YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー 作:豚煮真珠
黒き者たちによる628メートルの謀議
東京都
ユメミヤグラに一般の客が登れるのは450メートルまでであり、そこから先は電波用のアンテナであるため、スタッフや工事関係者
場所は先に述べた高さ628メートルの最頂部、謎のフロア。その中では黒いワイシャツの上に黒いベストを羽織った青年が壁に寄りかかっている。
青年は顔の右半分だけを覆う奇妙な黒い仮面をかぶっていた。そんな青年が物憂げな雰囲気を漂わせながらフロアに
(メテオさんに続き、イオンさんも亡くなった、か)
フロアには照明がなく、月の明かりだけが天井の強化ガラス越しにフロアを照らしている。そんなガラス越しの夜空を見上げる青年が内心でつぶやいた。
僅か
程なくして、――コッコッ、と硬い靴音が暗いフロア内に響き、この音に青年が振り向くと、
「あら、エクリプス君じゃない。ここで会うなんて珍しいわね」
同じく黒い仮面をかぶった妙齢の女性が現れ、青年に軽い口調で声をかけた。
ウェーブのかかったセミロングの黒髪を垂らす女性。かぶるマスクは額から鼻までの顔上半分を覆い、鼻は
女性はフリルを飾った黒いシャツの上に、シワ一つない黒のレディーススーツをまとい、履く黒のスラックスは裾が広がっている。全てが黒い点を除けばキャリアウーマンといった出で立ちだ。
「〝ウルカ〟さん。御無沙汰しております」
失礼のないように。そう青年が姿勢を正し、女性に恭しく
頭を下げた青年に、気を良くした女性が白い歯を見せる。
「いいわよ、そんな社交辞令は。私たち同志じゃない」
「いえいえ。数々のコスモスを
「アハハッ、なにそれー。そんなお世辞いったって何も出ないから」
女性が手の甲を口元に添え、青年に遠慮は不要の旨を伝えた。
青年の
月明かりだけが
「エクリプス君。あの子、いる?」
「あの子、とは?」
「決まってるじゃない。ここの自称管理人さん」
「ああ、今日はいませんね。まあ、もう夜も遅いですから」
「そっかー。会いたかったんだけど、残念ね」
女性が息をついてぼやき、続けて青年に尋ねる。
「エクリプス君。キミの首尾ってどんな感じなの?」
「首尾、と言われましても。先程も申したとおり、僕はコスモスの一人も葬れない出来損ないです」
「…………」
「情けなくてあの御方に顔向けできませんよ」
「うふふ、よく言うわね。キミって、何気に古参じゃない? 私もここに来るようになってそれなりに経ってるけど、その私よりも前からいるよね?」
「そうですね」
「それが怪しいの。キミってさ、一見草食系で無害に見えるけど、ちょっと底が見えないのよね。葬れないんじゃなくて、
「……いやいや、それは買い
「ふふ、本当かしら? それにわたし聞いちゃってるのよ、君の恐ろしいヤボー」
「野望?」
「あの方の知識を基に、この日本をヘイズが管理する共産国家にするんでしょ?」
女性の言に、青年が僅かに眉を動かした。
しかし、知られたとていずれは露見するもの。そう青年が特に取り乱すことなく女性の言を正す。
「管理とは語弊があります。僕は小説で聞くようなディストピアを作る気など毛頭ありません。治める、と言ってください。それに、共産の響きは人々に抵抗を与えます、社会主義国家と改めてください」
「似たようなものじゃないの。でも、すごいじゃないエクリプス君。あの方からいただいた力を、そんな風に使おうと考えてるなんて」
「当然の帰結じゃないでしょうか。現代では手にできないあの御方から賜った力、それと、あの御方の
青年が肩をすくめて話し、これに女性は感心した。
女性の中で青年は弟のような存在で、そういった意味では見下していた。だが、そんな弟がこの国を変えようという志を抱いている。今までは何を考えているのか分からない弟だったが、いま女性は目の前の青年を少し見直し、その思想に
なお、高さ628メートルのユメミヤグラ最頂部に入る者は、みな「自分は選ばれた」という認識と誇りを持っており、それは青年と女性も例外ではない。
「そうね。指導という点では大いに賛成するわ。ゲームにマンガにアニメ、ギャンブルに性産業。日本には下品で低俗なコンテンツがあふれている。これらは全て規制し、女性と子供のために清く正さないと」
女性が自身の思想を連ね、青年に賛同を求める。だが、
「僕はそれらの全てを否定する気はないですが」
「え? なに、エクリプス君。私の活動に茶々入れる気?」
「いえいえ。僕ごときがウルカさんに口入しようなど。ただ、娯楽がなければガス抜きも
「……ふーん。そういう考え方もあるのね。まあ私は、ジェンダーの平等と子供たちの未来のために規制しちゃいますけど」
「程々にしてください。水清ければ魚
扱いづらく意のままにならない青年に、女性がその仮面から
思い出した女性が青年に問う。今日は許可を得るためにユメミヤグラに訪れた。
「ところでさ、メテオさんの担当していた所、私が行ってもいいかしら?」
先の反論は水に流した女性が、自信ありげに次の獲物を周知する。
「ウルカさんが、ですか」
「ええ。あのメテオさんが一度も勝てなかったんでしょ? どれだけの強さか知りたいじゃない?」
「構いませんが、十分に気を付けてください。メテオさんが勝てなかったコスモスの子たち、今までの子たちとは一味も二味も違うでしょう」
「分かってる。君メテオさんと仲良かったものね」
「はい。惜しい方を失くしました。あの人には是非とも、生きててもらいたかったのですが」
女性が青年の承諾に満足した。
「それじゃ、おばさんは帰るわ。子供の塾の迎えに行かなきゃならないし」
「ウルカさん、
「うーん、すぐは無理かな? あそこ遠いし」
「分かりました。御武運を」
「ありがとう。でも、心配は要らないかしら。これでもヘイズ随一なんて言われてるし」
「失礼しました」
「エクリプス君、今度一緒に
「はは、お手柔らかに」
女性が軽い足取りでフロアを後にした。
フロアに一人残った青年が、その顔から笑みを消す。そして、
(酒は禁じないのか)
女性を心中で軽蔑する。
(あのような
青年は表面でこそ女性を敬っていたが、その実は蔑視していた。
今しがた去った女性は、世間においてそれなりの地位に立つ者である。一般への影響力は中々のものであり、大志を抱く者なら縁を結んで損はないだろう。
だが、気に入らない物を排除する。そんな女性の排他的な本質を青年は見抜いており、故に手を取り合う気にはなれなかった。生物はみな排出する。醜い虫だって生きている。手を汚してこそ得られる喜びもある。この世には美醜が両立することを理解しようともしない偏狭さを、青年は
また、女性には
(僕も聞いているのですよ、あなたが犯している罪を)
古参である青年の耳には、様々な
暗いフロアの中で青年が
(メテオさんの担当していた所を攻めるなら消すチャンスかもな。あの子に連絡しておこう)