離れて!」
彼女が僕の手を引き、坎原さんから遠ざけ始めた。
坎原さんは悪魔に捕まって動けない。普通なら助けに入るべきだろう。二人の合図は何をする気なのか。
悪魔が髪をかき上げて坎原さんに
「人のことを気にしている余裕なんかあるんですか?」
「これを、待ってたの」
「待ってた? ……うっ、は、放せない」
「たくさんのあんたが、あたしを捕まえるときを。じゃあ、食らいなさい。あんたを倒すために編み出したこの技を! 〝マグネティックストーム〟!」
僕が目を見張る。キラキラとした風が、坎原さんを中心に渦巻いている。
風は次第に強さを増し、輝く
悪魔の絶叫が、この時の止まった傾奇町に木霊する。痛みを共有する悪魔の分身、坎原さんに絡み付く全ての分身が光の嵐を受ければ、痛みもそれに伴って倍加するだろう。
程なくして、嵐が収まる。坎原さんに絡み付いていた悪魔はみな倒れ、ヘドロに変わり始めている。
「ぐっ、がっ……」
だが、一人の悪魔だけはしぶとく立っていた。
「はあ、はあっ……」
「ふふっ、うふふっ。あなたも、ボロボロじゃないですかぁ」
辛そうに息を乱す坎原さんを悪魔が笑った。
膝に手をつく坎原さん。脚を開いて腰を落とすその姿からは、隠せない疲労とダメージが素人の僕からしても見て取れる。
以前彼女と戦ったとき、坎原さんは今の嵐を仕掛け、彼女を倒したと共に自分も倒れた。しかし、あの時とは状況が違う。あの時の坎原さんは独りだった。
「そうね。でも、あたしには」
「は?」
「あたしの背中を守ってくれる新しい友達がいる。トゥインクル!」
今の坎原さんには彼女がいる。
「うん! いっけぇ、トゥインクルブラスト!」
「え、う、うわあああっ!」
両手を突き出していた彼女が光を放ち、一筋の影も許さない真っ白な光が悪魔を焼いた。