YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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便所の書き込みが人を殺す#因果は巡る糸車

「ある人、って」

 

 敵がコスモスを付け狙う悪い人間ばかりではないことを「ある人から教えてもらった」。そう告げたブルーマリンに環が()き返した。

 環は信じられずにいる。闇の力を、人の(ため)に役立てようとする敵がいることに。

 教えた人とは誰なのか。その答えに環が固唾を()む。

 

「それは、そのうち紹介するね」

 

 しかし、ブルーマリンは後日と、この場での回答を控えた。

 肩透かしを食らって釈然としない環を(しり)()に、ブルーマリンがトゥインクルに振り向く。それからトゥインクルの小さな手をとり、一枚の紙切れを渡す。

 

「これ、私の連絡先。落ち着いたら連絡してね、待ってるから。それじゃ」

 

 ブルーマリンが柔らかな笑みを浮かべ、自身の連絡先を記したメモの旨をトゥインクルに伝えた。

 そして、ブルーマリンが(きびす)を返し、飛び立つ(あお)い背を皆が見届ける。

 蒼き後ろ姿が彼方(かなた)に消え、渡されたメモに目を落としたトゥインクルが、

 

「ねえ鈴鬼くん、たまちゃん、どうしよう」

 

 (とし)が四つも上の人の誘いに乗るべきか惑ってしまう。

 ブルーマリンはトゥインクルに対しては物腰が柔らかだった。だが、妖精を終始批判し、敵をかばうような発言までしている。このような人物を信用していいものなのか、トゥインクルに尋ねられた彼は悩み、同じコスモスの環が親友からメモを受け取って連絡先に目を通したところ、

 

「連絡して欲しいベエ」

 

 妖精がトゥインクルと環に告げた。

 

「べーちゃん」

「ブルーマリンは、トゥインクルとリングレットを誘うはずだベエ」

「誘う? 何に?」

「それをその目と耳で確かめて欲しいベエ」

 

 妖精の頼みに、トゥインクルと環が目を見合わせた。

 誘いとは。そして何故(なぜ)誘うと分かるのか。疑問だらけで、そんな何が目的なのか分からない誘いに、妖精はひとまず乗って確かめろと言っている。

 妖精はこのようなとき、多くを語らないし教えもしない。それが分かっている環が追及を諦め、妖精とブルーマリンの関係の詳細、それとブルーマリンが「ある人」と言った人物について尋ねようとするが、

 

「べえ、ちゃん……」

 

 先の戦いで負傷したサンシャインが妖精を呼び、これに環が口をつぐんだ。

 サンシャインが妖精に訊く。このうずくまった体勢の先輩が振り絞る声に環は質問を控える。

 

「べーちゃんが未来からのAIって、今の人が、言ってたことってホントなの?」

「本当だベエ。ブルーマリンがバラさずとも、サンシャインとムーンライトにはそろそろ話そうと思ってたベエ」

「……なんで」

「だましていたことは謝るベエ。それで、サンシャインとムーンライトは、これからコスモスとしてどうするか、よく考えて欲しいベエ」

 

 妖精がサンシャインとムーンライトの前に移動し、膝を突く二人が浮かぶ妖精を見上げる。

 

「二人は〝(ぬえ)〟を知ってるかベエ?」

「……ぬえ?」

「多様な動物をごちゃまぜにしたキメラのような妖怪の事ベエが、転じてつかみどころがなく、得体が知れない者を指すベエ。ボクの正体に、終わりの見えない戦い、誰も褒めない寂しさに、確かめることができない正しさ」

「…………」

「生き残るコスモスの子は、ヒト故に例外なく見返りを求めるベエ。ある子はボクの正体を、ある子はボクの真意を、またある子は誰かからの愛を、またある子は己が貫く正義の証明を、だベエ。そう思い始めた子にボクは、ボクの正体と未来で起きている時間の競合、そしてこの国の未来を明かすことにしてるベエ」

「…………」

「あまり良いとは言えないこの国の未来を知って、それでもブラックホール団と戦ってくれるか、コスモスの一人ひとりに問うことにしてるんだベエ」

 

