YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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屋上遊園地 不況と少子化のあおりを受けた昭和の遺構

「なんですのここー。たまき姉さま、(だま)しましたわね。お馬さんどこにもいないじゃないですかー」

「だからそのホースじゃないって、何度いえば分かるの」

 

 お目当てのホース(ウマ)がいなくて不満駄々()れな女の子を、手をつなぐ坎原さんがたしなめた。

 駅からバスに乗ること約二十分。僕と彼女と坎原さんと女の子は、水を撒くホースを購入するべくホームセンターに到着した。

 ホームセンターの名前は「ジョージアカルイ」。この辺に住む者なら「あなたの未来をガッチリサポート」が(うた)い文句のCMを誰もが知っている。

 

「行くよ麗亜」

「やだー。れいあつまんなーい」

 

 坎原さんが女の子を連れて入場し、これに彼女が苦笑い、僕は「大丈夫か?」とハラハラしながら続く。

 ところが、女の子が店の中に入るや否や、驚いたように目を大きく開き、坎原さんの手から離れて一目散に走り始める。

 店内をダッシュする女の子。もしもはぐれて迷子になったら一大事だ。坎原さん、次いで僕と彼女が追いかける。

 

「すごーい。充実のラインナップ。このフィット感、それに軽い、です」

 

 斜めな機嫌は一転した。女の子はある商品の試供品を手に取り、それに目をキラキラと輝かせていた。

 ギュイギュイーン――と、女の子が試供品のスイッチを入れて遊んでいる。その商品とは、小さな女の子が持ってもまず喜ばないであろうDIYな電動機。女の子を夢中にさせているその商品とは、電動ねじ回し機であった。

 女の子が喜びにあふれた顔を坎原さんに振り向ける。そして、

 

「たまき姉さま、これってこーいう店に売ってたんですね。お馬さんはいなかったですけど、ほーむせんたー、いいんじゃないでしょうか」

 

 サムズアップを見せた後、試供品以外を物色し始め、

 

「たまちゃん。あの子、趣味の範囲広いね」

 

 彼女が口元を手で隠しながら尋ね、坎原さんが息をついた。

 女の子の機嫌が戻ったようで僕も息を()く。「帰る」と騒がれたり泣かれたりしたら後が大変だ。

 程なくして女の子が、気に入ったねじ回し機の箱を抱えて坎原さんにせがむ。

 

「たまき姉さま。これに決めました、買ってください」

「なーに言ってるの。これはおもちゃじゃないんだから。ヘタに扱うとケガする物だし、麗亜が大きくなってから」

「えー。たまき姉さまの(りん)(しょく)()ー。分かりました、おばあ様に言って買ってもらいます」

「社長に言っても買う訳ないでしょ」

 

 坎原さんの口ぶりに、僕が女の子の正体を察した。

 正体については、先に財閥レベルの大金持ちと述べた坎原さんの家を説明しなければなるまい。日本で知らぬ者はいない大企業「シークライアントコーポレイト」。全国に店舗を構える小売店「FOR(フォー) CLIENT(クライアント)」を統括し、家具、雑貨、衣料、食品などの幅広い商品を、決して高くない値で良い品を売ることから支持されている会社である。

 大企業は隣町の(こう)(りょう)市にも支店があり、坎原さんはその大企業に務める重役の子で、社長の(めい)っ子だ。その坎原さんが「社長」と言い、女の子が「おばあ様」と言った。坎原さんが連れる女の子こそ、大企業シークライアントコーポレイト社長の孫娘であることを僕が察知する。

 

「ねえたまちゃん、りんしょくかってなに?」

「けち、ってこと。安心して紬実佳、分からなくてトーゼンだから。この子タブレットで妙な言葉ばっか調べてるの」

「そうなんだ。趣味の範囲が広いね」

「ホースを馬と間違えてるくせにね」

「〝耳にタコができる〟を、〝耳にクソがたまる〟って間違えてもいたよ」

「うそっ、鈴鬼くん。それは恥ずかしいから帰ったらよく言っておくよ」

 

 さて、僕たちは女の子のお守りをしに、ホームセンターまでわざわざ来たわけではない。

 目的を済ませなければ。僕が坎原さんを促すとする。

 

「坎原さん、ホースを探しに行こうよ」

「そうなんだけどー、ねえ紬実佳、ちょっといい?」

「なにたまちゃん?」

「ここで話すのもなんだし、えーと、……あっ。とりあえず屋上いかない?」

 

 フロアをキョロキョロと見回した坎原さんが屋上への案内板を見つけて誘い、僕たち四人がエスカレーターに乗って屋上へ向かった。

 屋上に着いた僕たちの前に広がるのは、こじんまりとした規模の遊園地。()(りょう)編成のとても小さな汽車と、その汽車が走るための線路、パンがモチーフの児童向けアニメのキャラクターの顔が前面に張り出したミニゴーカートに、メリーゴーランドやメダルゲーム(など)が設置されている。

 ホームセンター「ジョージアカルイ」の屋上には、小さな子供向けの遊園地が敷設されていた。ちなみに、このような屋上遊園地は全国的に見ても珍しいそうだ。

 

「麗亜、これで遊んでおいで」

 

 坎原さんが財布から小銭を取り出して女の子に渡す。

 

「わーい。たまき姉さまのおーくら省、太っ腹大臣~」

「この日本一可愛くて知的で美人なあたしに向かって誰が太っ腹よ。まったく、変な言葉ばっか覚えて」

 

