YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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ビニール袋を有料化して牛は殺処分する都合のいいときだけSDGsとのたまう我らが日本

 『時間の競合』。皆が常識で知っている物や人物が、ある人は知っていてある人は記憶の片隅にもないという不可解な現象が、未来では起きていることをブルーマリンが話した。

 競合とは、言葉のとおり競り合う意味だが、コンピュータの世界では、Aというユーザーがデータを書き換える目的でデータベースにアクセスし、まずはデータBを確認する。時を置かずしてCというユーザーも書き換える目的でデータベースにアクセスし、データBを確認する。このユーザーCがデータBを確認している裏でユーザーAがデータBをデータDに書き換えてしまう。すると、ユーザーCがデータBを書き換えようとしても、そのデータBはユーザーAがデータDに更新してしまったために書き換えることが敵わない。これを競合(コンフリクト)と言う。

 ある者は知っていてある者は知らない。時間の競合とは、コンピュータの競合になぞらえた呼称なのだろうか。この未来で起きている不可解な現象を話したブルーマリンが、

 

「今の徳川家康は例えが極端だけど、タイムマシンが完成した未来では、世界共通で知っているはずの事柄が、ある特定の地域の人だけ全く知らないという現象が起きているみたいなの」

 

 自らの言にフォローを入れた。

 トゥインクルと環の二人は、妖精を一貫して否定するブルーマリンを見続けている。十二・三年の人生経験しかない二人だが、少なくともブルーマリンの挙措に不審な点は見当たらない。

 妖精に「ウソをついてる」と自白させ、多少の信頼はおけるブルーマリンに対し、妖精はそもそもが理解不能な存在だ。(はね)を生やしたウサギという有り得ない外見に、その口からは日本語が飛び出し、時を止める装置や変身するための鏡など(うそ)のような道具を渡している。瞬時に現れることも異常である。

 妖精が未来から現れたAI、と言われて()に落ちてしまうブルーマリンの証言は、同じコスモスの二人にとって信用に足りた。しかしそれでも不可解な点は山ほどあり、

 

「ブルーマリンの言っていることが本当として」

 

 トゥインクルが、まだ全てを信じたわけではないと前置きした後に、

 

「べーちゃんと、未来の日本が滅ぶって、どう関係するんですか?」

 

 話を初めに戻し、妖精を非難する訳をブルーマリンに()いた。

 妖精がどうして未来の日本の滅亡につながるのか。この問いにブルーマリンが艶やかな唇を引き締め、時間の競合で起きる事象を利用した未来のプロジェクトを話し始める。

 プロジェクトとは、ある意味で過去、すなわち歴史を書き換える壮大な実験。しかも己の手を汚さずに大量の人間を駆逐する、歴史に悪名を残した虐殺者も真っ青の所業。

 

「時間の競合に話を戻すけど、ある物が人々から忘れられる、つまり、記憶から消失するって話をしたよね?」

「はい」

「この消失という事象に未来の人々が着目するの。世界の秩序を乱す、国や民族や宗教を消せるんじゃないかって。未来の人々はこいつのプロトタイプと言うべきAIを次々に作り上げ、始めは一人の人間、次は家族、一族に一つの村、一つの町。消失という現象を徐々にスケールアップさせる実験を繰り返したの」

「えっ。家族や町を消すって、そんなことできるんですか?」

「忠四郎が言うには成功したみたい。そして、(つい)に国を消失させる段階まで実験が進んだの。その標的となった国が未来の日本」

「日本?」

「うん。未来の人々は、この世界から日本を消そうと実験しているの」

「え、ええっ! 日本を」

「うん。忠四郎は、その(ため)に現れたAI。こいつは私たちコスモスに宇宙海賊とかテキトーなこと言って、私たちを日本を消失させる(たくら)みに加担させてるの」

 

 妖精を指したブルーマリンの言に、この場にいる皆が動揺した。

 未来では、日本が消されようとしている。もし実験が成功して消されたら、日本は、世界は、自分はどのような有り様となるのだろう。照明が消されるように自分という存在が突然消えるのか。はたまた異次元の訳の分からない空間に飛ばされるのか。想像はできずとも得体の知れない恐ろしさを皆が抱く。

