YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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どくせん! 奪還作戦開始!

 家を飛び出した僕が、目をつむって耳を澄ませた。

 もう何度目になるだろうか、この時が止まった静かな空間内に僕が入るのは。初めて彼女と話をしたとき、妖精はこの空間を、時と時の隙間に挿入したコスモスだけが動けるプライベートな時空間と言っていた。

 空間はうるう年にちなんで「リープゾーン」と名付けていた気がする。そのリープゾーン内では、全ての物とあらゆる事象が停止しており、それでいつもなら聞き逃す微小な音を漏らさずに感じ取ることができる。

 僕が耳に意識を集中していると、左から話し声がかすかに聞こえた。そう遠くない、声に向かって全力で走る。

 誰よりも速く駆けろ。奪われる前に着け。彼女は、――僕のものだ。誰にも渡したくない、いや、絶対に渡さない。

 

「庚渡さん!」

 

 彼女を見つけた僕が息を切らしつつも大声で呼んだ。

 変身した黄色いドレス姿の彼女。お姫様のようでいて(りん)とした存在感も表すその姿に、僕が初めて戦う彼女を見た残暑の放課後を思い出す。

 彼女の前には、あの山梨で会った伊井兌という人とサンバイザーの子が、同じく変身した姿で立っている。サンバイザーの子は葉と果実のような装飾に覆われた黄緑色の衣装をまとっているが、今それはどうだっていい。彼女だ、彼女を止めなければ。

 

「鈴鬼くん」

「ダメだ庚渡さん! その人らの誘いにのっちゃダメだ!」

 

 僕がありったけの声を発して彼女を止めた。

 きょとん、とした顔を浮かべる彼女。コスモスの二人とどんな話をしていたのか。呼んだ後になって僕が気付くが、妖精は「急げ」と僕に勧めた。全てを見通す妖精の言うことだ、今まさに彼女は誘われていたのだろう。

 恥を忍んだ僕の制止。結んだ(ひも)(ほど)けるように、彼女が顔を緩め、

 

「うん、分かった。鈴鬼くんがやめろって言うならやめるね」

 

 僕の制止を快く受け入れた。

 そして彼女が打ち明ける。僕がいつまでも見ていたい笑顔を浮かべ。

 

「山梨から帰って、鈴鬼くんが迷ってたみたいだったから、私もどうしようか迷ってたんだけど、……うん、鈴鬼くんが入らないなら私もやめる」

 

 彼女がコスモス二人に振り向き、

 

「ということでごめんなさい。私なんかを誘ってくれて、とっても(うれ)しいですけど、彼が入らないなら私も事業の参加は断ります。本当にごめんなさい」

 

 頭を下げて山梨で会った集まりへの参加を辞退した。

 間に合ったようで僕が息を()く。しかし、どういうことだろうか。妖精は彼女が迷っているから僕に止めろと言った。ところが今の彼女の言では、僕の去就を待っていたようだった。

 妖精が僕を()かすためにウソをついたのだろうか。何にせよ彼女と久々に通じ合え、その結果に不満などあろうはずもないが、妖精の言い分だけは()に落ちず首をかしげてしまう。

 

「本当に、入ってくれないの?」

「はい。ごめんなさい」

 

 彼女の前に立つ伊井兌という人が()き、これに彼女が答える。

 

「そんなぁ。すごく残念っス。おんなじ(とし)だから一緒に仲良くやれるって思ってたのに」

 

 サンバイザーの子が彼女に落胆をぼやき、それから僕に目を向けた。

 蔑むような視線をサンバイザーの子から感じる。なぜコスモスでもない一般ピープルのお前が邪魔を、という邪念を。だが、負けるわけにはいかない。

 僕がにらみ返す。誰であろうと彼女は渡さない、という思いを込め。そして、口に出しても信じないだろうから言わないけど、君は未来において首を斬られて処刑されるんだぞ、と思いながら。

 伊井兌という人も僕を見ている。

 

「まったく、こんな遠い所まで、とんだ骨折り損だったっス。ねえさん、帰りましょうっス」

 

 サンバイザーの子が()め息をついて帰りを呼びかけるが、

 

「なら、この男の子を消せば」

「……えっ?」

 

 戸惑いの声を上げるサンバイザーの子。伊井兌という人が広げた右手を僕に向けた。

 広げた手から、――水だ。水があふれ出るように生まれている。

 

「答え、変わるかな。……〝フラッシュフロード〟!」

 

 水が、滝のような(ちょく)(ばく)が僕に襲い掛かる。

 

「うわあっ!」

「危ない鈴鬼くん! ……あうっ!」

 

 驚いた僕が腰を抜かすが、彼女が飛び込んでくれたおかげで間一髪助かった。

 転がる僕と彼女。思いもよらぬ攻撃に僕がすかさず立ち上がるが、

 

「庚渡さん! 大丈夫か!?」

「あ、うう……」

 

 飛び込んだ際に食らってしまったようで、彼女は立ち上がれず左足を(かば)っていた。

 彼女が、痛みに顔をゆがめている。この苦しむ彼女を僕が目にし、頭が(こら)え切れない熱さに支配される。

 

「何をするんだ!」

 

 我慢できずに叫んだ僕だが、伊井兌という人は冷めた目で僕と彼女を見ていた。

 虫けらを見るような感情のない()つき。下等な存在など消しても問題ない、と言いたげな視線。これが僕に、今も隣に立っているサンバイザーの子を慈悲なく処断した、先に妖精が見せた映像を思い起こさせる。

 このままでは殺されてしまう。恐れる僕など構いなしに、伊井兌という人が広げた右手から再び水を生む。

 

「ま、待て! これは、望搗って人が命じてるのか?」

 

 とっさに思い出した僕が、相手が好意を抱いているであろう人の名を挙げた。

 試みは成功した。反応した伊井兌という人が右手から湧き上がる水を止める。やはりこの人、望搗という人が好きなのだろう。

 何よりも信じられなかった。あの望搗という人が、誘いを断ったくらいでこんなことを命じるのか。妖精の見立てでも今は非の打ちどころのない人格者と聞いている。

 

「……ううん、あの人は知らない」

 

 伊井兌という人が独断を自白した。

 思ったとおりだ。それならば時間を稼ぐしかない。彼女が回復するときを、坎原さんないしは陽さん美月さんが助けに来るときを。

 相手の痛い点を突いてやる。そう僕が彼女を苦しめた腹いせもあって頭をフル回転させる。

 

「あの人は、ヘイズとコスモスは似た者同士って言ってただろ? なら、コスモス同士ってのも言えるはずだ。コスモス同士で争って、あの人が喜ぶと思ってるのか?」

「…………」

「それに、僕だってあの人に誘われたんだぞ? 君の意見が欲しいって。そんな僕を殺そうとするなんて知ったら」

「うるさい!」

 

 伊井兌という人が激昂(げきこう)した。

 言い過ぎたか。たじろいで下がる僕に、伊井兌という人が広げた右手をかざして告げる。

 

「君みたいな子供があの人を語らないで。この前はじめて会ったくせに」

「……くっ」

「参加しないならコスモスだって敵。忠四郎にそそのかされて、いずれあの人の邪魔をする。……私はあの人に出会って決めたの。あの人に誰よりも忠実で、誰よりも鋭い剣になろうって。あの人の邪魔をする(やつ)は誰であろうと許さない、コスモスでもヘイズでも一人残らず消してやる」

 

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