YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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絶望の未来 クローズマイドリーム

 妖精が僕のノートパソコンを開き、電源ボタンを押した。

 立ち上がったパソコン。デスクトップ画面の表示を確認した妖精が、パソコン側面に手を伸ばしてDVDドライブのトレイを開くと、

 

「うんせ、だベエ」

 

 思わぬ妖精のアクションに僕が目を剥いた。なんと妖精の腹が、DVDドライブと同じように開いたのだ。

 腹から現れたのは一枚の光学ディスク。そのディスクを妖精が自ら取り出し、僕のパソコンにセットする。

 トレイが閉まり、なぞるような再生音がパソコンから鳴る。

 

「……なんだこれ」

 

 パソコンの画面には、波が荒磯(あらいそ)に向かって水しぶきを上げる映像が映し出されていた。

 間もなくして画面中央に、三角に囲まれた「藤映」という縦の文字がズームアップして映され、この意味の分からなさに僕が尋ねる。

 

「忠四郎、なんだよこれ」

「スズキは映画を観ないのかベエ? 映画は決まってオープニングから始まるもんだベエ」

「オープニングは知ってるけど、必要あるのか?」

「始まるから黙って観てろベエ」

 

 妖精の趣味のようだ。息を()きながら画面を眺めていると、

 

「……えっ」

 

 映し出されたショッキングな映像に、僕が思わず声を上げた。

 

「やめてっス! あたしまだ死にたくないっス!」

 

 目を疑った。だが、間違いない。かのフランス革命で用いられていた処刑具ギロチンが、パソコンの画面に映っている。

 断頭台の周りでは、数え切れぬ数の人々が観ている。ある人はひそひそと隣人に耳打ちしており、またある人は嬉々(きき)として首が落とされる瞬間を今か今かと待っている。だが、それら周りの人々はどうでもよくて、僕が目を疑ったのは首を差し出している女の人だ。首枷(くびかせ)をかけられ、今まさに処刑されようとしている女の人は、あの山梨で会ったサンバイザーの子だった。

 顔つきが成長しているようだがサンバイザーの子で間違いないだろう。衆人が見守る中、サンバイザーの子が公開処刑されている。

 

「な、なんだよこれ」

 

 僕が困惑しながら尋ねるが、妖精は無言で映像を見つめている。

 

「なんであたしが処刑されるっス! 厳しいからちょっと優しくした方がいいって言っただけじゃないっスか! ねえさん、聞いてるっスか!?」

 

 パソコンから響いた金切り声に、僕が今度は耳を疑った。

 いま確かに「ねえさん」と言った、映像の中のサンバイザーの子。そのそばに立つ軍服のような服を着た人に僕が目を凝らすと、顔が僅かに大人へと変化した、あの伊井兌という人だった。

 伊井兌という人がサンバイザーの子を冷めた目で見下ろしている。この二人の仲は僕が山梨で見た限り良好だったはずだ。

 

「ねえさん、お願いっス! もう逆らわないから殺さないでっス!」

 

 泣き叫ぶサンバイザーの子を、伊井兌という人が見下げながら右手を上げる。するとギロチンの刃が落ち、僕が目を背けるが、

 

「ここから先は自主規制だベエ」

 

 ザー、という音が鳴り、これに僕が視線を戻すと、画面にはノイズ、通称砂嵐が映し出されていた。

 首が落とされる場面を目にせず済んだ僕が心から息を吐く。

 

「忠四郎、なんなんだ今のは。なんで山梨で会った子が、殺されようとしてるんだ?」

「これがボクがシミュレーションした、エクリプスという男が(つく)る未来だベエ」

「…………」

「スズキの予想どおり、未来のコムギを使った(やつ)の事業は大成功を収めるベエ。安くて(うま)い主食に庶民は大喜びし、輸入に頼るばかりだった日本の食糧事情を一変させた奴は、この男こそ腐敗した日本を変える真の指導者と(たた)えられるベエ」

「真の指導者って。そんなに成功するのか」

「うむだベエ。イケメン且つやましいところがない人格も功を奏し、奴は民衆のみならず官僚や政治家からも支持を得て、あれよあれよのうちに日本のトップへと登り詰めるベエ。そして、奴は権力を手にして(ひょう)(へん)してしまうベエ。己が意に沿わぬ者を誰であろうと処刑し、全国民を徹底した管理の下に置く、共産主義国家も真っ青なディストピアを築き上げるベエ」

 

 妖精が予言した未来に、僕は空いた口がふさがらなかった。

 しかし、いくら妖精が言えども信じられない。たった十二年しか生きていない僕の目による洞察だが、望搗という人に私欲など欠片(かけら)も感じず、むしろ誠実さと利他的な思いを感じた。

