YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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薩長同盟? 食パンチートデイ

「ヘイズ」

「はい。ヘイズでは、〝エクリプス〟と呼ばれています」

 

 尋ねた坎原さんに望搗という人が認めた。

 ヘイズとは、妖精が言うところのブラックホール団にして敵だ。彼女に陽さんや美月さんが苦しめられ、坎原さんに至っては友達を殺されている。

 現れた突然の敵に、僕たちが立ち上がって身構える。しかし、

 

「誤解しないでください。僕は君たちと争う気などありません」

「争う気が、ない?」

「はい。ですので、どうか警戒を解いて座ってください」

 

 敵は穏やかな笑みを浮かべ、()いた坎原さんを始めとする僕たちに着席を促した。

 僕たち三人が顔を見合わせ、疑いながらも腰を下ろす。これを確認した望搗という人もベンチに腰掛ける。

 向かい合って座った望搗という人が、テーブルに両肘をつけて手を組む。

 

「僕は君たちを誘いに来たのです」

「誘う?」

「はい。ヘイズとコスモス、未来の使者に選ばれた者同士が殺し合うなんてもったいないと思いませんか? 僕はそんな無益な争いを止め、この対立する両者が手を取り合う未来を作れれば、と願っているのです」

 

 敵同士が手を結んで協力する。望搗という人が、そんな(さっ)(ちょう)同盟(どうめい)(ごと)き提案を彼女と坎原さんに持ち掛けた。

 本気で言ってるのか。だが、ここには伊井兌という人にサンバイザーの子がいる。少なくともこのコスモス二人は手を貸しているのだろう。

 晴天の霹靂(へきれき)だ。坎原さんが、

 

「ちょ、ちょっと待って」

 

 困惑しつつも望搗という人の提案に声を上げる。

 

「今、未来の使者に選ばれた者同士、って言いました、よね?」

「はい」

「ってことは、ヘイズにもべーちゃん、いや、妖精みたいな存在がいる、ってコトですか?」

「そうですね。僕は君たちが言うその妖精に会ったことはありませんが、我々ヘイズにも、一目で未来から来た者だと分かる方がいますよ」

「……やっぱり、そうなんだ」

「はい。僕たちヘイズは、その方に選ばれて力を授かった者たちの集まりです。畏敬を込めて〝あのお方〟なんて呼んでいたりしています」

 

 望搗という人が認め、これに坎原さんが口をぽかんと開けていた。

 妖精は以前「ブラックホール団は素質があれば誰かれ構わず力を渡している」と言っている。そしてこの前、敵が隠し持つ黒い玉が、コスモスの子が持つ鏡や時を止める装置と同じ未来のツールと言っていた。

 坎原さんは未来のツールと聞いて予想していた、敵にも妖精に似た存在がいることを。だが、その敵がこうもあっさり明かすとは。僕が目を丸くする。

 断片的であった敵の情報がつながる。以前メテオと呼ばれていた()(とう)という人は、亡くなる前に会った妖精のことを「代理戦争の使者」と言っていた。コスモスは妖精に選ばれた光の戦士で、敵は敵側の使者に選ばれた人たち。あの人はこの戦い合う両者を指して代理戦争と表していたのだろうか。

 

「ヘイズとコスモス、僕たちは似た者同士。そう思いませんか?」

 

 似た者同士だから手を結ぶべきだ。そう問いかける望搗という人が、紙皿の上の食パンに目を向ける。そして、

 

「その食パン、食べましたか?」

 

 柔らかな笑みで彼女に訊く。

 

「あ、はい」

「作った自分が言うのもなんですが、おいしかったでしょう?」

「はい。こんなにおいしいパン、初めて食べました」

「フフッ、それはよかった。それは、未来のコムギから作られたパンなのですよ」

「え。未来の、コムギ?」

「はい」

 

 望搗という人が明かしたパンの正体に僕たちが衝撃を受けた。

 食パンを凝視する僕たち。気泡を含んだ白いパンの生地に、焼けたキツネ色のパンの耳。一見では変わったところがなく、特に疑いなく食べた食パンが、まさか未来に通じていようとは。

 未来の食べ物がここにある訳を望搗という人が説明する。

 

「未来のコムギは今よりはるかに品種改良が進んでいまして、雨の多いこの日本でも安定した収穫が見込めるのです。収量性、耐寒耐暑に耐虫性、そして味。僕はあのお方から未来のコムギの製法について聞き出し、この集落で耕作放棄された畑を使って生産に励んでいます」

 

 僕たちが食べた食パンは未来に通じる、未来からの使者に選ばれた者しか作れない物だった。

 僕が目を瞬かせる。この望搗という人は違う。今までに遭ったコスモスの子を付け狙うばかりの敵とは大きく異なる。

 しかし、望搗という人は何がしたいのか。(うま)いパンを作りたいだけなのか。そんな訳ないだろう。未来の麦を作ることによる深い(たくら)みがあるのでは。そう疑う僕をよそに、