 褒めるということは重要である。人はそれで己の行動が正しいと確認し、迷いを捨てて行動する。

 人は褒められて己の成長を実感し、褒める方もその成長を認識する。褒めるという行為を大仰に言い換えれば導きと言い、意思疎通の基本にして真理である。

 妖精を見上げる二人。つかみどころのない、得体の知れない鵺のごとき妖精を。余談だが、「誰かからの愛」と言われてトゥインクルが、「己が貫く正義の証明」と言われて環が妖精に目を向けている。

 

「ブルーマリンは残念だけど、未来の日本に失望して戦いを放棄したベエ。でも、それはそれで構わないベエ。ボクはボクの選んだ子の意志を尊重したいし、それにボクの正体を知った子にボクは先の戦いを強いることはしないようにしてるベエ」

「…………」

「だから、ここから先は降りるのも自由だベエ。二人ほどの素質を持った子は(まれ)だから戦って欲しいケド、降りるというなら仕方ない、諦めるベエ」

 

 最後に妖精が二人に告げる。

 

「二人がボクを信じられないことは承知してるベエ。でも、これだけは信じて欲しいベエが、ボクがこの国を守るために現れたことは本当だベエ。一つの世界を二つに、なんて絶対に止めなくちゃならないベエ」

 

 姿を消した妖精に、

 

「なに、それ。どうして、すぐにどこか行っちゃうの……」

 

 サンシャインが顔に悔しさを(にじ)ませて泣き、ムーンライトは放心したようにうつむいていた。

 

 ――場所は変わり、遠く離れた某所。近年ベッドタウンとして再開発が推し進められている町の駅前に建つ、大手不動産会社が経営する大型ショッピングセンター屋上に、黒いスーツ姿の女が空から下り立つ。

 女が周りを見回し、人がいないことを確認する。

 

「ここまでくれば、大丈夫かしら」

 

 先にサンシャイン及びムーンライトと死闘を繰り広げ、ブルーマリンから見逃されたウルカこと那家(なか)(むら)美也子(みやこ)が息をつきながら腰を下ろした。

 ヘイズに所属する美也子は、この日本に住む全ての醜い男の排除を願っている。アリマニドと呼ばれる黒い玉をその身に宿すヘイズは、コスモスの子を殺害すると願いを(かな)えられるルールがあり、それでヘイズはコスモスを付け狙う。

 醜い男の排除という願いを叶えたい美也子は、先にコスモスを襲って交戦したのだが、サンシャインとムーンライトの二人に撃退された。説明が遅れたが、ヘイズとは妖精の言うブラックホール団のことで、コスモスの敵である。

 

 今から十二年前、美也子は恋愛の末に結婚した。

 美也子の相手は、お世辞にも強いとは言えず、周囲から侮られるような頼りない男性だった。芸能通からは「なんであんな冴えない男が那家村美也子と」なんて言われていた程である。だが、当時ニュースキャスターとして絶頂期を迎えていた美也子は、自分が支えればいいという気概で籍を入れた。

 程なくして娘を授かり、美也子は幸せで充実した日々を送っていた。だが、そんな日々は早くも崩れ去る。芸能界の大物に目を付けられていた美也子は、強姦(ごうかん)されてその様子を撮影された。

 動画を流布されたくなければ従え、と脅迫された美也子。そして、その事実を知った夫は、弱さ故に首をくくってしまう。

 

 しかし、真実が白日の下に(さら)されるとは限らない。芸能界ならなおさらである。

 誰もが憧れるニュースキャスターの夫の自殺。このニュースをネットその他が面白おかしくなじった。特に匿名(とくめい)掲示板には「冴えない男の育て方w」「無相応な結婚をするからだ」といった書き込みがあふれかえる。

 愛する人の死を皆が嗤《わら》い、美也子に味方は誰もいなかった。キャスターを辞職し、酒におぼれながら自分と夫を中傷した有象無象の者たちを憎んでいたところ、「あのお方」が現れて美也子はヘイズ入りを果たす。

