YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー 作:豚煮真珠
「いくら良い顔しようとも所詮はブラックホール団、必ず馬脚を現すベエ」
僕が憧れを感じた望搗という人を、妖精は悪と断じた。
なぜ悪いのか。いや、そもそも妖精は、なぜ敵をすべて悪と決めつけているのか。
敵は確かに恐ろしい。僕自身暴行を受け、手術をした程の
「なあ。忠四郎は」
「なんだベエ?」
「敵に関して何を知っているんだ? あの人らがこの国を壊そうとしているのは分かってるけど、それの何がいけないんだ?」
敵の目的は日本の現体制を破壊することにある。だが、それの何が悪いのか分からなかった。
この国の政治家や官僚は国民に負担を課している。消費増税に物価の上昇は中学生の僕すら重荷に感じるほどだ。それでいて政治家らは自分の身を切りはしない。庶民に負担を押し付けて涼しい顔をしている。
こんなニュースを最近耳にした。経団連の会長が、国に更なる消費増税を求めるニュースを。シングルマザーや生活保護受給者など日々の生活に苦しんでいる人がいるにも関わらずだ。今の日本は控えめに言っても腐敗していると思う。そんな国を守る価値などあるのだろうか。
伊井兌という人やサンバイザーの子が国に怒るのも
「スズキ。国を壊すということがどういうことか分かっているベエ?」
そして妖精が僕の返答を待たずに僕を問い詰める。
「オマエが毎日三食食べれるのも、毎日学校にのほほんと通えるのも、全て今の国があるからだベエ。オマエはそんな平和が壊れた方がいいとぬかすベエ?」
「そんなことは言ってないよ。でも、ニュースでよく言ってるじゃないか。増税だの、海外へのバラマキだのって」
「確かに生活に困ってる人間は苦しいと思うベエが、それでもいま程度の増税で平和が保たれるなら安いもんだとボクは思うベエ。それにバラマキは外交の一環だベエ。日本は所詮東洋の小国、言い方は悪いケド金で信用を買って、日本は良い国って印象を他国に与えてるんだベエ」
「…………」
「スズキ、資本主義国家におけるニュース番組は、民営である以上いかに数字を稼ぐかに重点が置かれているんだベエ。例えば政治家は法律を作ったり予算を決めたりするのが仕事だベエが、そんな政治家にとって普通の仕事をニュースに流しても誰も観ないベエ?」
「……そうだね。面白くなさそうだもの」
「逆に賄賂やスキャンダルなど不祥事が発覚すれば、エリートが糾弾される様を喜んで観るベエ? 資本主義国家におけるニュースは、こう言っちゃアレだベエが、バカな視聴者の興味を
「…………」
「批判するなんて誰でもできるベエ。報道されないから知らないだけで、国はスズキが思ってる以上に仕事してるベエ。国が壊れるということは、警察や自衛隊など当たり前に身を守ってくれているモノがなくなり、いつ命が危険にさらされるか分からない状況に陥るベエ。こんな話をしている今この時も、理不尽な暴力の犠牲になってる人がいることはスズキ分かってるベエ?」
「ウクライナの人々や、ガザ地区の人々とかか?」
「そうだベエ。その他ニュースにはならないケド、理不尽な目に遭っている人は山ほどあって腐るほどいるベエ。スズキは日本に住んで、不満を好きなだけ垂れられるこの状況をありがたく思った方がいいベエ」
たしなめられてしまった。
僕は生活に困っているわけではないし、国を変えようという気概を持っているわけでもない。妖精の言うとおりなのだろう。
しかし納得がいかない。僕は、日本の現体制を丸ごと壊す、などという極論をしたい訳ではない。僕が訊きたいのは、望搗という人の何が悪いのか。あの人は暴力に頼らず国を変えようとしている。
「忠四郎。話を大きくして、論点をずらそうとしてないか?」
「分かってるベエ。体はって戦ってるわけでないスズキが、ボクに向かって国を壊すなんて軽々しく言って欲しくないから
「そうか。悪かったよ」
「分かればいいベエ」
妖精が偉そうにふんぞり返って僕の誤りを受け入れた。
言われてみれば軽率だった。それは認めよう。しかし、この妖精、全然可愛くない。彼女を始めとしたコスモスの子たちはよくこいつに付き合えるものである。
突然あらわれて何様のつもりだ。外は寒いから、とか言って茶の催促までして。そんな
