YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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未来の世界の●●型ロボットどんなもんだい


 もしタイムマシンという人類の夢が実現したとすれば、今まで語り継がれていた歴史の真相を暴く究極の真理となるだろう。勝者によって闇に葬り去られた真実や、なぜ起きたのか不明とされる事件の動機や背景が、過去へ遡って確かめることで次々に解明される。

 だが、()っていいのだろうか。歴史に介入する。この行為が有史以来築き上げてきた人の歴史にどのような影響をもたらすのか分からない。過去に遡れたら、歴史を書き換えようとする野心家が必ずや現れるだろう。そして、上書きした歴史を目の当たりにした野心家は、己こそが世界の真理を知る神に最も近い者と思い上がり、タイムマシンを独占して世界の再構築に躍起となるだろう。

 未来など誰にも読めるわけがない。予測がせいぜいである。先人が悩みぬいて下した決断や、苦労の末に築いた功績があるからこそ今がある。それを、未来を知っているという理由、否、(おご)りで踏み荒らしていいものだろうか。

 タイムマシンとは、希望すらないパンドラの箱にしか思えない。エゴに右往左往する人類に扱い切れる代物とは思えず、もし扱うとするならば、人は人を超越した何かに変わらなければならないだろう。

 

 ――妖精の正体は、未来から現れた自律型AI。光の戦士・ブルーマリントリアイナによる暴露に、同じ光の戦士トゥインクルスターこと(かのえ)()紬実佳(つみか)が、リングレットアークこと坎原(かんばら)(たまき)が、サンシャイン(いぬい)()(よう)とムーンライト(たつみ)(じま)()(づき)が、トゥインクル意中の彼・(すず)()()()(ろう)が、言葉を発せずにいる。

 妖精とは比喩ではない。今この場には、(はね)を生やしたウサギがふよふよと浮かんでおり、この奇妙なウサギが「妖精」と呼ばれている。ウサギのくせに日本語を(しゃべ)り、語尾になぜか「ベエ」と付ける癖がある。また、まるでテレポートのように瞬時に現れる。この今まで謎に包まれていた妖精の正体を、(あお)いドレスの上に透き通った衣をまとう光の戦士ブルーマリンが、タイムマシンが完成した未来から現れたAIと暴露した。

 

「こいつは私たちに戦わせることで、未来の日本を(ほろ)ぼそうと企てているのよ」

 

 妖精を「こいつ」と指して知らしめるブルーマリンに、

 

「ちょっと待つベエ。この日本を無くそうと(たくら)んでいるのはブラックホール団の方だベエ」

 

 指される妖精が反論した。

 

 ――地球の侵略を企てる宇宙海賊・ブラックホール団と戦う、「コスモス」と呼ばれる光の戦士たちがいる。

 コスモスとは、妖精に戦士としての素養を見込まれた女の子たちの総称である。つまり彼・鈴鬼小四郎を除いた先述の女の子たちは、みな妖精に選ばれたコスモスの戦士である。戦士は日本の各地に存在し、なぜか中学生ないし高校生の女の子によって構成されている。

 コスモスの戦士は、例外なく変身する。トゥインクルスター、リングレットアークなど先の呼称は戦士に変身した姿の名であり、変身することで現代の科学では説明のつかない超常的な力を得て、その力を(もっ)て宇宙海賊と戦っている。妖精から託された変身するための鏡・ハロウィンズミラーと、時を止めるための装置・ユニヴァーデンスクロックを所持し、止めた時の中で変身して宇宙海賊と人知れず戦っている。

 

「なに白々しいことを。ここにいるような何も知らない子たちに、ウソをついてだましてるくせに」

 

 だが、妖精に選ばれたはずの光の戦士ブルーマリンが、不信感あらわな()つきで宇宙海賊なんかいないと反抗している。

 ブルーマリンの言及に妖精が答える。ただし、一部の言は認めて。

 

「ウソをついてることは否定しないベエが」

「認めたね、自分がウソつきであることを。みんな、今の聞いた? 宇宙海賊なんて始めからいない、こいつはみんなに、彼らのことを宇宙海賊ってだまして戦わせてるの」

 

 言質を確認したブルーマリンが、続く妖精の言葉を遮って皆に妖精はホラ吹きと吹聴した。

 悪意あるブルーマリンの振る舞い。妖精がすかさず「それは違うベエ」と異議を唱えるが、この言い争う一人と一匹に、コスモス四人と彼は困惑している。

 両者に何があったのか。なぜ十七歳の高校生戦士ブルーマリンは妖精を邪険にするのか。

 