 女の子が遊園地に向かって駆けだした。

 坎原さんが遊園地のある屋上に誘った訳。どうやら女の子に聞かせられない話があるらしい。コスモスの事であろう。

 

「紬実佳、鈴鬼くん。お茶買って来るからあの子みてて」

「うん」

 

 坎原さんが最寄りの自動自販機に向かい、僕と彼女が遊園地を見渡せるベンチに腰掛けた。

 遊園地では女の子がメリーゴーランドに乗っている。馬はいなかったがホースと聞いて(たわむ)れたかったのか、馬を模した座席に(またが)って楽しんでいる。

 しかし女の子がそばにいる監視員を呼びつける。何を言っているのかはよく聞こえないが、子供が乗るのだから見張るように、と言っているみたいだ。それを見た僕が「しっかりしてるなぁ」なんて大企業の御令嬢を眺めながら思ってしまう。

 程なくして、ペットボトル三つを抱えた坎原さんが戻り、

 

「ねえ紬実佳」

 

 紅茶のペットボトルを受け取った彼女に坎原さんが()いた。

 

「鈴鬼くんで思い出したから訊くんだけど、乾出さんと巽島さん、この前べーちゃんと言い合ってなかった?」

「あ、うん……」

「今まで何かあったの?」

 

 坎原さんは知らない。前に陽さんと美月さんが、妖精に不信感を抱いてコスモスをやめようとしていたことを。

 不信感はうやむやになっていたが再燃した。坎原さんが知らない事情を彼女が話し始める。

 

「たまちゃんがこっちに引っ越す前、メテオって男の人と私たち戦っててね」

「うん」

「その人、精霊の力を使い過ぎて私たちの前で亡くなっちゃったの。私達そのときブラックホール団が実は地球の人って初めて知って、それで陽さんと美月さん……」

 

 妖精に不信感を抱いた訳をとつとつと話す彼女。

 メテオという人が亡くなった場には僕も居合わせていたから知っている。彼女はずっと泣き続け、陽さんは眉間にしわを寄せて妖精に問い詰めていた。

 ショックを受けない方が無理な話だ。人が一人死んだのだから。そして妖精は宇宙海賊との終わらない殺し合いをコスモスの三人に宣告した。殺し合いは黒い玉の知得により回避されているが、なぜ妖精は黒い玉を三人に知らせなかったのか。そんな物があるならば真っ先に知らせるべきであろう。

 

「そんなことがあったんだ」

 

 話を聞いた坎原さんが彼女に確かめた。

 彼女が首を縦に振り、坎原さんが雲一つない冬の青空を見上げる。

 

「べーちゃんが何を考えてるか分からない、か」

「そうなの。たまちゃんはどう思う?」

「うーん。あのべーちゃんのことだし、直接たずねてもまともには答えないだろうね」

「だよね」

「ま、あたしは深く考えるのはよすよ。思うところはあるけど、紬実佳に会えたんだし」

「たまちゃん」

「それにあたし、ちっちゃな頃からライダーみたいなヒーローに憧れてたんだよねー。その夢を(かな)えてくれたんだし、あたしがリングレットアークとしてやってることは悪いと思ってないから、べーちゃんの(たくら)みに少しくらいなら付き合ってもあげてもいいかな」

 

 純真と言うべきかお人よしと言うべきか、コスモスとして迷っていない坎原さんが笑って告げた。

 そして、立ち上がる坎原さん。飲み終えた紅茶のペットボトルを、バスケットのフリースローのごとく構える。

 坎原さんが狙うは、歩いて十歩くらいの距離にあるゴミ箱。「行儀悪いなぁ」と苦笑いする僕をよそに坎原さんが放るが、ペットボトルはゴミ箱の縁に当たる。

 転がるペットボトル。冷たい風が僕たちの間を吹き抜ける。

 

「たまちゃん、外したよ」

「は、外したんじゃないし。狙い通りだし」

 

 ツッコむ彼女に対し、坎原さんは認めなかった。

 転入当初はとげとげしくてクールな印象を放っていた坎原さんだが、彼女と仲良くなってからは間の抜けたところを度々さらしている。なんと言うか、ちょっとナルシストが入った自信家のくせに、割とポンコツである。

 まあ、決める時は決める子ではあり、クリスマスの日は格好よかったのだが。そんな坎原さんが外したペットボトルを拾い、

 

「ゴミはゴミ箱に、と」

 

 ゴミ箱に入れるが、

 

「あっ、たまちゃん!」

「えっ? あてっ」

 

 彼女が真似して放り投げた空のペットボトルが坎原さんの頭に当たった。

 じゃれ合う二人だが、女の子から目を離すべきではない。僕が二人に注意してから女の子に目を向けると、女の子は降りた馬型の座席にまた跨り始めている。

 

「麗亜ったら、また乗って。麗亜ー。それ乗ったらホース買いに行くよー」

 

 こうして、ホースを購入した後に再びバスに乗り、駅で坎原さん及び女の子と別れた。

 時刻は午後五時を過ぎ、辺りはすっかり暗い。もうお開きだ。

 最後の務めを果たさなくては。僕が彼女の手を取る。

 

「鈴鬼くん」

「庚渡さん、家まで送ってくよ」

「うん」

 

 今日本当はこうしたかったけど、坎原さんの飛び入り参加によって流れるところだった。

 だから、残されたわずかな時間、ここから彼女の家までの間。彼女の小さくて(いと)おしい手を僕は握り続けた。

 

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