 人は権力を得ると変わる。よく言われる言葉だが、そんな簡単に人は変わってしまうのだろうか。疑いたい僕に妖精が告げる。

 

「スズキ、あの男とてブラックホール団。もう何年も前の話になるベエが、コスモスの子を殺しているベエ」

「……そう、なのか」

「うむだベエ。それに奴には一つ、本人が隠している致命的な(きず)があるんだベエ」

「致命的なキズ?」

「父親が反社会的な人物だったんだベエ。その父親はもうとっくの昔に死んでるベエが、故にあの男は誰からも避けられ、常に不当な評価しか得られなかったんだベエ。そこを付け込まれて奴はブラックホール団に入ったんだベエ」

「……今まで認められなかったから、認められたことで変わってしまう下地があるってことか?」

「そうだベエ。奴は世に、それも大多数の国民に初めて認められて、その信頼を失うことに恐れるベエ。ボクの見立てでは未来のコムギで成功を収めた後、〝マスコ〟って名のジャーナリストが奴の父親を世に告発したことがきっかけで非情な独裁者へと変わってゆくベエ」

「…………」

「スズキ、次の映像が始まるベエ」

「まだあるのか」

「次はスズキにとって重大な映像を見せるベエ。今度は自主規制しないから、目を背けずにちゃんと観るんだベエ」

 

 パソコンのディスプレイが砂嵐から観られる映像に変わり、次に映し出された映像は、白い壁が映える廊下だった。

 廊下の片側には、閉め切られた鉄の扉が映し出されている。これに僕が、一度入院した経験から病院であることを推察する。

 扉のそばに備えられたベンチには、手を組む男と女性が座っている。この男女には見覚えがあり、気付いた僕が、

 

「あっ」

 

 声を上げる。男女は山梨で会った双子の成長した姿であり、手を組む男は落ち着きなく右足を上下させ、それを女がたしなめていた。

 程なくして、閉め切られた扉が開き、飛び出した看護婦に併せて赤ん坊の泣き声が聞こえる。

 元気な赤ちゃんが産まれましたよ。そう伝えた看護婦に双子が立ち上がり、――僕の心臓が大きく脈を打った。

 

 ――なんとなく妖精の見せたいものが分かった。

 心臓が荒ぶるように脈を打っている。酸素をいくら吸っても全然足りないくらいに息苦しい。嫌な脂汗が僕の額と背筋を、先からまとわりつくように()っている。

 映像の視点は、扉に入る男に合わせて動き出し、泣き声を上げる赤ん坊が映される。――見たくない。外れてくれ。そう願う僕の(おも)いなど(むな)しく予感は的中する。

 映し出された母親。成長しても相変わらず小さくて、とても満たされた笑みを浮かべている。そして、双子の男女が、――彼女と、彼女が産んだ赤ん坊を祝福している。

 

「……もう、やめてくれ」

 

 僕がうつむきながら妖精に乞うと、妖精は再生を停止した。

 どういうことだ。山梨で、彼女と枯林という男に交流なんかあったか。ずっとあの場にいたが、少なくともそのような交わりなど見受けられなかった。

 これから親交を深めるのだろうか。ひょっとしたら彼女が枯林という男を気に入っており、だから最近距離を感じているのか。涙が止まらない、こんなにも悲しいなんて。僕は未来において彼女と結ばれない。

 

「なんでだよ。こんなことって……」

「スズキ、オマエは真っ先に殺されるベエ」

「殺されるだって?」

「スズキはコスモスとブラックホール団を知る唯一の一般人だベエ。奴はスズキを不穏分子とみなし、いの一番に殺しにかかるベエ」

 

 僕は殺される。望搗という人が創る未来は絶望の未来だった。

 もうなりふり構っていられない。どんな手を使ってでも望搗という人の破壊を止めなければ。

 僕が妖精に尋ねる。妖精が僕の前に現れたということは、こんな僕にでもできることがあるのだろうか。

 

「忠四郎。今の未来、ウソじゃないんだな?」

「未来のAIであるボクのシミュレーションだベエ。十中八九間違いないベエ」

「分かった。僕はどうすればいい?」

「まずはトゥインクルを止めるベエ」

「庚渡さんを?」

「うむだベエ。トゥインクルは山梨での集まりに迷ってるベエ。スズキ、オマエの口から言って、トゥインクルをビシッと引き止めるベエ」

 

 涙をぬぐうと、唐突に周りから音が消えた。

 

「時が、止まった」

「スズキ、急ぐベエ」

「分かった」

 

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