「〝(ちゅう)()(ろう)〟、あなたは大ウソつき。あなたに従うことが、この国を守るとは思えない」

 

 ブルーマリンが、妖精を(あだ)()で呼んだ。

 綽名で呼ぶあたり、ブルーマリンと妖精は選ばれた以上の関係があることが(うかが)える。ちなみに、他のコスモス四人は妖精の口癖から「べーちゃん」と呼んでいる。

 拒絶の態度を表すブルーマリンに、呼ばれた妖精が弁解する。

 

「ブルーマリン。家のことは気の毒ベエが、それとボクは関係ないベエ」

「ウソつかないで。あなたはあんな連中を守ろうとしてるんでしょ? 命を粗末に扱う、守る価値もない連中を」

「ブルーマリン、それは勘違いだベエ。ボクは」

「もうやめて。あんな思い二度としたくない。だから私はもう戦わない、彼らに協力するの」

 

 取り付く島もない。ブルーマリンは妖精の言に耳を貸さなかった。

 弁明の余地すら与えられない妖精。だが、他のコスモス四人と彼はブルーマリンの事情を()み込めずにいる。そもそも四人と彼は今日ブルーマリンに初めて会ったのだ。彼女が妖精を否定し、未来から現れたAIと言われても信じられるはずがない。

 他のコスモス四人と彼にとって妖精は、何を考えているか分からない謎の存在だが、その妖精を否定するブルーマリンの言も突拍子に過ぎる。このようなとき、尋ねるのは決まってサンシャイン、次いでムーンライトだが、この二人は先の戦いで負傷しているため、

 

「あの、ブルーマリン」

 

 トゥインクルが四つ上の高校生におそるおそる尋ねる。

 妖精が生物らしい仕草をするところをトゥインクルは目にしており、それを頼りに真偽を問う。

 

「なに?」

「べーちゃんが、タイムマシンが完成した未来からやってきたAIって本当なんですか?」

「べーちゃん? 忠四郎のこと? うん、そう」

「でも私、べーちゃんがおいしそうにアイスティー飲んでるところ見たことありますよ」

「機械には見えないってこと? あのねトゥインクル、こいつはこんな見た目してるけど、タイムマシンが完成した未来のテクノロジーで作られた、私たちの想像のはるか上をゆくロボットよ」

「って言うと?」

「信じられないと思うけど、こいつ機械のくせに、人と同じ物を食べ、人と同じ物を飲み、それを動力に変換してるロボットなの」

「えっ。人と同じ物を、ですか」

「そう。ロボットのくせに人と同じ物を食べて動いてるの。さしずめドラ●もんといったところなの」

 

 ガソリンや電気などではなく、人と同じ物を食べて動くロボット。妖精が以前に陽の家でアイスティーを飲んでいた訳をトゥインクルは理解した。

 しかし、驚きをもたらしただけだった。トゥインクルはぽかんと口を開けており、妖精の生態だけでは真の理解を得られないことを説明したブルーマリン自身が分かっていた。

 ブルーマリンが理解を得るために()く。今日初めて現れた自分を信頼してもらうために、

 

「トゥインクル。コスモスになってどのくらい?」

 

 トゥインクルに戦士歴を問う。

 

「え、私ですか? えっと、去年の五月だから、九か月です」

「私はね、もう三年経ってるの」

「三年」

「そう。まだ戦士になったばかりの頃、こいつのこの見た目にだまされて世話をしてたこともあるの。だから、私を信じて」

 

 戦士に選ばれて三年経つ自分は、その分だけ妖精について知っている。そうブルーマリンがアピールして信用を求めた。

 トゥインクルの親友・坎原環が話に交じる。もしブルーマリンの言っていることが本当ならば、この世界は既に侵されている。

 

「ブルーマリン。あんたのいう事が本当なら、この時代には既に未来人がいるってこと?」

 

 AIが既にいるなら既に人もいる。当然の疑問を環が投げかけた。

 疑問にブルーマリンが答える。ちなみに、環は先の戦いで変身を解かれており、戦士としての姿ではないのでリングレットではなく環と記述する。

 

「いいえ。それはいないみたい」

「どうして? タイムマシンができたなら、ロボットを過去に送り込むよりは人を直接送りそうなものだけど」

「そうね。でも、タイムスリップとは言い換えると過去へのデータ転送で、人を過去に送るとなると、天文学的な数字の転送量が必要になるみたいなの」

 

