YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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『時代』思考停止した日本人を従わせる一言

 チェックメイト。膝を突いたサンシャインとムーンライトに、女が勝利を確信した。

 女とは対照的に戸惑う二人。体が(しび)れ、力が入らない。

 

「いったい、何が」

「どうして……」

 

 立ち上がることすら(まま)ならない自己の体に、何が起きているのか二人が(つぶや)くと、

 

「さっきの乱れ撃ちに仕込んでおいたの。うふふっ、星座(スコーピオ)の毒を、ね」

 

 女が種を明かし、困惑する二人をあざ笑った。

 先に砲弾を乱射し、一発も命中することなく地面に着弾した女の砲撃だが、実は砲弾に毒素を仕込んでいた。二人はその破片と粉塵(ふんじん)を浴びたことにより、蠍座(スコーピオ)の毒を注入されたのである。

 種明かしを聞いた二人が愕然(がくぜん)とする。当たらなかった砲撃に意味があったとは。そんな()(じょう)(こい)と化した二人に、女が鉄の巨体を変形し、下半身を戦車に戻す。

 激しく回る履帯。戦車がムーンライトに向かって発進する。逃れようとするムーンライトだが、体に打ち込まれた毒によって逃げること敵わず、時速80kmを超す速度の超重量を正面からまともに食らう。

 

「ムーンライト!」

「ふふっ、次はあなたよ。仲良くおねんねしなさい」

 

 女が次はサンシャインに向けて戦車を発進させ、この突進する戦車を、意地と根性で立ち上がったサンシャインが押し(とど)めようとするが、毒が引き起こす痺れによって力が続かなかった。

 競り負けて倒れたサンシャインの若くて健康的な()(たい)を、

 

「うああああっ!」

 

 戦車の履帯が容赦なく踏み潰す。

 間もなくして履帯を止めた女が、後ろに目を向けて踏み潰したサンシャインを確認する。

 

「うう、あ……」

「へえー、生きてるなんて、さすがにしぶといわね。ならば、とどめを刺してあげるわ」

 

 女が下半身の戦車を旋回させ、(ひん)()のサンシャインに砲身を向けたときだった。

 

「待って……」

 

 立ち上がっていたムーンライトが女を呼び止めた。

 だが、崩れるように膝を落とすムーンライト。その唇がする呼吸はひどく荒く、端正な顔立ちは痛みに(ゆが)み、立ち上がったことが奇跡なほどに傷付いている。

 虫の息のムーンライトに女が砲撃を止める。最期くらい話を聞いてもよいだろう、という勝利を確信した余裕から。

 

「なにかしら?」

「教えてちょうだい。あなたは、なにが、憎いの?」

「…………」

「何のために、戦っているの……?」

 

 息も絶え絶えに尋ねるムーンライトの質問を、

 

「さっきの話を聞いてなかったのかしら? 私が目下戦う理由は三つ、ジェンダーの平等に、中年の独身男の排除と、タバコやギャンブルや性的な絵なんかといった有害なコンテンツの廃絶よ。同じことを言わせないでくれる?」

 

 女がうんざりとした口調で答えるが、

 

「ウソ、言わないで」

「……うん?」

「それは建前でしょう? 〝あの人〟とか、〝あの子〟とか、誰かのことを口にしてたわよね? あなたには苦い経験があって、その経験を二度と起こさせないために、今の三つを唱えているように感じるの」

「…………」

「教えて。あなたが今の三つを願う源を、私は知りたいの」

 

 ムーンライトは女が望む願いの根源を訴求し、これに女が仮面に隠した眉を僅かに動かした。

 しゃべる性質(たち)である女が口を閉ざす。内面を(のぞ)こうとするムーンライトに動揺している。対するムーンライトは、女がのたまう過激な主張の根底に、怒りや恨みなど強い破壊衝動があると信じている。

 宇宙海賊が闇に身を落とす事情を各々(おのおの)抱えていることをムーンライトは知っている。宿敵メテオなら選挙の落選と日本への失望、このまえ戦った男なら家族を失った悲しみ。プライバシーの詮索になるが、今日が最期の可能性を視野に入れているムーンライトは純粋に知りたがっている。

 

「……はぁ、ヤになっちゃうわねー。こんな子供に見透かされるなんて」

 

 女が怒りを看破されていた自身の未熟さを嘆いた。

 だが、今まで誰も味方しなかった孤独な過去を顧み、女が仮面に隠す表情を険しくしてムーンライトに告げる。

 

