YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー 作:豚煮真珠
登場 水にまったく縁がないマーキュリー
僕の名前は
無味無臭。友人にそう言われる程パッとしない。趣味なんて言えるものは特になく、強いて挙げるならゲーム、だろうか。
自分を上中下の更に上中下で表すと、勉強は中の下くらいだった。最近は勉強をしているおかげか、中の中くらいには成り上がったかな、と思っている。でも、運動は下の中、おまけに背はクラスの男で前から並べば二番目に低い。
僕は、取り柄らしい取り柄など皆無な人間だ。人は何かになれる、なんて何かのキャッチフレーズで聞いた覚えがあるけどなれる気がしない。きっとこの先も平々凡々な人生を送り、他人に迷惑をかけないよう慎ましく生きるのだ、と思っていたけれど、
「鈴鬼くん、みてみてあれ、かわいー」
平凡ゆえの幸せか、非凡な幸せだろうか。僕は今日、好きな女の子と水族館に来ていた。
隣で水槽に手をあてて見入っている彼女は
目が良い方ではない彼女は、いつも度の強い眼鏡を掛けているのだが、この眼鏡を外すととびっきりに可愛い。そして、彼女は変身する。冗談ではなく真面目な話で、未来から現れた使者に選ばれた彼女は、「トゥインクルスター」と言う黄色を主とした可愛らしいドレスを着る光の戦士に変身し、この国を破壊しようとしている悪と人知れず戦っている。
僕は半年前、彼女の変身した姿を偶然見て一目ぼれし、友達の関係を申し込んだ。彼女が変身する事実は僕だけが知っている。
「ふふっ。鈴鬼くん、面白いね」
振り向いた彼女が笑顔で言い、それに僕も笑顔で応えた。
ここは隣町・
幸せを感じる、好きな彼女と一緒に水族館を楽しめるなんて。惜しむらくはこれがデートじゃないことだ。
「たまちゃんもこっちに来て一緒に観ようよ」
後ろに振り向いた彼女が、円柱型の柱にしなだれる親友を呼んだ。
「やだ~。オバケみたいで怖いし~」
「オバケじゃないよ、タコチュウだよー」
「むりむり、ゼッタイむりぃ~」
彼女の親友が泣きそうな声で誘いを断る。
坎原さんはクールな印象を人に抱かせるとても良い容姿をしており、故に学校の男子から人気ある子だが、そんな坎原さんが割とポンコツであることを僕は知っている。ピーマンが苦手だったり、変にオタクなところがあったり、お化けを怖がったり。断っておくが優越感などない。彼女と一緒にいるから目につくのだ。
ただし、決めるときは決める。彼女がピンチのときに
「紬実佳ー、もうヤダよここ~。そばにきてー」
「はいはい」
呼ばれた彼女が坎原さんの元へ向かった。
ほの暗い照明が照らす水族館のフロア。残された僕が別の水槽に振り向くと、
「
「タカアシガニね。どうかしら? テレビなんかじゃ美味って言われてるけど、実際はおいしくないって
「そうなの?」
「うちの常連のおじさんが水っぽくて
「じゃああれは? あのもじゃもじゃしたの」
「テヅルモヅルじゃない。ヒトデの仲間よあれ」
「へー、ヒトデなんだ。海藻かと思ったよ。じゃあ食べられないね」
「どうかしら?