 インターネットからの画像やファイルのダウンロードでは、容量が大きければ大きい程ダウンロード、すなわち転送に時間を要する。

 時間を要するということは、転送中に通信の切断などの障害が起こり得る確率が高くなる。結果、転送の成功率が低くなる。そのような理由で人を過去に送り込めない旨をブルーマリンが話し、

 

「人には喜びや怒りなどの感情がある、タイムスリップには不必要な。だから未来でもその感情ごと過去に転送するのは不可能で、こいつみたいな未来の日本を亡くすためだけに機能を絞り込んだロボットを送り込むことがせいぜいみたいなの。……こいつから聞いた話なんだけど」

 

 妖精を指して環に説明すると、

 

「未来の日本を〝守る〟 ため、だベエ」

 

 指された妖精が訂正を求めるが、ブルーマリンは目も合わせない。

 ブルーマリンの説明に一応の納得を示すトゥインクルと環。そしてブルーマリンが、妖精に従うことの危うさを話し始める。

 

「みんな、〝時間の競合〟って言葉、こいつから聞いたことある?」

 

 ブルーマリンがこの場にいる皆を今一度見渡して訊いた。

 初めて聞いた言葉に、トゥインクルと環が首を横に振る。

 

「やっぱりまだ聞いてないよね。それじゃ、私が忠四郎から聞いた未来をこれから話すね。パラレルワールドって知ってるよね?」

 

 SFではよく聞く単語に環が反応する。

 

「パラレルワールドって、いくつもの世界が同じ時間で枝分かれしているように存在してる、っていう」

「そう。でも、実際はそんなことなくて、過去は遡って書き換えようとしても変えられないの。例えば、物騒な例えになるけれど、私が過去に遡って昔のあなたを殺そうとするじゃない?」

「ほんとに物騒だね」

「重要な話だから()えてするね。でも、昔のあなたは道を変えたりして私との接触を免れたり、私が何かしらのアクシデントに巻き込まれてあなたとの接触を果たせなかったりして、結局わたしはあなたを殺せないの」

「へー。そうなんだ」

「うん。あなたは死なない、世界はそういう風にできてるの。歴史を変えようとしても結局は変えられない。この定めとでも言うべき事象が、タイムマシンが完成した未来において判明してるの」

 

 過去は曲げられない。つまり、世界は常に一つでパラレルワールドなど存在しない。その旨をブルーマリンが説明した。

 耳を傾ける環とトゥインクルにブルーマリンが続ける。なお「殺す」と物騒な例えをしたブルーマリンだが、これは過去に彼女が妖精から受けた説明をそのままに話しているからである。

 

「過去を変えられない。この事実に未来の人々は落胆しつつも(あん)()したみたい。もし過去を変えられるなら、今ある自分の存在が危うくなるからね」

「うん、そうなるね」

「そんなこんなで未来では、タイムマシンを使った過去を変える試みを一度は放棄するの。でも、ごく一部の科学者は諦め切れなくて、変えられない過去を何としてでも変えてみようとしたの」

 

 いつの時代も狂信的な人間はいる。周りに理解されずとも信じ続ける人が。

 そして、狂信的な思いは、時として時代の常識を打ち破る。断っておくが決して良い意味で言っているわけではない。秩序、道徳、因習、伝統。それら長らく信じられてきたものが否定されるのだから。

 狂信的な科学者が引き起こした未来の世界。その神も予想できない(いびつ)な有り様をブルーマリンが明かす。

 

「あらゆる手段を講じて過去を書き換えようとした結果、未来では今こんな事が起きているみたい。例えば、徳川家康(とくがわいえやす)は知ってるでしょ?」

 

 ブルーマリンがトゥインクルに視線を合わせて訊く。

 

「えっ。な、名前だけなら。たまちゃん、何した人だっけ?」

 

 歴史が大の苦手なトゥインクルが親友に訊くが、それを待たずにブルーマリンが続ける。

 

「名前だけ知ってれば十分よ。その日本人なら誰もが知っている徳川家康を、Aという日本人は当たり前のように知ってるけど、Bという日本人は全く知らない、記憶の片隅にもないっていう現象」

「えっ。何ですかそれ。どういう意味ですか?」

「みんなが常識で知っている物や人が、ある人は知っていて、ある人は全く知らないって現象が起きてるの。これが未来で起きてる時間の競合って現象」

 

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