 皆の視線が妖精に注がれる。皆が驚きの目で妖精を見ている。これに、

 

「ちょっと待つベエ。何度も言うけどボクは逆に、この日本を守るために送られたプログラムだベエ」

 

 耐えられなかったか妖精が異を唱えた。

 妖精にブルーマリンが反抗する。その整った容姿を再び険しくし、疑いと軽蔑に満ちあふれた()つきで。

 

「ふん、もうだまされない。忠四郎こそ私たちの敵よ」

「日本を無くそうとしているのはブラックホール団だベエ」

「だから、彼らのことを悪く言うのは」

「今からそう遠くない未来、人類はラグランジュ3、つまり太陽の裏側にて、全てを吸い込むようなブラックホールの(ごと)き暗い物体を発見するベエ」

「…………」

「物体が無尽蔵に近いエネルギーを持つことを知った人類は、その暗い物体を〝トゥルーダークマター〟と名付けたベエ。そして、人類はトゥルーダークマターが持つエネルギーを基にタイムマシンを完成させたベエ」

 

 妖精がブルーマリンの言葉を遮り、人類がタイムマシンを完成させるまでの経緯を簡潔に話した。

 遂にプログラム、すなわちAIと妖精が認め、これにブルーマリンを除いた皆が息を()む。なおトゥルーダークマターという単語は、前に妖精が「人間の欲を具現化する物質」と述べたが、プログラムと自白した今となっては今更感があって誰も驚いていない。

 続ける妖精。無尽蔵に近いエネルギーがもたらした人の業を皆に説明する。

 

「さっきブルーマリンが言ったとおり、タイムマシンでは過去の改変は敵わなかったベエ。でも、それでも未来の主要国は、莫大(ばくだい)な国家予算を投じて極秘裏に過去改変の研究を勧めたベエ」

 

 妖精の言に環が声を上げる。

 

「あれ? べーちゃん、さっきブルーマリンが一部の科学者って言ってなかった?」

「一部の科学者も間違いではないベエ。過去を何としてでも変えようとする狂気的な科学者に、国がひそかにパトロンとして付いたんだベエ」

「はー、なるほど。あたしは理解できちゃうかも」

「でも、やっぱり過去は変えられなくて、研究は行き詰まるベエ。いくら優秀な人材と潤沢な予算をつぎ込んでも今が一向に変わらず、どの国も疲弊して過去改変の予算縮小を検討し始めたときだベエ。日本の名も無きある科学者が、〝時間の競合(タイム・コンフリクト)〟という論文を世界に発表したベエ」

 

 未来から現れたAIの妖精が、ブルーマリンの聞いていない未来を皆に聴かせており、これにブルーマリンが目を見開いている。

 

「全く違うアプローチで過去の改変を提唱した論文に世界が目を見張ったベエ。それと同時に、出所が日本で安心したベエ」

「なんで日本で安心したの?」

「タイムマシンは世界の共有資産として管理されていて、日本にタイムマシンを独占できるほどの力がなかったからだベエ。研究に行き詰まっていたこともあって普段いがみ合っている主要各国が、一致協力して論文の実証を始めるベエ」

「へー」

「そして実証の結果、論文の正しさが証明されたベエ。過去を変えられることが分かった主要国は、新しき世界の秩序を(ひょう)(ぼう)して消失の実験を繰り返すベエ。あとはさっきブルーマリンが言ったとおりだベエ」

 

 妖精の説明に応じる環が、トゥインクルと彼が納得し、ブルーマリンも()(ぜん)とした顔を浮かべながらも驚きを隠せないでいた。

 新しき世界の秩序。それがただの未来の主要国に(あだ)なす存在の排除と言うのなら、なんと傲慢な考えだろう。世界は善と悪、美と醜、明と暗、それぞれが両立して成り立っており、どちらかが欠けるなんて有り得ないのだ。

