YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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強敵現る! っていうかハロウィンの星座って?

 ――時が止まった。

 時間が止まるとすぐ分かる。家の外から聞こえる車の排気音や鳥の鳴き声、家の中より響く生活音や妹のやかましい声が全くしなくなるからだ。

 今月の中頃、彼女たちコスモスがドラゴンを倒した。今日はあの日から二週間ほど経過した、一月も残り僅かな月末の日。僕が急いで支度し、ジャケットとマフラーを抱えて家から飛び出すと、

 

「鈴鬼くん」

「庚渡さん、坎原さん」

 

 変身した彼女と坎原さんが家の前で待っていた。

 

「庚渡さん、敵が来たんだね?」

「うん。来て、鈴鬼くん」

「分かった」

 

 彼女が僕を背負って一息に跳躍した。

 空高くへ飛ぶ彼女。その背に密着できるのは幸せなことだが、好きな女の子に背負われたりお姫様だっこされるなんて毎度ながら情けない、とは思っている。

 並んで飛行する坎原さんが敵を発見し、彼女を呼ぶ。

 

「いた。トゥインクル、あそこ」

「うん」

 

 坎原さんが指した方角には、オレンジ色の巨大な物体が座っており、これを認めた彼女がうなずいた。

 僕たちが住む町と隣町・香陵市の間には、千貫(せんがん)(ちょう)という面積の小さな町が挟まれるような形で所在する。このまえ訪れたホームセンターは千貫町に所在するのだが、その千貫町の区域内にオレンジ色の物体が座っていた。

 彼女と坎原さんがオレンジ色の物体の前に下り立ち、僕が彼女の背から降りる。

 

「なにあれ? かぼちゃ?」

 

 僕たちの前には、見上げるばかりのカボチャが鎮座していた。

 カボチャはハロウィンの(ごと)く目と鼻が三角の形にくりぬかれ、口が「W」の形に空いている。

 

「ねえ鈴鬼くん。ハロウィンの星座なんてあったかな?」

「いや、ないと思う」

 

 彼女と僕が首をかしげると、カボチャの目が赤い光を(とも)し、

 

――ヤックサァァイッ!

 

「なっ!?」

「うそぉっ!?」

「えええぇっ!?」

 

 想像の斜め上を突っ走るあり得ない変形に、僕たち三人が度肝を抜かれた。

 カボチャの側面から、筋肉隆々の腕が飛び出し、その両腕の(たくま)しさは僕が所属する柔道部顧問の八馬本先生に勝るとも劣らない。そしてカボチャの下部からこれまた分厚い筋肉の脚が飛び出し、その両脚はどうしてか網タイツに覆われていた。

 僕たちの目の前に、見上げるばかりのヘンテコなカボチャ怪人が立っている。ムキムキの脚を覆う網タイツは正直気持ち悪い。

 

「これは、なんて言うか」

「コメントに困るね」

 

 膝をわずかに曲げて両腕に力こぶを作ったカボチャ怪人に、坎原さんと彼女がやりづらそうな顔を浮かべた。

 しかし、いくら変でも宇宙海賊が駆る敵には間違いない。カボチャ怪人が右腕を大きく振り上げる。

 僕や彼女を(わし)(づか)みできる手のひらが上から迫る。これを坎原さんと、僕をお姫様だっこで抱えた彼女が後ろに跳んでかわすが、

 

「うっ。侮れないね、(たた)かれたらぺしゃんこじゃない」

 

 叩かれた地面が発した音波と衝撃に、坎原さんがその整った顔を引き締めた。

 敵の攻撃は続く。(かが)んだ体勢のカボチャ怪人が、その空いた目に宿す赤い光を強く輝かせる。

 

「リングレット! あのカボチャ、リングレットを見てる!」

 

 赤い視線に彼女が注意を喚起すると、

 

「えっ、お、わあああっ!」

「リングレット!」

 

 遁走(とんそう)した坎原さん。巨人の如き図体のカボチャ怪人が坎原さんに向かって走り始めた。

 逃げる坎原さんをカボチャ怪人が追い回し、踏み潰さんと走るカボチャの両足が地面を激しく揺らす。しかし、敵は繰り返すが巨人の如き図体だ。付け込む隙を僕は見出した。

 柔道部で何度も目にした光景を思い出した僕が、抱える彼女から降りて両手をメガホンのように添える。坎原さんなら可能ではないだろうか。

 

「坎原さん! 足だ、足を狙って!」

 

 逃げる坎原さんに僕が敵の泣き所を伝えると、

 

「えっ、そうか。分かった、鈴鬼くん!」

 

 得心した坎原さんが、追いかけっこから一転して足を止め、カボチャ怪人を迎え撃った。

 敵は走っている。つまり、重心が定まっていない。僕は組み合って揺さぶられている柔道部員が一瞬にして足を払われる場面を数え切れないほど目にしている。

 驀進(ばくしん)するカボチャ怪人の踏みつけを坎原さんがかわす。そして、踏み出そうとするカボチャの左足を外側から、

 

「てやああっ!」

 