「あなたの勘のとおり、本音は別にあるわ。この国に住む全ての男を抹殺したいと願う本音が」

「やっぱり」

「でも、教えない。あなたみたいな子供に言ったところで理解してくれるわけないから、教える気はないの」

「…………」

「あなたが大人なら教えてもよかったけど。はい、この話はおしまい。時間がもったいないわ」

 

 女が下半身をおもむろに旋回し、長い砲身をムーンライトに向ける。

 

「あなたみたいな子供は苦手よ。先に殺してあげる」

「……くっ」

「子供は黙って時代に従っていればいいのよ。私はあの人が残してくれた子のために、この腐りきった時代を変えてみせる。死になさい!」

 

 砲身の中が黄金に輝く。この輝きは女が宿す蠍座最大の毒。これを食らった者は全身が激痛に(さいな)まれる上に肺が麻痺(まひ)し、まさに地獄と言わんばかりの苦痛にのたうち回って死ぬ。

 多くのコスモスを葬った女の最大攻撃。その輝きにムーンライトが最期を覚悟する。だが、

 

「……?」

 

 輝きが消え、女が戦車の下半身を後退させたためにムーンライトが不思議がる。

 発射を取りやめた女は、危機を察知したから履帯を逆に回した。その勘は正しく、上から(けが)れし者を浄化するような光が女の前方を照らす。それで女が光の出所を見上げると、トゥインクルが建物の上から両手を突き出している。

 

「あの、子供」

 

 邪魔をしたトゥインクルを女が鋭く(にら)むが、

 

「〝しし座(レオ)〟!」

 

 ムーンライトの問答に体を休めていたサンシャインが、この隙を好機と見て立ち上がった。

 サンシャインの胸間が黄金に輝き、傷だらけの体が瞬時にしてパンプアップする。ムーンライトにはゴリラと揶揄(やゆ)される獅子座(レオ)を発現した肉体。ボディビルダー顔負けの体を披露したサンシャインが、

 

「ここで止めなきゃ女がすたる!」

 

 増幅した筋肉を(もっ)て戦車に突入する。

 

「こ、この子!」

 

 走るサンシャインに女が慌てて戦車を発進させた。

 進む戦車をサンシャインが押し返す。毒がもたらす痺れに悩まされながらも獅子座の力で懸命に押す。

 せめぎ合うサンシャインと戦車。両者の力は拮抗(きっこう)して動かない。

 

「〝やぎ座(カプリコーン)〟!」

 

 そしてムーンライトも、膨らむ胸の間を黄金に輝かせ、銀の人魚へと変身した。

 ムーンライトが女の上半身を狙う。しかし、砲身の前に躍り出てしまう。

 

「バカね! 飛んで火にいる夏の虫よ!」

 

 すかさず女が砲身内を輝かせ、致死の毒をムーンライトに放った。

 だが、山羊座を発現した今のムーンライトは弾の軌道を捉えている。そして自身を(むしば)む毒の痺れを、「今だけは」と歯を食いしばって克己する。

 黄金色に迫る致死の毒を、宙を泳ぐムーンライトが、人魚の体をねじ山のように回してすり抜ける。

 

「なっ、よけた!?」

「子供こどもって。気合いの一撃、見せてあげるわ!」

 

 かわされて驚く女のみぞおちを、ムーンライトの籠手が突き刺した。

 ムーンライト渾身(こんしん)の一撃に、女が下半身の戦車ごと大きく下がる。宿す蠍座のおかげで貫かれこそしなかったが、深く刺さったがために激しく(せき)をする。

 咳と激痛に(もだ)える女。変身が解け、下半身から戦車が消失する。

 

「ぐっ、覚えてなさい!」

 

 黄道の精霊の力を失った女が、捨て台詞(ぜりふ)を吐いて逃げ始めた。

 飛び上がる女。一時は追い詰めたにも関わらず敗れた己の慢心を反省し、同志メテオが一度も勝てなかった二人の底力に納得する。

 女が「次こそは」とリベンジに燃える。しかし、そんな女の行く先を阻む者がいる。その者はトゥインクルではなく、リングレットでもない。サンシャインとムーンライトは地べたに伏せている。女の行く先を阻む者は、――新たな光の戦士。

 戦士は海のような(あお)いドレスの上に、清流のごとく澄んだ衣をまとっている。

 

「まだいたなんて。どきなさい!」

 

 女が口角泡を飛ばして()けようとするが、

 

「〝フラッシュフロード〟!」

 

 蒼き戦士が手をかざし、そこから発した多量の水が女を()み込んだ。

 

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