YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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トキメキを運ぶ リアルな時が止まる

 線路は続くよ、どこまでも――。なんてことはなく、僕たちがいま乗っている列車の路線は山梨県の県庁・八代(やつしろ)()を終点とする。

 今は二月、列車が冷たそうな川を沿って走っている。ローカル線に乗る僕たちは、山梨県の南部に位置する()(おん)(ちょう)という町に向かっていた。

 

 僕の名前は(すず)()()()(ろう)明倫(めいりん)中学校に通う中学一年の男である。

 無味無臭。友人にそう言われる程パッとしない。趣味なんて言えるものは特になく、強いて挙げるならゲーム、だろうか。

 自分を上中下の更に上中下で表すと、勉強は中の下くらいだった。最近は勉強をしているおかげか、中の中くらいには成り上がったかな、と思っている。でも、運動は下の中、おまけに背はクラスの男で前から並べば二番目に低い。

 僕は、取り柄らしい取り柄など皆無な人間だ。人は何かになれる、なんて何かのキャッチフレーズで聞いた覚えがあるけどなれる気がしない。きっとこの先も平々凡々な人生を送り、他人に迷惑をかけないよう慎ましく生きるのだ、と思っていたけれど、

 

「ねえ鈴鬼くん、わたし山梨って行ったことないんだ。鈴鬼くん行ったことある?」

 

 僕たちが座るボックス席、僕の向かいに座る彼女が川を眺めている僕に()いた。

 彼女に振り向いた僕が「八代に一度だけなら」と返事する。今日も度の強い眼鏡をかけている彼女は庚渡紬実佳さんと言い、僕がこの世で一番好きな女の子だ。

 クラスメートの彼女は、小さくて愛らしく、今の眼鏡をしている姿も可愛いが、眼鏡を外したら更に可愛い。そして、なんと地球を守る変身ヒロインであることを僕だけが知っている。――いや、地球を守るという名目はこのまえ否定されたのだった。僕は五か月前、彼女の変身した姿を偶然見て一目ぼれし、友達の関係を申し込んだ。まだ告白する勇気はないが、あと一月すれば半年だ。そろそろ進展するべきなのでは、と思っている。

 

「はー。紬実佳ー、トロピカらないよ、もう電車飽きたー」

 

 僕たちがローカル線に揺られること約一時間半、彼女の隣に座る坎原さんが長い旅路にぼやいた。

 坎原環さん。東京から引っ越してきたクラスメートで、彼女と同じく変身ヒロインな彼女の親友にして相棒である。とても良い容姿をしており、一見ではクールな印象を人に抱かせる。

 学校の男子から人気のある坎原さんだが、そんな坎原さんが割とポンコツであることを僕は知っている。ピーマンが苦手だったり、変にオタクなところがあったり、お化けを怖がったり。断っておくが優越感などない。彼女といつも一緒にいるから目につくのだ。

 

「まあまあ。たまにはこういうのんびりとしたお出かけもよくない?」

「うー。特急乗ろうって言ったのにー」

 

 ニコニコと彼女がなだめ、これにぐずった坎原さん。二人の性格が表れた一コマであった。

 僕と彼女と坎原さんは、ローカル線に乗って先述した久遠町に向かっている。朝早くに出発したので十時前には到着するだろう。

 彼女が「これをおかずにごはんが食べられる」と豪語する好物「中野こんぶ」を取り出し、それを坎原さんに差し出す。すると、坎原さんがパクッと(くわ)え、この光景に僕が「まるで餌付けみたいだ」と思ってから外を眺めると、

 

「次はかぞね、(かぞ)()

 

 車内から次の停車駅のアナウンスが聞こえ、電車が減速を始めた。

 程なくして電車が停止する。僕たちが乗るこの列車はローカル線のために扉は自動で開かない。開ける場合は扉の横に備え付けられたボタンを押して降車する。

 中野こんぶを()み込んだ坎原さんが僕に尋ねる。

 

