YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー 作:豚煮真珠
起動輪、転輪、遊動輪が連動する。黄道の精霊・
回る履帯。踏みしめるように進むそれは、ともすれば巻き込んだ小動物をミンチにする凶暴さを兼ね備えている。
鋼鉄の車体がサンシャインとムーンライトに迫る。
「
腕を組む女が車上から殺意を明確に表した。
だが、コスモスとして幾多の壁を乗り越えたサンシャインとムーンライトには脅威とならない。迫る戦車をムーンライトが飛んでかわし、一方のサンシャインは、
「発気用意」
両脚を開いた格好で膝を曲げ、地に拳をつけている。
「のこったぁ!」
そしてサンシャインが飛び出し、戦車に正面からぶちかます。
力士の
押すサンシャインが、なんと戦車の前進を止めてしまう。それは先の宣言を体現したように。だが、敵は多くのコスモスを
「さすがにやるわね。でも、これが全力ではないわよ。さあ、止められるものなら止めてみなさい!」
履帯の回転を上げた戦車の前進に、サンシャインがじりじりと押され始める。
「サンシャイン、いま助けるわ!」
ムーンライトが分の悪い相方を救うべく女に飛び掛かった。
車上にて構える女の上半身に、ムーンライトが縦の弧を描く。この三日月の如き斬撃は弾かれて不発に終わるが、履帯の回転を弱める。
女への追撃は可能であるが止めた。救助第一のムーンライトが相方の手を取り、そのまま飛んで宙に持ち上げる。
「助かったよムーンライト。思い通りにはいかないものだね」
「もう。相手は黄道の精霊を宿してるのよ。真正面からぶつかるなんてやめなさい」
想《おも》いに勇むサンシャインをムーンライトがたしなめた。
仕切り直しだ。二人が地に座る敵の女を
「サンシャイン。あの戦車、砲台が回転しないようね」
「そうだね」
首肯するサンシャイン。腰から下が戦車であり、長く伸びる砲身を備える女の下半身だが、回転砲塔を持っていなかった。
女は二人が背後に回ったら振り返ることができない。更に鈍重な鉄の塊だ、空に浮かぶどころか機敏な旋回もできないだろう。
戦車というよりは自走砲と言った方が正しい女の下半身。二人が女の後ろに下り立つが、己の弱点など百も承知している女が、
「ふふっ。後ろをとれば大丈夫、なんて思っていないかしら?」
二人に背を向けながら不敵に笑い、
「黄道の精霊にして私の
己が宿す精霊が秘めし驚異のメカニズムを披露する。
「……え、うええっ!? うそっ、なにあれ!?」
「そんな、ことって」
世にも奇天烈な敵のぶっとびなアクションに二人が仰天した。
四角い下半身が、なんと変形を始めている。履帯とそれを覆う装甲板は足と
装甲の一部が左腕へと変わり、三指の手を形成する。そして砲身が右腕となり、女自身が顔となる。戦車が一瞬にして全長10メートル程の人型巨大ロボットへと変化した。それはまさにアニメの世界。
「ちょっと、カッコイイんだけど」
「なに言ってるの!」
見とれてしまったサンシャインをムーンライトが叱る。
「まずは景気づけに一発撃っちゃおうかしら!」
鉄の巨体が旋回し、右腕の砲身を構えた女が、二人に向かって弾を放った。
巨体の右肩から
サンシャインが左腕を振りかぶり、ムーンライトが右の籠手を
「だああっ!」
「ええいっ!」
そして、左の拳を打ち付け、右の籠手で斬りつける。
攻撃は続く。息を止めた二人が
有効打とならなかった結果に二人が一旦下がる。この距離を置く二人に、女が巨体の腰を落とし、――ゴウッ! と鳴る鋭い燃焼音に合わせて巨体の足裏から青白い炎が噴く。
「小鳥が! 潰してあげる!」
「飛んだ!?」
炎の推力で巨体を飛び上がらせた女が、宙の驚くサンシャインに接近した。
女が三指の左手を握り締めて叩き込む。この打撃をサンシャインが腕を交差させて防ぐが、その質量は城の門をこじ開ける衝角の
背を強打したサンシャイン。剥がれるように建物の壁から落下する。
「サンシャイン!」
「フンッ、
ムーンライトに巨体を振り向けた女が、右腕の砲身を振り上げた。
そして女が砲身で殴りつける。それは家を支える柱が降りかかるが如し一撃。ムーンライトが地に叩きつけられる。
二人のコスモスを地べたに寝かせた鉄の巨体が、足裏から青白い炎を更に噴出させる。そうして宙高くに巨体を浮かせた女が、右腕の砲身を下方に構える。
「小うるさい小鳥は駆除するのみね。あははっ、乱れ撃ちよ!」
巨体の右肩から次々に排出される薬莢。女が笑いながら砲弾を乱射した。
間断なく放出された砲弾だが、その狙いは甘い。二人に当たることなく地面に着弾する。
飛び散る弾の破片と
「いつつ……。こうなったら」
目には目を歯には歯を、黄道には黄道と
「待ってサンシャイン。相手は黄道の精霊を使っているのよ」
体を起こしたムーンライトが、叩き付けられた痛みを耐えつつも親友を止めた。
「今は我慢よ。我慢すれば、チャンスは必ず巡るはず」
ムーンライトがゴーグルを外し、宙の巨体を見上げながら忍耐を呼びかける。
黄道の精霊を体に宿す行為は、肉体にとてつもない負荷がかかる。長時間戦えるものではなく、現に
敵が疲れるのを待つべき。
「あら、あなたたち。もしや私が疲れるのを待っているのかしら? ナンセンスな考えね」
そんな望みを女が高度を下げながら切って捨てる。
「私、努力は欠かさないの。キャスターを辞めた今でも語学は続けてるし、
努力に裏打ちされた確固たる自信を女が告げた。
女がふと思い出す。かつて受けた堪え難き屈辱と、それを次代に持ち越さないためにやり遂げなければならない
「私は、あの人をバカにした醜いウジ虫どもを皆殺しにし、あの子のためにこの国を清くする。さあ、死んで私の理想の糧となりなさい」
宣告した女だが、諦める二人ではない。一発食らった程度でくじけるほど
二人が立ち上がる。先に連打を与えた二人だが、鉄の体は破れなかった。それならば狙うはむき出しの顔の部分。ロボの顔だけは女の生身である。
目標を定めた二人が視線を合わせて首肯する。ところが、突如として膝を突く。
戸惑う二人。全身が
「ふふっ。効いてきたようね」
膝を突いた二人に女がほくそ笑んだ。