YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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これが愛の力! 大暴れしちゃいます!

「なぜ動ける男が? まあいい、二人仲良く始末してやろう! やれペガスス!」

 

 男の命じる声が聞こえ、それに僕が宙を見上げると、仰け反った白馬が前脚を上げていた。

 そして、白馬が体勢を戻す。(ひづめ)が再び彼女を襲う。

 

「危ない庚渡さん!」

 

 踏み潰さんとする蹄に僕が叫んだ。

 彼女は小さい。小学生と見間違えるくらいの低さで、同学年の平均的な女子の身長を大きく下回っている。

 僕はクラスの男で前から並べば二番目に低いが、彼女に至ってはクラスの女子内で最前だ。だが、そんな彼女が逃げ出さずに両腕を広げ、

 

「負けない!」

 

 なんと白馬の巨大な蹄を、広げた両腕で真っ向から受け止めた。

 力士の四股(しこ)(ごと)く足を広げて踏ん張る彼女。かわすと思っていただけに僕が目を剥く。

 白馬が蹄を押し付けるが、耐える彼女に苦しみの様子は見られない。

 

「どぉっせえーいっ!」

 

 そして、彼女がその小さな背を伸ばし、(つい)に白馬の蹄を押し返してしまった。

 バランスを崩した白馬がたたらを踏む。傍らに浮かんでいる黒ずくめの男も、

 

「なんだと。まさかトゥインクルスターに、これほどの力があったとは」

 

 彼女の底力に動揺しており、僕も予想外のパワーキャラぶりと、押し返したときの変な掛け声、今のやる気に満ちあふれて鼻息を荒くする彼女に動揺している。

 しかし、彼女は止まらない。みなぎる面持ちで右腕を回した後、

 

「まだまだぁ!」

 

 駆けた彼女が、先まで踏み潰そうとしていた白馬の右足を捕まえた。

 尋常ではない足の速さだった。瞬きしたら、もう白馬の足を捕まえていたのだ。まあこれは空を飛んだりビームを撃ったりしていることから特に驚くべきことではない。

 驚くべきは次の行動だった。彼女が白馬の足を抱えたまま高く飛ぶ。

 

「おおおりゃあああー!」

「な、なんだとぉ!?」

 

 黒ずくめの男が(きょう)(がく)した。白馬の足を抱えた彼女が回転し、プロレスの中でも大技の一つ、ジャイアントスイングを仕掛けたのだ。

 ()(ぜん)とする僕。もはや建物と言ってもいい大きさの白馬が、とても小さな彼女にぶんぶんと振り回されている。そして、二回転、三回転したところで彼女が白馬を乱暴にぶん投げた。

 白馬が当然住宅に激突し、その被害状況を気になった僕が(のぞ)くが、不思議と壊れていなかった。「どうして」と思ったところで僕が先ほど押したおじさんを思い出す。どうやらこの時が止まった空間内の物質は固い物へ変化するようである。

 しかし、彼女がここまではっちゃける子だったとは。周りを一切顧みない暴れっぷりに僕がたじろいでしまう。

 

「とどめ!」

 

 彼女が畳みかけるべく広げた両手を前に突き出した。

 

「フ、フフッ、君の光線は先ほど効かなかっただろう?」

 

 余裕を取り戻す黒ずくめの男が言うとおり、彼女必殺の光線は白馬に効かなかった。

 しかし、彼女はやめない。男の冷やかしなど聞き流すが如く、広げた両手に光を集め続けている。

 彼女の両手が煌々(こうこう)と輝き、――僕が驚く。いま渦を巻いて凝縮されている彼女の光は、先の輝きに比べるとけた違いに明るかった。

 ほんの僅かな影すら許さない、真っ白に染める光の源。あまりのまぶしさに僕が目を細める。

 

「な、なんだ、その輝きは」

 

 男も気付き、先とは明らかに異なる光の強さに気色ばむ。

 

「これが私の本当の力、いえ、愛の力! いっけぇ、〝トゥインクルラブブラスト〟!」

 