「鈴鬼くん、あと何駅ー?」

「えーと、四駅だね」

「まだ四駅もあるのー? はー、もーちょっとだけどまだまだだねー。こっちって、駅と駅の区間ながいしー」

 

 東京育ちの坎原さんが背もたれに背を預け、宙をだらしなく仰いだ。

 白い首を(あら)わに上を向く坎原さん。だが、思い直したように首を縦に振って体勢を直し、

 

「紬実佳」

 

 親友の彼女を呼ぶ。

 

「なに?」

「乾出さんと巽島さんなんだけどさ」

「あ、うん」

怪我(けが)は治ったみたいだけど、誘える雰囲気じゃなかったよね」

 

 陽さんと美月さんの先輩二人は、以前の戦いで病院通いの怪我を負った。

 怪我は完治した旨をいま坎原さんが述べたが、体の怪我より心の傷が深刻のようで、先輩二人と付き合いの長い彼女によると、妖精の正体と、妖精がいまだ何を考えているのか分からないのが余程こたえているよう。

 本当なのだろうか、妖精が、未来から現れたAIと言うのは。いまだ信じられず、夢のように感じる。

 

「やっぱべーちゃんに(だま)されてたことがショックだったのかなぁ」

「そうだねたまちゃん、ショックだったと思う。陽さんと美月さんって、コスモスになる前はすごい仲わるかったみたいだし」

「え、そうなの紬実佳? あの二人が仲わるかったなんて、ちょっと信じられないんだけど」

「いつもいがみ合ってて、顔も合わせたくないくらい仲わるかったんだって。でも、コスモスになったことがきっかけで仲良くなったみたい。だから陽さんと美月さん、べーちゃんを信じたかったんじゃないのかな」

 

 彼女が明かした先輩二人の過去に、坎原さんのみならず僕も目を瞬かせた。

 先輩二人にとって妖精は(かすがい)なのだろう。だが、その鎹が、今は信じることができない。

 坎原さんが下を向いて彼女に訊く。

 

「乾出さんと巽島さん、コスモス、やめちゃうのかな」

「分かんない。辞めて欲しくないけど」

 

 寂しげな坎原さんの問いかけに、彼女も同じく下を向いて答えた。

 どこまで本当なのだろうか。今までの妖精を(かんが)みると、未来のAIと言われて一応の納得を示せるが、それでもコスモスではない一般人の僕にはいまいち信じられない。

 僕は、妖精と一対一で話したことがなければ、その恩恵、と言っていいのか分からないがそれも受けたことがない。常に戦いを見ているだけの傍観者である。妖精に見込まれた彼女や坎原さんなら信じられるのだろうか。

 陽さんと美月さんは、妖精に騙されたうえ、「これ以上戦いを強いることはしない」と頼られなかったことで、(あお)い戦士と妖精のどちらを信じるべきか迷っているのでは。そう彼女は前に言っていた。

 

「久遠、くおんー」

「やっと着いたー」

 

 しばらくして三駅を通過し、車内のアナウンスに坎原さんが立ち上がった。

 僕たち三人が電車を降りる。それから改札を抜け、駅前に出る。

 駅前は広いロータリーがあるだけで、特に目を引く建物は見当たらなかった。地元より田舎だ、なんて僕が同じ田舎育ちのくせに思ってしまう。

 

「あっ、ゆ●キャンのバス」

「ほんとだ」

 

 久遠町が舞台のアニメキャラが描かれたバスを僕たちが発見すると、

 

「紬実佳ちゃん、坎原さん」

 

 女の人の声が二人の名を呼んだ。

 振り返ると、ダウンジャケットにジーンズ姿の落ち着いた格好をした女の人が手を振っている。

 

「無事着いたみたいね。よかった」

「〝伊井兌(いいだ)〟さん。こんにちは」

 

 彼女が「伊井兌」と呼んだボブカットの女の人がほほえんで挨拶する。

 

「いつもの姿では初めましてね。私、伊井兌(いいだ)唯紗奈(いさな)。ブルーマリントリアイナ」

 

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