「ボクはコスモスの子たちにこの国の体制を守って欲しいわけじゃないベエ。スズキ、この前ブルーマリンが話した〝時間の競合〟を覚えてるベエ?」
時間の競合。前に伊井兌という人が話したことだが、それよりも僕は、妖精が「今のこの国を守れ」と言っているわけではないことに疑問を感じた。
妖精は、今のこの国を守るのではないのなら、いったい何を守ろうとしているのか。真意が分からない。
とりあえず妖精に答える。確か伊井兌という人は徳川家康で例えていた。
「時間の競合って、未来の主要な国々が日本を消そうとしてるっていう」
「そうだベエが、ちょっと違うベエ」
「?」
「消そうとしてるんじゃなくて、忘れられようとしてるんだベエ。スズキ、日本が世界から忘れられた場合、どうなると思うベエ?」
消すと忘れる。意味は全然違うが、この場合なにが違うのだろうか。
「どうなるのさ」
「世界が二つに分かれるベエ。日本が消えた世界と、日本だけが存在している世界と、だベエ」
「世界が、分かれる?」
「そうだベエ。ブラックホール団は、今の日本を壊すことで世界からの忘却を加速させ、そして日本だけが存在する世界を
どういうことなのだろうか。一つの世界が二つに分かれる、と言われてもピンとこない。
日本が存在しない世界と、日本だけが存在する世界。――と思ったところで、僕の脳内にひらめきが走った。
それは、SFでよく聞く単語だ。ありふれたアイディアとして
「それって、パラレルワールド」
「スズキ、オマエは中々察しがいいベエ。前にブルーマリンが世界は一つ、パラレルワールドは存在しないって言ってたベエが、ブラックホール団の狙いはここにあるベエ。日本が忘れられた世界と日本だけが存在している世界、世界を分けることで、今まさに
何を考えてるのか分からない妖精だったが、ようやく理解した。
日本だけが存在する、ある意味で取り残された世界。それがどんな世界なのか凡人の僕には想像もつかないが、少なくとも未来を知るAIの妖精にとっては有ってならない世界なのだろう。
日本が存在しない世界と、日本だけが存在する世界。敵は時間の競合とやらを進めることで世界を二つに分けようとし、それを阻止するために妖精が現れたのは分かった。しかし、
「分かったよ。忠四郎が守りたいって言ってるものが」
「分かったようで何よりだベエ」
「でも、あの望搗って人のやろうとしてることが、それとどうつながるんだ?」
「因果関係を訊いてるベエ?」
「うん。それだけじゃ納得できないよ。信用し過ぎかもしれないけど、あの人のやろうとしてることが、そのパラレルワールドとどうつながるのか説明してくれないと」
話を元に戻し、望搗という人の破壊が、世界の分割にどう関係するのか妖精に訊いた。
少なくともコスモスの子を害さない。それだけで僕は安心できてしまう。それに、
山梨で伊井兌という人が、未来のパンを食べた僕たちの感想を聞いて喜び、その後の望搗という人の登場にも喜んでいたが、きっと好きなのだろう。だが、理解できてしまう。あの人は男の僕からして見ても魅力的である。イケメンのくせに派手なところはなく、むしろ素朴さと実直さを察せられる上に賢い。
僕は、あの望搗という人に誘われた。何の取り柄もないこの僕を買ってくれたのだ。僕はあの人を信じてみたかった。
「確かにあの男、今は非の打ちどころがない人格者だベエ」
しかし妖精は望搗という人を前置きした上で悪と断じる。
「今は?」
「うむだベエ。あの男はいずれ変わるベエ。自分に逆らう者を眉一つ動かさずに処刑し、僅かな批判も許さない独裁者へと変わり果てるベエ」
「えっ。あの人が」
「全国民にIDチップを埋め込んだ厳戒な監視体制を敷き、そんな個人の人権など無視するディストピアな日本国の有り様に、未来の主要国家は危険とみなし、結果、時間の競合が早まることになるベエ」
そんなまさか。だが、妖精は未来からの使者だ。何度も言うが、妖精は彼女と坎原さんが誘われることが分かっていた。
畳み掛けるように妖精が告げる。僕にとっても誰にとっても残酷な、慈悲も希望もない暗黒の未来を。
「スズキ。エクリプスという男が創る未来をこれから見せてやるベエ。これを見ればスズキは、絶対にあの男の破壊を止めなきゃ、って思うはずだベエ」