 白き光の帯、いや、光の奔流が彼女の両手から放たれた。

 直視できない極太の白線。街一帯を雷のように照らす強烈な光を白馬が浴び、

 

「ヤクサァァイ!」

 

 断末魔を上げて消滅する。

 

「クッ。まさか、一人でもここまでやるとは」

 

 白馬を失った黒ずくめの男が空高くに逃げ出した。

 怪獣を撃破した彼女。男は飛び去ったので戦いは終わっただろう。宙に残った彼女がゆっくりと下り、僕が彼女の下へ駆け寄る。

 間もなくして彼女が地上に下り立つと、その体がまばゆい光に包まれた。そして光の中から、元の制服姿の彼女が現れ、風に吹かれた()のように光が消える。

 

「庚渡さん!」

「鈴鬼くん。えへへ、どうだった? カッコよかったかな?」

「うん。すごい、カッコよかったよ」

「よかった。へへ、クラスメートの男の子にこういうところ見られるのって、なんか恥ずかしいね」

 

 照れ笑いする彼女を、僕は素直にすごいと思った。

 僕は今の白馬におびえていただけだった。しかし彼女は一人で立ち向かい、しかも白馬をやっつけた。彼女の強さと勇気は尊敬に値し、それはさっき僕が渇望したものである。まあ、予想外の暴れっぷりにはびっくりしたが、それは黙っておこう。

 そして、今の眼鏡を外した彼女は可愛かった。僕がドギマギしてしまう。

 

「やったベエ、トゥインクル!」

「べーちゃん」

 

 一週前も現れた妖精が彼女のそばに現れた。

 突然現れたので驚いた僕に、妖精が不可解そうな声で()く。

 

「うん? おいニンゲン、どうしてまたいるベエ?」

「べーちゃん。今日はね、彼に助けてもらったの」

「このニンゲンに?」

「うん。踏み潰されそうになってたところを助けてくれたの」

「うむむ? いつもサンシャインとムーンライトに助けてもらってるくせに、今日はやけに(うれ)しそうだベエ。ははあ、このニンゲンがゾーンの中を動ける理由がなんとなく分かったベエ」

「ねえべーちゃん、彼をニンゲンなんて呼ばないで」

 

 妖精が僕に振り向く。

 

「おいニンゲン、名前は?」

「す、鈴鬼だよ」

「スズキ、トゥインクルを助けたことは礼を言っておいてやるベエ」

 

 厳しい眼つきをして告げたため、これに僕が苦笑した。

 思い出した僕が彼女に振り向く。僕は彼女の後を()けていて、この時の止まった空間内に入り込んだのだ。

 彼女のつぶらな瞳を僕が見つめる。降って湧いたこの絶好のチャンス、何としてでもモノにしなければ。一人の男として彼女に認めてもらうのだ。

 

「庚渡さん、この前はごめん」

「え?」

「教室で〝好きな訳ない〟なんて言っちゃって。傷付いたよね」

「あ、……うん」

「あれ、全部ウソなんだ。えっと、照れ隠し、って言うか」

「えっ、え、それって」

「あ、ええっと」

 

 僕がそれ以上の言葉を口籠もる。まずい、照れ隠しなんて言ったら、好きって言ってるようなものじゃないか。

 墓穴を掘った。さすがにいま告白する勇気はない。彼女もこの気まずさを察したようで、お互いに沈黙した。

 しかし、妖精がいるけど、せっかく二人きりになれたのだ。

 

「庚渡さん」

「は、はい」

 

 僕が気を取り直して勇気を振り絞る。

 

「も、もし、迷惑じゃなかったら、僕と、友達になってくれないかな」

「え、……よ、喜んで!」

 

 もう彼女の顔が見れなかった。

 彼女はどんな顔をしてただろう。なにはともあれ、僕は好きな子に一歩前進し、幸せという感情を心の底から()み締めた。

 

「やれやれだベエ」

 

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