 坎原さんが刈り取るように回し蹴りを仕掛けた。

 タイミングはドンピシャだった。決まればカボチャ怪人は間違いなく転倒するはずだった。しかし、敵は一枚上手であり、カボチャ怪人が思いも寄らない方法で蹴りをかわす。

 

「へっ!?」

 

 かわされたことに困惑した坎原さん。なんとカボチャ怪人が、その網タイツに覆われた両脚を一瞬の間で引っ込めたのだ。

 腕も引っ込め、宙に浮いた大きなカボチャ。そのまま重力に逆らわず落下する。

 

「そんなのってありー!?」

「リングレット!」

 

 彼女が呼び、僕が歯がみしてしまう。坎原さんが巨大カボチャに潰される。

 

「待っててリングレット、いま撃って助けるから!」

 

 彼女が親友を助けるべく両手を突き出した。

 両手に集まる白き光。彼女の手がまばゆく輝いている。だが、それを察知したのか巨大カボチャが、坎原さんを踏み付けたままこちらに向く。

 

「えっ。……キャアッ!」

「庚渡さん!」

 

 (とっ)()に手を引っ込めてかわした彼女。カボチャが「W」の口から、なんとビームを放ったのだ。

 ビームが僕と彼女の後方で着弾する。すると大きな爆発音がし、振り返ると煙が上がっている。時が止まっているために着弾した地点は何事もないが、食らったらひとたまりもない。僕なんかが浴びたら()()()(じん)となっただろう。

 巨体の上に飛び道具まで持っているとは。僕がたじろぐと、カボチャが斜めに傾く。そして、

 

「ぬぐぐっ、このっ、いつまでのしかかってるのよ!」

 

 坎原さんの怒った声が聞こえ、カボチャが押し出されるようにして横に滑った。

 坎原さんが自力で脱出した。だが、その整った容姿が痛みで苦しんでいる。

 

「いったぁ……」

「だいじょうぶ?」

「大丈夫じゃないかも。トゥインクル、あのカボチャ人をおちょくってるくせに強いよ」

 

 外見とは裏腹な強敵という評価に、彼女が口を結ぶ。

 カボチャから腕と脚が飛び出す。再び怪人となって直立し、僕たち三人を高い視点から見下ろす。

 坎原さんは僕が助言したことによって潰された。余計なことを言わなければ(まぬか)れたかもしれない。

 

「ごめん、坎原さん。僕が足を狙ってなんて言わなければ」

「いいって鈴鬼くん。ほら、気を抜かないで」

 

 僕が前を向くと、カボチャ怪人が戦法を変えた。

 カボチャは肉弾戦や追いかけ回すことをやめた。足を止めて「W」の口からビームを放つ。これに、

 

「リフレクティブサークル!」

 

 前に躍り出た坎原さんが、両手で円を大きく描いてビームを止めた。

 カボチャ怪人がビームを続けて撃つ。このビームを坎原さんが、彼女と僕を守るために自身を大きく上回る面積の円を構えて防ぐが、辛そうに顔をしかめている。

 更に撃つカボチャ怪人。僕が祈る思いで耐える坎原さんを応援する。後ろでは彼女が両手を突き出して光を()めている、彼女が撃つまで耐えればコスモスの勝利だ。しかし、

 

「くっ、も、もう、もたない……うああっ!」

「リングレット!」

 

 四度目のビームで(つい)に円が割れ、その衝撃を食らった坎原さんが仰向けに倒れた。

 駆け寄る彼女。気を失った坎原さんが光に包まれ、変身が解けてしまう。そしてカボチャ怪人が、その怪しく灯る目の赤い光を彼女に向けている。

 絶体絶命のピンチに僕が息を()む。ところが、カボチャ怪人の頭上に、銀色の着物をまとった光の戦士がおり、この戦士が舞うように着物の裾をなびかせ、横にくるくると回る。

 

「粉々にしてやる! 〝スレイブミルストーン〟!」

 

 そして銀色の戦士が急激に真下へ落ち、カボチャ怪人を上から高速スピンに併せて踏み付けた。

 真上からの強烈な一撃にカボチャ怪人が屈する。続けて、僕と彼女のそばを後ろから駆け抜けたビキニ姿の戦士が、

 

「今夜はカボチャコロッケと煮っころがしだぁ! 〝バーンダンク〟!」

 

 飛び上がって抱える火の玉をカボチャ怪人に叩きつけた。

 カボチャ怪人が炎上し、間もなくして消滅する。

 

「サンシャイン、ムーンライト。助かりました」

 

 地上に下り立った二人の先輩に彼女が礼を述べた。

 助かった。僕も続いて礼を述べようとする。ところが、カツッカツッ――と靴音が聞こえ、これに僕たちが顔を振り向けると、黒い仮面をかぶった黒スーツ姿の女性が立っている。

 カボチャを操っていた宇宙海賊だろう。額から鼻までの顔上半分を覆い、鼻がとがった仮面をかぶる宇宙海賊が、彼女たちコスモスに試していたような口ぶりで告げる。

 

「やるわねあなたたち。これは確かに一味も二味も違うかしら」

 

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