YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー 作:豚煮真珠
午後九時を過ぎた夜の時刻。六畳一間の部屋の
部屋の隅には、小学校の進学祝いとして親に買ってもらった学習机があり、その隣にはたくさんの少女漫画が巻順に従って並べられた本棚がある。机の反対側には親戚から譲り受けた少し傷物のクローゼットがあり、そして隣のシングルベッドの上では、寝間着姿の女の子が枕を抱えて伏せていた。
寝間着姿の子は寝転がっているが寝てはいない。伏せる彼女の名前は、庚渡紬実佳と言う。
(はあ、鈴鬼くん……)
本日彼女は、懸想する男子に少し近付け、その余韻にずっぷりと浸っている。
友達になってくれないか。クラスメートにして
(明日からどうしよう。鈴鬼くんとちゃんと話せるかな。ああ、望んでたはずなのに、どうしよう、いざとなると全然自信がない)
彼女は引っ込み思案な性格をしており、今まで彼を遠くから見ていただけだった。よって、明日より訪れる距離感の変化に戸惑っており、抱える枕を頭にかぶせて悩みだす。
(鈴鬼くんに助けられて、自分でも信じられないくらい頑張れたんだけど、私、熱くなって〝愛の力〟とか〝ラブ〟とかすごいこと口走っちゃったよね。鈴鬼くん聞いてたかな。もし聞かれてたら、もう鈴鬼くんの顔まともに見れないよ……)
抑えられなかった感情の発露を、振り返った彼女の頭から湯気が立ち昇った。
おさらいになるが、今日学校からの帰宅中、宇宙海賊ブラックホール団が性懲りもなく襲ってきたため、光の戦士コスモスである彼女は時を止め、戦士トゥインクルスターに変身した。
変身した彼女は敵が使役する白馬と相対した。だが、白馬は強く、さらに六日まえ耳にした彼の発言を引きずり続けていた。心が折れていた彼女だったが、彼が助けに現れたことによって復調、それどころか彼女自身信じられない程の力を発揮して無事白馬を撃退した。
感極まった彼女は「愛してる」と暗に言ってしまったのだ。付き合うどころか友達でもなかった男子の前で。
(きゃ~~。私ったら、あふぅ~~)
己がしでかした行為の恥ずかしさに彼女が足をバタバタさせる。
断っておくが、別に悲観はしていない。好きな彼と友達になったのだ。明日から始まる友達以上恋人未満な甘い関係を想像し、独り盛り上がっている。
(もー全部ウソでよかった。この一週間ずっと落ち込んでたけど、よもやよもやの大逆転じゃない。はー、生きててよかった)
彼こと鈴鬼小四郎の発言に話を戻すが、彼が六日前に教室で叫ぶように言った「あんな女、好きな訳がないだろ」と言うセリフ。もちろん彼女は聞いていた。
聞いた彼女はずっと落ち込んでいた。聞いたその日は家で泣き、その後も度々泣いた。だから今日、彼から「全部ウソなんだ」と聞いたとき、頭が熱くなって倒れてしまいそうなくらいに喜んだ。
そして、彼女が振り返る。白馬に踏み潰されそうになったとき、彼が現れ、身を
(ああ、鈴鬼くん、好き、大好き)
彼女が枕をギュッと抱き締め、また足をバタバタさせる。
ちなみに、彼は「好きな訳ないだろ」と言ってしまった翌日、彼女に謝るべく声をかけているが、あれは彼女には聞こえていなかった。彼は彼女と鉢合わせしてこの上なく緊張したが、それは彼女も同様だった。引っ込み思案な彼女は彼が怖くて避けてしまったため、結果として彼の謝罪は彼女に届かなかったのである。
(鈴鬼くん照れ隠しって言ってたよね? それって、もしかして私のこと……。いやいや、そう都合の良いように人生はできてないって。人生甘く見てるといつかしっぺ返し食らうんだから。……でも、もしかしたら神様が見ててくれているかもしれないよね? 誰も褒めないのにブラックホール団と戦ってるんだから。お願いします神様、私を彼と付き合わさせてください。というか結婚させてください。ああ、友達なんて言わずに、いっそのこと〝付き合ってくれ〟って言ってくれたら、私なんでも投げ出して彼に身も心も
彼女が心の内の幸せを抑えられず、右へ左へと
「トゥインクルー」
「……べーちゃん」
そんな高揚する想いに水を差すがごとく妖精が現れた。
枕を抱えたままベッドに腰掛けた彼女に、妖精がまずは報告する。
「サンシャインとムーンライトに、トゥインクルが一人で敵を撃退したことを伝えたベエ」
「ふーん。それで?」
「むむ? なんか機嫌悪そうだけど続けるベエ。二人ともすごく驚いていたベエ」
「そうだろうね。私あの二人の足を引っ張ってばかりだし」
