YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー 作:豚煮真珠
「う、ううっ」
誰も知らない皆が認知しない、時間が止まった空間内で、上体を起こした黒ずくめの男が光の戦士たちにたじろいだ。
コスモスの戦士は、変身するための鏡と時を止める装置を常備している。いま倒したドラゴンが街中に現れたら大変なことになるだろう。戦士たちはそんな事態を防ぐため、周辺の時を止めて人知れず戦っている。
変身するための鏡はハロウィンズミラーと言い、時を止める装置はユニヴァーデンスクロックと言う。どちらも光の戦士にしか扱えない代物であり、時を止めると光の戦士と宇宙海賊以外は全て停止するのだが、その時の止まった空間内を僕は
「…………」
口を閉ざす男は、かぶっていた黒い仮面を落としていた。
顔は特に至って言う事のない大人の男性である。
「あのー」
話しかけるが、男は警戒の体を崩さずに口を閉ざしてる。
「うーん、どう頼めばいいのかな? ねえ、ムーンライト」
「なにかしら?」
「代わりに頼めない? あたしこういう駆け引き苦手でさ、でっへへ」
「私だって駆け引きなんてできないわよ、まったく。……そこのあなた」
左右の人差し指の先をツンツンとつつき合わせた陽さんに、あきれた美月さんが代わりに
光の戦士たちはみな女の子である。今回は相手が異性であるため、以前坎原さんが宇宙海賊の子にやった体をまさぐる手段は避けたいところだ。
見下ろす美月さんに男が答える。
「なんだ」
「ありまにど、って言ったかしら? 黒い玉、体に隠し持ってるでしょ? それを出しなさい」
小細工なしに訊いた美月さんに、僕を含めた皆が目を見開いた。
まさか、ストレートに問うとは。いくら
男は黙っている。策を弄さぬ美月さんを、付き合いが長い陽さんがはやし立てる。
「勇気リンリン直球勝負だねー。あたしムーンライトが時おり男に見えてくるよ」
「ねえ、サンシャイン」
「なに?」
「これ、脅してるみたいで、すこぶる辛いんだけど」
僕を含めた皆が感じているであろう辛さを、美月さんが自ら認めた。
落ち込む美月さん。話が止まってしまい、この気まずさに陽さんが、
「ターイム!」
腕でTの字を作って小休止を呼びかける。
「訊き方が悪いよムーンライト。そう高圧的にするんじゃなくて、こう
「いやよそんな訊き方。あなたね、どうして訊き辛いときばかり私に頼むのよ」
「だって、ムーンライトが一番向いてると思うしー」
「向いてるってなによ。もう我慢できない、あなたはいっつもそう、すぐ調子に乗るくせに、ちょっと壁に当たると私を矢面に立たせて」
「だからってトゥインクルやリングレットが訊くわけにはいかないでしょ?」
「自分で訊きなさいよこのヘタレ!」
「なんだよケチ! ムーンライトの、ケチンボォー!」
「へぇ!? け、けちんぼ!? うー、ケチで何がいけないの! いいえ、節約と言ってちょうだい!」
「ケチはケチでしょ! 漬物ばっか漬けての漬物オンナー」
「言ったわねこの脳までゴリラの筋肉女!」
言い争う先輩二人に、僕と彼女と坎原さんが苦笑いしていると、
「黒い玉とは、これのことか?」
男が懐から玉を取り出したため、皆が驚いて目を大きく開いた。
玉は変わらず闇より暗かった。その吸い込まれるような黒さに、僕が目を凝らして息を
言い争いをやめた二人が、目を点にして首を縦にコクコクと振り、この硬い所作をする二人の様に男が心得る。
「分かった。渡そう」
「え? 意外とあっさり。いいの? いや、いいんですか?」
確認した陽さんに男が、
「ああ。この玉は正直なところ怖い。一言では言い尽くせない素晴らしい力を私に与えてくれるが、その一方で気が大きくなり、いつか自分が自分でなくなって過ちを犯しそうで怖い……」
力に溺れそうな己の危うさを光の戦士たちに吐露した。
そして、男が語る。なぜ宇宙海賊になったのか、遠い目をしてその経緯を。
「私にはな、学生の頃から付き合っていた妻と、二歳になったばかりの目に入れても痛くない娘がいたんだ。だが、一年前の雲一つない快晴の日、妻と娘は買い物の途中、
学生の頃から。これを聞いて僕が、彼女にちらりと視線を向ける。
「轢き逃げした男はすぐに捕まった。しかしその男はとても偉い賞を国から授与された男でな、上からの圧力と
うつむく男の言葉に、みな耳を傾けていた。
同情する。可哀そうである。だが、男が
