YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー 作:豚煮真珠
「あっ、紬実佳に鈴鬼くん」
「たまちゃん」
「坎原さん」
正午前の時刻。僕と彼女が「ボコボコ焼き」というタコ焼きの亜種のような軽食を摂りながら休憩していると、クラスメートにして彼女の親友の坎原さんと鉢合わせした。
坎原さんは、五歳か六歳くらいの小さな女の子と手をつないでいる。
「たまちゃん、この子は?」
「いとこの子。紬実佳、それちょうだい」
「はい、あーん」
「あーん。……わっ、なんか口の中でボコボコする。はー、おいしい~」
ボコボコ焼きを差し出した彼女が尋ね、それを口に入れた坎原さんが連れる女の子を親族と紹介した。
女の子からは育ちの良さが見受けられる。丹念にくしけずったストレートの黒髪に、きちんと整えられた乱れのない服装。僕が女の子くらいの頃なんて泥にまみれて遊んでいたのに。
女の子はタブレットを抱えていた。テレビで観たことがある、アメリカの家電メーカー「
坎原さんのいとこなら、きっと太い家に生まれた子供なのだろう。坎原さんは家が財閥と言っていいレベルの大金持ちで、僕は親友の彼女がいなければ一度も話す機会はなかったであろう上流階級の子である。コスモスの彼女と坎原さんは、今の仲を築くまでにひと騒動とひと
「
「たまちゃんが可愛いかはおいといて、れいあちゃん、こんにちは」
彼女がしゃがんで挨拶したが、女の子は坎原さんの陰に隠れた。
今日の坎原さんは、ワインレッドの革ジャケットにデニムのロングスカートを履き、蹴られたら痛そうな革のブーツを履いている。他人の服装が気になってしまう僕をよそに、坎原さんが自身の左脚に隠れた女の子をフォローする。
「麗亜人見知りするの」
「そうなんだ」
じーっと
だが、女の子が隠れながら坎原さんと彼女を交互に見る。数回、確かめるように首を振っている。
やがて、女の子が前に躍り出て坎原さんに
「たまき姉さま」
「なに?」
女の子に「姉さま」と呼ばせている坎原さんに僕が目を剥くが、それ以上の事実を女の子が指摘した。
それは、無邪気だから言えること。子供は得てして残酷な現実を突きつける。
「この人、ちっちゃくないですか?」
「めがめちょっく!」
指をさした女の子の言に、彼女が多大なるショックを受けた。
坎原さんが苦笑する。そして僕は顔を背け、隠すべく口元を押さえてしまう。
「ちょっと鈴鬼くん! 人のこと笑える立場じゃないでしょ!」
よほどショックだったようだ。眼鏡越しの彼女の目がちょっと潤んでいる。
「ところで紬実佳」
「なに? たま姉さま」
「この辺にホース売ってる店ってない?」
「ホースって、あの水を
「そう、そのホース。パパにおつかい頼まれててね」
「うーん、有り合わせでよければスーパーにも売ってるかもしれないけど。ねえ鈴鬼くん、どこに行けばあると思う?」
尋ねた彼女に僕が考える。様々なホースが売っている店、坎原さんのことだから値が張ってもいいのだろう。
矢庭に女の子が「今、ホースって言いました?」と目を輝かせて確認し、そして「ホースって、あのお馬さんですか?」と坎原さんに訊く。
はしゃぐ女の子に「違うから」と返した坎原さんに僕が、
「ホームセンターなら色々売ってるんじゃないかな」
と教える。
「ホームセンター。確かにありそう。今までなんで思い浮かばなかったんだろう。ありがと鈴鬼くん、それじゃさっそく行こう」
「ええっ、バスに乗らないと行けないくらい遠いよ。女の子連れてるし、大丈夫?」
「へーきへーき、ずっと手をつないでるし。麗亜も行ってみたいよね?」
「はい! 行ってみたいですたまき姉さま。ヒヒーンのお馬さんがたくさんいるんですよね?」
「だからそのホースじゃないから」
今日は二人きりのデートだったが、坎原さん及び小さな女の子が飛び入り参加となった。
人数が多い方が楽しいことは楽しいだろう。だが、僕は彼女と二人きりの時間を楽しみたかった。だから坎原さんには「バスに乗らないと行けない」と、遠回しに拒否したつもりなのだが。
彼女に視線を向けると、彼女は肩をすくめていた。諦めるしかないようである。
「じゃあ、一旦駅まで行かないと。ここからホームセンターに直通するバスないし」
「ええっ、駅まで行かないといけないの? 田舎はこういう所が不便だね」
「東京と一緒にしないでよ」
東京生まれの坎原さんに僕が不満を垂れた。
そして、僕と彼女、坎原さんと女の子が、駅に向かって歩き始める。
「ねえ紬実佳、〝
「うん。たまちゃんが観なさいって言うから、パジャ麿のついでに観たよ」
「カッコいいよね~。ホームセンター着くまでの間にライダーのことじっくり教えてあげるから。そもそもライダーはあたしたちが生まれる前から始まって……」
坎原さんが、毎週日曜の朝に放映されている番組について彼女に語り始めた。
鬼面ライダー。主人公が「ライダー」と呼ばれる戦士に変身し、怪人、あるいは同じライダーと戦う、僕が生まれる前から放送されている男児向けの特撮番組である。小さい頃は熱心に観ていたが、小学校の高学年になる前だろうか、その頃には観なくなってしまった。しかし坎原さんはそんな男児向け番組の熱狂的なファンであることを僕は彼女から聞いていた。
止まらない坎原さん。
「たまき姉さまったら、日曜はいつもこうだから耳にクソがたまってしまいますわ」
と、ぼやいたため、それを言うなら「耳にタコができる」と正そうとした僕だが、教育は坎原さんの役目であるために
「ねえねえ鈴鬼くん」
「ん?」
「たまちゃんってね、ピーマンが
彼女が坎原さんの苦手とする食べ物を僕に漏らした。
ちょっと――、と止めたげな坎原さんをよそに彼女がいいふらす。
「このまえ美月さん家で料理ふるまってもらったんだけど、そのときたまちゃんピーマンが入ってる料理知らずに食べて、もうこんな顔して一目散に逃げてったの。面白いでしょ?」
ケタケタと親友を笑う彼女だが、それよりも僕は「もうこんな顔」と言ったときの彼女が、目を大きく剥いたとても変な顔をしたために笑ってしまった。
「こどもねー、もう」
と言ったため、今度は僕と坎原さんが吹き出してしまう。
「え、なんで笑うの?」
「紬実佳ひとのこと言えないでしょ?」
「わたし子供じゃないもん! たまちゃんと違ってなんでも食べれるし」
鼻息を荒くして好き嫌いがないことをアピールした彼女。――そうじゃない、見た目とか
彼女は言うに及ばず、坎原さんはピーマン嫌いのライダーオタクだ。コスモスの女の子は子供であることが条件なのだろうか、などと僕が独り思う。