「そんなことはないベエ。確かに普段のトゥインクルは直しようがないポンコツだけど」
「めちょっく。いや、間違ってないんだけど」
「ここ一番なら最も活躍してるベエ。サンシャインなんて〝さすがは奇跡の逆転ファイター〟って喜んでたベエ。トゥインクルはもっと自分に自信を持つベエ。その
彼女には共に戦う光の戦士が二人いて、それぞれ「サンシャイン」と「ムーンライト」と言う。
二人は俗に言えば「デキる」側の人間で、彼女はよく助けてもらっていた。冒頭で彼女が巨大なヤギを倒せたのも、この二人がヤギの眉間を
自分を「デキない」人間と思い込んでいる彼女は、二人に対する負い目を常々感じている。しかし、そんな彼女も要所要所では役目を果たしており、時には二人の危機を救っている。自己評価が低い彼女だが、その思いとは裏腹に彼女は二人や妖精から評価されていた。
二人は巨大なヤギとの戦いで負傷し、鈴鬼小四郎が現れる前に脱落したが、あがくことなく脱落したのも彼女を信頼しての事である。頼りないけどやるときはやる仲間。そんな評価を彼女は受けていた。
「でもトゥインクル、スズキをリープゾーンの中に入れるなんて、いったいどういうことだベエ?」
しかし、いくら妖精が彼女を評価していても、異物を入れた事だけは納得できなかった。
妖精が短い腕を組んで彼女を責める。
「まあ、べーちゃんなら分かるよね、へへ……」
「笑ってごまかしてもダメだベエ。なんでスズキをリープゾーンの中に入れたんだベエ?」
「それは」
光の戦士である彼女は、「ハロウィンズミラー」と呼ばれるトゥインクルスターに変身するための小さな鏡と、「ユニヴァーデンスクロック」と呼ばれる時を作る装置を託されている。
時を作る装置は、使用者がイメージした対象に限り、時と時との間に挿入した時間「リープゾーン」内における行動を許可する。つまり彼女は、彼を意図してリープゾーン内に招き入れたのである。
コスモスの戦士は変身することで自己の体が著しく強化される。その強化は火炎放射に耐えられ、走る電車にはねられても「痛い」くらいで済む。だからヤギの光線を食らっても巨大な白馬に蹴られても無事でいられるのだ。
「だって彼に、トゥインクルスターとしての私を見てもらいたかったんだもん……」
彼女は前述しているが引っ込み思案な性格をしている。つまり、自分に自信がない。
小さな頃から運動音痴で、周りからは「ロボ女」とからかわれ続け、中学生になっても背丈が低いままで。彼女は自分で自分が嫌だった。生まれ変わりたいと常々思っていた。しかし、中学校に進学して一月が経過したある日、彼女はひょんなことから妖精と出会い、光の戦士コスモスに選ばれた。
戦士トゥインクルスターになった彼女は変わった。サンシャインとムーンライトに認められ、人に知られないけど皆を守り。人の役に立っていることを生まれて初めて実感した彼女の心に、ある日悪魔がささやいた。
悪魔は言った。トゥインクルスターとしての自分を彼に見てもらえば、好きになってもらえるのではないか――、と。こうして彼女は悪魔のささやきに葛藤するまでもなく負け、彼をひそかに想いながら時を止める装置のスイッチを押したのである。
「巻き込まれたらどうするベエ? ブラックホール団が駆る精霊の攻撃もコスモスだから耐えられるんだベエ。普通の人間ならあっという間にお
「それは、私が守るから」
「逆に助けてもらってたベエ」
「う、そのとおりです……」
「まったく、捨てネコを拾ったみたいに言ってベエ。いたずらにスズキを危険にさらすだけで感心しないベエ」
「ごめんなさい……」
「まあ、もう巻き込んでしまったのだから責めても仕方ないベエ。スズキがいるとトゥインクルが発奮することだけが救いだベエ」
妖精は彼女を見込んで前述の二つを託したのである。その信頼を彼女は裏切り、私物化したのだ。
変身も時止めも尋常ではまず在り得ない事象である。もしもコスモスが規則に厳しい組織ならば相応の罰を受けなければならないだろう。叱るだけで済ませた妖精に彼女が謝った。
「ちなみにサンシャインとムーンライトにはもうスズキのこと伝えたベエ」
「もう伝えちゃったんだ。やっぱ怒ってた?」
「怒ってはなかったけど、いい顔はしてなかったベエ」
「そうだよね。あの二人には、私から謝らないと」
この後も彼女と妖精の話はしばらく続き、夜の十時半を回ったあたりで妖精が姿を消した。
彼女が部屋の
(えへへ、鈴鬼くん……)
また彼と友達になれたことに彼女がニヤニヤし、明日より始まる甘い関係を独り想像して足をバタバタとさせるのだった。