「食べられるか。食べることはあたしの生き
二人の先輩が、深海の生物を食べられるかどうか評していた。
二人はとても頼れ、彼女や坎原さんはもちろん僕も何度か助けてもらっているのだが、陽さんは後先考えずに他人を振り回すような印象の人で、美月さんは
「集まったかベエ」
妖精がほの暗いフロアに現れた。
妖精とは比喩ではない。今この場には、
妖精はウサギのくせに日本語を話し、語尾になぜか「ベエ」と付ける癖がある。そして、まるでテレポートのように瞬時に現れ、今も現れている。この不可解極まりない謎の存在こそが前述した未来の使者であり、その正体はタイムマシンが完成した未来から現れたプログラムでありロボットだ。
彼女や坎原さん、陽さんや美月さんは、妖精に選ばれて光の戦士「コスモス」となった。コスモスとは彼女たち光の戦士の総称である。日本の各地に存在し、彼女たちと同じく悪と戦っているらしい。
「べーちゃん。この水族館、あたしたち以外に人がいないみたいだけど」
陽さんが感じて当然の疑問を妖精に投げかけた。
申し遅れたが、コスモスの四人は妖精を「べーちゃん」と呼び、僕は「
「問題ないベエ。ボクが因果をちょちょいといじり、今日は休館日としたベエ」
妖精が今この水族館には僕たち以外いない旨を知らせた。
ほの暗い空間。人に聞かれたくない秘密話をするには確かにうってつけだろう。妖精は以前もこんなことをやっている。
だが、僕が問う。うってつけではあるものの必要性は感じない。
「なあ忠四郎。なんで水族館なのさ」
「たまにはこういうところで話し合うのも良いベエ?」
「坎原さん、怖がってるけど」
今も彼女にしがみつき、ぶるぶると腰が引けている坎原さんを、妖精がスルーして話し始める。
彼女と坎原さん、陽さんと美月さんの四人は、これから恐ろしい敵と戦おうとしている。
「今日みんなに集まってもらったのは他でもないベエ。あのエクリプスと名乗る男との戦争についてだベエ」
妖精が戦争と告げ、これに僕を含めた皆が固唾を
僕と彼女と坎原さんは、今月二月の初め、エクリプスと名乗る
無学の僕だが、この国に不満がない訳ではない。止まることのない物価の上昇は僕の財布を苦しめているし、役に立っているのか分からない政治家が国会でヤジっている姿は見ていてうんざりする。それに比べて望搗という人は非の打ちどころがない人格者であり、しかもすこぶる賢い。陳腐な形容詞になるが「すごい人だ」、僕は望搗という人にそういった印象を抱き、国の破壊に共感してしまった。
僕は、望搗という人に
だが、望搗という人を放っておくわけにはいかない。そう妖精は僕に喚起した。
望搗という人、今は人格者だが、権力を握り次第
僕は未来において真っ先に殺された。コスモスと敵を知る唯一の一般人であることを懸念されて。ちなみに、敵の組織か団体は「ヘイズ」と呼ばれ、妖精だけは「ブラックホール団」と呼んでいる。
「ブルーマリンとハウメアを含めた敵の陣営は八人、対してこちらは四人、単純に数で不利だベエ。そこで今回は応援を呼んだベエ」
四人が顔を見合わせる。妖精は新たなコスモスの戦士を紹介すると告げた。
妖精が「ブルーマリン」「ハウメア」と言ったが、これは望搗という人の側に付いたコスモスの二人である。今回の戦いは、同じコスモスとも戦わなければならない。
前もって知らされていなかったようで四人が戸惑っている。すると、
「おっ、おったおった。いんやー、新幹線に乗って、遠かったにゃー」
「噂をすればやって来たベエ」
一人の女の人が、陽気な声と共にこのフロアに現れた。
女の人がニカッと朗らかに笑う。
「ちゃおー。ウチは
震堂という名の女の人が、妙な方言を乗せて自己紹介した。
年上と言った震堂という人だが、背は僕や坎原さんより少し上くらいだろうか。顔は大きな目に太い眉毛を備え、可愛らしいもののどこかタヌキっぽく、陽さんや美月さんに比べると
他は背まである長い髪をリボンでまとめている。なお、「味噌カツの町」とは愛知県から来たと言いたいのだろう。そんな震堂という人に、
「あっ、もしかして」
陽さんが思い出したように声を上げた。
「陽、知り合い?」
美月さんは知らないようで陽さんに
「いや、知り合いじゃないんだけど、震堂さん?」
「なんね?」
「もしかしてさ、陸上の全国大会に出たことない?」
陽さんの質問に震堂という人がうれしそうに笑う。
「おっ、知っとんのかね? そうなんよ、去年全国大会に出場したで」
「やっぱり? テレビで見たことあるよ、インタビューされてたよね?」
「おーおーおー、そんなところまで見られてたなんて照れるにゃー。まあ、優勝はあかんかったけど。じゃ、さっそく変身するで。水星モデルの戦士の姿、よく目を開いて見てちょー」
震堂という人が、懐からおもむろに鏡を取り出した。
鏡の名は「ハロウィンズミラー」と言ったか。コスモスの子が変身するための手鏡で、これは彼女たちも所有している。
鏡から発する淡い光が、所有者の震堂という人を照らす。
「シンダーエラ! ターンイントラーピッドリィ!」
すると、震堂という人を中心につむじ風が巻き起こった。
信じられない光景を僕は目にする。見えないはずの風が見えている。赤い花びら、赤い羽根、その他雑多な物を巻き込む赤いつむじ風が、震堂という人を覆い隠すように渦巻いている。
やがて、震堂という人の全身を覆い尽くした赤い風が少しづつ晴れる。そうして現れたのは、ヘソを出した紅色の衣装をまとう光の戦士。大きな羽根に似た装飾を背に腰に肩にと付けており、その華やかな姿はクジャクないしはサンバのカーニバルを
「天駆ける自由の翼を未来に! 光の戦士〝キューシルバエルメス〟!」