宇宙海賊は男にどう接触し、黒い玉を植え付けたのか。謎に包まれた宇宙海賊、今、その全容が明らかとなるのか。
「……いや、これ以上はやめとこう」
しかし、男は首を振った。
「ええっ。話してよ、話してくださいよ」
「期待に沿えずすまないが、私からはこれ以上話せない」
「そこをなんとか。お願いします」
「ヘイズの
食い下がる陽さんを男が断った。
そして男が、
「では、好きにするがいい」
「……はい」
陽さんが手に力を込めると、黒い玉が軽い音を立てて割れた。
割れた玉は粉となり、風に舞うようにして消えてゆく。以前と同じである。
消える粉を見届けた男が立ち上がる。
「惜しくもあるが、人間らしく生きるならこれがいいんだろう」
「…………」
「それにしても、憎しみとは長く続かないものだな。割り切れるものではないが、過去は過去と諦めてしまっている自分がいる。それに、轢き逃げした男が、また捕まったと聞いた」
「それは、よかったですね」
「ああ。天は悪を見ている、私が手を下すまでもないのかもしれん。……では、コスモスの戦士よ、もう会うこともないと思うが」
「はい。さようなら」
こうして、黒ずくめの男がこの場から去った。
「お疲れだベエ」
妖精が現れ、光の戦士たちにねぎらいの言葉をかけた。
時が止まった空間内に突如として現れた妖精。この呼び方は比喩じゃない、本当に妖精なのである。
コスモスの戦士には、戦いをサポートする妖精がいる。外見は背に
妖精に選ばれた女の子がコスモスとなり、前述の変身するための鏡と時を止める装置を預けたのも妖精である。語尾に「ベエ」となぜか付けるため、光の戦士四人からは「べーちゃん」と呼ばれている。
「やったよべーちゃん。あたしたちアリマニドを壊して、人をブラックホール団から抜け出させることができたよ」
陽さんが喜んで結果を妖精に報告した。
アリマニドとは、先ほど陽さんが壊した黒い玉を指し、宇宙海賊が体に宿す力の供給源である。空の飛行やドラゴンの使役など、常識では計り知れない力を行使する宇宙海賊であるが、黒い玉を壊せば先の男のように力を失ってただの人に戻る。だから光の戦士は黒い玉の破壊を目的として戦っており、そして壊したときこそ、宇宙海賊を真っ当の人間に改心させるチャンスなのである。
今回の結果に彼女も美月さんも坎原さんも喜んでいる。しかし、妖精は報告を聞き、
「それはめでたいベエ」
祝辞を述べるが、光の戦士たちとは違って顔を崩さずにいる。
「話せば分かってくれる人もいるんだね。いやー、すっごく良いことした気分だよー」
「あなた玉こわしただけでしょ」
「なはは」
「調子いいんだから」
浮かれる陽さんにあきれる美月さん。しかし妖精が、
「凡人なだけだベエ」
そんな気分に水を差す一言を告げた。
改心した男を凡人と評し、これに陽さんが異を唱える。
「べーちゃん、なにそのトゲのある言い方。今の人は奥さんと小さな子供を亡くした悲しみを抱えながらも、自分でアリマニドを渡してブラックホール団をやめたんだよ? すごく立派な人じゃない」
「事実を言ったまでだベエ。今の男は、ただ力に恐れを抱いただけのことだベエ」
「なにソレ。それじゃ今の人があの玉を持ち続けて悪さをした方がよかったって言うの?」
「悪事を働くとは限らないベエ」
食ってかかる陽さんに対し、妖精は平然と受け答えていた。
妖精は先に「めでたい」と言いつつも表情は崩さなかった。黒い玉の破壊を
「でもアリマニドがなきゃ、悪事なんて働きようがないじゃない。大体さ、なんでべーちゃんあたしらにアリマニドのこと教えてくれなかったの? リングレットが教えてくれたから良かったけれど、教えてくれなかったからあたしらブラックホール団と殺し合いをしなきゃならない、って勘違いしちゃったじゃない」
「教える必要なんてなかったからだベエ。逆に問うベエが、サンシャインが戦ったメテオは悪事を働いたベエ?」
「メテオ」
「あの男は力を私利私欲のために使わなかったベエ?」
メテオとは、過去に彼女と陽さんと美月さんが戦い続けた宇宙海賊の男である。激闘の末に力を使い果たして亡くなり、僕にとっては初めて目にした宇宙海賊の人だった。
黒い玉の破壊を喜ばない妖精を、陽さんが納得できずに
「なによもう。やっぱりべーちゃんって何考えてるか分からない。いこう、みんな」
立ち去る陽さんに美月さんも続いた。
彼女と坎原さんは困った顔を浮かべている。だが、そんな二人を見かねてか妖精が自ら姿を消した。