YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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三顧の礼 一つでも喜んでしまう安い心

 望搗という人の誘いに、僕たちが顔を見合わせる。

 

「お願い、私達に協力して。この国は変わらなきゃダメなの」

 

 すると伊井兌という人が右手を胸にあて、まるで我が事のように協力を訴えた。

 そして目を落としてつぶやく伊井兌という人。その整った顔から(にじ)み出ている悔しさを僕が感じる。

 

「聞いたと思うけど、私の家では牛を飼っていたの。でも、生乳廃棄のニュースは知ってるでしょ? (うち)は小さな牧場だったから、搾った牛乳を引き取ってもらえなくて……」

 

 数年前、ある感染症が日本に流行した。二十世紀初頭に世界を襲ったパンデミック、スペイン風邪(かぜ)彷彿(ほうふつ)させる症状に人々は恐怖した。

 国は感染症を受けて外出の自粛を国民に要請した。その結果外食は控えられ、生乳の消費が落ち込んだと聞く。また、学校はオンラインの授業が勧められて給食がストップし、給食に付き物だった牛乳が飲まれなくなったことで、牛乳が余る事態に陥ったと聞いている。

 これもニュースか何かで聞いた話になるが、僕がまだ小さなころ、バターを始めとした乳製品が品薄になる事態が発生した。それがあって政府は畜産を推奨し、生乳の増産を目指したのだが、その成果が出始めた矢先に感染症が流行(はや)った。余る生乳に政府は政策を一転し、牛の処分を酪農家に勧めている。

 

「牛乳が搾れるようになるまで私が育てた牛だっていたの。追い打ちをかけるように飼料代まで高くなって……。もうあんな思いは二度としたくない。お願い、私達に協力して、この国を一緒に変えましょう」

 

 伊井兌という人の不本意ながらも処分せざるを得なかった(おも)いが、同じコスモスの彼女と坎原さんを誘った。

 いま廃業する酪農家が多いと聞く。生乳の需要低迷に加え、飼料を輸入に頼る日本では、円安が原因で飼料の高騰が止まらないらしい。無学な僕の耳にも届くくらいだ、それほど逼迫(ひっぱく)しているのだろう。

 続いてサンバイザーの子が、

 

「あたしからもお願いするっス。あたし小さな頃からソフトボールやってて、オリンピックを目標に打ち込んでたんでスが、そのオリンピックが汚職にまみれてたなんて……。国は神聖なる祭典をなんだと思ってるんでスか、こんなの許せないっス、アスリートを侮辱してるっス」

 

 鼻息を荒くして国への批判をぶちまけた。

 感染症の流行と同時期に日本では五輪が開催された。一部を除いて無観客で行われたことは記憶に新しい。

 東日本大震災の直後に決まった開催は「復興五輪」と称し、低予算で済む金のかからない五輪のはずだった。だが、いざ始まってみれば、予算は倍に十倍と(とど)まることなく膨らみ、加えてロゴの盗用に主催側の失言など様々な不祥事を糾弾され、極めつけは五輪に関われる国内のスポンサーが全て裏で決まっていた。

 五輪は確か、世界が注目するスポーツにして平和の祭典だ。それを一部の政治家と企業が(もう)けるために私物化した。サンバイザーの子にしてみれば夢が大人によって汚された。その憤りは僕なんかが推し量れるものではないだろう。日本で開催したことに意義があるのかもしれないが、結局復興とは何だったのか、などと僕とて考えてしまった。

 

「俺からも頼むよ。俺と芳子はヘイズなんだけどさ」

 

 続けて枯林という男が、敵であることを明かした上で彼女と坎原さんを誘う。

 

「俺はヘイズじゃ〝アトラクト〟って言うんだ。ヘイズに入ったばかりの頃は願いを(かな)えるためにコスモスを殺すことばかり考えてたんだけどさ、望搗さんに出会ってオレ気付いたんだ。この人に協力すれば、コスモスと殺し合いなんかするより、ずっと大きな願いを叶えてみんなの(ため)にもなるんじゃ、ってさ。俺たちは選ばれたんだ、そんな俺たちにしかできねえことやって、この国の人を幸せにしてやりてえじゃん?」

 

 語った男の瞳は純粋に輝いていた。

 未来の使者に選ばれた者だけが抱ける夢。それは、国を変えることすら可能な期待。そんな思いに胸を膨らます男を僕は羨ましく感じた。

 そして、みじめな思いにも駆られる。選ばれていない僕はレールに沿って生きるだけである。

 