 

「ここに住む人にも試食してもらったのですが、ありがたい事に絶賛を頂いています。僕たちは近いうちベンチャー企業を立ち上げ、このコムギから作られたパンを売り出すつもりです」

 

 望搗という人が展望を示す。

 思い出される食パンの味。とても旨くてびっくりした。あの味なら必ずや成功するだろう。

 しかし、得をする人がいれば損をする人がいるのが世の中だ。未来の麦などというある意味チートな食物を、果たして世に広めて良いのだろうか。

 

「あの」

「うん?」

 

 訊き返した望搗という人。僕がつい声を上げてしまった。

 

「どうしましたか?」

「ええっと、パンは確かにおいしかったです。ですが」

「ですが?」

「それだと、今ムギを作っている人の立場というか。そういうのは、いったいどうお考えなのでしょうか?」

 

 僕が勇気を振り絞って話した質問に、望搗という人が目を大きく開いた。

 機嫌を損ねただろうか。言った後になって後悔する。失念していたが、目の前の男は僕など()(やす)くひねり潰せる恐ろしい力を持った敵なのだ。

 心臓のバクバクが止まらない。だが、望搗という人は表情を和らげ、

 

「フフッ、君の言うとおりだ。いま一生懸命ムギを作っている農家からすれば、先の時代のコムギなんてずるいよな」

 

 砕けた口調で僕の意見を聴き入れた。

 

「その点は安心して欲しい、僕は金(もう)けがしたいわけではないんだ。僕たちの作るパンが旨いと世間に認められたら、未来のコムギの種子を日本中のムギ農家に提供するつもりだ」

「えっ。どうして? それでは、会社が成り立たないのでは」

「その心配も無用だ。未来のパンがこの国に広まったら、次は違う未来の作物を育てるさ」

 

 未練なく告げた望搗という人の答えに僕は驚いた。

 でまかせじゃなければ、未来の技術を一般に普及させるつもりらしい。それは私利私欲のない素晴らしい理念だろう。敵にまさかこのような人がいようとは。

 望搗という人に伊井兌という人やサンバイザーの子が信用をおくのも理解できてしまう。しかし、金儲けが目的ではないのなら何のために。ますます望搗という人の真意が分からない。

 

「ときに日本では、コムギの約九割を外国に頼っている事実を知っているかい?」

 

 いまだ疑いが晴れずにいる僕に望搗という人が尋ねる。

 

「いや、知らなかったです」

「僕の目的はこれにある。未来の麦を国内に広めることで、輸入コムギを駆逐することが目的なんだ」

「……どうして?」

「コムギの輸入は国家貿易によって定められている。政府は一定量のコムギを必ず輸入しなければならないんだ。このコムギの使い道がなくなればどうなるだろうか? 家畜の飼料に転用が考えられるが、いずれにしろ政府は打撃を被って輸入を見直さざるを得ないだろう」

「……そうなると、どうなるんですか?」

「輸出している国は怒るだろう。日本が買い取ることで見込めた安定的な収益が見直されるわけだからな。その結果日本政府の信用が落ちるわけだ。外交に支障をきたすだろう」

 

 風が吹けば(おけ)屋が儲かる。当てにならぬものの(たと)えだが、思わぬ結果が生じる喩えでもある。バタフライエフェクトとも言う。

 飛躍に聞こえる。望搗という人の話は普通なら眉唾ものの与太話だろう。だが、実食した身として断言してもいい、未来のパンの味に(うな)らぬ者はいない。

 望搗という人が野望を明かす。

 

「このように輸入に頼っている作物を一つずつ駆逐することで、僕は今の日本を壊すつもりでいるんだ」

 

 やはり敵だった。この望搗という人も国を破壊しようとしている。

 だが、反対しようとは思わず、むしろ感心してしまった。僕は日本人だが、今の国にそこまで愛着があるわけではない。選挙権もないし。それに破壊と言うよりは変革だ。力に頼らず国を変えようとしている。

 何よりも血を見ることがない。コスモスの子、とりわけ彼女を害さなければ僕としては文句はない。そして、日本人は食へのこだわりが強いと言われている。食の力を背景とした望搗という人の破壊、成功してしまうかもしれない。

 僕が望搗という人を改めて見直す。今までの敵とは異なる理性と賢さを感じる。()(えん)で時間の要る手段ではあるが、成功すれば今の国に大打撃を与えられるだろう。

 

「どうでしょうか? 君たちには、僕の事業に是非とも手を貸して欲しいのです」

 

 望搗という人が手を組み直して申し込んだ。

 彼女と坎原さんに呼びかけている所為(せい)か望搗という人が口調を直し、改めて協力を依頼する。

 

「ヘイズとコスモス、僕たちは選ばれた者同士です。僕たちが主導となってこの国を作り直(リビルド)しましょう」

 

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