 トゥインクルが妖精に疑問を呈す。未来の主要国は、日本から生まれた「時間の競合」なのに、その時間の競合を使って日本を消そうとしている。

 

「ねえべーちゃん。その論文って日本が出所なのに、その日本を消そうとして大丈夫なの?」

「大丈夫なもんかベエ。日本を消してしまったら世界はどうなるか、もうボクにも想像が付かないベエ。未来の主要国は控えめに言って狂ってるベエ」

「ええっ」

「過去の改変に疑問を呈す人間もいて、時間の競合の出所である日本を消せば過去の改変も逆説的に防がれる、って考えに基づいてる節もあるベエが、それにしても滅茶苦茶だベエ」

 

 未来のAIである妖精が、独善的でやり方を問わない未来の主要各国に毒を吐いた。

 そして妖精が皆にダメ押しする。皆の目が疑いから驚きに変わり、一定の信頼を取り戻したことを確信して。

 

「みんなが持つハロウィンズミラーにユニヴァーデンスクロック、ブラックホール団が持つアリマニドは、いずれもトゥルーダークマターから生成された未来のツールだベエ。この未来のツールを使って日本の消失を加速させようとするブラックホール団は、絶対に止めなくちゃならないベエ」

 

 コスモスと敵が持つ力の供給源が、未来の発明品であることを明かした妖精だが、一人納得していない立場のブルーマリンが妖精を問い詰める。

 

「だからと言って、あなたに従うことが日本を守ることにつながるの?」

「それは」

「つながらないよね? だって、あなた私に言ってたじゃない。先進国の地位から降ろされた未来の日本は、相変わらず大国にぺこぺこして、自国の産業を(ないがし)ろにしてまで大国の生産品を買わされ続けてるって」

「…………」

「今と変わらないじゃない。そのうえ消されようとしているなんて。……忠四郎、むかし一緒に暮らしてたあなたは知ってるでしょうけど、私の家は乳牛を飼っていたのよ。牛乳が余ってるから牛を殺せ、なんて言う国を、あなたに従って守る価値なんてあるの?」

「ブルーマリン、何度も言うけど勘違いしてるベエ。ボクは、世界が二つに分かれ」

「やめて! もう聞きたくない。私の家は、あなたが守れって言う国に潰されたの。あなたこそ日本を(ほろ)ぼすAIよ。それだったら彼らと手を取り合って、今のこの国を壊して新しくするべきよ」

 

 ブルーマリンが、家業が国によって潰された過去を吐露した。

 数年前、ある感染症が世界を襲い、この被害を受けた我が日本は外出の自粛を国民に呼びかけた。マスクの常時着用、ソーシャルディスタンス、自粛は人々の生活に多大な影響を及ぼした。

 外出の機会が減ったことは食料品にも影響し、生乳の消費が著しく落ちた。この結果に国は乳牛の殺処分を酪農家に推奨する。酪農家にとって牛が要らないから殺せ、とはあんまりだろう。ブルーマリンの国に対する恨みを皆が理解する。

 

「あの、ブルーマリン」

 

 トゥインクルがブルーマリンの述べる呼称について尋ねる。

 

「ブラックホール団? へいず? ブルーマリンの言う彼らって」

「そう。彼らとは、ヘイズの人たちよ」

「な、なんで? 手を取り合うって、あの人たち敵なんじゃ」

「落ち着いて。みんながみんな敵って訳じゃないの。確かに彼らの中には私達コスモスを付け狙う人もいる。でもね、未来の力を人のために、みんなのために役立てようって人もいるの」

 

 敵をかばうブルーマリンにトゥインクルが口をつぐんだ。

 今までトゥインクル達は、力に溺れた利己的な敵と幾度も相対している。故に利他的な敵もいる、と言われてもにわかには信じられない。

 特に環は利己的な敵に友人を殺されている。なぜ敵の皆が皆そうじゃない、なんて言い切れるのか。

 

「なんでブルーマリンはそんなこと知ってるの?」

 

 疑問に思った環が訊くと、

 

「それは、ある人から教えてもらったの」

 

 と、ブルーマリンが答えた。

 

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