 闇の力(アリマニド)は美也子を変えた。人一人など容易(たやす)(ひね)り潰す闇の力を手にした美也子は、その力をもって強姦した男を殺した。そして、中傷した者たちを全て独身男性とみなし、美也子はジェンダーの平等などと言ったSDGsという正当性を掲げて抹殺しようとしている。

 

「ここにいましたか、ウルカさん」

「エクリプス君」

 

 腰を下ろす美也子の前に、顔の右半分を覆った仮面をかぶる青年が現れた。

 黒のチェスターコートを着用する青年は、ヘイズに所属する美也子の同志である。ヘイズに属する者は、黒い装いで身を固め、素顔を仮面で一応は隠す暗黙の了解が定められている。

 美也子が尋ねる。青年は美也子が弟のように思っている同志であり、

 

「よく私がここにいるのが分かったね」

 

 故に美也子が気を許した表情で訊く。しかし、

 

「フフッ、後を()けましたから。追いかけるのは少々苦労しました」

「は? 後を、尾けた?」

 

 青年が澄ました顔で吐いた不穏な表現に、美也子は思わず語尾を上げた。

 そもそも何の用で青年は現れたのか。意図が読めずにいる美也子をよそに青年が告げる。

 

「今だから告白しますけど、僕はコスモスの子を殺してしまったことがあるのですよ」

 

 初耳の美也子だが、今なぜそんな話を、と(いぶか)りながら相槌(あいづち)を打つ。

 

「へ、へえー。そうなんだ、初耳なんだけど」

「知らないのも当然です。ウルカさんがヘイズに入る前の話ですから」

「それで?」

「とても後悔しました。どうして殺してしまったのだろう、どうして戦わなければならなかったのだろう、と。それからです、僕が戦わずにこの国を壊す道を模索し始めたのは」

「そんな経緯(いきさつ)があったんだ。でも、なんで今その話を?」

「ここで伝えておきたいことは、僕もあなたと同じく人殺しです。臆しているわけではありません、必要とあらば、僕は躊躇(ためら)いませんので」

「……えっ?」

 

 青年が美也子に襲い掛かった。

 美也子が着る黒のスーツを、青年が無理やり脱がせ、スーツの下に着ている黒のシャツを破るように剥く。

 

「いやっ! なっ、何をするの!」

 

 ブラジャーをさらけ出した美也子だが、劣情をもよおす青年ではなかった。

 青年の狙いは別にある。その狙いとは、美也子が体に植え付けた黒い玉(アリマニド)。美也子の体を遠慮なくまさぐり、黒い玉を引きずり出す。

 ヘイズは黒い玉(アリマニド)を壊されると闇の力を失う。その玉を握り潰した青年が、力を失った美也子の左腕を引っ張り、屋上の端まで強引に連れる。

 

「な、何のつもりなの!?」

「ヘイズ随一の強さを誇るあなたが弱るのを、首を長くして待っていました」

「……ま、まさかっ」

「そのまさかです。あなたみたいな人を葬るのに躊躇いはない」

「どうして!? こんなの納得いかないわ、私があなたに何をしたっていうの!?」

「あなたに殺された同志もそう思ったでしょう。僕は知っています、あなたが犯した許されない行為を。あなた同志にまで手をかけていましたよね?」

 

 醜い男性を憎む美也子は、ヘイズの男も殺していた。

 黙る美也子を、青年が無慈悲な目で見つめる。

 

「僕が知る限りでも四人は殺してますよね? 同志に手をかけるのは見逃せません」

「エクリプス君、やめて、お願い! 私には娘のためにやらなきゃならないことがたくさんあるの!」

「フッ、今さら悔いたところで遅いですよ。地獄で殺した同志に()びてください。それに、気に入らないものをことごとく排除しようとするあなたは僕が最も嫌う人の(たぐい)です。あの子からも許可はもらっています、すみませんが死んでください」

「やだっ、いやああぁっ!」

 

 青年がつかむ美也子の腕を、屋上の外に向かって放り投げた。

 

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