「な? 俺たちが手を組めば、この暗くて先行きのない国を変えられるんだ。望搗さんの下で一緒に働こうぜ? それに、君たちみたいな可愛い子と殺し合いなんかするより仲良くなりたいし。オレ彼女募集中、なんつって」

「だからやめなさい」

「あいてっ!」

 

 双子の姉が下心を出した弟の頭を(たた)いた。

 痛がる弟に「みっともない」と双子の姉が息を()いた後、

 

「うちのバカが何度もごめんなさい。でも、私からもお願い。この国を一緒に変えましょう」

 

 にこやかに笑って彼女と坎原さんを誘う。

 

「私はヘイズでは〝レポース〟って呼ばれてるわ。私達の他にもヘイズは三人、望搗さんの事業に参加しているの。伊井兌さんと苗ちゃんってコスモスの子もいるし、あなたたちも望搗さんの事業に参加して、大きな願いを私達と一緒に叶えましょ。ね?」

 

 他にも協力者がいることを双子の姉が告げた。

 敵は望搗という人を含めて六人、そしてコスモスが二人。未来の知識を(もっ)てこの国を変えようと意気込んでいる。

 熱烈な勧誘に彼女と坎原さんが顔を見合わせる。その隙を突くように一人年長者の向かい合う望搗という人が、

 

「ときに君たちは、メテオと名乗る男の人を知っていますか?」

 

 尋ねた名前に、彼女と僕がビクリとした。

 メテオとは、彼女と陽さんと美月さんが死闘を繰り広げ、命を落とした井沓という人の名だ。まさか、つながりがあったのだろうか。

 見つめる望搗という人の瞳に僕と彼女が息を()む。しかし、

 

「あの人が君たちと戦って命を落としたことは知っています。ですがそれを責めるつもりはありません」

 

 恨まない。そう望搗という人が言い、

 

「あの人は死に場所を探しているようでした。最後まで戦えて本望だったでしょう。ありがとう、あの人に付き合って頂いて」

 

 なんと僕と彼女に頭を下げた。

 僕と彼女が呆然(ぼうぜん)とする。まさか礼を言われるとは。人間が出来ていると言うか、よくも割り切れるものである。

 本当に大人なんだな、などと僕が望搗という人に感服してしまう。そんな僕をよそに、サンバイザーの子が紙袋から次の食パン一斤を取り出し、クロスの上に乗せて次々にスライスする。

 

「さあさあさあ、もっとパン食べるっス」

「苗、もう十分でしょ?」

「まだまだっス。たらふく食べて、コスモスの話を聞かせて欲しいッス」

 

 サンバイザーの子が伊井兌という人の止める声も聞かず、実に明るい笑顔でパンを勧めた。

 妖精が言ったとおり、伊井兌という人は本当に彼女と坎原さんを誘った。妖精はなぜ分かったのだろう。しかし、僕はコスモスではない一般人だ。お呼びではないのは分かっている。

 証拠に伊井兌という人もサンバイザーの子も双子の二人も、先から僕の方など見てなく、おまけ程度にしか見ていない。何故(なぜ)ここに一般人が、という思いをありありと感じ、こうも露骨だと辟易(へきえき)してしまう。

 

「ところで、君の名は?」

 

 ()ねた僕の心を突くように望搗という人が僕に尋ねた。

 

「僕ですか?」

「ああ。よかったら聞かせてくれ」

「は、はい。鈴鬼小四郎と申します」

「君はコスモスなのか? コスモスで男は聞いたことがないが」

「それは」

 

 僕がなぜか、敵とコスモスが戦う時が止まった空間内で動けてしまっていることを話す。

 

「なるほど、コスモスではないのか」

「おかしいですよね? コスモスではない僕なんかがここにいるなんて」

「いや、そんなことはない。むしろ僕は、君みたいな人を探していた」

「えっ?」

「君もぜひ、僕たちの仲間に加わってくれ」

 

 びっくりした。国を変えるべく事業を起こそうとする望搗という人が、コスモスでも何でもない僕なんかを誘った。

 望搗という人が私見を述べる。

 

「コスモスでもヘイズでもない普通の人。そういう人からしか得られない意見が必ずあるはずだ」

「そ、そんなものですか」

「ああ。それに君は、中々賢い」

「かしこい?」

「うん。さっきの意見、中学生とは思えないな。事業を成功させるためには、ヘイズでもコスモスでもない君の意見が欲しい。鈴鬼くん、君もぜひ我々の仲間になることを検討してくれ」

 

 僕を誘う望搗という人の目は真剣だった。コスモスでもない僕が、こんな賢い人に誘われるなんて。戸惑ったものの、少しうれしかった。

 

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